Beautiful world 1 - アズミ - 2014/08/23(Sat) 01:00:13 [No.596] |
└ Beautiful world 2 - アズミ - 2014/08/23(Sat) 16:28:27 [No.597] |
└ Beautiful world 3 - アズミ - 2014/08/24(Sun) 00:29:55 [No.598] |
└ Beautiful world 4 - アズミ - 2014/09/24(Wed) 17:09:03 [No.603] |
└ Beautiful world 5 - アズミ - 2014/09/24(Wed) 22:18:01 [No.604] |
└ Beautiful world 6 - アズミ - 2014/09/25(Thu) 23:53:39 [No.605] |
└ Beautiful world 7 - アズミ - 2014/09/26(Fri) 17:56:44 [No.606] |
└ Beautiful world 8 - アズミ - 2014/09/26(Fri) 17:57:45 [No.607] |
└ Beautiful world 9 - アズミ - 2014/09/26(Fri) 18:00:03 [No.608] |
└ 設定資料1 - アズミ - 2014/09/26(Fri) 22:41:10 [No.609] |
└ Beautiful world 10 - アズミ - 2014/09/27(Sat) 13:30:59 [No.610] |
└ Beautiful world 11 - アズミ - 2014/09/27(Sat) 20:30:13 [No.611] |
└ Beautiful world 12 - アズミ - 2014/09/29(Mon) 18:42:43 [No.612] |
└ Beautiful world 13 - アズミ - 2014/10/03(Fri) 22:41:23 [No.613] |
戦端を開いて約20秒。 ミサイルの弾幕を回避しながら空中から強襲し、まず突出していた一機を背中から串刺しにした。 アストレイは同世代のMSの中では特筆するほど機動力に優れており、かつ短時間だが飛行能力も備える。推力最大で肉薄すればそう止められるものでもない。 恐らくパワーパックを破壊したのだろう、バクゥの四肢から力が抜け、その場に崩れ落ちる。 軍ならば上出来、と評される手際。 (もっとも、ジャンク屋としちゃ褒められたもんじゃないな) そう独りごちる。 上方からの強襲で、コックピットを避けて一撃で無力化するとなると他に確実な選択肢が無かったのだが、MS用のパワーパックは比較的高価な部品なのだ。出来れば無傷で確保したかった。 「レールガン!」 ニモの警告が飛ぶ。 反射的にアストレイを跳躍させると、バクゥの背を掠めるように狙った電磁加速砲の弾丸が爪先数mを灼きながら通過した。 次の標的は攻撃してきたレールガン装備のバクゥ……ではなく、後方のジャンク屋たちにミサイルを向けている方! 「敵砲身の熱放射に気を配れ! 収まるまで次は撃たない!」 ニモに指示して、ミサイル付きのバクゥに肉薄する。 標的が泡を食った様子でミサイルを発射するが、遅い。 測距も済まないままマニュアルで放ったのだろう、無秩序に広がり弾幕を形成しかけたミサイルに頭部バルカン……“イーゲルシュテルン”を斉射し、撃墜する。CIWSとしての実戦での信用度は気休め程度だが、こういう状況では効果は覿面だ。 「変なトコ当たるなよっ!」 着弾煙に隠れたバクゥに向けて、目測で対艦刀を薙ぐ。 狙い違わず、刃はミサイルとMSの接合部に当たり、ミサイルランチャーが砂漠に落ちた。と、同時にジャンク屋が反撃に放った砲弾がバクゥの頭部を吹き飛ばした。 