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No.527へ返信

all こてふぁて・りろーでっど - アズミ - 2013/02/10(Sun) 21:19:38 [No.505]
Red・T - アズミ - 2013/02/10(Sun) 23:05:21 [No.506]
開戦儀礼・T - アズミ - 2013/02/11(Mon) 09:02:11 [No.507]
Red・U - アズミ - 2013/02/11(Mon) 12:16:45 [No.508]
開幕 - アズミ - 2013/02/11(Mon) 12:19:44 [No.509]
宣戦俯瞰・T - アズミ - 2013/02/13(Wed) 23:44:33 [No.510]
宣戦俯瞰・U - アズミ - 2013/02/14(Thu) 15:12:32 [No.511]
宣戦俯瞰・V - アズミ - 2013/02/14(Thu) 21:01:40 [No.512]
開戦儀礼・U - アズミ - 2013/02/14(Thu) 23:33:43 [No.513]
戦決の朝・T - アズミ - 2013/02/15(Fri) 21:11:52 [No.523]
戦決の朝・U - アズミ - 2013/02/16(Sat) 00:04:46 [No.524]
戦決の朝・V - アズミ - 2013/02/16(Sat) 22:13:58 [No.525]
戦決の朝・W - アズミ - 2013/02/16(Sat) 23:48:16 [No.526]
宣戦俯瞰・W - アズミ - 2013/02/17(Sun) 11:41:24 [No.527]
介悟の庭・1 - アズミ - 2013/04/02(Tue) 19:42:09 [No.528]


宣戦俯瞰・W (No.526 への返信) - アズミ

 湖底の西に、日が沈む。

 それを湖底グランドホテルの3階からクルスは眺めていた。

「一日目が、終わる」

 正規の手続きで取った普通のホテルであるが、この一日をかけてどうにか大規模な結界を施した。
 加えて、魔術以外の警報やセントリーガン、クレイモア地雷などによる罠も十重二十重にクルスの拠点を守っている。
 過去、冬木の聖杯戦争においては参加者が工房をこさえたホテルを丸ごと爆砕するという強引な手法も使われたらしいが、その点もサーヴァントを用いれば容易に脱出可能、かつ一般客が同階に宿泊している階層に敷設することでクリアしている。

「……とはいえ、守りに入るのは巧くないな」

 彼が契約したのは狂戦士(バーサーカー)。
 全クラス中“最強”と称されながらも、未だかつて最終局面まで生き残ったことのないクラスである。
 要因は、その“最強”の力に比してあまりにも重すぎる代償。
 全能力の強化と引き換えにサーヴァントから理性を奪う狂化によって令呪を用いてすら制御に問題を残すばかりか、その維持に莫大な魔力を必要とする。
 クルスのバーサーカーは英霊自体の格が低いおかげで消耗はさほどでもないものの、性格的に非常に扱いづらく、篭城戦にはまったく向かない。
 また、他のサーヴァントとの相性によっても大きくその強さを変えるため、情報収集は必須だ。
 よってクルスの方針は既に定まっている。

「明日は出陣するぞ、バーサーカー」

 呼びかけに応じ、深紅の貴婦人が傍らに現れる。
 主に向けるその双眸に湛えているのは憎悪と狂気であって、決して忠誠と勇猛ではない。

「お望み通り、好きなだけ暴れさせてやる」

 が、その言葉にバーサーカーは唇を三日月型に裂けさせる。
 バーサーカーの名に恥じぬ、猛獣を思わせる狂暴な笑みであった。

「――――ク――……クク、ククク……」

 耳障りな哄笑がホテルの一室に響く。
 それは、西の空を朱に染める夕陽が完全に沈み切るまで続いた。





「どういうつもりだっ!」

 偵察から戻った工事現場に広がる惨状に、勇治は激怒した。

「どういう、とな?」

 何を怒っているのか本気で解らない様子で、アサシンは首を傾げる。
 身体の持ち主である希が愛嬌のある方なので、小動物的な可愛らしささえあるが――服を肌蹴て浴びるように酒を飲み、食べ散らかした食料の上で乱交に耽る一般人と思しき男女らを眺めているとあってはそんな感想は一瞬で吹き飛ぶ。
 ややあって勇治が震える手でそれらを指しているのに気づいたか、ぽんと手を叩いた。

「……あぁ!
 どういうも何も、見ての通り。酒池肉林であるぞ」

 はしたなく過度に贅沢な放蕩を行う様を示す故事成語であるが、もともとは司馬遷が編纂した『史記』で紹介される、殷王朝最後の王、帝辛が開いた宴に由来する。曰く、『酒をもって池と為し、肉を懸けて林と為し、男女をして裸ならしめ、あいその間に逐わしめ、長夜の飲をなす』。酒色にふける放蕩の極地。
 彼女は魔術的にこの宴を処理し、性交から漏れ出でる小魔力を己がモノとしているらしい。

