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No.533へ返信

all ルリルラ、新生200年前スレ - ジョニー - 2013/06/20(Thu) 23:22:53 [No.529]
迷子船 - ジョニー - 2013/06/21(Fri) 20:12:01 [No.530]
Bring to the boil 1 - アズミ - 2013/06/21(Fri) 21:58:32 [No.531]
迷子船2 - ジョニー - 2013/06/22(Sat) 01:22:45 [No.532]
Bring to the boil 2 - アズミ - 2013/06/22(Sat) 09:25:04 [No.533]
迷子船3 - ジョニー - 2013/06/22(Sat) 22:38:34 [No.534]
Bring to the boil 3 - アズミ - 2013/06/23(Sun) 12:27:25 [No.535]
迷子船4 - ジョニー - 2013/06/23(Sun) 16:07:19 [No.536]
迷子船5 - ジョニー - 2013/08/31(Sat) 22:38:55 [No.559]


Bring to the boil 2 (No.532 への返信) - アズミ

「ビンゴだ」

 遠眼鏡……ファゴッツランドの裏通りで80万Gもした高級品だ……を覗き込んで、康一が呟く。
 見せて見せて、と隣でねだるアリアに渡すと、ただでさえ人並み外れた視力を持つ彼女は速やかに目的のものを見つけ出した。
 地平線近く、砂塵を巻き上げて巨大な鋼の塊が滑るように砂の上を進んでいる。
 のみならず、アリアはその前面に刻まれた紋章にまで気づいて見せた。

「無色なる工房の紋章がついてるよ」

「よく見えるな……」

 康一が感心半分、呆れ半分で言って、返された遠眼鏡を専用のケースに戻す。

「ともあれ、奏甲支援船に無色なる工房とくればもう確定だ」

 奏甲支援船(ランドクロイツァー)。
 大型のもので絶対奏甲4機を搭載して陸走できる移動工房である。それをいち早く導入したのが無色なる工房という英雄大戦の中立勢力。
 奏甲支援船は英雄大戦末期……月霜歴677年初頭に開発されたもので、無色なる工房は英雄大戦中盤の混乱の中、赤銅の歌姫が率い黄金の工房から離脱した集団である。
 いずれも月霜歴451年……歌姫大戦直後たる現在、本来存在し得るものではない。

「あたしたちと同じ時代から来たってこと?」

 アリアの問いに、康一は頷いた。
 彼らが“このアーカイア”に辿り着いたのは約1年前。奏甲の封印作業中に突然、浮遊感を感じたかと思えば、気がついたらファゴッツの砂漠のど真ん中だった。
 ここがおよそ200年前の“歌姫大戦”の時代であることはすぐに解った。
 混乱はあったが、それほど長くも致命的でもない。土台が康一も地球という異世界からアーカイアに召喚された現世人であるし、タイムスリップの直前に感じた浮遊感はまさしく大召喚の際に感じたそれと同じだったからだ。
 またぞろ何者かに召喚されたのか? それとも黄金の歌姫がポザネオで決行した秘術『ノクターン』とやらの影響なのか?それはわからないが――――

「ともあれ、会ってみる価値はある。どうにか止まってくれるといいんだが」

 運搬船なのだから当然であるが、奏甲支援船の移動速度は奏甲の巡航速度を大幅に上回る。
 戦闘起動ならば並走することも不可能ではないが、奏甲は戦闘兵器としては非常にデリケートでそれほど長時間の限界駆動は不可能だ。
 移動ルートを読むなり、止まってもらうなりしなければ横付けも難しい。

