![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
結局、ディナとのファイトは2日後の午前に組まれ、セイリは急ピッチでアストレイを格闘戦に対応させることになった。 といっても、機体そのものを弄るには時間も予算も足りなすぎる。夜半までコックピットに篭って続けているのは、格闘用にOSを調整する作業だ。 もともとセイリのアストレイは製造元のモルゲンレーテからデータ取得用に、OSの完成前に譲渡された機体であるためOSの完成度は非常に低い。未経験の状況に適合させるには一からプログラムを組み上げなければならない面倒さがあった。 言いだしっぺゆえか、ニモも進んで手伝ってくれている。既に彼女のMS工学関係の知識はジャンク屋として一端のレベルに達していた。……たまに「あちょー」とか言いながら武道の構えっぽく見えなくもないタコ踊りをしているが、本人的には必要な作業なのだろう。たぶん。 「楽しいか? ニモ」 問われて、ニモは「ん?」とこちらを向く。 「正直、意外なんでな。お前がこういうのに興味を持ったのは」 格闘技の鑑賞というのは(これをニモに問うのは不毛かもしれないが)あまり女の子らしい趣味ではないし、昨日まで余暇を全て学術書の読破に費やしていた娘である。学習以外に初めて興味を持った対象としては正直なところ意外という他ない。 ニモはこくりと頷いた。 「楽しい」 とん、と一つステップを踏んで五体を振り回すような動きでその場で跳躍してみせる。 動かし方は滅茶苦茶だが、運動神経も悪くはないらしい。 「どういうところが?」 くるりと一回転して、意味はまるでないがとりあえず格好だけはそれらしい構えを取る。 「人間がわかる」 「人間がねぇ」 古来、武術は学問に繋がるという考え方も多々あった。実際、人間工学に始まり医学や力学、栄養学など本職の格闘家は驚くほど多くの知識を要求される。MSの格闘であればそれをMSに落とし込む機械工学もか。 とすれば、ニモが興味を持ったのはそれほど突飛なことではないのかもしれない。 「明後日、勝てそう?」 「総じて見れば勝ち目は薄いな」 開脚倒立しながら問うニモに、セイリは正直に答えた。 「身体的条件で言えば俺はホセと50歩100歩だ。MS戦の経験でもまずチャンプには敵わないだろうな。機体は――……」 アストレイの装甲を拳でとノックする。発泡金属装甲が独特な反響を返した。 明後日の興行でも修理は向こう持ちでこのアストレイを使用することになっている。ヨセフ側でファイト用の機体を用意する申し出もあったのだが、これは固辞した。格闘という微妙なテクニックを要求される戦闘では駆動系の微妙なクセだけでも大きな影響を受ける。乗りなれた機体のほうがいい。 「……まぁどっこいどっこいよりマシってところか」 生まれたばかりの兵器であるMSには、まだ技術的な世代分けはない。が、敢えて称するならばアストレイやダガーは2世代目、ということになる。ジンよりは確実に高性能な、携行ビーム兵器を標準的に装備・起動出来るヤキン・ドゥーエ戦役後半の機体だ。 ダガーは戦況の問題で本来の仕様をかなり省略した簡易量産機だが、アストレイは試作機の仕様をほぼそのまま受け継いでいる。ポテンシャルだけを問えばほんの僅かに上と言えるだろう。 「勝つには“工夫”が必要になる」 「工夫?」 「自分の弱さを自覚してるなら、奥の手の一つぐらい持っておくもんさ」 実際、それなりに策は用意してある。 敢えてぼかした言い方をしたのは、誰かがハンガーの外で聞いているのを察していたからだ。 「へぇ、そりゃ楽しみだわ」 端から盗み聞きをする気はなかったのか、その人物が中に入ってくる。 「チャンプ」 「ディナでいいって。