コテパト。いち。 - アズミ - 2017/12/04(Mon) 10:31:42 [No.651] |
└ コテパト。に。 - アズミ - 2017/12/25(Mon) 15:43:44 [No.652] |
└ いつもの池水通洋 - アズミ - 2017/12/25(Mon) 16:02:14 [No.653] |
└ コテパト。さん。 - アズミ - 2017/12/25(Mon) 21:10:43 [No.654] |
└ コテパト。よん。 - アズミ - 2017/12/26(Tue) 00:05:31 [No.655] |
└ コテパト。ご。 - アズミ - 2017/12/26(Tue) 23:31:12 [No.656] |
└ コテパト。ろく。 - アズミ - 2017/12/28(Thu) 23:08:52 [No.657] |
└ コテパト。なな。 - アズミ - 2017/12/30(Sat) 00:02:36 [No.658] |
└ コテパト。はち。 - アズミ - 2018/01/02(Tue) 14:34:11 [No.659] |
└ コテパト。きゅう。 - アズミ - 2018/01/02(Tue) 22:14:29 [No.660] |
『1号車現着、ヘルプまで30びょー……うってトコですが』 2号車のキャリアに備え付けの拡声器から、2号車指揮たるスーの間延びした声が響く。 『大丈夫ですかぁ、一真さん?』 『大丈夫に見えんのかこれがっ!?』 両側から作業用レイバーに押さえつけられた2号車の中から、搭乗員の海道一真が悲鳴を寄越す。 2号車の機種はAVS-98Mk.2“スタンダード”。篠原重工が開発した警備用レイバーで、かの警視庁特科車両二科第二小隊に配備されていたAV-98 イングラムの一般販売モデルだ。 両脇から押さえつけている作業用レイバーは“タイラント2000”。菱井インダストリー製の傑作作業用レイバーである。 さすがに警備用と作業用では純粋にトルクを比べれば大人と中学生ほども差がある。まともに1対1で殴り合えば敵ではないが、同時にがっぷりと組み付かれて力比べとなると大の大人も分が悪い。 『ぐ、ぬ、ぬ、ぬ……!』 それでもどうにか両足の踏ん張りだけは維持する。 人間もレイバーも駆動の基本原理は同じで、この状態で一度膝をつこうものなら立ち上がることは困難だ。 このまま押し合いを続ければそれも時間の問題ではあったが……。 『はいそのままそのまま、もう少しの辛抱ですよ、さーん、にーい、いーち…………はい!』 『オラァッ!!』 スーのカウント通りのタイミングで横から割って入った1号車の飛び蹴りが、片方のタイラントを強引に引き剥がす。 『やほぅやほぅ康一さん、お早いお着きで。では、一真さん』 『おうっ!』 一真はすかさずもう片方のタイラントを引き剥が――さずに、むしろ万力を以って押さえ込み、同時に左腕を1号車に向けて突き出した。 『こーさん!』 阿と叫べば 『あいよ!』 吽と応ずる。 刹那の逡巡も挟まず1号車は2号車のシールドから飛び出した電磁警棒を引っ掴み、2号車が押さえ込んだタイラントの機関部に先端をねじ込んだ。 スパークが夜闇に走る。伝送系が沈黙し、タイラントはその場に擱座した。 もう1機に目をやれば飛び蹴りで膝のアクチュエーターをやられたらしく、うつ伏せになったままじたばたと両腕を動かしている。あの状態では操縦席からの脱出も侭ならない。 ひとまず、胸を撫で下ろした。 『わりぃ、助かった』 『あぁ……、おい大丈夫か、膝がすげえ音鳴ってるぞ』 『え、マジか』 康一に言われてペダルを踏むと、なるほど膝がギュイィィン、と濁った音を立てる。過負荷でアクチュエーターが不調らしい。 『おおっと、これはパティさんがお冠ですな』 『うへぇ……』 基本的に膝、肘、腰のアクチュエーターの交換は高くつく。 十神の経理……厳密には社長の家の居候で社員ではないのだが……を務める幼女の長くて厳しくて理不尽な説教を想像して一真はげんなりとした。 『で、残りの1機は?』 2号車のシールドに電磁警棒を戻しながら、康一が問う。不正起動の発報は3つだったはずだ。 『あぁ、最初に菱井のヘラクレスを1機やった。そこに――』 2号車が示す先にカメラを向ける。 なるほどそこには正座するように擱座した菱井製の汎用レイバー、ヘラクレス21の姿があった。が、康一はふと違和感を覚えた。 近づいて後部ハッチを確認する。 『……搭乗員がいないな』 『っと、逃がしたか?』 『あぁ、そのままそのまま。放っておきましょう』 慌てて周囲を見回す2号車だが、スーがそれを制する。 『捕物は警察のお仕事ですからな』 十神はあくまで警備会社であり、盗難の阻止が目的である。 犯人の身柄を押さえるのは業務の内に入っていない。だからこそ、事前に警察にも通報を入れたのだ。 が。 『それに、ほら。放っておいてもうちの元警部補殿が押さえてくれそうですし?』 ● さながら羆の如き圧力と速度で、高橋敬治の巨体が闇を疾駆する。 前方を走る賊の足は鈍かった。足の速さがどうこうというより、走る方向に惑っている動きだ。夜闇に放り出されて右も左も解らないまま遁走するとなれば大概の人間はそうなるのだが。 一方で敬治の走りには微塵もブレがない。ホシを見定めたらまっしぐら、万難を排して一直線に突き進む。 追いかけっこというのは、追う方が圧倒的に有利なのだ。だから警官はホシを挙げられる。敬治は生安に回される前、捜査一課の先輩にそう習った。 「ふっ!」 十分に追いついてから、鋭い呼気と共に跳躍。必殺を期したタックルがヘラクレスの搭乗員の腰に突き刺さる。 「ぐえーっ!?」 二人でアスファルトの上を転がり、すかさず腕ひしぎで右腕を極める。 「あだだだ、ギブ、ギブギブッ!折れる、折れっ!?」 「暴れなきゃ折れん、大人しくしてろ」 生憎と今の敬治に手錠はない。 代わりにベルトを外して、後ろ手に両腕を拘束した。 「やや、お勤めご苦労様ですな高橋警部補」 「元、警部補だ」 後ろから悠々と近づいてくるスーに、息を吐いて応じる。 「警察に任せておけば宜しいでしょうに」 「ホシが逃げてるのを見たら、思わず走り出してた」 「まるで犬のようなことを仰る」 「犬は喋らねえよ」 減らず口を返すが実際、警官(イヌ)の性分というヤツなのでスーの茶化しに不快になる筋合いではない。 それどころか、無駄な労働をした徒労感よりも自分の逮捕術が衰えていないことへの安堵と誇らしさが敬治の五体を満たしていた。 全く、度し難いと自嘲する。 「ところでケイジさん、私日本の警察の構造には詳しくないのですが」 「あぁ?」 「犯人が未成年でも、警察に直接引き渡して構わないのでしたっけ?」 「未成年?」 言われて改めて、犯人に向き直る。 気を利かせてか、スーが手持ちのライトを顔に当てた。 「うわっぷ、眩し……!?」 子供だった。 年齢は十代半ば、か。非行に走るにしてもレイバー窃盗に手を出すには聊か若すぎる。 「……面倒なことになりそうですなぁ」 スーの呟きに、敬治は心中でだけ同意しておく。 東の空が、ようやく白み始めていた。 [No.655] 2017/12/26(Tue) 00:05:31 |