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No.544へ返信

all ルリルラ・リ - 咲凪 - 2013/06/29(Sat) 11:35:59 [No.537]
時間超過のアンコール - 咲凪 - 2013/06/29(Sat) 11:42:10 [No.538]
用済みのコンダクター - 咲凪 - 2013/06/30(Sun) 10:13:17 [No.539]
鉄屑のモニュメント - 咲凪 - 2013/06/30(Sun) 22:38:00 [No.543]
奏甲のメモリアル(前編) - 咲凪 - 2013/07/02(Tue) 12:47:36 [No.544]
奏甲のメモリアル(後編) - 咲凪 - 2013/07/06(Sat) 14:06:39 [No.545]
Re - 咲凪 - 2013/07/07(Sun) 19:21:10 [No.546]


奏甲のメモリアル(前編) (No.543 への返信) - 咲凪

 Q.リーゼ・リミットは?

 A.デカ過ぎて展示スペースが確保できなかった為、パーツ単位で展示してあるようです。

 絶対奏甲展の会場入りを果たした舞子が、マーシャの案内でまず向かったのはシャルラッハロートと呼ばれる……シャルラッハロート(緋色)という癖に青いカラーリングの絶対奏甲のブースだった。

「まずはやっぱりシャルラッハロートシリーズよね、初代からフィーァトまで、最も機奏英雄が奏でた奏甲だけあって、どれも素敵だわ……」
「フィーァト(4)?、えっと……1、2……5体並んでるけど?」

 シャルラッハロートは歌姫大戦と呼ばれるおよそ200年前の戦いから、英雄大戦まで、2つの戦いに渡って活躍した絶対奏甲の名機の中の名機である。
 英雄大戦の前にあった、奇声蟲討伐の頃には、すでに後継機であるシャルラッハロートU(ツヴァイ)があったのだが、便宜上T(アイン)と呼ぶ最初期型も同じ頃にオーバーホールを施されて活躍する事が出来た程だ。

「あぁ、V(ドリット)の隣に並んでいるのはシャルラッハロート・クーゲルね。あれはVの砲撃戦カスタム機なんだけれど、シャルラッハロートシリーズの中でもVは革新的な存在でね?、現世の技術を取り入れたり、工房の技術進歩もあって、新しいシステムが積んであったんだけど、それに加えてああいったカスタム機も見られるようになってね?、だから私はVがシャルラッハロートシリーズの中では一番……あぁ、でも、Uも素敵なのよ?、Uは多くの機奏英雄が初めて乗った奏甲なんだけど、その安定した性能がいぶし銀的な魅力でね?、でもでもW(フィーァト)のパワフルさもカッコいいわ……あぁ、どれも好き……」
「……あ、あの……マーシャさん?」

 うっとりとした様子で、ずらりと並んだシャルラッハロートシリーズを見るマーシャの瞳は完全に趣味人のそれだった、オタクの眼をしていた。
 マーシャがロボットが好きとは聞いたが、突如人が変わったように多弁になったマーシャに舞子は気圧されてしまう。


「ふぅ、何時間でもシャルラッハロートを見ていたいけど、時間は限られているものね……さぁ、次は突撃式よ!、麗しのケーファ様が私を待っているわ!!」
「え、ちょ、待ってよマーシャ!?、ケーファって何?、麗しいの、それ!?」

 名残惜しそうにシャルラッハロートを拝んだ(文字通りの意味である)マーシャは、こうしてはいられないとばかりに急ぎ足で次のブースへと向かう。
 舞子はマーシャを慌てて追いかけた。


「プルプァ・ケーファは突撃式奏甲と言ってね、歌姫が居なくともある程度の起動が出来る奏甲でね?、文字通り突撃に適したその装甲厚が自慢の絶対奏甲なのよ」
「はぁ……」
「そしてこっちにあるのが、キューレヘルト閣下!、なんかキューレヘルトのデザインって閣下って感じよね、このSっぽさがまた魅力的でね!?」
「う、うん……」
「あぁっ!?、すごい!、ローザリッタァまで展示してある!!、ほら見て舞子、ローザリッタァよ、すごく赤い!!」
「そうだね、……赤いね……」

 すっかりはしゃいで絶対奏甲を見るマーシャを、生暖かく舞子は見つめていた。
 舞子としても絶対奏甲はとても興味深く、また驚きに満ちたものであったので、ともすれば舞子もまたはしゃいでしまっていたのかもしれない。
 だが、興奮した様子のマーシャが良い具合に舞子の精神を現実へと引き戻し……微妙に、ちょっぴり、ちょこっとだけドン引きさせる事で、舞子ははしゃぐタイミングを逃していた。

