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No.606へ返信

all Beautiful world 1 - アズミ - 2014/08/23(Sat) 01:00:13 [No.596]
Beautiful world 2 - アズミ - 2014/08/23(Sat) 16:28:27 [No.597]
Beautiful world 3 - アズミ - 2014/08/24(Sun) 00:29:55 [No.598]
Beautiful world 4 - アズミ - 2014/09/24(Wed) 17:09:03 [No.603]
Beautiful world 5 - アズミ - 2014/09/24(Wed) 22:18:01 [No.604]
Beautiful world 6 - アズミ - 2014/09/25(Thu) 23:53:39 [No.605]
Beautiful world 7 - アズミ - 2014/09/26(Fri) 17:56:44 [No.606]
Beautiful world 8 - アズミ - 2014/09/26(Fri) 17:57:45 [No.607]
Beautiful world 9 - アズミ - 2014/09/26(Fri) 18:00:03 [No.608]
設定資料1 - アズミ - 2014/09/26(Fri) 22:41:10 [No.609]
Beautiful world 10 - アズミ - 2014/09/27(Sat) 13:30:59 [No.610]
Beautiful world 11 - アズミ - 2014/09/27(Sat) 20:30:13 [No.611]
Beautiful world 12 - アズミ - 2014/09/29(Mon) 18:42:43 [No.612]
Beautiful world 13 - アズミ - 2014/10/03(Fri) 22:41:23 [No.613]


Beautiful world 7 (No.605 への返信) - アズミ

 人類はその歴史において、幾度も異なる基準において自らを分か断ち、相争ってきた。
 住む町。髪や瞳の色。肌の色。経済の形態。
 そして、その最新の要因が、遺伝子調整の有無だ。

 ナチュラルとコーディネイター。

 それが現在の人類を大きく二分し、その史上未曾有の大戦を生み出した元凶である。

 C.E.15年。今を遡ること半世紀以上前。
 万能の天才ジョージ・グレンが自らが遺伝子操作されて誕生したデザイン・ベイビーであることを告白し、己を生み出した遺伝子調整技術を全世界に公開したのが事の発端である。
 彼は自らに続く遺伝子調整者を来るべき新たな人類と現生人類の橋渡しとなるべき進化の調整者(コーディネイター)と期待した。もっとも、現在多くの人間は遺伝子を調整(コーディネイト)するからコーディネイターだと思っているし、実情として彼の理想を肯定するコーディネイターは非常に少ない。
 遺伝子調整によって子孫に与える恩恵と是非はそれこそ旧世紀から論議されてきたが、具体的な方法論を示すことでそれは一気に先鋭化した。
 社会は無用の混乱を起こしかねない遺伝子調整の利用に非を突きつけたが、なればこそ己の子孫を他者より優れた存在にするチャンスに一部の人間は飛びついた。
 遺伝子調整された人間……コーディネイターは社会の裏で増え続け、C.E.45年には実に一千万人を突破。
 気がつけば、一つの国を形成しうるほどの人口に膨れ上がっていた。

 生まれながらに己より優れていることを約束された隣人など、常人ならば容認できようはずもない。
 コーディネイターは社会から排斥され、プラント(砂時計型の新世代コロニー群)へ移住、亡命。事実上の棲み分けが行われることになった。

 だが、平和的不干渉で終わるには地球圏は狭きに過ぎた。
 この棲み分けはそのまま“相手を遠慮なく叩き潰せる構図”となり、幾つかの痛ましい惨劇を経てC.E.70年……先の大戦、『ヤキン・ドゥーエ戦役』へと繋がることになる。

 この人類史上未曾有の戦禍は数多の死者を生み出した後、C.E.72年3月10日、ユニウス条約の締結を以って停戦という形で一先ずの幕を下ろす。
 無論、それはナチュラルとコーディネイターの対立の最終解決を意味しない。
 停戦から数ヶ月が経つ現在でも、お互いの憎悪は厭戦ムードに隠れて燻り続けている。

 しかし、この物語の始まりである男と少女は、その二分された世界のどちらにも与しない。
 少女は、どちらでも無いがゆえに。
 そして男は、どちらでもあるがゆえに。



 地中海の旅が始まり2日間は、何事もなく経過した。
 その間にニモは3冊の本を読破。この世界の現状を大雑把には理解したらしい。
 そして、セイリも予想していた質問を口にした。

「セーリは、ナチュラル? コーディネイター?」

 セイリは街で仕入れた壊れた加速チップの修復作業を止め、居住まいを正してニモに向き合う。

「ニモ。余程のことがない限り、その質問は他人にはするな」

 ニモはくり、と首を傾げる。彼女は驚くべき速度で知識を増やしているが、社会常識に欠けるためこういう機微には疎く、想像することも難しい。
 ゆえに、セイリは一つ一つ、教え諭すように続けた。

