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No.637へ返信

all Fate/DragonSoul - アズミ - 2015/09/21(Mon) 20:26:30 [No.624]
概要(2015/11/24改訂) - アズミ - 2015/09/22(Tue) 00:23:10 [No.625]
瑠璃色の鳩 - きうい - 2015/10/12(Mon) 23:19:16 [No.626]
A.D.1877:日本 - アズミ - 2015/10/29(Thu) 22:17:06 [No.627]
Re: A.D.1877:日本 - きうい - 2015/11/23(Mon) 01:03:29 [No.628]
1日目 英国・ロンドン郊外 - アズミ - 2015/11/24(Tue) 11:50:08 [No.629]
1日目 至上海 途上 - アズミ - 2015/11/24(Tue) 20:34:05 [No.630]
幕間:川西光矢・1 - アズミ - 2015/11/24(Tue) 22:23:10 [No.631]
幕間:魔人・1 - きうい - 2015/11/24(Tue) 22:58:21 [No.632]
幕間:黒木少尉・1 - アズミ - 2015/11/27(Fri) 19:24:14 [No.633]
幕間:ロード・ルーナリア・1 - アズミ - 2015/11/27(Fri) 22:23:41 [No.634]
幕間:魔人・2 - きうい - 2015/11/29(Sun) 00:26:40 [No.635]
幕間:アンドレイ=ドラグノフ・1 - アズミ - 2015/11/30(Mon) 21:06:00 [No.636]
1日目 上海上空 - アズミ - 2015/12/01(Tue) 01:31:23 [No.637]
1日目 上海上陸 - きうい - 2015/12/01(Tue) 22:06:33 [No.638]
1日目 外灘にて - アズミ - 2015/12/01(Tue) 23:20:20 [No.639]
Re: 1日目 外灘にて - きうい - 2015/12/02(Wed) 01:15:07 [No.640]
一日目終了 - アズミ - 2015/12/09(Wed) 18:39:38 [No.641]
2日目 外灘にて - アズミ - 2015/12/09(Wed) 21:10:47 [No.642]
二日目 愛し合うために - きうい - 2015/12/11(Fri) 22:22:58 [No.643]
二日目 埠頭の夜 - きうい - 2015/12/16(Wed) 00:09:29 [No.644]


1日目 上海上空 (No.636 への返信) - アズミ

 恐らく距離にすれば100mも無いだろうが、攻撃に揺れる飛行船の通路はひどく長く感じられた。
 窓の外ではサーヴァントと思しき影が飛行船に群がる牛のような異形と戦闘を続けている。マスターの姿は見えない。外に出てもろくに身動きが取れない以上、足手まといになるという判断か。
 かくいう俺はといえば、まだサーヴァントを召喚していない。
 サーヴァントの召喚はラフに行うとクセの強い英霊が呼ばれることが多いため、慎重を期したのだがそれが裏目に出た。

「志摩!」

 通路の先で、黒木少尉が俺を呼んだ。
 搭乗口に据えつけられたガトリングで接近する牛に牽制射撃を加えている。あれで怯むあたり、サーヴァントとは違い物理攻撃が通用する手合いらしい。

「状況は?」
「アサシンとバーサーカーが下方の迎撃、キャスターは二人の飛行補助。上はアーチャーとランサーが当たっているようだが状況は不明だ。お前のサーヴァントは?」
「――……5分後だ」
「なに?」
「5分後に呼ぶ」

 サーヴァントの召喚には通常、細心の注意を期する。最も魔力が高まる時間帯に行うというのもその典型で、俺にとってその時間は午前4時59分。あときっかり5分後だ。

「お前、この状況で――……!?」

 言いかけた瞬間、視線が窓の外で固まる。

 ――異形の牛が、こちらを見ていた。

 間近で見ると、牛っぽいのはシルエットだけであまり原型は留めていない。もし牛を元にした何がしかの合成獣であるならば、空を飛ぶために随分リソースを偏らせたのだろう。軽量化の果てなのか、あまりにも細い肉体は印象としては風船のついた針金細工に似ていた。
 外板に沿うようにして移動し、アサシンとバーサーカーの目を潜り抜けたのだろう。その程度には頭が働くのか。
 ともあれ、黙っているわけにもいかない。

「ふっ――!」

 ガトリングの砲身を踏み越えて、牛の眼前に躍り出る。
 牛が嘶いて、上半身を反り返らせた。俺ごと搭乗口を踏み抜く気か。

 アクセル・キー  ドライブ
「攻性設定――完了!」

 心臓を、搾るイメージ。
 血と共に流れ出した魔力が魔術回路を走り、魔術刻印に流れ込む。
 集中するのは右足と右腕。同時に、血管に焼き串を通すような痛みが走る。貰い物の刻印なので相性がいまいちなのだ。必要な代償だった。

