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No.525へ返信

all こてふぁて・りろーでっど - アズミ - 2013/02/10(Sun) 21:19:38 [No.505]
Red・T - アズミ - 2013/02/10(Sun) 23:05:21 [No.506]
開戦儀礼・T - アズミ - 2013/02/11(Mon) 09:02:11 [No.507]
Red・U - アズミ - 2013/02/11(Mon) 12:16:45 [No.508]
開幕 - アズミ - 2013/02/11(Mon) 12:19:44 [No.509]
宣戦俯瞰・T - アズミ - 2013/02/13(Wed) 23:44:33 [No.510]
宣戦俯瞰・U - アズミ - 2013/02/14(Thu) 15:12:32 [No.511]
宣戦俯瞰・V - アズミ - 2013/02/14(Thu) 21:01:40 [No.512]
開戦儀礼・U - アズミ - 2013/02/14(Thu) 23:33:43 [No.513]
戦決の朝・T - アズミ - 2013/02/15(Fri) 21:11:52 [No.523]
戦決の朝・U - アズミ - 2013/02/16(Sat) 00:04:46 [No.524]
戦決の朝・V - アズミ - 2013/02/16(Sat) 22:13:58 [No.525]
戦決の朝・W - アズミ - 2013/02/16(Sat) 23:48:16 [No.526]
宣戦俯瞰・W - アズミ - 2013/02/17(Sun) 11:41:24 [No.527]
介悟の庭・1 - アズミ - 2013/04/02(Tue) 19:42:09 [No.528]


戦決の朝・V (No.524 への返信) - アズミ


 ――不可思議な光景だった。

 ランサーの十字架は杭の長さが約4m、腕木の長さが1.75m。
 恐らく聖十字架の縦8キュビト、横3キュビト半の寸法にあやかっているのだろうが、これはパイクやサリッサなど集団戦術で使用する長柄武器に匹敵する長大さだ。
 当然、通常ならば格闘戦に使用できるサイズでは無い。が、ランサーは魔力放出による人間離れした動きで無理矢理打ち合いを演じているわけである。
 その無茶な大きさだからこそ、一度命中すれば破壊力は大きい……ハズだ。尋常な物理法則で言えば。

 しかし、敵サーヴァントはその十字架の、それもランサーの全体重と膂力をかけた一撃を長剣一本で受け止めていた。
 あまつさえ、打ち込んだ体勢のままランサーを宙に持ち上げたまま静止さえしていた。

「――……なるほど」

 得心したように言って、剣を振るう。
 弾き飛ばされて、ランサーはトンボを切って屋根の上に着地した。

「くっ……」

「その武器は力で打つの違う道理。そうですか?」

 文法は滅茶苦茶だが大意は解る。そして、どうやらこのサーヴァントはランサーの十字架の術理を悟ったらしかった。
 ランサーの十字架は、彼女を象徴する聖遺物、聖十字架の破片を埋め込んだ“天命”の概念武装である。
 即ち寿命の来ていない生きている人間ならばその傷や病を治癒し、逆に死徒を始めとした既に死んでいるべき存在は強制的に昇天させる。既に天命尽き、鬼籍に入った人間である英霊は無論、後者だ。
 逆に言えば、この十字架の破壊力は物理力に拠ったものではないのだ。
 サーヴァント本体に命中しない限り……つまり、武器や盾で受ける限りにおいて脅威度は著しく低下する。
 で、あれば。

「打ち込み続けるのこと、すなわちあなたは私に勝利不能」

 サーヴァントが再びランサーに打ちかかる。
 その剣、刃渡りおよそ40cm。サクスと呼ばれる紀元前から使用されている短剣に近い。

「そう、易々と――ッ!!」

 その間合いに入れてなるかと、ランサーの十字架が唸りを上げる。
 幾度か、その腕木が背や肩を強か打ち据える。
 戦いの経験に乏しい英霊である上に、得物も本来武器とは言い難いランサーだが、相対するサーヴァントもまた近接戦闘は専門ではなかった。彼の本領が手放した弓であろうことは、ランサーも想司も概ね見当が付いている。
 が、それでも。戦士かそうでないかという差は、あまりにも大きい。

「ぁうっ――……!?」

 幾許かのダメージを覚悟で懐まで飛び込んだサーヴァントの剣が、ランサーの細い肩を抉る。
 このまま格闘戦を続行するのは、マズい。
 ランサーは辛うじて敵の身体を蹴り、その反動で中空に飛び出した。
 サーヴァントは敢えて追撃はせず、屋根に転がった弓を拾い上げる。

