U.C.0080.12.25「聖夜の贈り物」 - ジョニー - 2013/12/27(Fri) 21:22:40 [No.576] |
└ [削除] - - 2013/12/27(Fri) 23:58:30 [No.577] |
└ 禁断のクリスマスプレゼント - ジョニー - 2014/01/04(Sat) 20:54:26 [No.578] |
└ 1.「再起」 - アズミ - 2014/10/04(Sat) 16:42:55 [No.614] |
└ 2.「出発」 - アズミ - 2014/10/04(Sat) 18:42:14 [No.615] |
「リークによれば、残党はチリ沖で核を回収してから西に移動しているらしい」 戦後1年近くが経過してなお、地球の海には相当数の公国軍残党が潜んでいると言われている。 連邦の海洋戦力は一年戦争を通してついぞ、精強な水中用MSを要するジオンに追いつくことが出来ず、実質的な制海権こそ奪取したもののこれを壊滅させることなく現在に至っているのだ。 残党内部の造反者からの情報リークが無ければ、捕捉にはかなり苦労しただろう。 「でも、そのリークって信用できるのぉ?」 リンユーの疑念はもっともだった。 そもそも、この急場に都合よく情報をリークしてくる造反者が出たことが都合が良すぎるように感じる。 マクレガーは「情報操作の可能性はありますが」と前置いた上で、続けた。 「海上を移動しているということはユーコン級でしょう。潜水艦部隊はもともとザビ家の覚えが悪い人材が多く回されています」 「つまり?」 「反公国的な志向が潜在している、ということです。造反者が出ること自体は不思議ではありません」 リンユーはなるほど、と得心した様子で頷いた。 別の手段で裏づけがとれない以上、常に造反者を装って誤情報を掴まされている可能性は考慮しなければならないが、差し当たっての疑念は幾らか軽減されたといえる。 「敵の目標はラサでしょうか?」 アーニーが地図を見て言う。 航路上にある連邦側の重要施設となると、大規模拠点があるチベット、ラサぐらいだ。 もっとも、そのぶん防衛能力も高い。ユーコン級に搭載できる数のMS(どれだけ工夫しても1個中隊だ)による作戦目標としては無謀な設定だった。アジアは潜伏しているジオン残党も少ない、周辺から掻き集めても1個大隊には届かないだろう。残党のMS稼働率を考えると小規模の基地をどうにか落とせるかどうか、というところか。 「そんなわかりやすい目標なら、俺たちが手を煩わせるまでもないさ」 単純に攻撃目的に使用するなら対象の守備隊がどうとでもするだろう。MSの携行バズーカによる核弾頭なぞ有効射程に入る以前の問題だ。無論、可能性がないわけではないのだがグレー・クウォールの作戦上の視野からは外してよい。 「もう少し妥当性のある目標なら……非軍事施設で重要性の高い……」 「ホンコンあたりでしょうか?」 ホンコン(旧香港とは異なる、移転都市)は現在東アジアの経済上の中心地である。 地球の主要な企業体の中枢も集中しており、ここを標的としたテロならば地球経済に大きな混乱をもたらすことができる。 アーニーの言葉に、シンジは肩を竦めた。 「まぁ、現時点で予断を持つのは危険だ。引き続き情報収集に努めつつ、途中の補給地での阻止に注力しよう」 如何に潜水艦……仮に理論上数ヶ月潜航を継続できる原子力潜水艦であっても、中に人間が入っている以上、実際には補給が不可欠である。 であれば、太平洋を横断するにも数度の補給は必要になる。ハワイかオセアニア、東南アジアなどに寄航するはずだ。 連邦の海上戦力がジオンのそれに劣ることは既に話した通り。グレー・クウォールとて例外ではない。勝負をかけるのはそれら陸地においてとなる。 廊下を抜けてドックまで来ると、既にミデアへのMSの積み込みが始まっていた。 アーニーが使用するホバートラックに続いて、並ぶMSは3機。 それぞれリンユーのG型、シンジのD型のジム、そして識別用だろう、連邦の鹵獲機と同じく白く塗られたザクであった。 「S型だな」 「お詳しいですね」 シンジの呟きにマクレガー少尉は驚いた様子だった。 リンユーが横から口を挟む。 「S型って?」 「“角つき”のことさ」 「角、ついてないじゃん」 リンユーは腑に落ちない様子だったが、実際のところ指揮官用のザクUS型と一般機の外観的な差異はほぼジオン軍において指揮官の証である角……通信用アンテナの増設以外ない。目の前のS型とされたマクレガーのザクにはそれがなかった。 だが性能的にはS型は単に角がついただけのザクではない。総合的に性能が向上しており、ことによると後発機であるグフよりも手強いことがある。特に推力は30%増しになっており、このためスラスターやバーニアが僅かに大型化しており、シンジがS型と見破ったのはそれらの点に注目してのことであった。 「これがマクレガー少尉の機体ですか?」 アーニーの問いにマクレガーは頷いた。 「ええ、グレー・クウォールと部隊行動を行うのに、他に適した機体がなかったので」 戦時中、ジオン軍が犯しがちな失敗として、多機種混成のMS小隊運用があった。 主な問題として、部隊の進軍速度と射程が個々の最大公約数に抑えられてしまう点がある。 たとえばザクとドムで小隊を組ませた場合、進軍速度はザク側に合わせざるを得ない。せっかくのドムの120km/hに届く巡航速度は半分近くに抑えられてしまう。あるいはザクとグフで組ませた場合、ザクがバズーカやフットミサイルによる砲撃を開始したとしてもグフは横で見ていることしか出来ない。実際にはグフだけが機動力に任せて突っ込んでくるケースが多かったが、これは論外だ。部隊行動を行う意味がない。 混成部隊にせざるを得ないなら、少しでもスペックを似せる必要がある。 ジムはジオン側のMSに当てはめるならば進軍速度も射程もザク以上であるが、さすがに熱核ホバーによる移動機構を持つドムには及ばない。またグフは射程が極端に短く、運用に癖がある。 推力が向上したザクUS型というのは確かに妥当な選択だった。ザクは多くのオプション装備を持つため、射程の点でもジムに合わせやすい。 「ふーん」 そんなことを説明すると、リンユーは興味なさそうに相槌を打った。 彼女は腕のいいパイロットなのだが、MSの運用に関する知識はない。向学心も旺盛とはいえないので、こういう話題にはあまり乗ってこなかった。 「ま、時間無いんだからさっさと乗っちゃおう。ほらほら、立ち止まんないのトリス。さっさと乗った乗った」 言って、立ち止まったマクレガー少尉の背をリンユーが押す。 「は、はぁ……トリス?」 「ベアトリクスだからトリスでしょ?」 困惑するマクレガーに、リンユーは何のこともないように言う。 仮にも上官に対する態度ではないが、厳密には同じ軍組織ではないし――彼女の気安さ、空気の読めなさは大方意識的なものだ。シンジは黙認した。 アーニーも続く。 「長い旅になります。隊長、乗り込んだら改めて自己紹介の時間を設けてはどうでしょう?」 「あぁ……そうしようか。それでいいな、トリス?」 上官に乗られては否やとも言えないのだろう。マクレガー……トリスは、風に煽られた髪を抑えて首肯した。 「りょ……了解しました、中尉」 少しだけ頬を染めて頷く。それは、出会ってから彼女が見せた最初の人間的な感情表現だった。 [No.615] 2014/10/04(Sat) 18:42:14 |