Fate/DragonSoul - アズミ - 2015/09/21(Mon) 20:26:30 [No.624] |
└ 概要(2015/11/24改訂) - アズミ - 2015/09/22(Tue) 00:23:10 [No.625] |
└ 瑠璃色の鳩 - きうい - 2015/10/12(Mon) 23:19:16 [No.626] |
└ A.D.1877:日本 - アズミ - 2015/10/29(Thu) 22:17:06 [No.627] |
└ Re: A.D.1877:日本 - きうい - 2015/11/23(Mon) 01:03:29 [No.628] |
└ 1日目 英国・ロンドン郊外 - アズミ - 2015/11/24(Tue) 11:50:08 [No.629] |
└ 1日目 至上海 途上 - アズミ - 2015/11/24(Tue) 20:34:05 [No.630] |
└ 幕間:川西光矢・1 - アズミ - 2015/11/24(Tue) 22:23:10 [No.631] |
└ 幕間:魔人・1 - きうい - 2015/11/24(Tue) 22:58:21 [No.632] |
└ 幕間:黒木少尉・1 - アズミ - 2015/11/27(Fri) 19:24:14 [No.633] |
└ 幕間:ロード・ルーナリア・1 - アズミ - 2015/11/27(Fri) 22:23:41 [No.634] |
└ 幕間:魔人・2 - きうい - 2015/11/29(Sun) 00:26:40 [No.635] |
└ 幕間:アンドレイ=ドラグノフ・1 - アズミ - 2015/11/30(Mon) 21:06:00 [No.636] |
└ 1日目 上海上空 - アズミ - 2015/12/01(Tue) 01:31:23 [No.637] |
└ 1日目 上海上陸 - きうい - 2015/12/01(Tue) 22:06:33 [No.638] |
└ 1日目 外灘にて - アズミ - 2015/12/01(Tue) 23:20:20 [No.639] |
└ Re: 1日目 外灘にて - きうい - 2015/12/02(Wed) 01:15:07 [No.640] |
└ 一日目終了 - アズミ - 2015/12/09(Wed) 18:39:38 [No.641] |
└ 2日目 外灘にて - アズミ - 2015/12/09(Wed) 21:10:47 [No.642] |
└ 二日目 愛し合うために - きうい - 2015/12/11(Fri) 22:22:58 [No.643] |
└ 二日目 埠頭の夜 - きうい - 2015/12/16(Wed) 00:09:29 [No.644] |
――――温度を、覚えている。 身を焼く炎の熱さを覚えている。 流れる血の冷たさを覚えている。 触れる手の温もりを覚えている。 取り巻く死と、それに抗い続けた女の体温を覚えている。 「――――――」 女が、自分を抱きしめ、焼けた街を歩き続けている。 足は半ばで折れ曲がり、最早足として機能していなかった。 2本の支えを交互に出して、歩いているように転び続ける人形のよう。 右腕は千切れ飛び、存在さえしていなかった。 だから、そのぶんだけ左の腕を力強く。抱きしめた幼い命を死の世界に落としていかないように。 臓物は零れ落ち、最早流れ出す血液さえ力ない。 女はもう死んでいた。 死ぬことはとうに確定していて、それでも生きることをやめなかった。 「――――――」 名前は覚えていない。顔も。かけてくれた言葉も。 あるいは、喉が爛れて既に言葉を紡ぐことさえ出来なくなっていたのかもしれない。 2本の支えが、折れて潰れた。 女の胴体が、灼けた大地に叩きつけられる。露になった臓物に、焼き鏝のようなアスファルトが押し付けられる。 「――――、――」 悲鳴さえ、あげられない。 それでも、左手は身を庇うことなく、我が子を抱き続けた。 傷一つさえつけなかった。 これが自分の命であると、信じて疑わぬように。 「―――う――イ――ち」 最早歩くこと敵わず。女は天を仰いで、我が子に囁いた。 声と呼ぶのもおこがましい、ささやかな吐息。 