こてふぁて・りろーでっど - アズミ - 2013/02/10(Sun) 21:19:38 [No.505] |
└ Red・T - アズミ - 2013/02/10(Sun) 23:05:21 [No.506] |
└ 開戦儀礼・T - アズミ - 2013/02/11(Mon) 09:02:11 [No.507] |
└ Red・U - アズミ - 2013/02/11(Mon) 12:16:45 [No.508] |
└ 開幕 - アズミ - 2013/02/11(Mon) 12:19:44 [No.509] |
└ 宣戦俯瞰・T - アズミ - 2013/02/13(Wed) 23:44:33 [No.510] |
└ 宣戦俯瞰・U - アズミ - 2013/02/14(Thu) 15:12:32 [No.511] |
└ 宣戦俯瞰・V - アズミ - 2013/02/14(Thu) 21:01:40 [No.512] |
└ 開戦儀礼・U - アズミ - 2013/02/14(Thu) 23:33:43 [No.513] |
└ 戦決の朝・T - アズミ - 2013/02/15(Fri) 21:11:52 [No.523] |
└ 戦決の朝・U - アズミ - 2013/02/16(Sat) 00:04:46 [No.524] |
└ 戦決の朝・V - アズミ - 2013/02/16(Sat) 22:13:58 [No.525] |
└ 戦決の朝・W - アズミ - 2013/02/16(Sat) 23:48:16 [No.526] |
└ 宣戦俯瞰・W - アズミ - 2013/02/17(Sun) 11:41:24 [No.527] |
└ 介悟の庭・1 - アズミ - 2013/04/02(Tue) 19:42:09 [No.528] |
霊体化したランサーを連れて街を抜け、教会が建つ丘の麓まで来ても、想司の心は決まっていなかった。 棄権すべきだ。 結論は出ている。ロードは何がしかの期待をかけてくれている。ランサーには恐らく聖杯に託す望みがある。 それを断ち切る行為ではあるが……しかし、聖杯戦争に参戦するということは、取りも直さず命のやり取りをするということだ。 あの船上でそうなりかけたように、死ぬことも大いにあり得る。 否、それ以上に想司が忌避するのは。 (戦えば、相手を殺すことだってあり得る……) 他人のそれを糾弾する気はない。まして、ランサーを貶めるつもりはない。 自分が死んでも叶えたい願いもあるだろう。他人を殺しても縋りたい望みもあるだろう。……それさえ否定するほどの権限を、想司は己に認めない。 ただ、そんな願いも望みも想司自身には無い。根源への到達を求めていないわけではないが、他者を傷つけ殺めてまでも求めるものでは無いと思っている。 ならば。 (降りるべき、だよな) 第八秘蹟会から派遣された聖杯戦争の監督役の仕事には、脱落したマスターの保護も含まれる。 そこで、棄権を告げよう。 (教会に到着したら、ランサーとちゃんと話そう) 令呪を使ってでも彼女を自害させればいいことではあるが、それだけはしたくなかった。 だから、ちゃんと話そう。 あまりにも不義理で、都合がよく、冷淡な判断ではあるが。 だからこそ、罵倒も誹りも真っ向から受け入れねばならない。 (――――ソウシ) そんな考えを巡らせているうちに、彼らは丘の上まで到達していた。 朝日を受けて白亜の壁が輝くように照り映える。 戦後すぐに建てられたらしい教会は宗教施設特有の威圧感を以って想司らを出迎えた。 と、同時に。 「ランサー?」 「止まってください、ソウシ」 想司の前に、庇うようにランサーが出現する。 その手には昨夜の戦いでも使用した、長大な十字架。完全に戦闘態勢である。 「……血の臭いがします」 言われて、鼻の奥を突く不快な臭いに気づく。嗅ぎ慣れていないため、それと理解するのが遅れた。 だが……血の臭い? 「まさか、サーヴァント? そんな馬鹿な、ここは――……」 監督役が詰める教会は、聖杯戦争通しての中立地帯である。 ここで戦闘を行えば、以後監督役のバックアップを受けられないどころか、聖堂教会を――魔術師の天敵に等しい、世界最強の宗教組織を敵に回す。 そんなことが、ありえるのか? 「退がって!」 しかし、飛来した一条の矢が想司の疑念を打ち砕いた。 ランサーに促され、すんでのところで飛び退いてかわす。 「――……命令は、ただ監督役の殺すでしたが」 続いて響く男の声に、教会の屋根の上を見上げる。 鐘楼の頂点、十字架の脇に立つのは……男。簡素な鎧を身に纏い、背に矢筒を背負う偉丈夫。 状況からして、間違いあるまい。この男も、サーヴァントだ。 「この上、非存在の好機ですから、見逃すのはとても間違っている、違いない」 「――……?」 侮っていい相手でないのはその物腰から明白であるが、口から紡がれる台詞はいちいち珍奇だ。 サーヴァントは例外なく聖杯から現代社会に関する知識を渡されているはず。日本語に関しても例外ではないのだが……それが上手くいっていないのだろうか? 