「トドメを――……」

 刺そうとしたその時。
 背後からかかった主人の声が、それを制した。

「時間切れです、アーチャー」

「マスター?」

 鐘楼から、男が現れた。
 年の頃は三十路半ば。纏う衣服から肌、果ては頭髪まで全てが白づくめの……表情こそ柔和だがある種の剣呑さを常に湛える男。
 一目で“死神(スー・シェン)”を連想させる男だった。

「あなたは――……」

 どうにか体勢を立て直して着地したランサーを気遣いながら、想司が誰何する。
 スーはそれに対しただ口の端を吊り上げるだけで応じ、アーチャーに向き直った。

「仕事は済ませました。予定通り撤収しましょう」

「ここで討滅可能の理ですが?」

「もう一組、中で遭遇しました。
 いつでも討てるというなら、全て情報が出揃ってからの方がいいでしょう」

 スーがそう言うと、もはやアーチャーは異論を差し挟まなかった。
 主人を連れてこの場を離脱すべく、その細身の体を掴む。

「ま、待ってください! ここで何を――」

「監督役は殺害しました」

 想司の問いに、スーは静かな、しかし鋭い口調を以って返答した。

「なっ……」

「聖杯戦争に関係する者は全て始末せよ、というのがクライアントの依頼でして。
 あなたも、この戦争の間に確実に死んでいただきます。
 サーヴァントを自害させて逃げ帰る……というのはお互い無駄ですし、面倒だ。しないことをお勧めしますよ」

「――――……!」

 絶句する想司に、一方的にそう布告してスーとアーチャーは跳躍。
 教会を囲む森の中に姿を消した。

「逃がすわけには――!」

「ダメだ、ランサー!」

 追撃しようとするランサーを、即座に制す。
 この場でランサーは討てる。“確実に”討てる。アーチャーの口振りはそうしたものだった。
 単純な力量差では無い、と想司は直感した。
 先刻の打ち合いはそこまで圧倒的ではなかったし、無為に虚勢を張るタイプとも思えない。
 弓兵(アーチャー)のクラスは宝具が強力な傾向がある。あるいは、何か必殺の奥の手を隠し持っているのか。
 いずれにせよ、無策で戦うべき相手ではない。
 今はともあれ……。

「中を確認しよう。監督役を殺したって言ってたけど……」

「――……事実よ」

 不意にかけられた応答に、想司はぎくりとして振り向く。
 重い足音を響かせて、礼拝堂から現れたのはサーヴァントらしき騎士を連れた赤髪の少女。

「監督役のみならず、この教会に詰めていた第八秘蹟会の人員は皆殺しにされたわ」

「そんな――――!?」

 聖杯戦争の開催数が2桁をとうに超えた現在でさえ、そうは見ない大暴挙だ。聖堂教会は聖杯戦争において中立とはいえ、そこまでされて黙っているほど穏健な組織ではない。すぐに代行者が派遣されてくるはず。
 アーチャーがいる今、如何に代行者とて容易く仕留められるものではないだろうが、それにしたところで限界はある。有体に言って自殺行為だ。

「彼らの心配より、自分たちの心配をすべきだと思わない?
 監督役がいない今、どのサーヴァントが現界していて脱落しているのかもわからない。
 隠蔽工作一つとっても私たち自身が行わなければならない。
 アーチャーたちのような参加者がどんな乱暴な手に出たとしても抑止する存在はない。
 そして――……」

 少女の放つ気配が変わる。硬質で鋭い――そう、これは敵意と呼ぶのも生温い、殺気。
 ランサーは無言で、主を庇う位置に立った。

「サーヴァントを失っても、身柄を保護してくれる相手はいない」

 想司の心臓が跳ね上がる。
 まさか――……戦る気、なのか?

