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No.598へ返信

all Beautiful world 1 - アズミ - 2014/08/23(Sat) 01:00:13 [No.596]
Beautiful world 2 - アズミ - 2014/08/23(Sat) 16:28:27 [No.597]
Beautiful world 3 - アズミ - 2014/08/24(Sun) 00:29:55 [No.598]
Beautiful world 4 - アズミ - 2014/09/24(Wed) 17:09:03 [No.603]
Beautiful world 5 - アズミ - 2014/09/24(Wed) 22:18:01 [No.604]
Beautiful world 6 - アズミ - 2014/09/25(Thu) 23:53:39 [No.605]
Beautiful world 7 - アズミ - 2014/09/26(Fri) 17:56:44 [No.606]
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Beautiful world 9 - アズミ - 2014/09/26(Fri) 18:00:03 [No.608]
設定資料1 - アズミ - 2014/09/26(Fri) 22:41:10 [No.609]
Beautiful world 10 - アズミ - 2014/09/27(Sat) 13:30:59 [No.610]
Beautiful world 11 - アズミ - 2014/09/27(Sat) 20:30:13 [No.611]
Beautiful world 12 - アズミ - 2014/09/29(Mon) 18:42:43 [No.612]
Beautiful world 13 - アズミ - 2014/10/03(Fri) 22:41:23 [No.613]


Beautiful world 3 (No.597 への返信) - アズミ

「よーし、作業開始だ! 各機起こせーっ!!」

 今回の仕事を取り仕切るジャンク屋のリーダーの掛け声に従って、巨大な機械の群が砂漠から身を起こしていく。
 砂上用のクロウラーやホバーを備えた重機車両の姿もちらほら見えるが、大半はMS(モビルスーツ)だ。
 MSとは、身の丈18m前後の人型兵器だ。
 ……そう、兵器だ。少なくとも国際法上はそう扱われるとニモは本で読んだし、本来は人を殺傷するためのものなのだとセイリも言っていた。
 だが、その兵器史上特異なフォルムはとても器用で、往々にして戦闘以外にこそ便利なのだとも。
 何処ででも人の思いつくことを実行してみせるスケールアップされた人体は、極めて限られた車両しか活動できないこんな砂漠の真ん中でもまさしく百人力で働いてみせるのだ。

「来い、ニモ!」

 自分のMSが立ち上がるのを待って、セイリがニモを呼ぶ。
 彼女の目の前に差し出された巨人の大型車ほどもある掌に乗ると、その無骨な外見からは想像もつかないほど優しく包み込み、コックピットまで運んでくれる。
 セイリのMSは『アストレイ』と呼ばれている。MSはすなわち巨人だが、より人間らしいフォルムというならこのアストレイが一番だとニモは思った。
 そうセイリに伝えると、セイリは長々とこのアストレイの特徴的な関節駆動構造と人体に近い可動域の因果関係について説明してくれたのだが、ニモが人に近いと思ったのは単純に“顔”だった。
 なにせ目が二つある。口部のインテークは鼻かヒゲのようだし、顎のセンサーは紅を塗った唇のようだ。
 それを聞くと、セイリは釈然としないような苦笑するような、微妙な表情をした。

「ちゃんとベルト締めろよ」

「ん」

 コックピットに辿り着くとニモはセイリの膝の上に座り、無理矢理増設したシートベルトを締める。
 MSはごく一部の機種を除いて、基本的に単座だ。如何に小柄なニモでもコックピットに専用のシートを作るだけのスペースは無く、仕方なくこうして甚だ安全面で問題のある体勢で乗り込んでいる。
 セイリがそうまでしてニモをMSに同乗させているのは、偏に彼女の安全のためだ。
 別に過保護というわけではない。この場に集まっているジャンク屋のMSの大半が何かしらの武装を備えていることからも解るとおり、彼らの活動は事故という要因を度外視してすら常に危険と隣り合わせなのだ。
 また、ニモもただセイリの膝の上に座っているだけではない。懐から出した情報端末をアストレイのコックピットコンソールに繋ぐと、慣れた手つきで手製のオペレーションソフトを立ち上げる。

「ソナー頼む、範囲は半径50、深度は……20でいいだろう」

「わかった」

 ニモがキーを打つと、画面上のアストレイを示すマーカーからソナー波を示すシグナルが広がる。
 今回の仕事は地下に埋設された通信ケーブルの修復だ。
 1年前の戦争で地球上にばら撒かれたニュートロンジャマーは核分裂反応の抑制によって地球のエネルギー生産と核兵器の仕様を抑制するのが目的のものであったが、副次的効果として電波撹乱効果もあった。結果として地上は一時通信網が寸断され、大混乱に陥ったのである。
 そこで対抗策として急ピッチで整備されたのが地下埋設ケーブルによる有線通信網だった。
 一世紀以上前から使われてる甚だ原始的な技術だが、だからこそ緊急時には強い。今やこの通信網は地球上を比喩表現抜きに網の目のように覆っており、地球上の通信状況は民生に限っては戦前とさして変わらないレベルにまで回復している。
 が、物理的にケーブルが存在する以上、メンテナンスに手間がかかるのは回避しようのない弱点の一つだった。
 今回は修復というよりは補填、というのがリーダーからの事前の説明だったが……