さし当たってはこれで無力化できただろう。 「ラストッ!」 ほとんど反射的に、セイリはアストレイを反転させて対艦刀を真下から掬い上げるように振るった。 その峰が、アストレイに格闘戦を敢行しようと飛び掛っていたバクゥの上半身をカチ上げる。 バクゥはバランスを取り戻そうと空中でよたよたともがくが、結局重力に引っ張られて仰向けにその場に倒れた。 「――――ふぅぅぅぅ……」 残心の呼吸と共に、アストレイが対艦刀をひと振るいして鞘に収める。 バクゥは無傷に近かったが、身体を揺すったりじたばたと足を動かしてどうにかひっくり返ろうともがくばかりで攻撃してこない。そして、それが成功する前に他のジャンク屋がワイヤーで縛り上げてしまった。 「亀?」 ニモが素直な感想を述べた。 足は犬並みに長いが、あまり器用に動かないらしい。おまけに背中も動物に比べて平坦なので、ひっくり返った体勢のまま安定してしまう。恐らくメンテナンスや製造時にはそのほうが都合がいいのだろうが。 「こいつらはひっくり返されるとなかなか起き上がれないんだ。バクゥ乗りは地雷を最も恐れる、って昔知り合いに聞いたことがある。それに……」 アストレイを拘束されたバクゥに近づけ、拳で腹をノックする。 「出て来い。MSを捨てれば命は助けてやる」 どうやらそこがコックピットらしい。なるほど、無傷で鹵獲するのにもひっくり返すのは都合がいいということか。 程なく、中からパイロットがひぃひぃ言いながら這い出してきた。 「リーダー、被害は」 『重機とMSが合わせて4機やられた、怪我人はいるが死人はいないのが不幸中の幸いってとこか』 「この3機で補填できる損害だといいんだがな。作業はどうする?」 『次のバカが来ないとも限らん、今の内にやっちまおう』 「了解だ」 転進し、放置されたままの溝へMSを進める。 背後では残ったジャンク屋たちが盗賊を拘束し始めていた。 「こんなの、よくあるのか?」 ニモの問いにセイリは肩を竦めた。 「いつものことさ」 ◆ その後は恙無く作業も終わり、夕刻には一行はテントを構え野営の準備を終えた。 砂漠での夜明かしは快適とはいえないが、この後このまま次の作業地へ向かう者もいるため、報酬の山分けや損害の補填はこの場で済ませなければならないのだ。 「よぉっす、お疲れさん!」 また目覚まし時計を4時にセットしようとしているニモをセイリが牽制しているところに、その男は来た。 筋骨隆々とした、ヒスパニック系の中年男だった。 短く刈り上げた髪とタンクトップにデニムのパンツという井出達だが、顔立ちは整っており着飾ればさぞ伊達男ぶりを発揮することだろう。 見覚えはあった。 「確か、リーダーの傍にいた……」 「あぁ、リーダーは兄貴のペドロだ。野盗退治の功労者に兄貴に代わって挨拶しとこうと思ってヨ」 そう言って、ごつい手をずい、と差し出す。 「俺はホセ=デ=ラ=カルデロン=ウルタード。よろしくな」 ヒスパニック系の名前は長くて覚えにくい。 セイリが「ホセでいいか?」と問いながら差し出された手を握ると、ホセは「もちろんだとも」と頷いて握った手をぶんぶんと振った。 「セイリ=ナバ=カンヤだ。こっちはニモ。あー、俺の……」 次に継ぐ言葉が思いつかず、暫し逡巡する。 ニモを紹介しようにも、彼女に関して語れるのはその名前にもなっていない名前だけだ。 苗字どころかその素性も定かならず、セイリとの関係性すら定まっていない。 そんなセイリの心中を知ってか知らずか、ニモはセイリの顔をじっと見上げている。 が、やがてホセの方が我が意を得たりという様子でニモの手を取った。 「オーゥ、そうか! 噂の幼な妻ちゃんだな」 あまりといえばあまりに予想の斜め上の言葉に、思わず噴出す。 当のニモは不可解な様子でくり、と首を傾げたままホセの握手にされるがままになっていた。 「よろしーく、ミセス! いやぁ、別嬪の嫁さんで羨ましい限りだ!」 