「おォォォ――――らァッ!!!」

 右足から魔力が噴出し、それを推進力に変えて跳ね飛ぶように牛に肉迫する。
 足場にしたガトリングがもげて落ちた。
 引っかくように腕を振るえば、周囲に渦巻いた魔力が針金細工のような頭を粘土細工を崩すようにひしゃげさせる。

『剣と盾のノクターン』。

 この魔術は、本来はそういう名前であるらしい。
 サーヴァントのスキルに、魔力放出というものがある。武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。いわば魔力によるジェット噴射だ。
 性質はそれによく似ている。さすがに出力は大きく劣るが、速射性と安定性に優れるため非常に戦闘向きだ。
 サーヴァント相手ならばともかく、この程度の相手であれば――

「まぁ、ざっとこんなもんだ」

 牛の亡骸を搭乗口から引き剥がし、放り捨てる。
 振り返ると、少尉はさすがに呆けたままではいなかった。

「……それがお前の手札か」
「ん? あぁ」
「接近向きだな。ここに留まるより上を頼みたい。できるか」

 下面の戦況は幾許か余裕があるようだった。
 当然ではあるが飛行船の足を止めたい敵は進行方向に戦力を集中しているらしく、そちらを掃討しようと思えばこちらも気嚢上に上がるより他にない。

「状況は不明、なんだろ? まぁとりあえず行ってはみるさ。道は?」
「そこから登っていけ」

 少尉が指し示す先。
 搭乗口の脇には、メンテナンス用の梯子が外装沿いに気嚢の上に向けて伸びていた。

「簡単に言うけどな……」

、高度4000mで飛行中だぞこの飛行船。
 と、文句を言う暇もあらばこそ、少尉は別の銃座を探して走っていく。

「……仕様がねえ、やるか」

 梯子に手をかける。
 ちらりと見た懐中時計は、4時56分を示していた。



 全ては気嚢上に這い上がるのと、同時。
 そして、一瞬の内に起こった。

「全門斉射ァッ!!」

 アーチャーの周囲に浮かぶ無数の大砲が火を噴く。
 見た目は大砲だが、弾は高密度の魔力塊だ。直撃すればヒトの魔術で退けられる程度の敵なぞ造作もなく粉砕する。
 前方に展開していた牛の群に、まるでそこだけ抉られたように円形の突破口が開かれる。
 これぞ好機と、アーチャーは叫んだ。

「今だライダー、全速!」

 恐らく、あの場にいたアーチャーやランサーは気づいていなかった。離れて戦場を俯瞰できた俺だけが気づけたのだ。
 この飛行船のさらに遥か上空から、砲弾の如き速度で迫る巨大な影に。

「上だぁーっ!!」

 力の限り叫ぶが、警告は暴風とプロペラ音に紛れ、届かなかった。
 ギリギリになって察知したランサーが馬上槍で降ってきた影を受け止めるが、その魔力と魔力の衝突で発生した乱気流が周囲に吹き荒れ、飛行船を大きく揺らした。
 流石に英霊、流石に宝具。ランサーは衝撃を最大限和らげてみせたし、ライダーの飛行船はすぐに体勢を立て直し、墜落を免れた。
 だが、英霊でないものはそうもいかない。アーチャーの足元にいたアンドレイとランサーの背に掴まっていたミコトが、風に巻かれる落ち葉のように舞い上がった。

「お嬢ちゃん!」
「アンドレイッ!!」

 アーチャーは即座にアンドレイに向けて跳躍するだけの余裕があった。あるいは、ある程度こうなる事態を警戒していたのかもしれない。
 他方、ランサーはそうもいかなかった。抑えているものが単なる落下物ではなく、明確な敵であると理解したからだ。
 それは異形の生物だった。胴体は猫科の猛獣を思わせるが、足の先は全て蹄。かと思えば、尻尾と首は蛇のそれに見える。
 錬金術師が作る合成獣を思わせる既存の獣のパッチワーク。だがそうと断じるには違和感があった。強いて言えば、混沌に過ぎる。人為の被造物にしては合理性があまりに欠如している。
 そして、その一瞬で解ったことはもう一つ。

「こ、いつ、は……!?」

 如何に不意を打たれても、牛が相手ならばランサーは次の一瞬で造作もなく串刺しにしていただろう。
 だが、それが出来ない。己を餌食にせんと噛み付いてくる蛇の頭をかわしながら、その巨体を押し留めるのが精一杯だった。仮にも前衛クラス、仮にも三騎士の一角であるランサーが、だ。
 つまるところ、それはこの怪物が、サーヴァントと同等以上の神秘を秘めた何かであることを意味する。

