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No.612へ返信

all Beautiful world 1 - アズミ - 2014/08/23(Sat) 01:00:13 [No.596]
Beautiful world 2 - アズミ - 2014/08/23(Sat) 16:28:27 [No.597]
Beautiful world 3 - アズミ - 2014/08/24(Sun) 00:29:55 [No.598]
Beautiful world 4 - アズミ - 2014/09/24(Wed) 17:09:03 [No.603]
Beautiful world 5 - アズミ - 2014/09/24(Wed) 22:18:01 [No.604]
Beautiful world 6 - アズミ - 2014/09/25(Thu) 23:53:39 [No.605]
Beautiful world 7 - アズミ - 2014/09/26(Fri) 17:56:44 [No.606]
Beautiful world 8 - アズミ - 2014/09/26(Fri) 17:57:45 [No.607]
Beautiful world 9 - アズミ - 2014/09/26(Fri) 18:00:03 [No.608]
設定資料1 - アズミ - 2014/09/26(Fri) 22:41:10 [No.609]
Beautiful world 10 - アズミ - 2014/09/27(Sat) 13:30:59 [No.610]
Beautiful world 11 - アズミ - 2014/09/27(Sat) 20:30:13 [No.611]
Beautiful world 12 - アズミ - 2014/09/29(Mon) 18:42:43 [No.612]
Beautiful world 13 - アズミ - 2014/10/03(Fri) 22:41:23 [No.613]


Beautiful world 12 (No.611 への返信) - アズミ

 その場でステップを踏みながら、ジンがシャドーボクシングをしてみせる。
 如何にもホセらしい所作だ。MSは人型だけに、動作にパイロットのクセや性格がよく出る。
 一方のストライクダガーは、不動。僅かにすり足で両足を広げただけで、ジンを待ち構えるようにその場で待機している。

「どっちが勝つ?」

 ニモの率直な問いに、セイリは「フム」と顎を撫でた。

「普通に考えれば、ホセだ」

 それは取りも直さず、彼がコーディネイターだからだ。
 ナチュラル用OSが普及した今、MS戦の趨勢ではナチュラルとコーディネイターにそれほど顕著な差は無い。
 が、単純な殴り合いとなると話は聊か変わってくる。

 祖先であるパワードスーツと異なり、モビルスーツは車両のように機械的操縦によってコントロールするのだが、直接的なフィードバックシステムが絶無になったわけではない。
 MSは基本的にシナプス融合による神経接続で操縦を補助しており、コーディネイターの優れた身体能力がダイレクトにコントロールを支えている。この部分がザフトがパイロットの質の上下にさほど影響されず押し並べて連合を押し続けた原因であり、ナチュラルが長らくMSを扱えなかった最大の要因である。
 ナチュラル用OSはイオンポンプの神経接続速度をナチュラルの能力に見合うよう落としてやることで一先ず操作を可能としているわけだが、こと「動作の精度と反射速度」においてはそれでもコーディネイター用のそれに劣る。連合のMSがザフト側に比べて防御に工夫を凝らす傾向があるのはこれによって回避に抱える宿命的なハンディを軽減するためだ。

 なので、(実戦ではさほど想定できない状況だが)武装もなければ戦術もない純然たる殴り合いをするならばコーディネイターのほうが基本的に有利といえる。

「だが、あの女は普通じゃないな」

 ナチュラルであっても、当然“天才”と呼ばれる人々はいる。
 コーディネイターはその才覚を人為的に再現しているのだが、如何せんその遺伝子調整は完璧ではなく、それなりの率で劣化があるため本当の、人類の限界ギリギリの領域にある真の天才には叶わない。
 MSの操縦に関してもそうだ。
 ごく限られた数だが、ナチュラルにも戦争初期からMSをコーディネイター並に扱って見せた例が確かに存在する。
 あの少女がそうした手合いならば、あるいは……

『おっと、ここでホセが動いたァーッ!』

 実況のシャウトに見上げると、焦れたのかホセのジンが構えたまま突進を敢行していた。
 拳を繰り出す。肘関節のみを用いたジャブ。チャンプのダガーは僅かに身体を傾がせてかわした。
 2発目、3発目、それ以降も同じく回避。埒が明かぬとジンが一歩踏み出す。そのまま抉るような左フック。
 ここで初めてダガーが防御を使った。左腕で外側に払うようガード。

