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No.528へ返信

all こてふぁて・りろーでっど - アズミ - 2013/02/10(Sun) 21:19:38 [No.505]
Red・T - アズミ - 2013/02/10(Sun) 23:05:21 [No.506]
開戦儀礼・T - アズミ - 2013/02/11(Mon) 09:02:11 [No.507]
Red・U - アズミ - 2013/02/11(Mon) 12:16:45 [No.508]
開幕 - アズミ - 2013/02/11(Mon) 12:19:44 [No.509]
宣戦俯瞰・T - アズミ - 2013/02/13(Wed) 23:44:33 [No.510]
宣戦俯瞰・U - アズミ - 2013/02/14(Thu) 15:12:32 [No.511]
宣戦俯瞰・V - アズミ - 2013/02/14(Thu) 21:01:40 [No.512]
開戦儀礼・U - アズミ - 2013/02/14(Thu) 23:33:43 [No.513]
戦決の朝・T - アズミ - 2013/02/15(Fri) 21:11:52 [No.523]
戦決の朝・U - アズミ - 2013/02/16(Sat) 00:04:46 [No.524]
戦決の朝・V - アズミ - 2013/02/16(Sat) 22:13:58 [No.525]
戦決の朝・W - アズミ - 2013/02/16(Sat) 23:48:16 [No.526]
宣戦俯瞰・W - アズミ - 2013/02/17(Sun) 11:41:24 [No.527]
介悟の庭・1 - アズミ - 2013/04/02(Tue) 19:42:09 [No.528]


介悟の庭・1 (No.527 への返信) - アズミ


 その日帰ってきた祖父は、ひどく小さくなっていた。

 胴体は胸から下、右手は肩から下、下半身は丸々無く、左目は無惨に潰されている。
 そんな状態でもなお、生きて家に帰りつけたのは魔術師であったがゆえだ。
 それは決して幸福なことではなかったと想司は思っているが。

「――……想司」

 目と口を僅かに開いて紡いだ声は、存外にしっかりしていた。

「ここにいるよ、お爺ちゃん」

 その老魔術師の最期を看取ったのは、想司だけだった。
 否、今やこの“志摩”家の工房に住まうのは。老魔術師の家族と言えるのは、想司だけであった。

「私は、しくじった」

 それは――……今以てなお、想司の知る限り最も無念な人間の表情だった。
 人生をかけた意味の全てを、最後の最後で喪ってしまった男の貌。

「誰も傷つけまいと思った――誰も傷つけずに済む生き方を、ただそれだけを、探していた……」

 知っている。
 祖父が生涯をかけて探したもの。世界中の、どの魔術師も――否、どの魔法使いも至れなかった、それはきっと最後の魔法。
 想司には根源を探求する意味もわからなかったし、それに熱意を燃やすことも出来なかった。
 ただ、祖父のその言葉だけは幼心に“正しい”と信じられたし、そのためになら自分も魔術師になろうと。生涯を捧げてもいいと思っていた。
 しかし。

「それが間違っていた」

 祖父は、この末期に至ってそれを否定した。

「誰も傷つけない生き方なんて、そんなものを探し出した時点で――……私は、傷つけてでも守りたい何かを失っていた。
 全てを愛したつもりで、誰も愛せなくなっていたんだ」

 口の端から一条の血が流れ落ちる。
 喀血するだけの機関さえ、もう揃っていないのだ。
 身体が壊れ、壊れて。壊れ果てて血になって。口からただとめどなく流れ出ていく。

「お前は、私の轍を踏んではならない。お前は、誰かを――愛して……」

 祖父の言葉はショックだったが、それでも不思議と。自分でも驚くほど、想司は冷静だった。
 しっかりと祖父の残った左手を握り、こう応えたのだ。

「愛してるよ。……お爺ちゃんだって、愛してくれたじゃないか」

 全てが間違ってるなんて、そんなことはあるはずがない。
 生き方全てが間違っているなら、ここまで歩き続けることも……想司という後継者を得ることもなく、無為に終わっていたはずだ。
 誰も愛せなくなんて、なっていない。ただ、祖父は末期に心の眼が盲いているだけだ。

