えろりるら〜とても下世話な追想曲〜 - アズミ - 2013/06/30(Sun) 19:14:10 [No.540] |
└ 世界の危機がやってきた! - アズミ - 2013/06/30(Sun) 20:03:51 [No.541] |
└ 責任は取ろうぜ、青年! - アズミ - 2013/06/30(Sun) 21:14:09 [No.542] |
機奏英雄は、まだ大半がアーカイアに残っています。 漫画やアニメやゲームのように、都合良く全てが終わったから帰る、とはいかなかったのです。アーカイアの現人神『黄金の歌姫』は勝手に呼び付けたくせに機奏英雄が現世に帰る手段を用意していなかったのでした。 当然不満は噴出したのですが、正直アーカイアは割合居心地がいいのですぐにみんなどうでも良くなりました。基本、機奏英雄は現世に不満があったり執着がなかったりするようなのが呼ばれるのです。 なもんで、機奏英雄たちはアーカイアに適応しなければなりませんでした。 幸いにして、働き口には困りません。 アーカイアの文明は日本の中世程度。おまけに女性しかいないので、男性である機奏英雄は力仕事に引く手数多です。一部技術職に至っては言うまでもありません。 また、なんやかんやで絶対奏甲は戦争中のあれこれで使えなくなってしまったのですが(詳しくはノクターンでggrks)、最近薄化幻糸処理という簡単な処置でまた動かせる目処が立ちつつあり、国防やら治安維持やらにまで駆りだされるようになりました。 さて、ここに志摩康一という機奏英雄がいます。 名前で解る通り、日本人。21歳。 目つきが悪く反骨心に溢れ、斜に構えているようで実は熱く、妙にモテるがシスコン気味、おまけに特技はピアノ演奏というどっかのガンガンの推理系バトル漫画の主人公のような青年です。……いや、当時特に意識したわけではないのですが。 彼は英雄大戦(ゲーム本編ってことですよ)でなんだかんだそこそこ活躍し、額面上は世界的に名が売れ始めるぐらいのレベルまで成長。 戦争が終結した現在、北の果てにある『虹諸島』という地域の領主の下でだらーっと暮らしていました。 まぁ何もしなくても一応国が出す補助金で暮らせるのですが、康一は領主の頼みで絶対奏甲で治安維持をしたり宴の余興にピアノを披露したりして過ごしていました。 食客、と表現すれば一応角は立たないかもしれません。 その日、康一は領主に呼ばれてその館を訪れていました。 「よくいらっしゃいました、志摩様」 応接室で相対する老齢の女性こそ、虹諸島の『領主』です。 ヴァッサマインという雪国の貴族で、本国に本来の領地を持っているのですが、避暑地のように使っているこの虹諸島が政治的空白地だったためになんとなく領主のように扱われているという、大変ふわっとした立場のお人です。 雰囲気もふわっとしていて温厚に見えるのですが、こんなところに好き好んで住んだり、戦争の真っ最中に奏甲のバトルトーナメントを開いてみたりと大概ちょっと変な人だと康一は思っています。 「モントリヒトのヌーボーが手に入ったのです、おひとついかがですか?」 「はぁ……じゃあ、いただきます」 月光(モントリヒト)とはハルフェア産の赤ワインです。 季節の楽しみにされている新酒で、地球でいうとぼじょれーぬーぼー的なサムシングといえましょう。 康一は酒豪というわけではありませんが、アーカイアで成人を迎えたため、一番思い入れのあるお酒です。 一口飲むと、芳醇な香りとフルーティな酸味が口に広がります。 「ウマいですね」 それほどお酒にくわしいわけではありませんが、それは正直な感想でした。領主も気を良くしてにっこりと微笑みます。 「ええ、今年も無事に葡萄平原も実りを迎えたようで。ただ……」 「ただ?」 言葉を濁す領主に康一が眉をあげると、彼女は表情を曇らせて言いました。 「来年からはどうなることか」 「……何か、あったんですか?」 どうやらただワインを御馳走するために呼んだわけではないようです。康一は身を乗り出して、領主に問います。 領主は暫し瞑目し、やがて沈痛な面持ちで口を開きました。 「機奏英雄、志摩康一様。アーカイアに、再び危機が迫っています」 ワインの話から世界の危機とは穏やかではない飛躍です。 聊か驚いて、康一は椅子に座り直します。 「まさか、また奇声蟲が?」 「いいえ」 「では戦争の火種でも?」 「幸いにして、そのような報告はありません」 「では、いったいなにが?」 世界の危機となれば再び機奏英雄が剣を取らねばなるまい、と覚悟していたのですが、今ひとつ要領を得ません。 領主はどう説明したものか暫し悩んだ様子でしたが、やがて決然たる面持ちで康一を見ました。 「康一様……子供を100人作っていただけませんか」 城戸光政かいな。 [No.541] 2013/06/30(Sun) 20:03:51 |