U.C.0080.12.25「聖夜の贈り物」 - ジョニー - 2013/12/27(Fri) 21:22:40 [No.576] |
└ [削除] - - 2013/12/27(Fri) 23:58:30 [No.577] |
└ 禁断のクリスマスプレゼント - ジョニー - 2014/01/04(Sat) 20:54:26 [No.578] |
└ 1.「再起」 - アズミ - 2014/10/04(Sat) 16:42:55 [No.614] |
└ 2.「出発」 - アズミ - 2014/10/04(Sat) 18:42:14 [No.615] |
UC0080、12月26日。 ジャブロー 連邦軍総司令部の一角にあるブリーフィングルームにて。 「以上が、リークされた情報だ」 レオン=リーフェイ中尉はそう言って、ジオン残党兵が映っていたモニターを切り替えた。 「ジオ――……“公国軍”残党が何か良からぬことを企んでいるのは理解しました」 左隣に座る女……ジオン共和国からやってきたという、少尉の階級章をつけた兵士をちらりと見て、刃水信士(ハミズ・シンジ)中尉は出しかけた言葉を訂正した。 「配慮していただきありがとうございます、中尉。ですが、お気になさらず」 感情のない声で、少尉はそうとだけ返した。 モニター映写のため、作戦説明中のブリーフィングルームは光源を落とされている。薄暗さゆえにその表情は読めない。 視線をレオンに戻し、続ける。 「それで、彼らが無茶な陽動をやってまで地球に持ち込んだというのは、いったい?」 レオンは頷いて、モニターのコンソールを操作する。 新たに表示されたのは弾頭。大雑把な形状は見慣れたザク・バズーカ用の榴弾に酷似しているが、その横っ腹に描かれたニュークリア・ハザードマークがその差異を明確に物語っている。 「核弾頭!? 大事じゃないの」 シンジの右隣に座っていた劉鈴雲(リュウ・リンユー)軍曹が素っ頓狂な声をあげる。 彼女は一年戦争後半からの志願兵であるので、その弾頭の素性を知らなかったのだろう。核、という字面だけで恐ろしい想像をしたに違いない。それこそ水爆クラスの。 直接は見たことがないものの士官学校の授業でシンジはそれを見知っていた。 背後に座っているアーニー・クロージェ准尉は尚のことだろう。彼はルウム戦役から前線で戦い続けているベテランである。直接目にしていてもおかしくない。案の定、気の利く男でもある彼がリンユーに説明した。 「南極条約締結前の初期型ザク・バズーカ用核弾頭ですよ、軍曹。せいぜい威力はマゼラン級を一撃で轟沈させるぐらいのものです」 それでもMSが携行する火器としては破格の破壊力だが、少なくとも戦略級の大量破壊兵器としての運用は不可能だ。 それを聞いて、リンユーは幾らか安心したようだった。 「なーんだ……でも、そんなものを奪取して連中は何をしようっていうんだろ?」 それはシンジも疑問だった。 確かに放射能汚染を引き起こす核兵器はこの宇宙世紀においても禁忌と言えるが、ただの対艦弾頭一発で如何ほどのことが出来よう? 「連邦主要都市への爆破テロ、あるいはもう少し気を利かせれば水源汚染……」 思いつく選択肢は目一杯無謀なものを含めてもそんなものだ。 そこで初めて、ジオン共和国から来た女が口を開いた。 「あるいは彼らさえ思いついてはいないのかもしれません。……“先”を考える能力の持ち合わせがあるなら、現在の情勢で反連邦活動など続けられないでしょう」 その口調は、同じ同郷の者に対するそれとしては恐ろしく酷薄だった。思わず関係のないシンジが背筋に寒いものを感じるほどに。 とはいえ、内容そのものには同意できる。サイド3がジオン共和国として連邦に対して恭順を示した現在、ジオン公国という国家は消滅している。公国軍残党は今以ってかつての30%に及ぶ規模で抵抗活動を続行しているというが、彼らにはもはや拠るべき国体が存在せず、銃後を支える国民も居らず、帰るべき国土も無い。 如何に連邦を叩き、ジオン公国を復興したとしても彼らには統治能力がない。 それどころかそれを打ち立てるべきサイド3、ジオン共和国の民も彼らを支持はしないだろう。この場にこの少尉が来ていることがその何よりの証左だった。 