ええっと――」 そういえば、昼間は自己紹介もしていなかったか。 「セイリ=ナバ=カンヤだ。セイリでいい。そっちはニモ」 「ディナ=カンタールよ。まぁ、知ってるだろうケド」 ディナは昼間の格好の上に、地球連合軍のロゴの入ったピンクのジャケットを羽織っていた。士官候補生用の制服だ。レプリカではなく本物に見える。地球連合軍出身というのはギミックではなく本当なのだろう。 「……怖い顔、しないんだ?」 ディナは意外そうに言った。 セイリは意図を掴みかね、怪訝な顔をする。 「オーブの人っぽいからさ」 あぁ、とその言葉でようやく得心した。 先の戦争で、セイリの故国であるオーブ連合首長国は地球連合の侵攻により一時占領の憂き目にあっている。オノゴロ島での戦闘では国の首脳たる五大氏族首長をはじめとして、多くの死者が出た。 恐らく、一般的なオーブ国民は連合に恨み骨髄なのだろう。……あるいは、彼女はその侵攻に参加していたのかもしれない。 だが、セイリは肩を竦めた。 「こんな稼業してるんだ、わかるだろ? 捨てた故郷なのさ。怒ったり恨んだりは筋違いだ」 当の連合侵攻時、セイリは何もしなかった。 既にジャンク屋組合に籍を置いていた以上、たとえ故郷とはいえ特定の国家に加担するわけにはいかなかったがゆえだが、それにしたところで今以って復興にさえ力を貸していないのだ。どの面で恨み言など口に出来よう。 何もセイリに限ったことではない。大方のジャンク屋は故郷を飛び出すなり、そもそも根無し草として生を受けたクチだ。その恩讐に拘らないのは一種の不文律でもあった。 ディナは頭を掻いてから、軽く頭を下げる。 「ン……ゴメン」 謝ったのはオーブ侵攻についてではなく、それに触れたことに対してだろう。 同時に、これ以上過去の話はしないという意思表示でもあった。 途切れた話題を継ぐように、ニモがディナに問う。 「それで、何の用だ? 敵情視察か?」 倒立からひらりと身を翻して着地し、ディナに向けて怪鳥のポーズを取る。 ……威嚇してるつもりだろうか、まさか。 ディナはそれに毒気を抜かれたのか、ぷ、と噴き出した。 「ま、そんなとこ。やる気がなかったらハッパかけてやろうかと思ってさ」 実際のところ、セイリにしてみれば勝つ必要は必ずしもない。 ヨセフが約束した報酬……L4宙域に詳しい情報屋の紹介は、ファイトに参加する時点で支払いが約束されている。勝った場合、興行が盛り上がった場合にはさらに追加で報酬を払うと言っていたが、まぁ内容も明言していない口約束であるし、それは余禄だ。 「ハッパ?」 「昼間言ったでしょ。アタシは一切、台本(ブック)なしってコト」 そう言って、昼間のようにミニスカートの裾を摘んでみせる。言わずもがな、自分を好きにしていいのは勝った男だけ、というあれだろう。 熟れているとは言い難いが、ディナは掛け値なしに魅力的な女性ではあった。実際、そう言えば10人の男が9人はその気になるだろう。 だが。 「間に合ってるよ」 「あら、ゴアイサツ。プライド傷つくわー」 ディナは口を尖らせるが、ニモに視線を送ると何かを察したように手を叩いた。 「あぁ、そういうコトか!」 「どういうことだ」 「ゴメンねー、ニモの男にコナかけるようなことして」 構わず拝むように頭を下げるディナに、ニモは首をくり、と傾げた。 「男?」 「好きなヒトってこと」 「あぁ、ならそうだ」 「いやそうじゃないだろ」 半眼で抗議するセイリに、ニモは抑揚こそなかったが不満を表すような被せる口調で断固主張した。 「私はセイリが好きだ」 有無は言わせない、とばかりの言い方に思わず返す言葉に詰まったセイリを、ディナがにやにやと観察していた。 [No.613] 2014/10/03(Fri) 22:41:23 |