『ホセ、息もつかせぬラッシュ、ラッシュ、ラッシュー! だが女豹の鉄壁の護りは打ち崩せない!』

 だが、恐らくホセはそれを狙っていた。空いた右で渾身のストレートを繰り出す。

「巧い」

 フックを払われた勢いを円運動に変換しストレートにそのまま乗せている。ホセもジャンク屋としてMSを扱って長いのだろう、その経験を伺わせる技巧だった。
 だが悲しいかな、格闘戦の駆け引きの経験は乏しかった。恐らくチャンプの方もこれを狙っていたのだ。

『な、なんとォー!?』

 撃音を立てて、ダガーの踏み込みが港湾部の地面を踏み抜く。
 と、同時にジンが後方に吹っ飛んでいた。

『攻めていたハズのホセのジンが吹っ飛んだァー! 一体何が起こったのか!? まさに目にも留まらぬ閃光の如きカウンター!』

 何をしたのか――恐らく、ホセですら何をされたのか理解できなかったに違いない。ただ腰を落としショルダータックルの姿勢を取っているダガーの姿から、ストレートを潜って当身を食らわせたのだろうとセイリは推測した。
 ホセもさるもの、ウィングバインダーの噴射で衝撃を相殺したらしく、速やかに立ち上がり構えを取る。
 追撃を入れる隙は十分にあったが、ダガーは動かなかった。代わりに、腕を掲げ指をくいと上げて挑発する。
 手早く終わらせては見世物にならないということか。
 それを見たホセは、起き上がった機体を寝そべらんばかりに沈み込ませた。ウィングバインダーが合わせて起き上がり、展開している。これは――

「タックルか」

 打撃では分が悪いと見たのだろう。間合いを詰めてグラップルに移る腹積もりだ。
 轟音と閃光を残してジンが走る。

『ホセ、決死のタックルを敢行! チャンプに一矢報いるか!』

 ジンの全力の突撃は、その質量と推力だけで十二分に暴威である。
 来るとわかっていてもそう容易く対処できるものではない。 
 だが、ここまでで解るとおり、あのチャンプは“容易い相手”ではなかった。

『と、跳んだ!?』

 司会もつくり抜きで驚愕したらしい。観衆からも大きくどよめきが上がった。
 ダガーが、跳んだ。軽くジャンプして姿勢の低くなったジンを踏みつけ、そのままトンボを切って後方に着地する。
 セイリが目を見張ったのは、その間スラスターが全く光らなかったことだ。元よりストライクダガーはジンに比べスラスターが小型なのだが、これを全く使用していない。重心移動と体捌きだけでMSを宙返りさせたのだ。

「神業だぞ、オイ」

 さすがに度肝を抜かれた。
 観衆へのウケは十分、そろそろケリをつけにかかるだろう。
 2機のMSが同時に――……いや、ダガーが一瞬だけ早く振り返った。
 構えは最初と同じ、左腕を掲げ右拳を腰だめに引いた型。さながら弓を引き絞る姿に見えた。

 強烈な破壊音。一瞬遅れて、ジンの遥か後方の洋上に上がる水柱。

 インパクトの瞬間、認識できたのはそれだけだった。
 とはいえ、何をしたのかは明快だ。引き絞った右拳から放たれた、電光石火のジョルト・ブローがジンの頭部を打ち抜いた。
 後方で上がった水柱が、ちぎれた頭部が落ちたものだとすると……ゆうに50m以上は吹っ飛ばしたことになる。

『決着ゥゥゥ〜〜〜〜ッ!!!』

 ゴングが打ち鳴らされる。
 頭部を失ってもMSは戦闘を続行できなくはないが、さすがに見栄えが悪いということなのだろう。
 その場に崩れ落ちたジンを尻目に、ダガーが拳を突き上げて勝利を宣言する。
 観衆は盛大なブーイングでこれに応えた。



「っだぁ〜〜〜っ! 負けた、完っ璧に負けた!」

 ゲートの中に拵えられたハンガーに戻ったジンから、地面に転がるように降りたホセが喚く。
 吹っ飛んだり殴られたり、コックピットも随分と揺られたはずだがどうやら然したる怪我も疲労もないらしい。さすがにその辺りはコーディネイターなだけはあるということか。