ブリーフィングルームに照明が戻り、レオンが総括する。 「我々連邦軍情報部と実行部隊たる諸君らタスクフォース202は本日1200より核弾頭を取得したジオン公国軍残党の追跡を開始、これを奪取、ないし破壊する」 ブリーフィングルームに照明が戻り、レオンが総括する。 タスクフォース202。それがシンジらの現在の所属だ。 一年戦争後、ジオン残党による緊急性の高い案件に迅速に対処する目的で、連邦軍統合参謀本部隷下に臨時結成された実行部隊である。 「今回の作戦はあくまで我々連邦軍の主導で行われるが、ジオン共和国国防軍から協力の申し出があった。マクレガー少尉」 呼ばれて、マクレガーと呼ばれたジオン共和国少尉が立ち上がった。 「ジオン共和国国防軍から参りました、ベアトリクス=マクレガー少尉です。今回の作戦に際し、MSパイロットとして刃水中尉の指揮下に入らせていただきます」 歳はシンジと同じぐらい……20代まだ半ばか。ピッシリとした制服に肩口で切り揃えられた染めた後のまるでない綺麗な黒髪、無駄な贅肉のない身体……とかく全身の全ての要素で隙のない印象を与える女だった。 別の軍組織から人員を出向させるという強引さと、MSパイロットを一人送っただけというシンプルさ。不釣合いな二つの事実からは、明確な政治的意図が感じられた。 つまるところ、これはジオン共和国の連邦恭順を示すポーズだ。 一年戦争を通じ直接の被害が少なかったサイド3は、連邦の復興活動によって五指に入る有力なコロニー群に成長しつつある。今や連邦との経済交流なくして立ち行かない状態なのだ。 ここで公国軍残党が連邦にダメージを与えた場合、それは金の流れを通じてジオン共和国へのダメージとなる。……どころか、地球側の宇宙移民に対する感情が悪化すれば、またぞろスペースノイドへの弾圧が始まらないとも限らない。 公国軍残党の撃滅は、ジオン共和国の保身にとっても焦眉の急なのだ。それも、出来るならば己が協力した体を確保しておきたい。そういうことだろう。 「無論これは一時的な措置であるが……ともあれ、諸君らは本日よりMS小隊の定数を満たすことになる」 シンジは渋い顔をした。彼とリンユー、アーニーらは元々、オーストラリア方面軍中央部攻略部隊「レッド・ポッサム」の一員であった。 末期のヒューエンデン基地攻略戦で一名のMSパイロットを喪い、その後ジャブローに拾われ戦後処理に奔走していたため、小隊としては機能を停止したままだったのである。 「特に異論が無ければ隊の名称はそのままにしようと思う。……どうだ?」 レオンの提案には幾らか、シンジたちの感傷への配慮を察した。 ジオンに殺された仲間の代わりをジオンに埋めてもらう形になる。そこにかつての名を冠することには、シンジも感情的な障壁を全く感じないでもない。 多分に困惑から一同は沈黙したが、ややあってリンユーが挙手して賛意を示す。 「賛成。いまさら、他の名前なんてしっくりこないし」 その軽薄さは、こちらの気負いを解くために装ったものだとシンジは思った。 それに続くように、アーニーが後から肩を叩く。 「隊長、自分も同意です。ご決断を」 シンジはマクレガー少尉を見た。 ジオンから来た女の表情は揺らがない。否、努めて揺らがないようにしているのだと、感じた。 一つ、深く息を吐く。 「いいでしょう。よろしく、マクレガー少尉」 シンジは立ち上がり、マクレガーに手を差し出した。 彼女もそれを、迷うことなく取る。 「ようこそ、“グレー・クウォール”へ」 部隊名に色と動物の名を冠するのは、地球連邦オーストラリア方面軍において、大陸奪還の電撃戦に従事した主力部隊の通例だった。 グレー・クウォールはその一つ、特殊MS遊撃小隊として編成された部隊である。 「……時間だ」 時計が正午を指した。作戦開始の時刻である。 「本日只今よりジオン残党追撃任務を命ずる。諸君らの健闘を祈る」 「タスクフォース202、グレー・クウォールはこれよりジオン残党追撃の任に当たります」 復唱するシンジに習い、マクレガー、リンユー、アーニーもレオンに敬礼する。 コロニーの落ちた地で死んだはずの灰色のフクロネコが、息を吹き返した瞬間だった。 [No.614] 2014/10/04(Sat) 16:42:55 |