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No.607へ返信

all Beautiful world 1 - アズミ - 2014/08/23(Sat) 01:00:13 [No.596]
Beautiful world 2 - アズミ - 2014/08/23(Sat) 16:28:27 [No.597]
Beautiful world 3 - アズミ - 2014/08/24(Sun) 00:29:55 [No.598]
Beautiful world 4 - アズミ - 2014/09/24(Wed) 17:09:03 [No.603]
Beautiful world 5 - アズミ - 2014/09/24(Wed) 22:18:01 [No.604]
Beautiful world 6 - アズミ - 2014/09/25(Thu) 23:53:39 [No.605]
Beautiful world 7 - アズミ - 2014/09/26(Fri) 17:56:44 [No.606]
Beautiful world 8 - アズミ - 2014/09/26(Fri) 17:57:45 [No.607]
Beautiful world 9 - アズミ - 2014/09/26(Fri) 18:00:03 [No.608]
設定資料1 - アズミ - 2014/09/26(Fri) 22:41:10 [No.609]
Beautiful world 10 - アズミ - 2014/09/27(Sat) 13:30:59 [No.610]
Beautiful world 11 - アズミ - 2014/09/27(Sat) 20:30:13 [No.611]
Beautiful world 12 - アズミ - 2014/09/29(Mon) 18:42:43 [No.612]
Beautiful world 13 - アズミ - 2014/10/03(Fri) 22:41:23 [No.613]


Beautiful world 8 (No.606 への返信) - アズミ

 甲板に上がると、既に視界の端、ワイナプチナの後方300mほどにまでMSらしき航跡が迫っていた。
 不意に海面下が光る。

『なんか撃ってきたぞ!?』

 水中用MSの武装……スーパーキャビテーティング魚雷やフォノンメーザー砲は艦載のそれに比べて火力が小さいが、基本的に超音速ないし音速であるため艦船には回避できない。
 何せソナーで拾う音と同じかそれより早く命中するのだ。撃ってきた、と気づいた瞬間には既に命中しているのだから回避行動もへったくれもない。
 だが、音速はMSによる陸戦においては遅い部類だ。対処する時間も方法も十分にある。

「ソナー手、耳を塞げ!」

 セイリは通信機ごしにワイナプチナのブリッジに指示を飛ばし、アストレイの腰からグレネードを引き抜いて後方に投擲する。
 直後、先刻を遥かに上回る光と轟音が海面下で巻き起こり、MSから伸びる光と航跡が強引に遮ぎられた。

『ヒュウ♪』

 ホセが口笛を吹いて賞賛に代える。
 不意に巻き込まれた戦闘から逃げるために用意してあった、特製のスタングレネードだ。
 スタングレネードと言っても、MS一個小隊を一時的に無力化するほどの閃光と爆音を放つシロモノである。生身で食らえばショック死する可能性すら十分にある。
 水中であれば凄まじい振動を発生させる。魚雷やフォノンメーザーが通り抜けるには聊か分厚すぎる音の壁を形成するというわけだ。

「手筈通りにいく、抜けたのは任せるぞ!」

『あいよ、任された!』

 アストレイが跳躍し、飛翔。後方に展開するMSの機影に肉迫する。
 水中用MSが得意とする水面下に付き合う必要はない。アストレイは短時間とはいえ飛行能力があるのだから、空対潜攻撃に徹するのが常道だった。
 片腕に保持したのはキャットゥス500mm無反動砲だ。ビームは水中においては減衰が著しいため、しばしば陸戦MSが海上戦に巻き込まれた際、短魚雷代わりに使用することもある。
 キャットゥスを構えたこちら目掛けて、グーンがフォノンメーザー砲を発射する。が、これは難なく回避。空中にも撃てる、というだけで対空兵装と呼ぶのもおこがましい性能だ、脅威に値しない。
 向こうもそれは承知だったのだろう、ジンの一機が思わぬ行動に出た。
 海面からジャンプし、こちらに格闘戦を挑んできたのだ。

「なにっ!?」

 機体設計上はもちろんのこと、動作プログラムとしても想定外の運用だろう。そもそもジン・ワスプには格闘武器が装備されていない。
 恐らくこちらがアストレイであるのを確認した段階で急遽プログラムを組んだのだ。戦闘中に、しかもこの短時間で。こういうことをやってのけるのがコーディネイターの兵士である。少なくともセイリには出来ない芸当だった。
 対艦刀のロックを解除するが、既に間合いの内側である。抜刀する時間がない。
 ……だが同じ事は出来ないというだけで、実のところセイリもまた並のパイロットではなかった。

「ンの……」

 逆噴射し迫るワスプから離れる。当然、ここまでの勢いがあるため振り切るには届かない。一瞬、僅かに距離を稼げただけだ。ロックが外れた対艦刀だけが鞘からすっぽ抜けて、その場に取り残される。
 だが、次の瞬間。

「野郎っ!!」

 破壊され、海面に落下していたのはジンの方だった。
 アストレイの左手には逆手に構えた対艦刀。
 そう、すっぽ抜けたのではない。抜刀したのだ。刀を鞘から抜くのではなく、鞘を刀から切ることで間合いを創出してみせたのである。
 いわゆる居合いの術理だ。動作単位で見れば難しいことは何もしていない。既存の動作プログラムを凄まじい反射神経と判断力で組み合わせて“技”に昇華した。
 これもまた、相手に負けず劣らずの人間離れした所作であった。

「次っ!」

 さらにそのまま空中で宙返りし、キャットゥスを発射。横をすり抜けていったグーンの背に命中し、小破させる。
 撃墜には及ばないが、常に水圧に晒される水中用MSはフレームの破断に殊更ナーバスだ。戦闘の継続を諦めたか、前進をやめて浮上を始めている。