「僕を、愛してくれた。……たった一人の家族じゃないか」

 祖父が見つけられなかった答えは、自分が探す。
 同じ間違いなんか犯さない。いや、そもそも祖父は間違ってなんかいない。
 そう伝えると、祖父は――まるで、親を見つけた子供のように、泣いた。
 渇いた片眼で、一筋だけ涙を流した。

「……ありがとう――……想司……」

 その言葉を最期に、祖父……志摩康一は逝った。

 視界を埋め尽くす絶望と、ただ一筋の希望を胸に抱いて。





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 2nd Day.
 system error/The original sin

 過去は常に負債であり、思い出は常に呪いである。
 呪いあれ、現在。呪われてあれ、愛しき子らよ。
 ――それでも、眩き未来を望むのならば。

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 窓から射す日差しに、眼を覚ました。

「――……、ここは」

 幾分か記憶より薄汚れてはいたが、“志摩”家の、見慣れた和室。
 夢から地続きの風景。

「そうか、帰ってきたんだ」

 あちこち破れたソファから身を起こして、時計を確認する。
 午前9時。特に予定を決めているわけではないが、少し遅い。よほど2戦の疲労が溜まっていたのか。

「……ランサー?」

 霊体化してすぐ傍にいるのかと思ったが、それにしては気配がしない。

「はーい……!」

 一つ呼んでみると、果たして返答は部屋の外……というか、廊下から返ってきた。
 訝りながら古く頑丈な樫のドアを開け、廊下に目をやる。
 10年近くも放置していたせいで昨夜見た限りでは廊下が白く見えるほど埃が降り積もっていたのだが、それがすっかり取り払われ木目が確認できるほど綺麗になっていた。
 その、奥。

「目が覚めましたか、ソウシ」

 雑巾と水の入ったバケツを両手に、ランサーが立っていた。
 深紅のヒマティオンと茨を模した冠は昨日のまま。ただ、その上から手ぬぐいとエプロンに身を包んでいる。

「……、ランサー。ひょっとして、掃除を?」

 歴史に名を残した英霊に廊下を雑巾がけさせてしまったと思うと、畏れ多いやら何やら、酷く居心地が悪い。
 が、そんな想司の内心を知ってか知らずか、ランサーは素朴な笑みでそれに応じた。

「ええ、こういった仕事はなれておりますので」

 英霊は最盛期の姿で呼ばれる。彼女の見る限りの年齢は高く見積もっても三十路前だが、現在の格好はひどく――その、所帯じみていて。失礼ではあるが、ベテランの掃除婦のような風格さえ漂っていた。

「ついでに邸内の“結界”の状態も確認してきました。
 長い間放置していたとのことですが、状態は良好です。魔術防御に関しては聊かの不足も無いでしょう」

「お爺ちゃんの友人が保存だけはしておくって言ってくれてたからね」

 言って、想司は懐かしげに部屋を見回す。
 こうして一通り掃除してみれば、その様相は10年前と聊かの変わりもない。

 ……それが、少し物悲しくもあった。





 昨日。
 教会での戦闘の後、想司とランサーはひとまず拠点を確保するため、“志摩”の屋敷へ向かった。
 かつて、“志摩”想司がその祖父、志摩康一と共に暮らしていた家。

 10年前。
 何らかの理由で志摩康一は他の魔術師と闘争し、死んだ。
 別段、魔術師の最期として珍しいことではない。
 魔術師はあくまで根源への到達を目指す学徒であるが、表社会の秩序に対する遵法意識は低く、目的のためならばしばしば血生臭い手段に訴える。
 その研究を狙って、あるいは危険視されて……魔術師は屍血山河に沈み果てる。

 恐らく志摩康一がその今際の際に想司を没落し消滅しかかっていた魔術師の家、“四谷”に想司を養子に出したのも、彼に闘争の累を及ぼさないためだったのだろう。
 名目上義父であった魔術師は彼と顔を合わせることもなく病没し、その遺産には魔術刻印の一つさえ含まれておらず……結局、想司が受け継いだのは“四谷”の名だけであった。
 魔術師として0からのスタートを余儀なくされた彼は幸か不幸かロード=エルメロイU世の目に留まり、現在に至る。

「とはいえ、志摩の資産は法に則って僕に相続されたからね。この屋敷だけは残ったってこと」

 志摩の屋敷は祖父の友人が保全していてくれたため、老朽化はしているもののひとまず寝床としては十分な状態だった。
 もともと簡易な結界が施されただけの屋敷であり、聖杯戦争における陣地としては甚だ脆弱であるが。