「理由は二つ。一つは、危険だからだ」

 ニモに向けて掲げた2本の指の片方を曲げる。

「その質問は往々にして流血を招く。未だにナチュラルもコーディネイターも、相手がそうであるだけで殺傷も辞さない連中が世界には山といる」

 ブルーコスモスと呼ばれるイデオロギーがある。
 主体は自然保護団体を母体として宗教組織が合流することで誕生した思想団体であり、“青き清浄なる世界のために”をスローガンとしてコーディネイトとその結果生み出されたコーディネイターを生命倫理を冒す存在として否定している。
 単なる思想集団ではなく武装を伴う(あるいは連合軍自体が影響下にある)場合も多く、往々にして血生臭い手段に訴える、危険な集団である。ナチュラル側がコーディネイターを害する事案はその大多数がブルーコスモスの影響下にあるとする説もあるほどだ。
 が、コーディネイター側も負けてはいない。ナチュラルに対する悪感情は必ずしも先に排斥されたという被害者感情のみから来るものではなく、能力的に劣る“劣等人種への蔑視”も含まれる。
 ナチュラル殲滅すべし、と臆面もなく言ってのけるコーディネイターは実は少なくはないのだ。

「そしてジャンク屋は中立だ、ナチュラルもコーディネイターもいる。往々にして事情があって母国を離れてここにいる。彼らにしてみればそういうデリケートな問題だ、触れられていい気はしない。不用意にその質問はするな」

 続けて、残った指を曲げる。

「もう一つは、無意味だからだ」

「無意味?」

「ナチュラルもコーディネイターも、本質的には同じだからだ。安易なヒューマニズムじゃない、生物学的な話としてな」

 いくら遺伝子を調整しようが、コーディネイターも生物学的にはホモ・サピエンスである。
 砕いていえば遺伝子調整は人為的に天才を作る技術であるが、裏返せばそれはその能力の全てが人間の才能の範疇に収まるということだ。
 理由は単純、人間の範疇を外れたならば、当然人間としての生殖能力も完全に喪失するからである。それはもはや生物種たりえない。

「だから、コーディネイターとナチュラルを判別する手段は厳密には存在しない。コーディネイターが日常でナチュラルの振りをするのは至って簡単だし、コーディネイターの持ち得る能力はナチュラルもまた才覚として持ち得るからだ。理論上はな」

 実際には、ほとんどのコーディネイターは概して万事ナチュラルより優秀だしナチュラルにとって致死的な疾病を遺伝子調整で克服しているため、能力を隠そうとしなかった場合やそうした病の流行や疾病耐性に関する遺伝子調査でほとんど割り出す事は可能だ。が、それも精度として100%ではありえない。
 おまけにコーディネイターと一言でいっても、遺伝子調整の度合いは十人十色だ。容姿が美しいだけとか、運動能力だけ優れているとか、果ては単に一部疾病に耐性を持つだけで能力的にはナチュラル並というコーディネイターも幾らでもいるし、そもそも遺伝子調整技術も完全ではないため、誕生前に企図した遺伝形質がうまく現出しないケースも少なくない。

「それが証拠に……ニモ。お前はナチュラルかコーディネイターかわからない」

「私?」

 急に水を向けられて、ニモは目をぱちくりとさせる。

「お前はナチュラル離れした学習能力を持ってるが、しかしコーディネイターの多くが持っている身体的な頑健さはない。つまるところ、天才的な頭脳を持つナチュラルなのか、身体の耐性を弄っていないコーディネイターなのか判別がつかないってことだ」

 少なくとも、ニモを診た医者はそう言った。これもニモの謎の一つである。
 容易に国籍を取得できない理由でもある。地球側の国家は押し並べてコーディネイターをよく思っていないし、プラントは逆にナチュラルの国民がほぼ絶無だ。

「そうか……」

 ニモはそのこと自体に別段ショックを受けた様子もなかったが、セイリの話自体は理解したらしくこくりと頷く。
 その上で、セイリは一つ咳払いをし、部屋のドアや全体……監視カメラの類がないことを確認してから、続けた。

「で、俺がナチュラルかコーディネイターか、って話だがな。これも出来れば他所では話すなよ」

 その前置きをニモは訝ったようだった。
 セイリも我ながら回りくどいと思ったが、彼にとってその質問は下手をすれば世界中の誰よりデリケートな問題なのだ。

「いいか、俺は……」

 肝心の内容を話そうとしたその瞬間。
 艦がくぐもった轟音と共に大きく揺れた。

「……何?」

「雷撃……!? 直撃はしてないらしいが」

 艦に命中したならば、破壊音はもっと鋭く、大きい。のみならず、こうして暢気に警戒している暇もなく浸水に呑まれているだろう。
 程なくドアが開き、泡を食った様子でホセが顔を出す。

