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No.566へ返信

all スターダストアストレイズ - アズミ - 2013/09/28(Sat) 00:14:41 [No.563]
アウトオブスタンダード・1 - アズミ - 2013/09/29(Sun) 23:08:22 [No.566]
アウトオブスタンダード・2 - アズミ - 2013/09/30(Mon) 01:15:12 [No.567]
アウトオブスタンダード・3 - アズミ - 2013/09/30(Mon) 20:42:55 [No.568]


アウトオブスタンダード・1 (No.563 への返信) - アズミ

「私の素性は訳あってお話できません。こうして直接お会いすることが私に出来る精一杯であると、まずはご理解いただきたい」

 依頼人の女は劾の対面に座するや、最初にそう切り出した。
 まず、その頭頂部から爪先まで隈なく観察する。個人情報が全て伏せられていても外見から読み取れることは少なくないし……こうして姿を晒すということは、当の依頼人もまたそれを期待しているということだろう。
 美しいが、顔の部品単位を羅列するとやや地味な印象を受ける女だった。恐らくはナチュラルだろう。纏っているのは地球連合軍の女性士官用の制服。階級章は大尉。
 今時、連合軍の制服など裏社会で幾らでもイミテーションが手に入る(現に劾自身や彼の仲間であるリードが愛用していた)。が完全な偽装品となるとそれなりに高くつくし、細かな動作のクセを見るにまず間違いなく、現役の連合軍人だった。
 劾は連合軍と相性が良くはなかったが、しかしそれだけで仕事を選ぶほどではない。

「続けてくれ」

「ありがとう」

 先を促すと、女は軽く頭を下げ傍らに提げた情報端末をデスクの上に広げた。

「現在、東アジア共和国旧日本地区、長野山中にある連合軍基地……非公式のものですが……が、反乱分子によって占拠されています」

「反乱分子?」

「その基地に所属する……兵士です」

 女は少し、言い淀んだ。
 下手な嘘を吐こうとする反応ではない。“どう表現するか迷った”。そういう反応だ。
 そこを突くことはせず、劾は別の情報に話を向ける。

「戦力は?」

「MSが1。それだけのはずです」

「MS1機でその基地を占拠したと?」

「加えて、既に連合の鎮圧部隊……MS2個小隊を撃退しています」

 非常識とまでは言わないまでも、相当な大立ち回りだった。よほどその反乱分子の腕が立つのか、あるいはMSが高性能なのか。
 しかし劾の思考を読み取ったかのように、女は首を振った。

「腕も立ちます。MSの性能も低くはありませんが……実状としてはこの基地の特殊性が大きいのです」

 言って、端末を操作する。
 程なく表示されたのは、件の基地の全景図であった。規模のみを言えばいたって小規模であるが、地形は急峻な山岳の谷間。自動制御の迎撃戦力、etc……偏執的なまでに少人数による防衛に注力した施設だった。
 そもそも地形の関係上大規模な戦力を一度に投入するのが難しい。正攻法で行くなら長期戦か。如何に堅固な拠点でも、補給が絶たれ孤立している以上いつかは干上がる。無駄に戦力を浪費するなどナンセンスだ。
 が、そんな手堅い方策が許される状況ならそもそも劾たち傭兵に任務は回ってこない。

「猶予はMSのバッテリー限界予測時間まで、30時間。それが過ぎれば今度は1個中隊以上の大部隊が派遣され、確実に鎮圧されます。それまでにあなたにはこの基地を制圧していただき……」

 女はそこで切って、暫し逡巡し……しかし、確固たる意思を持って厳命した。

「必ず、反乱分子を殺さずに保護していただきたいのです」

 両者はそれきり、沈黙した。
 劾は腕を組んで女に視線を向けたまま押し黙り、女はその視線に耐えるように口を噤んで動かない。
 やがて、劾は静かに問うた。

「“制圧し”、“保護しろ”ということは……説得は不可能ということか?」

「あちらは、自分達に味方がいるとは露ほどにも思っていません。言葉による懐柔は欺瞞を疑われるでしょう」

 つまり、件の反乱分子は然したる展望もなく連合に牙を剥いたということになる。よほど切羽詰った状況なのだろう。そして、誰の援護もないまま磨り潰されて死ぬのを待っている。

「私は……彼らと深い友誼があるわけではなく、ごく個人的な心情を以って彼らを救いたいと考えているのです」

 “私”は。つまり、依頼人はこの女個人。
 どんな事情があるかはわからないが、情に任せて、下手を打てば連合を敵に回しかねない状態で、難攻不落の防衛拠点を制圧し、かつ対象を殺さず確保せよという。
 困難を通り越して、馬鹿げたミッションだ。いくら積まれても割に合わないと傭兵なら誰もが判断するだろう。
 しかし、劾は席を立たなかった。

「なぜこの依頼を俺に回す? サーペントテールではなく、叢雲劾個人を名指しにする理由はなんだ?」

 女の事情は敢えて問わなかった。
 いや、問う必要がなかった。恐らくはこの問いに女が答えさえすれば、全ての謎は氷解する。
 果たして、女の答えは劾の予想通りだった。

「――……その反乱分子が、あなたと同じ瞳を持つ者だからです」

 劾は、僅かに目を見開いてサングラスを外した。





 コックピットにけたたましく警告音が鳴り響く。
 劾のブルーフレームが基地に踏み込んだ瞬間、まず出迎えたのは雨霰と降り注ぐ弾丸とビームであった。

「虚仮脅しか」

 そう呟くだけで、劾はコントロールレバーから両手を離した。
 棒立ちになったブルーフレームが砲火と轟音に包まれ――……
 そして、一瞬後。無傷でその場に佇んでいた。
 劾の言う通り、この攻撃は威嚇だった。砲撃痕は正確にブルーフレームを取り巻き、円形に刻まれている。
 程なく、通信が入った。

『そのまま立ち去れ。次は当てる』

 誰何さえ無かった。
 ここに訪れる者は、例外なく自分の敵だと断じる冷たい声音。
 だが、劾は露ほどにも動揺することなく、名乗った。

「俺は傭兵部隊サーペントテール、叢雲劾。依頼により、お前たちを保護しに来た」

『保護? 誰の依頼だ?』

 あまりに予想外の文言だったゆえか。通信が問い返す。

「依頼人の素性は明かせない。ただ、そちらの状況は把握している。俺はお前たちを保護する」

 淡々とそれだけを述べる。
 通信の相手は、幾らか当惑した様子だったが……逡巡の間はそれほど長くはなかった。

『……生憎だが、信用できないな。引き返さないならば、攻撃する』

「そちらの状況は把握していると言った」

 劾は繰り返して、ブルーフレームを前進させる。
 同時に、センサーが再び警告音を発する。四方八方から迫る熱源。
 状況は予定通りに推移している。
 相手はこちらを信用しない。この難攻不落の施設を、ただ一機で攻略、制圧。然る後、相手を無力化し保護する。

「――……ミッションを開始する」

 劾の宣言に応じて、ブルーフレームが背にした大剣を抜き放った。


[No.566] 2013/09/29(Sun) 23:08:22

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