(まぁ、でも……本当に戦争をしていたんだなぁ……)

 展示されている奏甲は、未使用の新品ではなく、実際に英雄と共に活躍した機体達だ。
 中には、大きく傷の残る機体もあったり、絶対奏甲の前で……かつての事を思い出したのか、涙ぐむ人々の姿み見受けられた。
 それらを見て、舞子は今更ながらに、この世界は戦争をしていたのだということを自覚する、その戦争が、終わったのだとも。

「舞子?、次は飛行型奏甲を見に行くわよ?、機奏英雄に最も人気があったと言われるフォイアロート・シュヴァルベが見られるわよ?」
「あ、うん、今行くよ!」

 傷ついた奏甲と、その前で思い出を振り返る人々。
 彼らの戦いには意味や、正義があったのだろうか、そしてそれがどういう結末を迎えたのか、舞子はそれを知らない。
 ……それでも、こうして思い出を振り返る事が出来るのは、その余裕がある事は、悪い事ではないのだろうと舞子は思った。
 それがどんな過去でも、過去があるからこそ、今があるのだから。

 それから幾つかの奏甲を舞子とマーシャは見て回り……会場の最深部にある、ひときわ人の多いスペースへと二人はやって来た。
 そこには一体の絶対奏甲が佇んでいる、戦いが終わった後の人々と、役目を終えた絶対奏甲達を見守るように、また己自身が身体を休めているように、展示されたその姿は悠然としていた。

「伝説の絶対奏甲……十億の稲妻、ミリアルデ・ブリッツ」

 これまでのようにはしゃいだ様子も無く、その奏甲を見上げたマーシャは呟いた。
 伝説の絶対奏甲“ミリアルデ・ブリッツ”、その赤と白の姿は伝説の名にふさわしく、他の奏甲には無い見えざるオーラを動かざる今なお放っていた。
 舞子はミリアルデの伝説を知らないし、英雄大戦での活躍を知らない、それでもその絶対奏甲が特別特殊、ただ一つのモノである事を確かに理解した。

 さながら神像のようであった、気品と共に神気すら放出するようなその姿、動かざる、音無き今でこそ此処までの威容を持つ彼が躍動し、音を奏でながら戦ったその姿は、どれほどに美しく勇壮であった事だろうかと舞子は思う。

「ミリアルデ・ブリッツ……」

 不思議と恐ろしさというものを舞子は一切感じない。
 先ほどマーシャと共に見たキューレヘルトやローザリッタァ等にはその厳ついフォルムや強面の顔つきに兵器としての恐ろしさを俄かに感じていただけに、余計に不思議なものだと舞子は思う。
 ミリアルデの顔つきは優しい、ファニーなのではない、凛々しいと称して十分な顔つきであるのに、その眼差しが包むような優しさに満ちている。

(……あぁ……良かったね……)

 舞子の胸の内から、ミリアルデを祝福する言葉があふれた。
 戦いを終えて休む彼(ミリアルデ)の、なんて安らかな事だろうか、あぁ、終わったのだ、戦いは。
 舞子にはピンと来ない話とはいえ、彼らの間ではようやく……本当にようやく、戦いは終わったのだ、やっと休める、疲れ果てた彼らが、その腕を、翼を、身体を休める事が出来た。
 ミリアルデの表情は、そういった安堵から来るものだと思えた、やるべき事を終えた顔をしていた、彼の優しい気配はその為なのかもしれない。

(ほかの絶対奏甲もそうなのかな……皆、ホッとしているのかな)

 此処までに見てきた奏甲の表情を思い浮かべて、舞子はふとそう思う。
 皆疲れ果てた身体を休めているのだ、もうこれで戦う事はないのだと安心して……人々の復興を見守っているのだと思えた、彼らは戦争兵器であったのかもしれないが……。

 彼らが悪いものだとは、舞子には到底思えない。

「……お疲れ様」

 彼らに送る言葉は、別れではなく、憎しみでもなく、ただ労いの言葉が相応しい。
 その想いがあるからこそ、この絶対奏甲展は成り立っているのだ、その想いがあるからこそ、この会場は兵器を展示しているのに、温かい気持ちが溢れているのだ。


[No.544] 2013/07/02(Tue) 12:47:36

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