「悪い、トラブルだ! 手伝ってくれセイリ!」



 潜水艦の廊下は非常に狭い。艦後部にある船室区画から、MSを搭載している前部のドライチューブまで移動するのも一苦労だった。
 壁を掻いて移動しながら、ホセが現状を説明する。

「敵はこっちと同じボズゴロフ級、既にジン2、グーン1を展開し終わってる」

 ニモは器用に走りながら携帯端末を起動し検索を完了する。
 UMF−4Aグーン。イカの頭と人間の下半身を組み合わせたような奇異な体型が特徴的なザフトの水中用MSだ。
 ジンはザフトが開発した史上初の量産型MSだが、状況を鑑みれば水中哨戒型のジン・ワスプか。こちらは見慣れた人型で、センサーアレイを内蔵した大きなトサカとモノアイが目を引く。

「海賊か?」

「向こうさんはザフトを名乗ってるがね。ザフトの資産であるこのボズゴロフ級ワイナプチナを速やかに返却せよだとさ」

 艦名まで割れているということは、恐らく元は本当にザフトだろう。
 先に述べたとおり、ザフトは大半が地上から撤退しているため正規の部隊とは考えがたいが、一部の兵がナチュラル憎しの一念で本隊を離脱し反連合ゲリラに身を投じているという話を聞いたことがあった。そういう手合いか。

「やってることは海賊と50歩100歩だがヨ、問題は」

「全員が軍の訓練を受けたコーディネイターってことだな」

 以前リビアで戦った盗賊たちはナチュラル用に調整されたOSで無理矢理バクゥを運用しているだけの、素人同然の現地民だった。が、そういうお粗末な連中とは練度も土台の能力も違うということ。
 翻ってこちらはジャンク屋の集まり、戦闘に関しては大半が素人だ。装備の上でもこちらは自衛程度の戦闘能力こそあるものの、逆に言えば(整備は万全とはいえないだろうが)まがりなりにも軍組織の制式装備を使用している敵には確実に劣る。

「こっちで出られるのは?」

「ここまでが穏やかな航海だったからな。半分はバラしちまってて、使えるのは俺のジンとお前のアストレイだけだ」

 おまけに数まで劣っているときた。

「スケイルモーターをピカピカの新型に取っ替えたばっかだからな、船の足はこっちが上だ。追いかけっこを続けりゃ振り切れると思うが」

「MSはそうもいかんか」

 つまるところ、ジンを2機とグーン1機はどうあってもセイリとホセでどうにかしなければならないということ。
 どうにも分が悪い。
 ハンガーに辿り着き、各々のMSに搭乗する。
 が、セイリは一緒に乗り込もうとするニモを制止した。

「今回は留守番だ。あの急拵えのタンデムじゃガチンコの戦闘はキツい」

 強烈なGがかかった際に、膝の上にニモ一人分の重量が乗っているだけでも命取りになりかねない。
 今回は艦の中にいればとりあえずは安全だ、ハンガーで預かってもらったほうがいいだろう。

「ん」

 ニモもそれは理解したのか、特にごねることもせずに整備員についてアストレイから離れていく。
 それを見届けて、セイリはMSを起動した。
 格納庫内の景色を映し出すモニターを見回すと、隣のハンガーに固定していた作業用のジンが動き出す。これがホセの機体か。
 ホセのジンが腕を掲げた。接触通信を求める合図だ。アストレイの腕でそれを掴む。

『コイツは接触通信だ、他には聞こえねえ。コッチの手札を確認しておく』

 いつものどこか軽薄な感じのするそれとは違う、重い口調。慎重に言葉を選んでいる気配が感じられた。

『……俺ァコーディネイターだ、生まれてからコッチ、ジャンク屋生活で従軍経験はねえけどな。そっちは?』

 ニモに不用意に問うな、と言ったばかりだが、今この瞬間は必要な情報に違いなかった。お互いのMSの性能は諸元を見れば事足りるが、人間としての技能は実際に見るまではその経歴から推し量るしかない。
 自ら申告したのは、デリケートな話題に触れるがための彼なりの礼儀だろう。驚きはしなかった。顔立ちが端整だしそうかもな、程度には思っていたのもあるし……セイリがそれほど調整の有無に拘らない生まれと育ちだったせいもある。
 セイリは応答した。

「オーブの本土防衛軍に71年の1月までいた。俺は……」

 そこから先の躊躇いは一瞬だった。ホセは信用できる人間だ。
 むしろ、そのホセだけが聞いているこの瞬間ですら、口に出す一瞬の躊躇を要したことにセイリは自分で呆れた。

「……俺は半分だけ、だ。こっちが打って出る、ディフェンスは頼んだぞ」

『お前……』

 ホセは何か言いかけたが、すぐに頭を振る。

『いや、わかった。頼むぜ相棒』

 頷いて通信を切る。
 それぞれのMSを前進させ、艦上部甲板へ繋がるリニアカタパルトに乗り込ませた。


[No.606] 2014/09/26(Fri) 17:56:44

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