「今後は此処を拠点に?」

 問うランサーに、想司は暫し黙考してから頷いた。
 ライダーのマスターは、想司の祖父を、あるいは志摩の家のことを知っていた。少なくとも彼女にはこの場所は露見していると思うべきだが……。

「幸い、僕の魔術は防衛向きだし、ランサーも秘蹟に長けてる。
 下手に身を隠すより、屋敷の守りを固めた方がかえって敵を遠ざけられるかもしれない」

 屋敷の周囲に民家はないが、位置だけで言えば住宅街の一角である。大規模な魔術や対城宝具で拠点ごと吹き飛ばすには聊か人目に付き過ぎる場所だ。
 防御を固め、敵に攻城戦を強いる体制を整えればおいそれと襲撃はかけられないだろう。
 唯一、あの監督役を惨殺したアーチャーたちだけは斟酌せず攻撃をかけてくる可能性がある(特に、アーチャークラスは宝具に長ける)が、あれに関してはそもそもランサー単独で戦って勝てるかがまず怪しい。

「今日、半日かけて屋敷の防備を補強する。その後は、セカンドオーナーに接触を取ろうと思う」

「セカンドオーナー?」

「この土地の魔術的な管理者だよ。聖杯戦争に参加しているはずだから、一応敵ってことになるけど……」

 監督役がいなくなった今、聖杯戦争進行上に起きる魔術の隠蔽作業などは土地の管理者たるセカンドオーナーが行わざるを得ない。
 うまくすれば状況が収拾するまで停戦も可能だろう。極論すれば聖杯戦争の進行自体を停止すべきなのだが……そこは他の参加者が首を縦に振るとは考えづらい。

「何せ監督役が殺されるなんて不測の事態だ、話は通しておいた方がいいんじゃないかな、って」

 どう思う?と振ると、ランサーは頷いて返した。

「私に戦の機微は解りかねます。判断はマスターに委ねる他ありませんが……ともあれ、この屋敷を難攻の拠点にすることは可能でしょう」

 聖堂教会の秘蹟の中には建造物の聖別も当然含まれる。
 魔術陣地の構築はキャスターの領分だが、想司のルーンと合わせれば如何にサーヴァントといえども攻めあぐねる程度の要塞化はできるはずだった。

「で、そのセカンドオーナーには面識が?」

「直接の面識はないけど、名前は聞いてる。おじいちゃんはこの街に工房を構えてる以上、付き合いもあったはずだしね。確か――……」

 言い掛けて、鳴り響いた古い呼び鈴の音に言葉を切る。
 ランサーと顔を見合わせ、慎重に廊下から玄関に向けて視線を送った。
 魔術師は文明の利器を軽んじる傾向があるが、この点においては想司の祖父も例外ではなかった。この家にインターフォンなど便利なものはない。
 代わりに配された遠隔視の限定礼装を介して、来客の様子を探る。

「……女の子?」

 小柄な、ゲルマン系の少女だ。
 “女の子”、と思わず口に出したものの、すぐに心中でその評を改める。身長こそ低いがその物腰から感じる年齢はもう少し年嵩だ。10代は抜けないが、20手前ぐらいか……と大雑把に値踏みする。
 ランサーが視線を送ってきたが、首を振って返した。見覚えはない。

「――……失礼。四谷のお屋敷はこちらで間違いない?」

 少女がこちらに――……つまり、礼装に視線を送って口を開く。
 礼装の外見は何の変哲もない古臭いランプだ。間違ってもカメラやマイクには見えるような代物ではない。
 つまり……この少女は、魔術師。

「どちら様?」

 想司はそれだけを短く問うた。この状況で屋敷を訪ねてくるのだ。とりもなおさず、それは聖杯戦争の参加者――……つまり、敵だ。
 即、襲撃と判断するのは早計であるが、緊張を走らせずにはいられない。
 だが、返答は想司を驚かせるものだった。

「湖底市のセカンドオーナー、霧積が次期当主イライザ。聖杯戦争の参加者たる四谷想司殿に停戦の交渉に参上したわ」


[No.528] 2013/04/02(Tue) 19:42:09

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