「ちょちょ、ちょっと待て! 違う! っていうか噂ってなんだ!?」 「皆そう言ってたが、違うのか?」 そう言って他のジャンク屋を示すホセ。 なんて無責任な与太を広めてくれるのだ、とセイリは思ったものの、関係を説明もせずに16の少女を連れまわしている彼に非がないとも言えない。 「とにかく、違う! コイツは……」 慌てて否定するものの、時既に遅し。 背筋に走る嫌な予感に隣を見ると、他称幼な妻は相変わらずにこりともせず視線を他称旦那様に向けていた。 そして、無知という名の処刑鎌を振り上げる。 「セーリ、オサナヅマってなんだ?」 今度こそ、セイリはぱくぱくと口を開け閉めしたまま言葉が出なくなってしまった。 ◆ 結局、ホセにはニモを拾った経緯を全て話すことにした。 ニモをあそこに置き去りにした何者かが来歴を抹消するような素性であることに変わりはない。あまり吹聴するのもどうかとは思うが、とはいえ幼な妻呼ばわりはともかく何も説明しないといらない勘繰りを受けかねない。 幸いにしてホセは誠実で善良な男に見えた。一先ず彼に話してしまう分には構わないだろうと踏んだのだ。 「あの曰く付きのL4宙域に由来の知れない廃墟、中には記憶の無い謎の少女が一人……か」 煙草を一つ吹かして、ホセは笑う。 「映画の予告編としちゃありきたりだなァ。本編を見るかはちょっと考えちまうぜ」 そう言うが、信用していないわけではないらしかった。 曰く付きのジャンクを拾って厄介事に巻き込まれる経験は、この稼業を続けていれば誰しもある。 彼らは戦場に放置された兵器を回収、再生する。元の持ち主である軍もその活動を大筋では容認しているが、中にはかなりデリケートな軍事機密を含むものが混じっていることもある。そうしたババを踏んで軍に追われたなんて話は少なくない数、セイリも聞いた。 「だから予算が落ちなかったのかもな。本編は何時まで待っても始まりやしない」 映画と違ってニモを狙って謎の男たちが襲ってくることもないし、正体不明の美女が警告しにすることもない。謎の少女は今日も隣で自分の謎など興味もないように夕食の黒パンを頬張っている。 「いいじゃないか、本編は制作上の都合でホームコメディに変更だ」 ホセがニモの食事風景を観察して言う。 正直褒められた味ではないそれを黙々と愛想なく、しかし小動物じみた愛嬌のある動作で食べ続ける彼女が面白いらしい。 「スペクタクルは無いが主演女優は一級品。KAWAIIは正義だぜ?」 「殺伐ともしてないしな。……タダ見なら俺も迎合してたところだが」 物語はいつまで経っても始まらない。 きっと面白くはないしひょっとすると不利益さえ被るかもしれないが、それにどこかヤキモキしているのは、入場料が高くついたからだ。 「食い扶持ぶんぐらいは働いてくれるようになったんだけどな、偽造戸籍がちょいと高くついた」 如何に秩序の崩壊した世界でも、国境を跨いだり公共サービスを受けようと思ったら戸籍は必要になる。ジャンク屋組合に登録していれば元の国籍問わず天下御免で地球圏を移動できるが、そもそも組合に登録するのにも前歴一切不詳では話にならない。 「今後を考えると何時までも偽造ってわけにいかないし、せめて組合への登録ぐらいは……なんだ?」 ニヤニヤとしてこちらを見るホセに気づき、気味悪そうに見返す。 「いや、善い奴に拾われてお嬢ちゃんは幸せだなって思ってな。ほれ、俺のぶんも食べるか?」 そう言って黒パンを差し出すと、ニモは「ん」と頷いた。……どちらに対してかはわからないが。 「ありがと」 「どういたしまして。黒パン、旨いか?」 ホセの問いにニモはくり、と首を傾げたまましばらく黒パンを租借した。 やがてごくん、と飲み込むと口を開く。 「栄養の味がする」 それの何がツボに嵌まったのか、ホセは人目も憚らず爆笑した。 [No.603] 2014/09/24(Wed) 17:09:03 |