「武器無しならイイ線いくと思ったんだけどなァ」

「ありゃしょうがない、向こうさんは本物の天才だ」

 ホセが放り出したソンブレロを拾い上げて、労いに来たセイリが言う。

「んあ? なんだ、見てたのか」

「ニモがどうしても見たいって言うんでな」

 ついてきていたニモはとことことホセの傍まで来ると、「ん」と途中で買ったドリンクを差し出す。
 彼女なりの労いのつもりだろうか。

「そうか……悪いな、ニモ。せっかく見に来てくれたのにカッコイイとこ見せられねえでヨ」

「気にするな、ホセにしては頑張った」

 よくよく考えると全然慰めになってない慰めなのだが、ホセはそれでも感動したらしく男泣きに泣いた。
 まぁニモの慰めはともかく、実際ホセは健闘したと言える。
 地中海での戦闘の様子を見るに、MS戦そのものに慣れていない様子だった。生まれてこの方ずっとジャンク屋稼業という言からすれば不思議ではない。一方で、ホセの戦い方にはMSの構造を熟知したジャンク屋ならではの工夫があった。武器無しならイイ線いくと思った、というのはそういうことだろう。
 だが、相手が悪すぎた。あれは天才だ。
 コーディネイターが与えられた最大99.999……%の才覚を凌駕する、完成された1。本物の天才。
 ナチュラルには稀にああいう尖った怪物が現れる。

「しかし、なんでまたストリートファイトなんかやってたんだ?」

 セイリが問うと、ホセは気を取り直して答えた。

「オウ、主催者が俺の昔馴染みでヨ。予定してた相手がビビッて降りちまったってんで、ピンチヒッターってわけだ」

 ホセの説明するところでは、あの司会が主催者であり、彼の馴染みのジャンク屋仲間らしい。
 この手の興行には賭け事がつきだが、賭博の運営は組合や街に睨まれる可能性が高い。そこで選手ののMSに使用した改造パーツを試合後に販売することで収益を得ているとのこと。
 まぁ、パーツよりあのチャンプのブロマイドのが売り上げがいいらしいのはご愛嬌だ。

「で、あの復讐のマリアッチとか家族と同僚を喪った悲劇のメキシカンとかいうのは?」

 ホセはう、と呻き、ややあって拝むように手を合わせた。

「兄貴には内密にしてくれ、頼む! 台本とはいえ勝手に殺したなんて知られたら兄貴にシメられっちまう」

「まぁ、そりゃ構わんけどな……」

 セイリは心底呆れて嘆息する。
 ゲートの外の喧騒はだいぶ小さくなっていた。集まった観衆も三々五々、他の区域に散っていったらしい。
 入れ替わりに、あの司会……いや、主催者か……がやってくる。

「よーよーホセ、お疲れちゃん」

 主催者の名はヨセフ、と言うらしい。ホセがこちらを紹介すると、陽気に片手を挙げて挨拶した。

「ナイストゥーミーチュー、お友達。ヨセフだ。こんなナリだが、本業はアンタらと同じジャンク屋。ま、今後ともヨロシクな」

 じゃらじゃらとつけた飾りと仮装染みた服装に染めた髪、日焼けした肌のおかげでぱっと見た限りでは国籍不詳に見えるように工夫されていたが、僅かに混ざるアメリカ訛りと従軍経験者特有の背筋を伸ばした歩き方をセイリは見逃さなかった。
 恐らくは軍人、それも大西洋連邦の出身だろう。試合のギミックから本職のブックメーカーがついているのかと思っていたが、あるいはこの男、諜報員崩れかもしれない。民衆の意識操作は彼らの得意分野だからだ。

「いい仕事だったぜ、ホセ。チャンプも引き立てられたし、意外と女受け良かったぞ。こんなことならもうちょい二枚目系の演出にしとくんだったかなァ」

 ホセはこれで顔立ちは十二分に二枚目だ。飾り気が無い(恐らく本人の洒落っ気よりジャンク屋の業務との兼ね合いが問題だ)のと、言動で損をしている部分が大きいのだろう。
 演出次第では確かに人気を取れそうだとは思えた。

「うん、いいかもしれん。亡き恋人に100の連合兵の首を捧げると誓ったホセ=デ=ラ=カルデロン=ウルタードの復讐の旅路! なんかこう、楽器とか十字架っぽいパーツをウィングの代わりにつけてだな――」

『あら、そんじゃアタシはもうお役御免ってワケ?』

 ゲートを潜って、チャンプのストライクダガーが入ってくる。
 ジンの隣に立膝をつかせると、軽業師さながらの動きでコックピットから飛び降りてきた。
 履いているのはミニスカート、おまけにこちらはほぼ真下にいたのに絶妙に中身は見えない。やはりああいうパフォーマンスをやっている以上、何かコツでもあるのだろうか。

