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No.605へ返信

all Beautiful world 1 - アズミ - 2014/08/23(Sat) 01:00:13 [No.596]
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Beautiful world 12 - アズミ - 2014/09/29(Mon) 18:42:43 [No.612]
Beautiful world 13 - アズミ - 2014/10/03(Fri) 22:41:23 [No.613]


Beautiful world 6 (No.604 への返信) - アズミ

 ニモの余暇は基本的に読書に費やされる。
 どういった理由か、このご時勢に電子書籍ではなくハードコピーに拘る。現在の地球圏において知的財産権の保護は十全とは言いがたく、大概の知識はネットワークに溢れているし逆に電子書籍でなければ存在しない本も数多いのだが。
 基本的に旅の空なので、持ち歩ける本は少ない。街で10冊ほど購入しては仕事の間に読破し、次の街で売り払ってまた10冊購入する、の繰り返しである。
 
「とはいえ暫く海上暮らしだからな、今回の10冊はゆっくり読めよ」

「ん」

 セイリの言葉に、ニモは本の紙面に視線を落としたまま生返事を返した。
 飛行中のアストレイのコックピットはそれなりに揺れる(推力重量比が1以上なので短時間飛翔出来るというだけで、安定翼が存在しない)のだが、一向に酔う様子はない。
 足元のリュックには前回の仕事のあとトリポリで購入した9冊の本がぱんぱんに詰め込まれている。
 ニモの読書は基本的に“学習”と同意義だ。文芸書や哲学、啓蒙などは皆無で、ほとんどが技術書や教科書である。
 先述した通り、彼女の学習能力は埒外に高い。現在、遺伝子操作によって人為的に優秀な頭脳を持つ人間を作ることは可能だが、こと学習能力に限っていえばその最高位の個体であっても彼女には及ばないかもしれない。既に彼女は博士課程までの機械工学全般とMS運用概論、ジュニアハイまでの一般教養、英語、日本語、北京語、アラビア語、ドイツ語を習得している。
 もっとも、では彼女が“頭がいい”のかと言われれば、それはノーだ。
 彼女は知識を記憶し理解するだけで、応用力が致命的に乏しい。機械的なのだ。セイリは製造直後の量子コンピューターの学習に立ち会ったことがあるが、ちょうどそれに近い感覚を覚えた。
 そろそろ何か文化的な趣味を与えないと不健全かもな、とセイリは考えている。

「今度は何読んでるんだ?」

「オーブ軍士官学校のMS戦術論の教科書」

「……、残りもそんなのか?」

「んーん。次からはハイスクール課程の近現代史と公民。東アジアとオーブと汎ムスリム会議の」

「……あ、そう」

 なんでわざわざ同じ課程のを数カ国分読むんだ、と自国の、それも学校の授業で読んだだけで頭が痛くなったセイリは疑問を禁じえない。
 ニモにしてみれば主観性が強く出る分野なので数カ国分併読し内容を吟味するのは当然の行為なのだが。欲を言えば大西洋連邦とプラントの教科書も欲しかったが、残念ながらハードコピーが手に入らなかった。

「目的値までどのぐらいかかる?」

「そろそろ着陸して……そうだな、歩きで半刻ぐらいか」

 ニモの問いに、ナビを立ち上げて大雑把に答える。
 目的地は地中海に面したリビア最大の貿易港の一つ、ラスラヌフだ。そこでホセらと合流し、彼らの船で地中海からスエズ運河を渡ってインド洋周りで東アジアを目指す。

「わかった、それまでにこれを読み終わる」

「ゆっくり読めっつーに」

 心なしかふんす、と鼻息を荒くしたように見えるニモに、セイリは呆れてそう言った。



 誘導に従い、港湾部に停泊した艦船の甲板にアストレイを着艦させる。
 ザフトのボズゴロフ級潜水艦だ。
 同軍では数少ないMS運用能力を持つ水上艦で、戦時中多数の艦艇が衛星軌道上で建造され、海上に投下、運用された。
 先の停戦に際しザフトは地上から大幅な撤退を余儀なくされたため、その際に引き上げられなかった損傷艦が多数、機密対策を施した上で放棄されている。恐らくこのボズゴロフ級もそうした一つを回収して修復したものだろう。

『よーし、オーライオーライ! そのまま3番のハンガーに入れてくれ、そうだ!』

 アストレイをハンガーに固定すると、下でホセが出迎えてくれた。

「ようこそ、『ワイナプチナ』へ! 歓迎するぜ、二人とも」

 ボズゴロフ級の艦名は火山の名が多い。この艦の名はペルーの活火山から取られたらしい。

「すまんな、厄介になる」

 言って、ニモの頭をくしゃ、と押さえながら一礼する。ホセはにっと笑ってそれを辞した。

「いいってことヨ。前も言ったとおり飯代ぶんは働いてもらうしな」

 実のところ、こうしてジャンク屋同士が寄り合い所帯を形成することはさして珍しくはない。
 ジャンク屋は多くが組合成立以前の時代と同じく個人事業者だが、その仕事は組合の主導によって近年大規模化が著しい。そうした場合、こうした艦艇を運用するグループに近隣の個人事業者が乗り合い、現地に輸送するのが一般的だ。気が合えばそのままグループに加入するケースも少なくない。

「もちろん、食い扶持ぐらいは自分で稼ぐさ。……他にも乗り込んでるんだったか?」

「あぁ、まぁ後で顔合わせといてくれ。それなりに長旅になる。……それと」

 ホセはあー、こほん、と一つ咳払いし、ばつが悪そうな顔で続けた。

「悪いがー、個室は割り当てられん」

 それはある程度予測されたことだった。軍艦、とりわけ潜水艦はとかく艦内スペースの確保にナーバスだ。
 個室は地球連合軍をはじめとした旧来の軍隊なら士官用に限られるが、ザフトは所属国家たるプラントの正規軍ではなく、義勇軍であるのが問題だった。
 兵・下士官・士官の別がなく、個室が優先されるのは機密を扱う責任者、管理者のみである。なので、相対的に個室の数は少なくなる傾向があった。
 まぁ、別にそれは構わない。そもそもニモとは今までもテントなどで一緒に雑魚寝していたのだ。いまさら気にすることもあるまい。
 何か、大事な感覚が麻痺しているような気がしないでもないが。

「船医もいないから、アレだ。……対策はしっかりな」

 何のだ。


[No.605] 2014/09/25(Thu) 23:53:39

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