「……? 康一、あれ!」

 アリアが肉眼で何かに気づいたらしく、奏甲支援船の方を指さす。
 康一が遠眼鏡を覗き込むと、奏甲支援船が砂漠の途上で停止している。

「なんだ、トラブル……?」

 目を凝らして訝ると、支援船の下部。ホバー機構の基部に、何か絡みつくものが見えた。
 先にアリアがその正体に気づく。

「巨大長虫(シュピルドーゼ・ワーム)だ!」

 大きいものなら全長50mにも達する、巨大なミミズである。
 名前の通りシュピルドーゼが原産であるが、ほぼアーカイア全土に亜種が存在する。
 史書によればこの時代では盗賊と並んで砂漠の交通を妨げる要因となっており、歌姫大戦期に大規模な駆除が行われたらしい。それゆえか、アリアらの本来の時代……月霜歴670年代では希少種となっている。
 基本的には群で行動する生き物で、10匹以上群がられれば奏甲単騎での対処は難しい。なにせ、比率で言えば人間とアナコンダほどもサイズ差があるのだ。

「アリア、出るぞ」

 康一はコートを翻して踵を返した。
 アリアは慌てて、小走りで後ろについていく。

「助けるの?」

「ついでに恩を売っちまえば、話がスムーズになる」

「なるほど!」

 二人の行く先には、双頭の巨人が頭を垂れて出陣の時を待っていた。



 開いた両首の付け根……人間でいえば胸部にあたる部位にそれぞれ、乗りこむ。
 岩を人間の形に削り込んだような部分……『奏座』に身を収めると、枯木を踏むような音をしながら半身を包み込むように奏座そのものが変形し、主たる機奏英雄の身体を固定した。
 奏座を通じて、アリアの起動歌が奏座に響く。

「Singen.(起動)」

 康一が命ずると、奏座が大きく揺れた。
 彼らの乗る巨人が立ちあがったのだ。

 絶対奏甲(アブソリュート・フォノ・クラスタ)。現世人が見ればそれはアニメでお馴染みのロボット兵器であるし、歌姫はそれを巨人と称する。
 アーカイアの歌術と幻糸技術の粋を集めた、歌姫により駆動し機奏英雄が駆る全高10mの対奇声蟲用機甲兵器である。

「Tempo giusto(通常モード)」

 奏甲は搭乗者たる機奏英雄のかく動かさんとする意思を奏座に満ちる活性幻糸を通して拾いあげ、その通りに動く。
 幻糸炉が鼓動を早め、通常戦闘に過不足ない領域まで出力を上昇させると準備は万端整い、奏甲は一歩、また一歩と足を踏み出して砂漠へ向けて歩きだした。
 弦を擦るような、微かな音が聞こえる。
 《ケーブル》という通話用の幻糸ラインを通じて声が届く前兆だ。つまるところ、奏甲に備えられた通信機器である。
 果たして届いた声は、アリアのものだった。

『――……隊商から歌が届いてる。繋ぐ?』

「繋いでくれ」

 問いに康一が頷くと、再びケーブルが小さく鳴って、今度は男の声が届く。

『“双ツ頭”殿、いかがなすった?』

 双ツ頭……とは、康一の乗る奏甲の外見からついた、彼の渾名だ。
 声の主は知った相手だった。銭内(ぜにない)という、共に隊商の護衛についた機奏英雄である。

「南にミミズの群だ、隊商に迂回するように伝えてくれ。俺は少し様子を見てくる」

『ははん……助太刀は入用かい?』

「無用だ、旦那は隊商の面倒を頼む。賊だって出ないとは限らないからな」

『おう、合点承知之助。お気をつけなすって』

 ケーブルを切り、歩調を早める。
 一応、名目上は隊商の護衛としてここまで来たのだが、目当ての幽霊船を見つけてしまった以上、とって返して合流は難しいかもしれない。前金はもらっていないため後腐れは少ないのが救いだ。
 康一の駆る絶対奏甲は鈍足で、全速でも60km/hほど。辿り着く前に戦闘が収束する可能性も危惧しないではなかったが、それはどうにか杞憂に終わった。

「勝手に助けさせてもらうぞ、そこの奏甲!」

 砂漠に立ち往生した支援船を庇って剣を振るう奏甲にそう叫び、双頭の絶対奏甲は大ミミズの群に躍りかかった。


[No.533] 2013/06/22(Sat) 09:25:04

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