「散々稼がせてやったのに、薄情なスポンサー様ですコト」

「そりゃ感謝はしてるけどよぅ、ディナ。お前はちっと強すぎるぜ」

 ぼやくようにヨセフは言う。
 ザフト贔屓のアフリカの観衆たちは小生意気な女連合兵が無残に敗北する様を期待して幾度も興行に足を運ぶ……という仕組みも、そろそろ鮮度が切れつつあるらしい。
 ディナはここまで磐石に勝ちすぎたのだ。観客も彼女の敗北に諦めを感じ始めている。ファイト自体を筋書き通りに動かせれば度々ピンチを演出してもう少し延命できるだろうが、MSの格闘戦でそんな小器用なことが出来るパイロットなどそうはいない。
 
「じきに此処のバザールも終わるし、お前も本業がある。花道を飾る引退試合を考えにゃならん頃合だろ?」

「本業?」

「傭兵よ。幾らなんでも、こんなお祭り騒ぎだけで食ってけはしないしね」

 傭兵はその字義通り金銭で雇われ、直接利害関係のない戦闘に参加する非正規兵である。
 もっとも、正規軍同士の大規模な戦闘で基幹戦力を務める時代は近世に終わりを告げたままだ。現在は人類の生活圏の拡大と先の戦争がもたらした混乱による秩序の低下に伴い、盗賊やテロリストなど非正規軍から民間を保護する警察活動の類が主流である。
 大勢からなるPMCや数名からなる傭兵チームなど、多くは集団を形成しているがMSという一人で運用できる戦力(メンテナンスや補給などのバックアップはジャンク屋に外注すればいいのだ)が普及した今、個人で活動している者も決して珍しくはない。

「悪いが俺ァこんなおっかないの、二度とゴメンだぞ」

 ホセが震える身振りをして言う。

「『クビキリ・ジョルト』をまともに食らったときなんざチビるかと思ったぜ、前の奴がビビって降りるわけだ」

 最後のジンの首を吹っ飛ばしたジョルトのことだろう。どうやらあれがディナ得意のフィニッシュ・ブローらしい。
 コックピットは胸なのでパイロットに危険はないのだが、メインカメラに向けて真っ直ぐに迫る神速の拳は、モニター越しに見ればさぞ迫力満点だろう。想像しただけで股間が縮み上がる程度には。
 と、そこで黙っていたニモがセイリの服の裾をくいくいと引っ張った。

「セーリ、GO」

 GOってなんだ。

「オ、いいね。仇取ってくれよダチ公」

「あら、お兄さんやれるクチ?」

「腕に覚えがあるなら是非お願いしたいね、もう一試合ぶん対戦相手を見繕わなきゃならねえんだ」

 ホセまで乗っかってくる。当然、ヨセフたちまで興味を示した。
 セイリは両手を挙げて勘弁してくれ、の構えを見せる。

「戦いを見世物にしたなんてお堅い実家に知られたら刺客が差し向けられかねん」

 さすがに刺客は冗談だが、当分オーブの敷居は跨げなくなりそうではある。
 カンヤ家は下級氏族とはいえ、建国以来故国を護り続けた尚武の家なのだ。少なくとも当人たちの気位は非常に高い。

「障りがあるならマスクでも被りゃいいさ。どうだ兄ちゃん、報酬は弾むぜ」

「金払いは本当にいいぞ。俺、このジン修理してそのまま貰えるしヨ」

「MSを? そりゃあ、確かに豪儀な話だな」

 モノが溢れているため兵器としては安い部類だが、MS一機の値段は決して安くはない。とっくに型落ちしたジンやザウート、しかもジャンクからの再生品ですら大都市の一等地に一軒家が建てられる程度の値はする。
 それを修理した上でまるまる一機譲渡とは、確かに好条件だった。戦闘とはいえ、火器を使わないぶん通常の模擬戦より危険は少ないのだ。破格の報酬といってもいい。
 あいにくと、今のセイリはリビアの時の報酬がまるまる残っているため金には困っていないが……。

「……いや、そうだ。ヨセフ。報酬はMS以外でもいいのか?」

「あぁ、現金が良けりゃ100万ワードは出すぜ。MAや重機なら2体、艦となるとだいぶモノが悪くなるが」

 まぁ概ね、金額的にはMS1機に吊り合うところだろう。
 だが、セイリが欲しかったのはそのいずれでもなかった。

「俺が欲しいのはツテだ。情報屋を紹介して欲しい」


[No.612] 2014/09/29(Mon) 18:42:43

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