「マズ、いぞこりゃ……!」

 俺が怪物を観察できたのは、結局その一瞬だけだった。
 飛ばされてきたミコトが、眼前の甲板に叩きつけられたからだ。
 常人なら全身の骨が砕けて即死だろう。だが、ミコトは明らかにまだ生きていた。あまつさえ、その篭手に覆われた右腕を振るって、外殻の端にしがみつこうとさえした。

「む――う……っ!?」

 掴めない。
 見る限り人並み外れた耐久力と膂力を持つようだが、質量の不足を補えるほどではない。気流に引っ張られて引き剥がされてしまう。
 梯子にしがみつく俺のすぐ背後を――といっても、3mほどは距離があったが――ミコトが擦過する。

「掴まれ!」

 思わず手を伸ばすが、ミコトは応じなかった。
 伸ばしても届かないと瞬時に判断したのか。あるいは、仮に掴んでも二人一緒に吹き飛ばされるだけだと理解していたのか。
 いずれにせよ、正しい把握ではあった。

「――――後、頼みます」

 淡々とした口調だった。
 まるで残った仕事を同僚に押し付けて帰るような。
 そんな、あまりにも平常の響きだった。
 目があった。
 そこにはやはり何の感情もない。恐怖はない。悲しみも、怒りもない。
 ミコトは、まるで機械のように確定した自身の死を理解していた。

「――――――、」

 再び風に翻弄されながら、今度こそ飛行船から完全に弾き飛ばされてしまう。
 彼女がどれだけ頑丈かは解らないが、高度4000mから落下すればさすがに四散以外の運命はあるまい。ランサーが追いついても望み薄だ。騎士は空を飛べない。
 絶対に避けられない死。
 であるから恐怖も足掻きもしない。確定している結果に抗うのは全て無駄なリソースの消費だ。
 だが、そんなものは。 

「掴まれって――――」

 そんなものは、そっちの都合だ。知ったことか。

「――――言ってんだろうが、この馬鹿ッ!!」

 梯子を手放し、外殻を蹴る。
 一度飛行船を離れれば、今度は俺も気流に引き剥がされる。10mに満たない距離などあっという間に埋まる。
 ミコトが目を見開いた。
 金の鎖が降りてきた、という感じではない。何を馬鹿な、と言わんばかり。
 まぁ、驚かせられただけで僥倖だ。その表情を少し小気味よく思いながら、俺は再び魔術回路に火を入れた。

      ビート・アップ
「――――炉心、回転」

 悪魔の心臓が駆動する。
 周囲の大魔力(マナ)を貪欲に食らい、小魔力(オド)に変換して吐き出した。
 今宵の汝の命、その価値如何許りに成るや。

 マニューバ・キー アクション
「機動制御――出力!」

 四肢から魔力を噴出しながら、ミコトを頭上に捉えて身体を捻る。
 ジャイロ効果で機動が安定し、弾丸さながらにミコトに接近、その腕を強引に掴んだ。

「よっす!」
「何を――――、しにきたんです、あなたは!」
「見りゃわかんだろ、助けにきたんだよ!」

 何せ乱気流の只中だ。すぐ間近ですら声がかき消されるので、自然、怒鳴りあうような会話になった。

「心中しに来たの間違いでは!?」
「そっちに皮肉を言うより建設的な案はないんだな!?」
「あなたにはあるので!?」
「応よ!」

 体勢を変える。
 足を下に向け、ミコトを抱きかかえる姿勢へ。
 あとは“出力次第”だ。

「飛行船に戻るのは無理だ、このまま上海市内に着地する!」
「そんな無茶な!」
「俺が」

 ミコトを見た。
 重要なのは、信頼だ。
 俺自身に対する俺の信頼。俺に対するミコトの信頼。俺の人生に対する、世界の信頼。
 それが、俺の出来ることを全て、全て決定する。

「俺が、なんとかする。お前は俺を“信じろ”」
「信じる?」
「それが必要なんだ」

 信じろ、としか言いようがないのだが、毎度のことながら映画スタアのような言い回しになってしまうのが悩みの種だった。
 とても実際的な問題なのだが、どうにも急場にあっては軽薄に見えて信用に欠ける。

「――いいでしょう」

 だが、そこのところミコトは物分りがよかった。

「なんとかできなかったら最高に恥ずかしい流れですね今の」

 いや分かってくれてるかなぁ?

「頼むぜオイ、傍にいる一人分で出力がだいぶ変わるんだからよ」

 ともあれ、気を取り直して再び魔術回路を叩き起こす。
 魔力と大気が、渦を描いて荒れ爆ぜた。
 
 ビート・アップ  オーバードライブ
「炉心、回転――最大……出力!!」

 眼下に雲海の切れ間。
 その向こうに、血と炎で赤く染まった死都・上海の地獄が広がっていた。


[No.637] 2015/12/01(Tue) 01:31:23

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