Beautiful world 1 - アズミ - 2014/08/23(Sat) 01:00:13 [No.596] |
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└ Beautiful world 11 - アズミ - 2014/09/27(Sat) 20:30:13 [No.611] |
└ Beautiful world 12 - アズミ - 2014/09/29(Mon) 18:42:43 [No.612] |
└ Beautiful world 13 - アズミ - 2014/10/03(Fri) 22:41:23 [No.613] |
旧時代から交通の要衝であったスエズ運河は、現在も地球連合の重要拠点である。 ここの通過はワイナプチナにとって不可避の道程であると共に、最大の懸案でもあった。 ジャンク屋は建前上、地球圏ならばどこでも天下御免で活動出来ることになっているが、実際のところ、軍にとっては現場の裁量次第でどうとでも出来る存在だ。連合軍は先の戦争からピリピリし通しであり、ジャンク屋であろうがコーディネイターならば難癖をつけて嫌がらせや足止め、酷ければ逮捕・拘束されることすらざらにある。 ペドロらのジャンク屋グループは元ザフトのボズゴロフ級を使用しているし、メンバーにコーディネイターを含む。難癖をつける隙は大いにあるわけで、すんなりとは通れない可能性が高いと踏んでいたのだが。 「予想外にすんなり通れたな」 ワイナプチナの甲板の上。 もはや遥か後方に過ぎ去ったスエズ基地を眺めて、セイリは呟く。 「ザフトとやりあったのが好印象だったらしいぜ。連中、随分このへんを荒らしまわってたらしい」 ホセが言って、手に持ったハンバーガーをひと齧り。 実際、スエズの通過は地中海でのザフトとの戦闘データを提出後、驚くほどスムーズに進んだ。 連合兵の態度は終始高圧的だったし戦闘での損耗を補償などはしてくれなかったが、それだけでも望外の厚待遇と言えただろう。 「まったく、連中の仕事を代わりに片付けてやったんだから謝礼に金一封ぐらいは寄越してもいいだろうにヨ」 ジャンク屋にしてみれば、盗賊行為の標的になることはそれだけで大損害だ。 無事、逃げおおせて上等、撃退できれば万々歳だが、戦闘を経ればそれだけでMSは傷つくし、弾薬や燃料は消費する。それはそのまま赤字に繋がるのだ。 「どうせならジンかグーンの一体ぐらい確保しとけばよかったかな」 結局、MSを退かせ、ホセがワイナプチナに辿り着いた時点でセイリは一目散に逃げ帰っている。 ボズゴロフの航行能力こそ奪ったが火器は未だ健在だったし、ジン一体は無傷。グーンも水上戦闘なら問題なくこなせる状態だった。なおも戦闘を続ければこちら側が圧倒的に不利だったはずだ。 あれだけの大立ち回りをしてなお、かなりの危ない橋を渡ったのである。ジャンク屋が軍人を敵に回すというのはそういうことだった。 「勘弁してくれ、命が幾つあっても足らん」 「ハ、違いねぇ」 手をはたはたと振るセイリに、ホセはくつくつと笑う。 ニモはそんな二人の傍で、甲板にペドロからもらった地図を広げて眺めていた。 「次に寄る街は?」 「サファガだ。こっからもう少し南にいったところだな」 言って、セイリは地図のエジプト紅海沿岸を指差す。 「今、バザールやってんだ。インド洋の船旅はさらに長くなるからな、補給しとかねえと」 ホセは平らげたハンバーガーの包み紙をくしゃくしゃと潰し、ポケットに仕舞った。海に放り捨てると兄にこっぴどく叱られるのだという。 「バザール?」 「組合とその街が共催するジャンク市だよ。家電からMSまで何でも並ぶ」 ジャンク屋の主な収入源は戦場跡で回収した兵器を修理し軍に有償で引き渡す再生業だが、先のユニウス条約においてリンデマン・プランの採択が決まったことで急激に状況が変わりつつある。 