Beautiful world 1 - アズミ - 2014/08/23(Sat) 01:00:13 [No.596] |
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└ Beautiful world 6 - アズミ - 2014/09/25(Thu) 23:53:39 [No.605] |
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└ Beautiful world 11 - アズミ - 2014/09/27(Sat) 20:30:13 [No.611] |
└ Beautiful world 12 - アズミ - 2014/09/29(Mon) 18:42:43 [No.612] |
└ Beautiful world 13 - アズミ - 2014/10/03(Fri) 22:41:23 [No.613] |
ハーフコーディネイターとは、読んで字の如くナチュラルとコーディネイターの間に生まれた混血児である。 コーディネイターの優秀な形質は遺伝子を改竄したものなので、当然その子にも受け継がれる。片親がナチュラルであっても、概算で半分は遺伝することになる。 大雑把に半分くらいコーディネイターなのだ。ただそれだけの存在だ。 ナチュラルもコーディネイターもそうである以上、ハーフコーディネイターもやはり生物学的にはホモ・サピエンスに過ぎないし、コーディネイターですら超人ではないのでハーフはなおのこと超越的な存在ではない。 が、ナチュラルとコーディネイターの対立構造が多分に心理的・倫理的な要因に起因するように、ハーフコーディネイターの社会的な扱いもまた生物学的平凡さとは無縁に悪い。 ナチュラルからすれば半分でも調整された遺伝子を持つ時点でコーディネイターと同類項だし、コーディネイターからするとハーフの存在は自分達の優生学的な志向に真っ向から対立する……彼らのよく使う表現を借りるなら“ナチュラル帰り”だ。それは決して認められない禁忌であり、往々にしてナチュラル以上の侮蔑の対象となる。 結果的に、ハーフコーディネイターはナチュラル、コーディネイター双方から社会的、私生活的に孤立ないしし迫害される。 ナチュラルが劣等人種でコーディネイターが化け物なら、ハーフは劣等な上に化け物の、人でなしの亜人種なのだ。 聊か悪意に満ちた表現だが、世間の認識としてはたぶん間違ってはいないだろう。 「なんせアレだ、俺がガキの頃、近所のガキにそのまま言われたし」 今となってはすんなりと言えるが、まぁ当時は随分と落ち込んだものだった。 手酷く人間性が歪まなかったのは……親の教育が良かったからというのもあるだろうが……彼の育った環境が、この地球圏に存在するハーフとしては望外にマシな部類だったからに他ならない。 「俺の親父はオーブの下級氏族の出でな。代々軍人をやってる家系だった」 オーブ連合首長国は旧時代、南太平洋ソロモン諸島に入植した日系人たちが建国した島嶼国だ。 一応は民主制だが形骸化しており、世襲制の氏族によって国の機能の多くを運営する、アラブ諸国に近い体制を取っている。 「オーブってのは……まぁお前にとっては今更だろうが、ナチュラルとコーディネイターを表向き受け入れてる数少ない国でな。旧日本生まれで世間に隠れて生まれた第一世代コーディネイターのお袋はカンヤの家に呼ばれて親父と結婚したんだ」 それはオーブがコーディネイターを受け入れている事実と同じく、決して美談ではない。 代々一定の役割を担うオーブの氏族制とコーディネイト技術は非常に相性が良く、オーブの上級氏族の中には氏族の役割に合わせて最適に調整されたコーディネイターを後継者として生み出すという試みが為され始めていた。 下級氏族であるカンヤ家には後継者をコーディネイターにするだけの経済的余裕がなかったが、妥協点として戦闘向けの遺伝子調整がなされたコーディネイターを次世代の母体にする、という方法を思いついた。 そして、生まれたのがセイリ=ナバ=カンヤである。 恐らく世間一般からすれば同情に値する出生だろう。 だがセイリはニモに同情を期待したわけではないし、ニモもまた口にしたのは憐憫ではなく疑問だった。 「それで、セーリはなんで今、オーブにいない?」 「要らなくなったからさ」 セイリは短く、そう言った。 「俺が5歳のときに家にツテが出来てな、もっとガチガチに戦闘用の調整がされたコーディネイターの弟が生まれたんだ」 コーディネイターの調整は必ずしも結実するとは限らないが、彼の弟は幸か不幸か期待値を満たす程度の性能は発揮した。 「ハーフなんて世間体が悪いうえに性能が半分じゃ意味ないってことらしくてな。親父とお袋は反対したが、氏族の意向で俺は廃嫡された」 あんまりと言えばあんまりの経緯だ。いっそ出来の悪いコントのような。 両親は彼のために大層憤ったが、当のセイリは呆れしか感じなかった。 「そんな家にいてもしょうがないからな、一人で生きるのに十分な程度の金と技能を頂戴してからオーブを出た。まぁオーブを出たってハーフである以上、いける先、なれるものなんて限られてるからジャンク屋にでもならざるを得なかったと、まぁこういうわけだ」 思えば、いろんなものを押し付けられてきた生まれだった。 半分はナチュラル。半分はコーディネイター。そのどちらでもないはぐれ者。氏族の後継者。その出来損ない。両親の息子。家のお荷物。様々な、それでいて個々に矛盾する強制。そこに自分の意思は微塵も介在しない。 そして、今は押し付けられたものたちに否定されてここにいる。 いやあるいは、だから故国を出てジャンク屋になったのかもしれない。 押し付けられた全てのものを、自分の意思で投げ捨てる。 否定されたのではなく、こちらから否定したのだという体裁を守ることで生まれて始めて行使した、ちっぽけな自我の発露。 「……なんだよ?」 ニモはセイリを見つめていた。 相変わらず表情は動かない、が。……その視線に初めて感情のようなものを読み取って、思わず狼狽する。 「わかった!」 唐突に、叫ぶ。整備員の何人かが何事かと此方を振り返った。 ニモは慌てるセイリの両手を掴み、ぴょん、ぴょんと飛び跳ねる。 「セーリがわかった! 私の中の、セーリがわかった!」 ヘウレーカ! 風呂から飛び出したアルキメデスの如き興奮。セイリも初めて見る姿だった。 「私と一緒だ! 誰でもない! セーリもニモだ! ニモのセーリだ!」 その叫びはあまりに端的ではあったが、セイリにも理解は出来た。 Nemo。 ラテン語で、“誰でもない者”。 過去を持たない少女。 過去に否定された男。 なるほど。セイリはNemoだった。 ニモと同じ。誰でもない。 「私たちは、一緒だ!」 この少女の、同類。 「……そうか。そうだな」 ニモは自分の中のセイリを理解したという。 セイリもまた、自分の中のニモを少しだけ理解した。 この少女を見捨てなかった、哀れみ以外の何か。この奇妙な少女にどこか肩入れしてしまっている、自分の中の何かに。 「俺たちは、同類なんだ」 身体に残る戦闘の疲労の中、少し晴れやかになった気がする心持で、セイリは自分たちを見下ろす鉄の巨人を仰いだ。 [No.608] 2014/09/26(Fri) 18:00:03 |