「来た」

 しばらく前進すると、反応が返ってきた。
 南北に蛇行しながら貫くように細長い反応。通信ケーブルだろう。だが、途中できっかり50mほど反応が途絶している。

「1ユニット分ぴったりか。こりゃ盗まれたな」

「盗む?」

「そこそこ高く売れるんだ、通信ケーブルは。日銭欲しさの野盗が掘り出して持っていくことがたまにある」

 セイリのアストレイが合図すると、ジャンク屋のMSたちは要所にスケイルモーター(振動によって地上を意図的に液状化させる装置)を設置し、起動させる。すると、さながらモーセが海を割ったように砂漠に流砂が生まれ、ケーブルを設置する予定の部分に沿って溝が出来た。

『よーし、交換用のケーブル持ってこい! 足の軽いMSを中心に3機降りるぞ!』

 リーダーの指示に従い、次々とMSが溝の底に飛び込んでいく。
 アストレイはMSの中でも抜群に軽量で運動性が高い。セイリも後に続こうとするが、そこでニモが口を挟んだ。

「なぁ、セーリ。私、考えたんだけど」

「うん?」

「ケーブルを盗んだのが泥棒なら、そいつらにとってこの状況って」

 ニモが言葉を結ぶ前に、爆発音でセリフが遮られた。
 出所は見回すまでもなかった。視界の端を飛来した迫撃砲で吹っ飛んだ重機が転がっていく。

「“鴨が葱背負ってくる”ってヤツじゃないか? 本に書いてあった」




 1年前、大きな戦争があった。地球圏を事実上二分する、人類史上最大の戦禍だった。
 数多の兵器が製造され、破壊され、大地に、宇宙に、その屍を晒した。
 デブリを回収する個人事業主でしかなかったジャンク屋たちが、国際条約に保護されるジャンク屋組合という業界団体を作るまでに至ったのも、その回収・再生事業を代行するようになったからだ。
 が、同時に大戦の混乱は地球圏の秩序を急速に奪い去った。
 特に先述したニュートロンジャマーによる電波撹乱の影響は大きく、通信網の寸断と交通の不安定化は縮まった世界を急速に広大化させ、国家の制御下を離れ、結果としてごく一部の無政府地域に限られていた盗賊行為が世界中に偏在化し、戦禍と合わせて人々の生活を脅かした。
 そして、それこそが現在ジャンク屋の活動が危険と隣り合わせである大きな要因なのである。
 世界中、それも貴重な資材や金銭を扱うジャンク屋はその標的になることが多く、ジャンク屋組合の形成も事業の拡大より不安定化した社会における自衛のためという側面が強い。

『撃ってきたぞ!?』

『西だ、反応3! 武装しているMSは前に出ろ!』

 飛び交う通信を尻目に、セイリは既に動いていた。
 OSのモードを戦闘用にシフト、ジェネレーターの出力を上昇させ火器管制を開放する。

「敵性反応は西北西距離300、数は3、識別はTMF/A−802」

 索敵と同期した情報端末を見て言うニモに、鼻を鳴らす。

「“犬ころ”か」

 拡大表示されたその全体像を見て、ニモはその表現に得心した。
 大方が人型をしてるMSの中では特異なことに、敵は四つんばいで地面を走る四足獣……ちょうど犬のような姿をしている。
 TMF/A−802、ザフトの開発した地上用MS、『バクゥ』だ。

「装備は?」

「レールガンが2、ミサイルが1。もうビーム・ライフルの射程に入ってるけど」

 ロックオンサイトにグリーン(攻撃可)で表示されている敵反応を指差して言う。
 が、セイリは渋い顔で首を振った。
 
「持って来てないからダメだ。だいたい、半年は整備してないから撃てるかわからん」

 アストレイの基本装備であるものの、MS本体のエネルギーを大きく消費する上に威力が高すぎるビーム・ライフルはジャンク屋の自衛用としてはあまりに過剰武装だ。今も肩にマウントしてあるビーム・サーベルも同様。起動はするだろうが、割合デリケートな機械なので出力が安定するか自信が持てない。
 今背中のハードポイントに装着している射撃武装はM68キャットゥス500mm無反動砲だが……

「キャットゥスは弾頭が排障用の発破のままだし……コイツでやるしかないか」

 アストレイが腰から長大な“刀”を抜き放つ。
 刃渡り9.1mに及ぶ、対艦刀だ。巨大な構造物の外装を破壊するために作られた実体剣で、ビーム・サーベルに比べて切れ味は鈍いが戦闘以外にもいろいろと便利なので普段から手入れがしてある。信用だけは置けた。

「ニモ、かなり揺れるぞ。しっかり掴まってろ」

「ん」

 ニモが端末を仕舞い、セイリのズボンをぎゅ、と掴む。

「俺が前に出る、後から当てるなよ!」

 セイリは通信機越しにジャンク屋たちに叫んで、西に向けてアストレイを跳躍させた。


[No.598] 2014/08/24(Sun) 00:29:55

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