「挨拶が遅れたわ。
 私はマリナ。マリナ=エレノアール。はじめまして、ね。“志摩のマスター”」

「志摩……?」

 聞き慣れない名にランサーが訝る。否、ランサーのみならず当の想司さえも。
 が、その疑念を問い質す前にマリナはサーヴァントを前に出した。

「そして、ここでさようならよ。……ランサーを倒しなさい、ライダー」

「マリナ?」

 マリナの命に、ライダーはレイピアを抜きつつも訝しげな顔をする。

「敵同士が相対した以上、ここはもう戦場だわ。そうでしょう?」

「騎士の決闘には布告が必要だと言ったはずだがな」

 言いながらも、ランサーは既に臨戦態勢にある。視線を外すわけにもいかず、ライダーから主の表情は窺えない。
 ただ――……

「……布告なら済んでるわ。十年も前にね」

 ……――その声音は、先刻までのマリナとは似ても似つかぬほど、低く重かった。





 高層マンションの一室。二人の男がコンビニの袋を広げ、侘しい食事をしていた。
 フェリーでの戦闘から生還した、キャスターとそのマスター、橋口凛土その人である。

「……実質、負けたね」

「敗北はアテンの恥ではない」

 凛土が出した結論に、キャスターはそう返答した。
 が、苛立たしげに鮭おにぎりを食いちぎったあたり、忸怩たる思いが無いわけでは無いらしい。 

「圭司くんから聞いてはいたけど、まさかあそこまで圧倒的とはねぇ」

 魔術師(キャスター)はサーヴァント基本7クラス中、最弱のクラスとされる。

 理由は無論、対魔力スキルの存在だ。
 対魔力をクラススキルとして備えるのはセイバー、ランサー、アーチャー、ライダーの4クラス。
 これがDランクですら一工程(シングルアクション。単純な動作や一節の詠唱で発動するもの)の魔術を無効化する。
 この時点で現代の魔術師、それも戦闘向きの手合いですらほぼ歯が立たなくなる。猛獣以上の速度で襲いかかるサーヴァントを相手に目視距離で立ち合うとなると、二節以上の詠唱を要する魔術は実用的でないからだ。
 キャスターのサーヴァント、それも強力な部類ならば一工程で現代の魔術師が十節使うような大魔術の威力を叩き出すこともあるし、凛土のキャスターもその領域にはある。
 が、それにしたところでランクB以上にはほぼ通用しないし、たとえ通用しても直接的な武力に劣るキャスターは射程内に収められた時点でほぼ、詰みだ。
 ランサーは見た限り、決して接近戦で強い部類のサーヴァントではなかったが、それでもあのザマである。

「ともかく、直接戦闘はダメだな。少なくとも三騎士クラスに仕掛けるのはやめておこう。あと、ライダーも」

「敵を選ぶ贅沢が戦場にあるものか」

 ことほど左様に、凛土らの置かれた状況は芳しくない。
 が、ではキャスターを呼んだ時点で絶望的かと言えばそれは違う。

「あるさ」

 腐るように言うキャスターに、凛土はきっぱりと言って床に地図を広げた。

「結局、奇策になんて頼らずに定石を踏めっていうことだ」

 湖底市内の幾つかの建築物……多くは家賃の安い賃貸物件に印をつけていく。

「まずは、拠点構築だ。小さく目立たず、それでいて堅固なものを幾つか作る。
 得意だろう、そういうの?」

「無論だ」

 周知のことだが、古代エジプト文明は極めて建築技術、治水技術に優れていた。
 それは魔術的な側面においても例外ではなく、エジプト儀礼を系統とする魔術師は概ね魔術陣地の構築に長ける。
 ましてキャスターのサーヴァントたる彼はスキルとして『陣地作成』をA+ランクで備えるのだ。その気になれば一昼夜で『大神殿』クラスの要塞を組み上げる。

「魔力を貯めこみ、罠を張り、軍団を組織する。
 準備が整ったら、次は情報戦だ。全てのサーヴァントの能力を把握し、勝算のある相手だけを誘い込んで各個撃破する」

 魔術師(キャスター)はサーヴァント基本7クラス中、最弱のクラスとされる。
 しかし、それには実は戦術レベルでは、という但し書きがつく。
 陣地を構築し、弱点を容易に突くキャスターは戦略的な見地からみればむしろ最強と言って差し支えないのだ。

「戦争をするんだ。個人戦で無双の英雄たちに、戦闘ではなく戦争を強いる。
 そうすれば僕らにも勝ち目はある」

「アテンの信徒に戦争をしろ、と言うか」

「計略で勝て、と言い換えてもいい。直接の戦火を極力交えるのは少なければ少ないほどいいんだ。
 ――……得意だろう、そういうの?」

 凛土の言葉にキャスターは……かつて、政敵を一滴の血も流すことなく弾圧し尽くしたファラオは、口の端を吊り上げた。

「……無論、大得意である」


[No.525] 2013/02/16(Sat) 22:13:58

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