けれど、覚えている。 その言葉だけは、確かに。 「あい――、してる―――――」 ――――母の温もりを、覚えている。 それが、世界の全てだった。 自分の全てを肯定してくれるもの。 この世に生まれ、生きるに足る唯一にして絶対の法。 だから、思ったのだ。 この人が死んだとき、自分もまた死ぬのだと。 「――――…………」 そして、志摩康一の心臓は鼓動を止めた。 ● 「――――、む」 窓から差し込む日の光に、目を覚ました。 視界に入るのは、昨晩休憩地に選んだ廃屋の内装。 心臓の鼓動を確認する。 心拍数異常なし。どうやら、今日も眠ったまま死んだなんてことはないらしい。 「おはよう、マスター」 セイバーが其処にいた。 「あ、あぁ――おはよう」 おはよう、という響きは鉄火場にあってはあまりに日常的過ぎて面食らうが、別におかしな挨拶でもない。少しどもりながらも返すと、セイバーは訝った。 「どうした、よく眠れなかったか?」 「いや――――」 起き上がって、柔軟する。体の何処にも痛みはない。可動域も正常。意識もはっきりしている。 「――――いや、よく眠れた。少し夢見が悪かっただけだ」 「ふぅん?」 そう……夢見は、悪かった。 あの夢を見るのは久しぶりだ。 深呼吸を一つして、気を取り直す。 陽の高さから推し量るに、時刻は10時過ぎと言ったところか。 「ミコトは?」 「斥候に出た。さほど遠くには行かないと言っていたが」 黙って出した、ということは状況は昨晩のまま、差し迫った危険はないのだろう。 「寝ずの番させて悪かったな」 「サーヴァントに睡眠は必要ない。が――その気遣いは良いな、大切なことだ」 「人として、か?」 なんとも老人臭い説教を言う。 まぁ、サーヴァントなど実年齢から言えば大方遥かに目上ではあるが。 「いいや? 英雄として、さ」 セイバーは笑った。 英雄。 そういえば召喚した直後も、この女は俺をそう呼んだ。 「セイバー、その“英雄”ってのはなんなんだ。英雄はお前だろう?」 「うん? いや、オレは英雄と呼ばれる類の存在ではないな」 事も無げに言う。 面食らったが、確かにサーヴァントとして呼ばれる中に英霊以外が混じることもなくはない。 「……じゃあ、その、神様の類か」 慎重に言葉を選んだ。 信仰の強固な英霊は人(アラヤ)よりも星(ガイア)に属するようになることがある。逆に、星(ガイア)に属していても信仰が希薄なものはサーヴァントシステムの召喚に応じるケースが侭あった。 ……つまるところ、凋落した神霊の類だ。 「そうさなぁ、そういう類……と言えなくもないが」 どうにも煮え切らないセイバーの様子に業を煮やし、俺は問うた。 「セイバー。お前は昨夜、俺たちに協力を約束してくれたはずだ」 「あぁ、人類が滅びるか否かの瀬戸際とあってはな。是非もない」 そこの返答は、昨晩と変わりなし。 どうも話した感じでは、セイバーは反英霊や怪物の類ではない。世界の危機とあっては願いもさておき協力してくれる、正純の英霊の類だ。 「であれば、お前の真名を教えておいてくれないか。相棒のことも碌に知らないんじゃ、勝てる戦いも勝てやしまい」 聖杯戦争において、英霊の真名は大きな戦略的価値がある。敵の真名を看破すれば大雑把な相手の宝具やスキルを推察できるし、時には弱点さえ知ることが出来る。 翻って、自分のサーヴァントの真名と能力を吟味しなければ有効な戦術は立てられない。 敵を知り己を知れば――というヤツだ。 「真名……か」 だが、セイバーは考え込んでしまった。 「どうした? まさか忘れたってんじゃないだろうな」 「そんな英霊がいるものかよ。ただオレは事情が少し込み入っていてな、真名は戦術の参考にならんし、その――縁起も悪い」 「縁起ぃ?」 妙なことを言う……が、冗談という感じでもない。 名前に呪いでもかかっている類か? 「そう――そうだな、ではこう名乗ろう。いいか、よく聞け―――」 セイバーは納得したように一つ頷くと、咳払いした。 胸を張り、謳いあげるように名乗りを上げる。……こういう芝居がかった所作は、なんというか“如何にも英雄っぽい”のだが。 「――――オレは、“パラディオン”だ。少なくとも民草はそう呼ぶ」 [No.642] 2015/12/09(Wed) 21:10:47 |