スターダストアストレイズ - アズミ - 2013/09/28(Sat) 00:14:41 [No.563] |
└ アウトオブスタンダード・1 - アズミ - 2013/09/29(Sun) 23:08:22 [No.566] |
└ アウトオブスタンダード・2 - アズミ - 2013/09/30(Mon) 01:15:12 [No.567] |
└ アウトオブスタンダード・3 - アズミ - 2013/09/30(Mon) 20:42:55 [No.568] |
敵は単機。砲撃の質が均一であることから、それは間違いないと劾は判断した。 にも関わらず、砲撃は四方から襲い掛かってくる。 からくりは女が見せてくれた基地の情報で割れているが、だからといって即座に無効化できるような性質のものではない。 そして、そのメカニズムはどうあれ十字砲火に晒される事態というのはそれ自体が致命的だ。劾ほどの凄腕でもそれは変わらないし、逆にそもそもそういう状況を巧みに回避するからこそ腕利きといえるのだ。 「守勢に回れば負けるな……」 これほどの数の砲撃を全弾回避し切ることは如何に叢雲劾、如何にブルーフレームとて不可能だ。当然、軽い反面脆い発砲金属装甲で耐えるのはなお不可能。せめてPS装甲であればレールガンに対しての防御力はある程度期待できたが、無いものねだりをしても始まるまい。 劾がペダルを踏み込むと、ブルーフレームが基地外縁目掛けて突進。メインスラスターが咆哮をあげる。 一瞬遅れて、ビームとレールガンがブルーフレームのいた地面を抉り灼いた。 続けて前方から襲い掛かる砲撃。 メインスラスターに比べれば幾らか控えめに、肩のサブスラスターが不規則に火を噴く。 「く――ッ……!」 肺が苦悶と呼気が漏らす。 熟練のボクサーさながらの華麗な動きでブルーフレームが火線を3つ、次々に掻い潜る。人間であれば喝采に値するだけの動きだが、MSがするとなるとパイロットにかかるGは生半ではない。 また、全てを回避することも出来なかった。ビームがブルーフレームの真正面から迫る。 劾は吐き出した空気を鋭く、ゆっくりと吸い込み、そして――然るべき刹那を見切り、電光石火の速度で操作を走らせた。 『何ッ!?』 こちらの状況は正確にモニターしているらしい。攻撃の主が驚愕する。 ブルーフレームは着弾する瞬間を過たず、腰からアーマーシュナイダーを抜き放ってビームを受け止めていた。 劾が愛用するMS用コンバットナイフだ。刀身に耐ビームコーティングが施されているのだが、無論、これだけの出力のビーム砲を真正面から受け止められるような堅牢な代物ではない。 だが、溶解するまでの一瞬程度は稼げる。ブルーフレームが推力全開で走り抜けるには十分な時間が。 コンマ数秒で、ブルーフレームは基地の外縁。ビームが放たれた源へ到達した。 金属で出来た、MSほどもある無骨な輪。 これこそが、手品の種。たった一機のMSが劾に十字砲火を行ってくるからくりというわけだ。 「これが例のゲシュマイディッヒ・パンツァーか」 ミラージュコロイド技術を用いたビーム偏向装置である。 元々はヤキン・ドゥーエ戦役末期に連合軍が試作MSフォビドゥンに搭載したビーム攻撃に対する防御手段だが、この装置はビームを“偏向する”という性質を応用し、基地の最奥に陣取った砲撃MSのビーム攻撃を基地の要所に配置したゲシュマイディッヒ・パンツァーで反射することで基地全域の任意の場所に十字砲火を仕掛けられるようにしているのだ。 ともあれ。 「まずは一つ」 ブルーフレームが袈裟懸けに振り抜いたタクティカル・アームズが偏向装置を切り裂く。 元より防御力は度外視されている作りだ。ただの一太刀でゲシュマイディッヒ・パンツァーは無力化された。 劾は間髪入れずに次の偏向装置に向けてブルーフレームを走らせる。 砲火もそれを阻まんと襲い来るが、先刻に比べればほんの少し――紙一重。