「私、謝罪を。あなたがた――……」 サーヴァントが背中の矢筒から一本、矢を抜き放ち番える。 ――来る。 「――……ここで、死んでもらいます」 短い宣告と共に、先刻とは比べ物にならない剛弓で矢が想司たちへ向けて放たれた。 ● Sword, or death ――――――――――――― with What in your hand...? Flame dancing, Earth splitting, Ocean withering... ● 生前、戦争はおろか戦闘さえ行ったことのないランサーであるが、さすがに真正面から飛来した矢をかわす程度は難なく出来た。 「ソウシ、何処かに隠れてください!」 それだけ残して、金属のサンダルでアスファルトを踏み抜く。 同時に吹き荒れる魔力の奔流に圧されるように、爆発的な速度で突撃していく。 魔力放出。 全身から純然たる魔力を高圧で噴き出すことで、物理的な運動能力を補助する単純明快なスキル。いわば、魔力のジェット噴射である。 見た目には到底武芸者と並ぶとは思えぬランサーであるが、このスキルの補助により少なくとも人域にはない近接戦能力を確保しているのだ。 壁を蹴り、バルコニーの手摺を踏み台にしてさらに跳躍。 「白茨の功徳は魔を退ける――……」 敵サーヴァントと視線を並べ、右腕を突きだす。 刻む聖句により基盤に接続、魔力回路が立ち上がり、魔力が荒れ狂う。 『第一苦難・白茨!』 (アルバシュパイン!) 何もない空間から茨が生まれ出で、敵サーヴァントを拘束せんと襲いかかる。 「むぅっ!?」 さすがに直撃は避けたが、伸びた蔦が弓に絡みつき、その使用を封じる。 恐らく内容からはイエスにかけられた茨冠に由来する秘蹟なのだろうと想司はあたりをつけた。 と、同時に思う。 (どこが“僅かながら”だよ……!) 敵がかわした茨が教会の壁面を強かに打ち、深々と抉っている。 対魔力を加味しなければ如何にサーヴァントとはいえ食らって無事でいられる威力ではない。真名を考慮に入れると、恐らくキャスタークラスに適合しうるほどのランクである。 「……中立地帯で襲いかかるとはどう云う了見です?」 弓を絡め取ったまま屋根に降り立ち、ランサーが問う。 サーヴァントは表情を微塵も揺らがせずに応じた。 「中立と決める、誰の権限です? 加えて述べます――」 サーヴァントは弓を取り戻さんと引き寄せたまま――……唐突にそれを手放した。 「――私は、お前たち神の下僕が嫌いです」 「くっ!?」 反動で体勢を崩したランサーに、一足で距離を詰める。 同時に、腰から抜き放った剣が空を切り裂いた。ランサーは辛うじてそれを十字架でいなすが、何せ長物である。近接戦では取り回しで圧倒的に劣る。 「シィィィッ!!」 一合、二合――計七合。 弓が地面に落ちるまでの刹那にそれだけ打ち合い、競り負けたのはランサーだった。 返す刀がその首を刈り取らんと―― 「させるかっ!」 想司が地面に鉄筆でルーンを刻み、魔力を流す。 施したのは棘を意味するスリサズと、口を意味するアンサズ。 スリサズは試練……転じて行動の障害を表し、アンサズはそれを知らしめる力を持つことで遠隔発動を可能とする。 「――――ッ!?」 結果として、弓に絡みついた茨から棘が急激に伸び、ランサーに迫る攻撃を阻んだ。 「ランサー!」 想司の声に応じて踏み切り、跳躍。 縦に一回転し、そのままの勢いで十字架を振り下ろす。 「ハァッ!!」 長大な鈍器と化したそれが、破壊の権化となって敵サーヴァントに襲いかかった。 そして――…… ● 少しだけ時間は遡る。 警戒しつつ、無人の礼拝堂を抜けて母屋にまでやってきたマリナとライダーを出迎えたのは、監督役と思しき神父の死体だった。 「――……これは」 魔術師とはいえ、死体をそう見慣れているわけでもない。眉をひそめて足を止めたマリナをよそに、ライダーが進み出て検分する。 「鉛の破片で頭部が砕かれている。……銃、というのだったか?」 「銃ですって?」 魔術師は科学の産物を軽視する傾向がある。 魔術師として優秀とされる者ほど顕著で、この21世紀に携帯電話さえ使えないような時代錯誤な者が時計塔にはごろごろいる。 武器にしたところで同じだ。銃火器の方が破壊力とコストのバランス的には魔術より優秀なのだが、魔術師は敢えてそこで魔術で火を起こしたり、呪いを放ったりする。 で、あるから。この惨状を起こしたのは、明らかに聖杯戦争の関係者でありながら魔術師で無い者、ということになる。 「でも、一体誰が――……?」 ――パシュッ。 言葉の結びは、気の抜けるような音に遮られた。 一瞬遅れて、金属音。 マリナの頭部目掛けて放たれた銃弾をライダーが叩き落としたのだと気づいたのは、さらに刹那の後だった。 「――ッ、誰!?」 誰何の声には応じることなく、闖入者は舌打ち一つ残して礼拝堂へと走り去る。 「ライダー!」 「心得た!」 マリナの命に従い、ライダーが弾かれるように人影を追跡し始めた。 [No.524] 2013/02/16(Sat) 00:04:46 |