「ホセ!」

『ワイナプチナは安全圏だ! こっちは……クソッ、離れろ!』

 ホセのジンは接近するワスプを体当たりで止めたのか、海中で取っ組み合いになっている。
 当然、作業用と水中用では海中におけるアドヴァンテージが違いすぎる。ホセの旗色は悪い。ワイナプチナが安全圏まで逃れたのは幸いだが、一刻も早く救援に行かねばならないが――……。

「コイツを何とかしていかなきゃならんか……!」

 飛来した対空ミサイル群を辛うじて回避する。
 敵の母艦たるボズゴロフ級だ。MSと戦闘している間にこちらに追いついたらしい。
 アストレイの滞空時間もそろそろ限界だ。ボズゴロフの攻撃を回避しながらワスプを仕留め、ホセを連れてワイナプチナまで帰還するというのはあまりにも現実的ではない。

「仕方ない、やるか!」

 セイリはアストレイの高度を落とし、海面まで浮上したグーンに“着地”する。

『踏み台にした!?』

 接触回線でグーンのパイロットの悲鳴が聞こえたが、無視。グーンの機体を蹴って体勢を整え、再度上昇。
 ホセやワイナプチナのいる後方ではなく、よりにもよって追ってくるボズゴロフに向けて跳躍した。

『セイリ!?』

「ホセ、もう少し持ちこたえろ!」

 迎え撃つ対空ミサイルの弾幕は、従軍経験のあるセイリから見れば随分と控えめなものだった。
 ミサイルというのはあれで消耗品のくせに高価なのだ。、相手は正規軍を離脱したいわば脱走兵。十全な補給を受けられない以上出し惜しみをするのはさして不思議なことではない。

「だが、ケチったのが命取りだ!」

 余力を温存して致命的な現状を看過するのは明確な判断ミスだ。少なくとも軍人であれば叱責に値するレベルの。
 跳躍による限界高度までスラスターを温存、自由落下が始まると同時に最大噴射。ベクトルをボズゴロフに向けて集中し、弾丸の如く加速する。
 ミサイルによるホーミングには限界がある。前方を塞ぐ弾頭のみをイーゲルシュテルンで排除。そのままミサイルを発射するため海面下ギリギリまで浮上していたボズゴロフの甲板へ向けて――

「おぉ――……」

 ――対艦刀を突き立てた!

「りゃあっ!!」

 根元まで突き刺さったそれを、強引に薙ぎ払う。まるで熱したナイフでバターを切るように、容易く船殻が大きく破断した。9.1m“対艦”刀の面目躍如である。
 さらにダメ押しで破断面に向けてキャットゥスを2発見舞う。上部甲板に大穴が開いた。
 もはや航行能力は維持できない。慌てて浮上したボズゴロフのブリッジに次弾を装填したキャットゥスを突きつける。

「MSを退かせろ!」

 海賊紛いの行動を取る連中に、命を楯に取られてなお突っ張る胆力があろうはずもない。
 ボズゴロフのクルーは一も二も無く従った。




 ザフトを撃退したセイリにリーダーのペドロを始めとするワイナプチナのクルーは感謝を示し、機体の修理と補給の全額補償を願い出た。
 ありがたく厚意に従うことにし、ハンガーにアストレイを固定して格納庫に降り立つ。

「セーリ」

 ニモはずっと格納庫にいたらしく、とことことセイリに寄って来た。
 その頭をくしゃりと撫で、ニモと共にドライチューブの片隅に放置された資材の上に座る。
 その間、セイリは一言も発しなかった。
 さすがに戦闘の疲労があったのだ。一介のジャンク屋には過ぎた仕事をした。
 ニモもまた何も話さなかった。元より、こちらが話しかけなければ何時まででも黙っている。セイリの疲労を慮った可能性も、なくはないが。

「よぉっす、お疲れさん」

 ややあって、先に艦に辿り着いていたホセが以前と同じような声をかけた。
 持っていた缶ビールを投げて寄越す。

「俺の奢りだ」

「悪いな」

「お前がいなきゃ俺ァ海の藻屑だったんだぜ? 命の恩人にするにはお粗末すぎるぐらいさ」

 肩を竦めるホセに、苦笑する。
 彼の態度に、どことなく余所余所しさを感じた。恐らく、戦闘前の“質問”のせいだろう。
 コーディネイターかナチュラルか。不用意にはしてはならない問い。だが、セイリの回答はコーディネイターとナチュラル、そのどちらよりもなおデリケートなものだった。
 セイリの素性そのものに思うところはないだろう。ただ、それを聞いてしまったことにばつの悪さを感じている。ホセはそういう男らしかった。

「気にするなよ、ダチ公。俺が自分の口で話したんだ、そういうことさ」

 ダチ公、という言葉は、彼に対してかなりの効果を発揮したようだった。
 セイリ自身が、秘密にすべきことを語るに値する相手だと判断したのだと。そういう免罪符である。

「……おう」

 ようやくいつもの笑みを取り戻して、照れくさそうに頭を掻く。

「ま、ゆっくり休んでくれ、ダチ公。細々した事は俺等がやっとくからヨ」

 そう言ってその場を辞するホセを姿が見えなくなるまで見送り、セイリはビールを開けた。

「……ニモ」

「セーリがナチュラルかコーディネイターかって話」

 呼んだだけなのに、察しがいいのかそれともマイペースなのか。
 苦笑して、ビールを一口、喉に流し込んだ。

「あぁ、それの続きだ」

 格納庫はMSの整備で喧騒に満ちている。こんな片隅の会話に聞き耳を立てている人間はいないだろう。
 セイリはそれを確認してから、口を開いた。

「俺は、ハーフコーディネイターだ」


[No.607] 2014/09/26(Fri) 17:57:45

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