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No.630へ返信

all Fate/DragonSoul - アズミ - 2015/09/21(Mon) 20:26:30 [No.624]
概要(2015/11/24改訂) - アズミ - 2015/09/22(Tue) 00:23:10 [No.625]
瑠璃色の鳩 - きうい - 2015/10/12(Mon) 23:19:16 [No.626]
A.D.1877:日本 - アズミ - 2015/10/29(Thu) 22:17:06 [No.627]
Re: A.D.1877:日本 - きうい - 2015/11/23(Mon) 01:03:29 [No.628]
1日目 英国・ロンドン郊外 - アズミ - 2015/11/24(Tue) 11:50:08 [No.629]
1日目 至上海 途上 - アズミ - 2015/11/24(Tue) 20:34:05 [No.630]
幕間:川西光矢・1 - アズミ - 2015/11/24(Tue) 22:23:10 [No.631]
幕間:魔人・1 - きうい - 2015/11/24(Tue) 22:58:21 [No.632]
幕間:黒木少尉・1 - アズミ - 2015/11/27(Fri) 19:24:14 [No.633]
幕間:ロード・ルーナリア・1 - アズミ - 2015/11/27(Fri) 22:23:41 [No.634]
幕間:魔人・2 - きうい - 2015/11/29(Sun) 00:26:40 [No.635]
幕間:アンドレイ=ドラグノフ・1 - アズミ - 2015/11/30(Mon) 21:06:00 [No.636]
1日目 上海上空 - アズミ - 2015/12/01(Tue) 01:31:23 [No.637]
1日目 上海上陸 - きうい - 2015/12/01(Tue) 22:06:33 [No.638]
1日目 外灘にて - アズミ - 2015/12/01(Tue) 23:20:20 [No.639]
Re: 1日目 外灘にて - きうい - 2015/12/02(Wed) 01:15:07 [No.640]
一日目終了 - アズミ - 2015/12/09(Wed) 18:39:38 [No.641]
2日目 外灘にて - アズミ - 2015/12/09(Wed) 21:10:47 [No.642]
二日目 愛し合うために - きうい - 2015/12/11(Fri) 22:22:58 [No.643]
二日目 埠頭の夜 - きうい - 2015/12/16(Wed) 00:09:29 [No.644]


1日目 至上海 途上 (No.629 への返信) - アズミ

 聖杯戦争、という魔術儀礼がある。

 そも聖杯とは、最後の晩餐において、救世主が弟子たちにワインを振る舞った杯。
 それは中世騎士道物語を経て、手にした者の願いをなんでも叶える万能の願望機として定義された。
 過去、数多の人間が聖杯を求め旅立ち、争い、破滅していったが――余人に隠された神秘を司る魔術師の世界においてすら真実の聖杯を手に入れた者はいない。

 魔術師たちの自衛・管理団体たる魔術協会の有史以来、発見された聖杯の候補物は西暦2015年現在、実に800余。
 その候補物の所有権を争い行われる、財、謀、武の全てをかけた魔術師同士の闘争――……それを、俗に『聖杯戦争』と呼ぶ。

 否、呼んだのだ。……かつては。

 転機はおよそ一世紀前。
 日本の冬木において、最初の“冬木式”聖杯戦争が行われた。
 聖杯を求める7人の魔術師と、それらをマスターとして契約する7騎の使い魔(サーヴァント)を以って覇権を争う決闘儀礼。
 しかしこれが混乱の内に勝利者不在で幕を閉じる。
 この際の反省から改訂が行われ、一通りのシステムが揃ったのが1860年に開かれた第二次聖杯戦争。
、剣士(セイバー)、槍兵(ランサー)、弓兵(アーチャー)、騎乗兵(ライダー)、魔術師(キャスター)、暗殺者(アサシン)、狂戦士(バーサーカー)――……7種の英霊の鋳型(アーキタイプ)。
 それを従えるため、マスターに与えられる3画の絶対命令権――令呪。
 結局第二次聖杯戦争も勝利者不在のまま一同の全滅という形で幕を閉じるが、その際に聖杯戦争の術式が流出した。
 参加者の一人が持ち出したとも言われているし、さらに術式を洗練するため冬木の開催者が意図的に漏洩したとも言われている。

 ともあれ――現在。世界中で冬木式を模した決闘儀礼が頻発している。

 折りしも時代は列強諸国による戦乱の時代へ向かおうとしていた。
 その裏で魔術師達もまた、日々血で血を洗う争いを繰り広げていたのだ。
 地脈と、無辜の人々を傷つけながら。

