Fate/DragonSoul - アズミ - 2015/09/21(Mon) 20:26:30 [No.624] |
└ 概要(2015/11/24改訂) - アズミ - 2015/09/22(Tue) 00:23:10 [No.625] |
└ 瑠璃色の鳩 - きうい - 2015/10/12(Mon) 23:19:16 [No.626] |
└ A.D.1877:日本 - アズミ - 2015/10/29(Thu) 22:17:06 [No.627] |
└ Re: A.D.1877:日本 - きうい - 2015/11/23(Mon) 01:03:29 [No.628] |
└ 1日目 英国・ロンドン郊外 - アズミ - 2015/11/24(Tue) 11:50:08 [No.629] |
└ 1日目 至上海 途上 - アズミ - 2015/11/24(Tue) 20:34:05 [No.630] |
└ 幕間:川西光矢・1 - アズミ - 2015/11/24(Tue) 22:23:10 [No.631] |
└ 幕間:魔人・1 - きうい - 2015/11/24(Tue) 22:58:21 [No.632] |
└ 幕間:黒木少尉・1 - アズミ - 2015/11/27(Fri) 19:24:14 [No.633] |
└ 幕間:ロード・ルーナリア・1 - アズミ - 2015/11/27(Fri) 22:23:41 [No.634] |
└ 幕間:魔人・2 - きうい - 2015/11/29(Sun) 00:26:40 [No.635] |
└ 幕間:アンドレイ=ドラグノフ・1 - アズミ - 2015/11/30(Mon) 21:06:00 [No.636] |
└ 1日目 上海上空 - アズミ - 2015/12/01(Tue) 01:31:23 [No.637] |
└ 1日目 上海上陸 - きうい - 2015/12/01(Tue) 22:06:33 [No.638] |
└ 1日目 外灘にて - アズミ - 2015/12/01(Tue) 23:20:20 [No.639] |
└ Re: 1日目 外灘にて - きうい - 2015/12/02(Wed) 01:15:07 [No.640] |
└ 一日目終了 - アズミ - 2015/12/09(Wed) 18:39:38 [No.641] |
└ 2日目 外灘にて - アズミ - 2015/12/09(Wed) 21:10:47 [No.642] |
└ 二日目 愛し合うために - きうい - 2015/12/11(Fri) 22:22:58 [No.643] |
└ 二日目 埠頭の夜 - きうい - 2015/12/16(Wed) 00:09:29 [No.644] |
幾度目かの夜明けを迎えた世界で最も早く夜明けを迎える国にて。 「――――まったく、なんたる有様か」 謳うように、白い少女は嘆いてみせた。 白い、少女だった。 両側に垂らした二房の髪、作り物めいた肌、小柄な身体を覆う装い、華奢な両手を包む籠手、地に突き立つような鋭いヒール――――総てが白。 のみならず、その精神性。 信条、信念。アカシャの蛇の鱗に刻まれる、連綿と続く心理、その一刻一秒逃さぬ全てが、惑わじの清廉。絶対の潔白――――そう、全てが白。 その閉じた瞼を開いたなら、両の瞳すら白亜なのではないかとすら思わせる。そんな、白い少女だった。 「コベルニルは潰えて死にました。身体、精神、情誼、遺伝子、可能性、全て」 両腕が天を抱くように伸びた。 人形のようなか細いが、同時に狂気の如く鋭利な両手。 「全て潰えました、この両手で。希望(わたし)を手放した者は、皆全て」 右手が差し出される。 彼女に利き腕の概念は無かったと記憶しているが、それには象徴的な意味があった。 開いた利き手。友好の手。慈悲の手。 譲歩を促す、絶対上位者の手。 「あなたもそうなるおつもりか――高橋敬治」 相対する高橋敬治は、返事をする代わりに荒い息を吐いた。 少女とは対照的な、黒い男だった。 厳密には、黒一色ではない。日に褪せた黒髪。くすんだ黒瞳。チャコールグレーのスーツ。その全てに上から塗り固められた、黒ずみ乾いた血糊――――総てが、濁った黒。 その精神性もまた然り。 怒りと暴力性をその奥に秘めながら、秩序と倫理で堅く締め上げられた人格。矛盾に澱んだ多面性――――そう、全てが塗り重ねられたがゆえの、黒。人間の色。 「手を伸ばさなければならない。求めなければならない。欲さなければならない。奪わなければならない。憎まなければならない――――“進み続けなければならない”。それが契約であったのに」 非難するような口ぶりではあるが、その声音は低く、冷たかった。 咎人の罪状を並べ立てる、裁判官のそれに似ている。 「あなたはそこに“立ち止まる”というのか」 ひどく観念的で、非人間的な糾弾。 高橋敬治はまた一つ息を吐いて、ようやく口を開いた。 「俺は警察官だ」 背筋を伸ばし、肩を開く。投射面積を大きくする、およそ戦闘に備えるそれではない構え。 その遮る向こうに、小さな人影が倒れ伏していた。 子供だ。 まだ10を越えない、幼い少年。 負った傷は致命には遠いが、庇護が無ければ死に沈む、そんな儚い生命。 「――――市民を、子供を守るのは。当然の仕事だ」 ひどく実際的で、人間的な応答。 白い少女は失望の息を漏らして、右手を翻した。 「では死ね」 先ほどまで開かれていた右掌は、今は堅く握り締められている。 それには象徴的な意味があった。 握られた利き手。決別の手。憎悪の手。 断罪を下す、絶対上位者の手。 「為すべき事(Godot)に背を向けた脱落者。聖杯(わたし)に背く最後のケイジ」 瞼が開いた。 思わず総身が震える。全身の疵が持つ熱を悉く駆逐する、怜悧な生命危機。 「何処にも辿り着けず、何者にも成り得ず――――無為に、無駄に、無尽に死ね」 また一つ、息を吐いた。 最期の吐息と、覚悟した。次に息を吸う前に、死ぬ覚悟を固めた。 滑る右手が軍刀を掴む。 “サムライ”であった頃さえ頼みを置いたためしがない、鉛色の暴力装置。 魔術でも体術でもなく、最後の武器がこれだとは。 だが、とても観念的で、かつ人間的な運命(Fate)ではあった。 「俺は警官、高橋敬治だ。他の何者でもない」 なぜならそれは警官の武器なのだから。 警官として死ぬ時には、握っていなければならないはずだった。 「お前が死ね、聖杯――――ッ!!」 白が閃いて、黒が溢れ出し。 そし て 聖杯戦争 は―――― [No.627] 2015/10/29(Thu) 22:17:06 |