リンデマン・プランとはスカンジナビア王国外相リンデマンが提案した軍縮策で、連合、プラント両国の兵器保有数を各国の規模(人口、GDP、失業率などからパラメーターを算出する)に合わせて制限する、というものだ。 結果、大量の兵器を破棄解体することになるため、それを委託される組合にとっては相当なバブルが期待できるが、兵器の絶対数が減るのだから従来の再生業においてはその後の市場縮小は不可避となる。 そのため組合が乗り出したのが、民生品の開発・販売だ。 今もって地球圏の民間は戦禍によって疲弊しており、機械製品の需要は非常に多い。資材はリンデマン・プランで出た大量の廃棄兵器を解体すれば格安で得られるため、リスクも少ないと言える。 バザールはそうした今後の事業のための販路獲得の意味合いがあり、最近は地球圏のあちこちで開催されていた。 「街で生活必需品の買い足しなんかもあっからな、ワイナプチナは3日は滞在する予定だ。お前さんら、どうする?」 ホセの問いにセイリはフム、と腕を組む。 「そろそろいいかげん、M1を本格的に弄ろうと思う」 M1、とは彼の乗るMS、アストレイのことだ。M1アストレイと続けて呼ぶ場合もある。 正式なペットネームはアストレイなので他所の国では単に「アストレイ」と呼ばれることが多いが、アストレイには技術実証機に近い試作ナンバーが存在し、そちらもアストレイと呼ばれるためオーブ出身の軍人や技術者には区別のため量産型1号機を意味するModel 1……M1の異称で呼ばれる。 「んじゃあ、合流は3日後にサファガ港で。乗り遅れんなヨ、置いてっちまうからな」 茶化すホセに、セイリは肩を竦めて応じた。 ◆ サファガに滞在する3日間、セイリはアストレイをバザールのすぐ傍に設置された仮設ハンガーに移動することにした。 その方がバザールで購入したパーツで改造するのに便利だし、ワイナプチナも大規模な補給品の搬入がある以上、置いておくと邪魔になるだろうとの配慮からだ。 「レンチ取ってくれ、8番な」 「ん」 コックピットのシート下に頭を突っ込んだまま手を差し出すセイリに、ニモは本に視線を落としたままレンチを手渡す。 仮設ハンガーにアストレイを停めるや否や、セイリはコックピットを解体し始めたのだ。 「どこを弄る?」 「いいかげん、急拵えのタンデムはなんとかしないとマズいだろ。ここらで本格的にサブシート作っとこうと思ってな」 MSは外宇宙探査船に搭載されていた外骨格補助動力装備の宇宙服……いわゆるパワードスーツの一種をルーツに持つ兵器であるため、(一部の哨戒専用機など例外はあるが)基本的に単座式である。 そのため複座式への改造は非常に難しく、完全なものとなるとメインフレームにまで手を加えなくてはならない。土台、スペースが狭すぎるのだ。 たった3日でそこまで弄るわけにはいかないので、とりあえずしっかりしたサブシートの追加だけでも行おうというのがセイリの考えである。 「折り畳み式のアームと……Sサイズのシートを買ってきて据え付けるか。チャイルドシートみたいでちょいと不恰好だが、今までよりマシだろ」 きちんとしたシートを追加するだけで位置関係的には今までと大差ない。膝の上に座るような形だ。 結局のところ、コックピットブロックの限られた空間で操縦に影響なく人間一人を詰め込もうと思えば、どうやってもシートとハッチまでの間しかないのである。 「よっし、バザールに行くぞ。部品を買い集めてこなきゃな」 「本、買ってもいい?」 トリポリで買った10冊はもう読破したらしい。 電子書籍ならともかく、ハードコピーとなるとバザールで手に入るかは怪しいのだが。 「まぁ、街まで足を伸ばせばいいか……お前さ、そろそろ別のも読めよな」 「別の?」 「絵本とか小説とか、そういう情操教育に良さそうなヤツだよ」 もっとも、今更そんなものを読んだところでこの少女が歳相応に感情豊かになるかと言えば、甚だ怪しいものだが。 「……わかった」 ニモはそんなセイリの心中を知ってか知らずか、こくりと頷いて応じた。 [No.610] 2014/09/27(Sat) 13:30:59 |