 ――――明日、世界が終わるかもしれない。

 それは、この時代誰もが持っている、漠然とした不安だった。

 今は、そういう黄昏の時代だ。



 で、現在上海で起きている事案はそうした羅列するのも馬鹿馬鹿しいほどありふれた、しかし確かに致命的な“世界滅亡の危機”の一つだった。
 上海を牛耳る魔人“瑠璃色の鳩”パティ・ガントレットは大陸最大の霊地たる上海を用いて冬木式聖杯戦争の再現を試みた。
 経緯は不明。だが、結果は失敗。
 勝利者不在のまま上海全域に魔術的な“汚染”が広がり、今や、“混沌の魔都”上海は死徒の闊歩する“沈黙の死都”へと変わり果てた。

「正確な数字は不明ですが、上海市民の全てが死徒に変じたとすれば10世紀以来の大量発生となるでしょう」

 現在では想像もつかないというのが本音ではあるが。
 かつて、人が吸血種に常に怯えなければならない時代があった。そしてそれに抗う力をまだ人間が持っていた時代があった。数多の吸血種が跋扈し、英雄がそれを打ち払う。そういう時代があった。
 今の人間には無理だ。人の世は神秘を喪い過ぎた。
 かの時代ほどの死徒が世に放たれれば、人類は敗北するだろう。
 人ではなく、人だけを害するもの――死徒には、星と人の抑止力が働かない。人の力が介在しなければ、ヤツらを滅ぼすことは出来ない。

「現在、汚染は上海の霊脈に依存するため上海全域で留まってはいます。死徒は聖堂教会が派遣した異端審問騎士団の包囲で押し留められてはいますが――」
「汚染が広がる兆候がある?」
「降霊科の試算では。開催者の敷いた何らかの術式なのか、7日後には地脈を辿って上海外まで汚染が広がり始めると見られています」

 現状ですら聖堂教会の代行者を総動員したとてそも収拾可能かすら不明だというのに、タイムリミットまで加えられては絶望的と言わざるを得まい。

「しかしそんな場所にたった7人で向かって何が出来ると?」
「こちらを」

 篭手の少女――アトラス院から来たという、ミコト、と言ったか――が問うと、ロードは一抱えほどもある石版を机上に出した。
 その上に1つだけ、魔術的な輝きが灯っている。

「聖堂教会から借り受けた、今次聖杯戦争の霊基盤です。監督者が命からがら持ち帰ったものだとか」

 霊基盤とは、聖堂教会が派遣する監督感が使用する礼装の一種だ。霊脈に接続し、各サーヴァントの召喚状況を確認できるものだが――。

「ライダーが生き残っているな」
「いえ、借り受けた時点では全て消えていました。今灯っているのは先立って私が上海郊外に赴き、再召喚したサーヴァントです。……そう、サーヴァントの召喚術式はまだ生きている」

 ロードが答えに軍服の青年――日本から来た、黒木遼少尉――は我が意を得たりと頷いた。

「――成る程。生きているサーヴァントシステムを逆手に取るか。本来の英霊には遠く及ばないとはいえ、サーヴァント7騎を以ってすれば上海の死徒撃滅も絵空事ではない」
「そう上手くいくか? サーヴァントと仲違いして自滅したマスターの話はゴマンと聞いたぜ」
「否やとは言わないでしょう。彼らは本来、人類の破滅を防ぐ抑止力の一端なのだから、いわば本来の仕事と言っていいはず」

 少年――時計塔から来た、アンドレイと言ったか――がそう言うが、俺を含めて他の者は聊かの賭けであることに気づいたらしかった。
 サーヴァントは魔術師と同じく聖杯を求める理由を持つ英霊の写し身を、特定のクラスに当てはめて召喚した使い魔だ。
 その人間性をも転写するため、往々にしてマスターにはサーヴァントとの信頼構築が求められる。出来なければ――そう、先に眼鏡の男……川西光矢が指摘した通り、自滅の道を辿る。
 サーヴァントは所詮死者だ。聖杯は欲しいが、よほどに据えかねれば自滅覚悟でマスターを殺すなど躊躇いもしないし、マスターに与えられる三度の絶対命令権……令呪など彼らが本気になれば気休めにしかならない。

「此処に呼んだ7人は、つまるところ“そうした安全性”も考慮しての人選です」

 特定の陣営に偏らず。英霊を侮ることなく。この危機に二つ心なく立ち向かうことが出来る魔術師。その条件は譲れなかったのだと、ロードは言った。
 誰ともなく、息をついた。
 手札は無役(ブタ)に近く、山札は未知数。相手の役はロイヤルストレートフラッシュ。
 状況は最悪に近いが、やらないわけにはいかない。なにせ、人類全ての命運がかかっている。

「……2時間後に上海に到着。その後、12時間は上海上空を旋回して偵察を行う予定です。その間に皆さんにはサーヴァントを召喚していただくことになるでしょう。それまで、どうか万全の準備を」

 ロードがそう言って会釈すると、6人のマスターは思い思いに作戦室から退室していく。

 さて――…………


[No.630] 2015/11/24(Tue) 20:34:05

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