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No.629へ返信

all Fate/DragonSoul - アズミ - 2015/09/21(Mon) 20:26:30 [No.624]
概要(2015/11/24改訂) - アズミ - 2015/09/22(Tue) 00:23:10 [No.625]
瑠璃色の鳩 - きうい - 2015/10/12(Mon) 23:19:16 [No.626]
A.D.1877:日本 - アズミ - 2015/10/29(Thu) 22:17:06 [No.627]
Re: A.D.1877:日本 - きうい - 2015/11/23(Mon) 01:03:29 [No.628]
1日目 英国・ロンドン郊外 - アズミ - 2015/11/24(Tue) 11:50:08 [No.629]
1日目 至上海 途上 - アズミ - 2015/11/24(Tue) 20:34:05 [No.630]
幕間:川西光矢・1 - アズミ - 2015/11/24(Tue) 22:23:10 [No.631]
幕間:魔人・1 - きうい - 2015/11/24(Tue) 22:58:21 [No.632]
幕間:黒木少尉・1 - アズミ - 2015/11/27(Fri) 19:24:14 [No.633]
幕間:ロード・ルーナリア・1 - アズミ - 2015/11/27(Fri) 22:23:41 [No.634]
幕間:魔人・2 - きうい - 2015/11/29(Sun) 00:26:40 [No.635]
幕間:アンドレイ=ドラグノフ・1 - アズミ - 2015/11/30(Mon) 21:06:00 [No.636]
1日目 上海上空 - アズミ - 2015/12/01(Tue) 01:31:23 [No.637]
1日目 上海上陸 - きうい - 2015/12/01(Tue) 22:06:33 [No.638]
1日目 外灘にて - アズミ - 2015/12/01(Tue) 23:20:20 [No.639]
Re: 1日目 外灘にて - きうい - 2015/12/02(Wed) 01:15:07 [No.640]
一日目終了 - アズミ - 2015/12/09(Wed) 18:39:38 [No.641]
2日目 外灘にて - アズミ - 2015/12/09(Wed) 21:10:47 [No.642]
二日目 愛し合うために - きうい - 2015/12/11(Fri) 22:22:58 [No.643]
二日目 埠頭の夜 - きうい - 2015/12/16(Wed) 00:09:29 [No.644]


1日目 英国・ロンドン郊外 (No.628 への返信) - アズミ

 見渡す限りの夜の草原に、それは怪物のように横たわっていた。

「随分細長い気球だな」

 実際、既知の知識で表現するならばそれは気球に似ていた。気嚢の下に乗用部が存在している構成は一目見ただけで明らかだった。
 ただ全体のシルエットがあまりに違う。気嚢は横長の弾丸のような形をしているし、乗用部は随分前方……あれが弾丸のように飛ぶとすれば、だ……に偏って配置されていた。

「Luftschiff、というのだそうだ」

 ここまで水先案内人をしてくれた隻眼の女が言う。

「るふとしっふ? 独逸語か?」
「日本から来た少尉殿は飛行船と呼んでいた」
「空気船、よりは気が利いた訳かもな」

 肩を竦めて、風圧に逆らいながらるふ……飛行船へ向かう。
 機械には明るくないが、あれは既に発進体勢に入っているようだった。

「他の連中はもう集まってるのか」
「あぁ、魔術師殿が最後だ」
「“魔術使い”だ」
「あぁ、これは失敬」

 女は謝罪こそ述べたが、明らかに自分の誤りに興味はない様子だった。
 この女とてここに呼ばれた以上、魔術の心得はあるのだろうがどうもその辺りの魔術師の慣例には頓着しない人物らしかった。
 権威主義の時計塔にはさぞ居辛い性分だろう。あるいはかの魔術協会とは普段関わりを持たない市井の魔術師なのかもしれないが、どちらにせよ時計塔がそんな輩を呼びつけていること自体が余程に逼迫した状況であることを如実に示していた。

「こっちだ。乗れ、魔術師殿」

 タラップに足をかけて先導する女が懲りずに魔術師殿と呼ぶので、俺は聊か辟易してここで名乗ることにした。

「コウイチだ」
「うん?」
「奥にいる連中だって“魔術師殿”なんだろ? 不便でしょうがないから今の内に名乗っておこうと思ってな」

 女は初めてこちらに興味らしい興味を向けた様子だった、
 鼻を鳴らして、手を差し伸べる。

「ソリテア・スパイトだ。封印指定執行者をやっている」

 名乗って女……ソリテアは、華奢な腕の割に力強く俺を飛行船に引っ張り上げた。



 飛行船の中は存外に広かった。
 揺れも絶無に等しく、途中、窓の外を見てようやく既に浮上しているのだと気づいたほどだ。

「ここだ」

 言われて立ち止まる。
 乗用部の最後部にあたると思われる、突き当りの部屋。かけられた俄か作りの札には「作戦室」という文字が見えた。

「康一殿をお連れした」
「どうぞ」

 ソリテアがノックすると、若い女の声が応じる。
 ドアを開けると、そこには果たして5人の男女が待ち受けていた。

「お待ちしておりました、志摩康一様。これで7人揃いましたね」
「アンタが俺を呼びつけたロード・ルーナリア?」
「ええ」

 一番奥で俺を出迎えた女……ロード・ルーナリアが恭しく会釈する。

「ラ・ルーナ・イムリス・ルーナリアと申します。以後お見知りおきを」

 知った名だった。
 君主(ロード)には魔術協会に存在する12の学科を統括する学部長と、協会を古くから束ねる大貴族に連なる者、2種類の意味がある。
 この女は“両方”だ。
 大貴族の末席ながら最近空席になった鉱石科のロードを一時とはいえ代行する傑物。
 それが、今回俺とソリテア、そしてこの場に集められた他4人を呼集した張本人だった。

「時間がないんだろ。前置きは無しにしてさっさと始めないか?」

 若い男……おそらく日本人だ……が胸のポケットに挿した眼鏡を弄りながら言った。
 他の3人……帝国陸軍の軍服を着た青年と、露西亜人と思しき少年、銀の義手を片手につけた少女も視線でそれを肯定する。
 ロード・ルーナリアは頷いて返す。

「ええ、確かに時間はありません。タイムリミットまではあと7日間……正確には162時間と32分。それを過ぎれば――――」
「過ぎれば?」
「……世界が滅びます」

 ロードは重々しく、しかし断言した。
 今のご時勢、最早驚愕に値するほど珍しいことではない。しかし致命的ではある。おまけにいつも以上に時間もない。……現状は、そんなところらしかった。

「こちらの手札はこの場に集まった6人の魔術師と、サーヴァントのみ。さぁ、世界を救う戦いを始めましょう」

 それは開始の宣言だったのだろう。
 数えるのも馬鹿らしいほど重ねられた、しかし確かに世界の命運を賭けた――……

 そう、聖杯戦争の。


[No.629] 2015/11/24(Tue) 11:50:08

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