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No.531へ返信

all ルリルラ、新生200年前スレ - ジョニー - 2013/06/20(Thu) 23:22:53 [No.529]
迷子船 - ジョニー - 2013/06/21(Fri) 20:12:01 [No.530]
Bring to the boil 1 - アズミ - 2013/06/21(Fri) 21:58:32 [No.531]
迷子船2 - ジョニー - 2013/06/22(Sat) 01:22:45 [No.532]
Bring to the boil 2 - アズミ - 2013/06/22(Sat) 09:25:04 [No.533]
迷子船3 - ジョニー - 2013/06/22(Sat) 22:38:34 [No.534]
Bring to the boil 3 - アズミ - 2013/06/23(Sun) 12:27:25 [No.535]
迷子船4 - ジョニー - 2013/06/23(Sun) 16:07:19 [No.536]
迷子船5 - ジョニー - 2013/08/31(Sat) 22:38:55 [No.559]


Bring to the boil 1 (No.530 への返信) - アズミ

 ファゴッツランドの表通りに面した酒場の一つ、『音飛びリュート』亭。
 老舗ゆえの広い敷地に大きめの駐機場を備えるため、歌姫大戦中は戦帰りの英雄たちでごった返した店内も、今は幾分静かさを取り戻している。
 大戦終結以来、英雄のほとんどは残存した奇声蟲の討伐や、放棄された辺境の再開拓のため世界中に散っている。
 今や、この商都に居残っている英雄は商家に婿入りした者や遺跡荒らしの類くらいだ。

「女将さん、水!」

 乱暴にドアを開け放って、一人の男が入ってくる。
 黒いコートの上から革鎧を纏い、頭にはターバンを被っている。傍目には暑苦しく見えるが、砂漠では直射日光が何よりの大敵だ。実用的な装いと言えた。
 少し後ろから小柄な少女がついて入ってくる。こちらはチューブトップにホットパンツの上から日除けのマントを羽織った、いたってラフな服装だ。

「おかえり、康一、アリア。その様子だと空振りかい?」

 馴染みの遺跡荒らしに冷えた井戸水を出しながら、女将は問う。
 康一はそれには応えずカウンターの席にどっかりと座り、代わりに隣についたアリアがにんまりとして懐から煌びやかな輝きを露にした。

「と、思うでしょ? ほらっ!」

 大粒のエメラルドがついた首飾りだ。他にも黄金や銀と思しき装飾品が次から次へと出てくる。
 女将はヒュウ♪、と口笛を吹いてそれをしげしげと眺めた。

「こっちが7、そっちは8……首飾りは10はいくね。概算だけど250万Gってとこか」

 日本円にしてそのまま250万円ほどである。
 慢性的に奏甲の維持費という巨大な支出を抱える機奏英雄の稼ぎとしても、悪い額ではない。

「相変わらずやるねぇ」

「目当てのもんは一向に見つからねえけどな」

「んもー、素直に喜びなよー。完全に空振りよりマシでしょ?」

 不機嫌な康一に、アリアは不満そうに言う。
 この二人は歌姫大戦の末期にふらりと現れ、そのまま遺跡荒らしとして居着いた英雄と歌姫だ。
 英雄の方はえらく腕が立つし、歌姫の方は声帯(歌姫がつける歌術行使用のチョーカー)を見る限り、階位は浅葱。この稼業は客の過去を詮索しないのがルールだが、それまで名さえ聞いたこともないのは女将としても不思議であった。
 いや、何よりも妙なのは、その目的。

「『時渡りの門』だっけ? ……あるのかねぇ、そんなお伽話みたいな代物」

 初代の赤銅の歌姫が設えたという、時空を超えて移動できる『翼の門』。
 幾つかの文献に名前が残っているのは確かだが、実在の疑わしい古代の遺産である。
 康一らは歌姫大戦終結からこっち1年近く、ファゴッツ砂漠に埋もれる遺跡という遺跡を漁りながらそれを探している……らしい。

「あってもらわなきゃ困るんだよ」

 そう言って水を煽る。
 遺跡荒らしとしての稼ぎも決して悪くはないのだが、まるで財宝に興味がないその様子も、彼らの特異な点だった。
 女将は肩を竦めてから、「あぁそういえば」と手を叩く。

「隊商が腕っこきの護衛を探してたよ。ザンドカイズの方に行くならついでについてってやってくれないか」

「なんだ、野盗でも出るのか?」

 さしものファゴッツ国軍も、広大な砂漠全てをカバーすることは出来ない。
 必然、都市と都市の間に横たわる砂漠は無法地帯。特に今は歌姫大戦の終結で身を持ち崩し、盗賊に転身した英雄崩れが出没することもざらにある。
 奏甲に対抗できるのは、無論のこと奏甲だけ。そうした場合、隊商が英雄の護衛を募ることはままあった。
 が、女将は首を振る。

「幽霊船が出るらしいよ」

「幽霊船?」

「砂漠の上に?」

 康一とアリアは、問い返して顔を見合わせた。



 月霜暦451年。
 英雄と、歌姫と、奏甲が健在するここではないどこか。
 歌姫大戦から一年の月日が流れた“そのアーカイア”は表向き、平和の中にあった。


[No.531] 2013/06/21(Fri) 21:58:32

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