火線一本分、隙があった。先刻破壊した偏向装置の分、弾幕に綻びが出来たのだ。 「二つ!」 二つ目の偏向装置をアーマーシュナイダーを投げ放って潰す。今度はあからさまに東側からの攻撃が薄くなった。 もはや王手だ。依然として攻撃は執拗に為されているが、もはや叢雲劾を殺すには貧弱に過ぎる。 「だが、問題はここからか」 王手はかけた。 だが、実戦は将棋でもチェスでもない。追い詰められたキングが座して取られることは在り得ない。 まして、この敵は……強い。 いくら偏向装置による十字砲火とはいえ、いやそうした装置を間に挟むからこそ正確な砲撃を間断なく行うには並外れた集中力と精密操作を要する。おまけにご丁寧にも対ビーム装備で封殺されないよう、意図的に弾速を減じたレールガンによる曲射砲撃を織り交ぜてきさえした。 そうだ、この敵は強い。 窮鼠猫を噛むというが、劾はこの基地の奥で待つ敵を、鼠どころか猛獣と思ってかかることにしていた。 ● 『あの砲撃を潜り抜けてくるとはな……化け物かよ、アンタ』 基地の奥で待っていた砲撃の主は、むしろ呆れたようにそう言った。 乗るMSは、見慣れない姿をしていた。 例の偏向装置との同期に必要なのだろう、センサーが無秩序に貼り付けられた増加装甲に身を包んでおり、砲撃に使用したと思しきビーム砲とレールガンだけがサブアームに繋がれメインフレームから伸びている。、 劾は向こうの言葉に取り合わず、タクティカルアームズを変形させ、ガトリングの銃口をそのMSに向けた。 「――もう一度言う。俺はお前たちを保護するよう依頼を受けている」 静かな声音で、通告した。 「『水郷劔(スイゴウ・ツルギ)』。武装を解除しろ」 名を呼ばれた男――水郷劔は、ハッ、と吐き捨てる。 『この期に及んでそんな眠たいことを言うってことは、本当に殺すなと言われてるらしいな』 そのMSは偏向装置に向けた左手のビーム砲を手放し、保持アームを畳んで背中に収納する。 が、右手に保持したレールガンの砲門はそのままブルーフレームに向けられ、左手には新たに小型のビームガンと思しき銃を装備する。 どう見ても、武装解除する気はない。 『連合は俺たちのデータが惜しくなったか? ……いや、東アジア共和国か、ユーラシア連邦の横槍か……それとも、プラントの手回しか?』 値踏みするように言いながら、じりじりとブルーフレームとの間合いを計る。 劾は敢えてその疑念を否定することはしなかった。 たとえ億の言葉を重ねようと、今の彼に信用されることは不可能だとわかっていたからだ。 相応の地獄を見せれば、人間の精神から信頼の二文字を削除するのは難しくないということを、劾は知っている。それを躊躇いなく行う人間がいることも。 『いずれにせよ』 劔のMSが足を止める。 『ここから先には行かせねえ。アイツらを、これ以上誰にも好きにはさせねえ。たとえ、ここでくたばろうとな』 そう宣言して、MSが腰を落とした。 全身から小さく炸裂音と火花が上がる。 連結するボルトが破裂し、増加装甲とセンサーがばらばらとその場に脱落していった。 中から現れたMSは、連合に有り触れたダガー系MSではなかった。 むしろブルーフレームに似た双眸を持つ面構えには見覚えがある。実機を目の当たりにするのは初めてだが、データは随分前に閲覧したことがあった。 「GAT-X103……バスターか」 連合が最初に開発した5機のMSの一つ。同じヘリオポリスで、オーブのモルゲンレーテ社に製造されたブルーフレームにとっては腹違いの兄弟と言っていい機体。 ブルーに入れてあるデータとは内部数値に若干の齟齬がある。近代化改修された再生産機か。 『恨みは無いがな――……倒すぜ、サーペントテールの叢雲劾!』 「相手になろう――……来い!」 山間の基地を舞台に、2機のガンダムが激突する。 [No.567] 2013/09/30(Mon) 01:15:12 |