「なにせ、アサシンとして呼ばれたゆえ魔力が足らぬ。
 魂喰いは許さぬとお前様が言うから、妾なりに工夫したまでのことよ」

 暗殺者(アサシン)は『気配遮断』をクラススキルとして持つ、その名の通り奇襲に特化したサーヴァントである。
 しかし適合する英霊は大きく分けて二種類存在する。
 一つは、武芸や戦術の境地として奇襲の名手となった武人。
 そして今一つは、如何なる英雄も毒一匙ナイフ一本で死に至らしめ、如何なる大国も一夜にして傾ける毒婦。

 アサシンは、無論のこと、後者である。
 キャスターやバーサーカーにも適合し、もっぱら魔術を本領とするのだが……アサシンのクラスで現界したゆえに、その卓越した魔力や宝具を起動するだけの魔力がプールできていないのだ。キャスターとして現界すれば陣地作成スキルによって霊脈から魔力を集積出来るのだが。

「ともあれ魔力は必要じゃ。勝って妾がこの妹御の身体から出ていかねば困るのであろ? 主様は」

 アサシンの言葉に勇治は口惜しそうに頷く。
 彼女の聖杯に託す望みは、受肉。聖杯の魔力を用いて新たな身体を構築しない限り、希の身体は解放されない。

「本来なら魂喰いのほうが容易いのじゃがのう。他ならぬお前様の命とあっては妾も慮らぬわけにいかぬ。
 これでも夫に忠節を尽くす妻を自認しておるゆえ」

「誰が夫だ」

 即座に突っ込むが、それさえ何が愉快なのかアサシンはくすくすと笑って流す。
 魂喰いとは、文字通りサーヴァントが人間を殺害し、その小魔力を丸ごと食らう手段だ。莫大な魔力を比較的効率的に賄えるため、聖杯戦争においては度々行われる。
 もっとも、そうした惨劇を食い止めるためにここにやってきた勇治には、もちろん許容できる手段ではないが。

「なに、気にするな。いずれも艶宿に足を向けていた“あべっく”である。
 放っておいてもずっこんばっこんお愉しみであったのだ、ご相伴に預かるぐらいは構わなかろうよ。
 後で記憶もきちんと弄っておくゆえに」

 そういうものなのか?
 明らかに相手も構わずまぐわっているし、身体を壊しかねないほどの暴飲暴食ぶりなのだが。
 糾弾を躊躇する勇治に、アサシンはそそと歩み寄り、人差し指でぐりぐりと胸を突く。

「ま、しかしこれも気に入らぬというのなら仕方ない。
 何となればぁ、主様が直接滾りを妾にぶつけてくれてもぉ……構わぬのだぞ?」

 希の身体ゆえまだ11歳にも関わらず、その仕草から出る艶気はまさしく傾国の美女と表現して差し支えない。相手が他の男であったなら恥も外聞もなく朝まで肉欲を貪ったことだろう。
 が、勇治にとっては血を分けた妹の身体である。

「妹の身体で兄を誘惑するな」

「あ痛ぁ!?」

 かなり本気のぐーのゲンコツで、アサシンは制裁された。





 日が完全に沈んでから、イライザは再び父の書斎を訪れた。

「――……監督役が殺害されました」

 沈痛な表情でイライザが報告する。
 差し当たり今日は使い魔を街に放ち、偵察に徹したのだが……夕刻、一番安全であるはずの教会に向かわせたところ、監督役を含む第八秘蹟会の聖職者全員が死亡しているのを発見したのだ。
 痛恨事である。
 敗退マスターの身柄保護の件もあるが、問題は聖杯戦争の隠蔽だ。
 セカンドオーナーたる霧積家にとっては無視できないため、監督役亡き今、彼女らがその任を負わなければならない。聖杯戦争を進行しながらとあれば、決して軽い負担ではないだろう。

「そうか」

 しかし、父の返答はそれだけだった。
 幾分戸惑って、イライザは続ける。

「丘の周辺でサーヴァントらしき対象を2組発見しました。どちらかの仕業と考えられますが……」

 言って、父の手元にある水晶に使い魔を繋げ、映像を投射させる。
 映っているのはランサーと想司、そしてライダーとマリナの2組。

「捨て置きなさい」

 父は淀みなく、そう述べる。

「しかし」

「報復と捜査は聖堂教会が行うだろう。
 それより、自分の身を案ずることだ……イライザ。お前は聊か、自分の足元を疎かにしがちな傾向がある」

「私の?」

 父の忠告に、ぎくりとする程度には自認があった。
 自分の身を案ずるという意味は掴みかね、問う。

「監督役を殺すような手合いだ。手段も外聞も気にはしないだろう。
 で、あるならば次に狙うのは――」

「……セカンドオーナーである、この霧積」

 ようやく思い至り、イライザは自身の肝が冷えるのを自覚した。



 そして、湖底の聖杯戦争、その一日目が終わる。


[No.527] 2013/02/17(Sun) 11:41:24

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