スチームパンクスレ再録 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:39:13 [No.5] |
└ File:1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:40:42 [No.6] |
└ クレメンティーナは眠らない1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:41:47 [No.7] |
└ クレメンティーナは眠らない2 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:42:47 [No.8] |
└ 帝都迷宮案内1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:43:30 [No.9] |
└ 帝都迷宮案内2 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:44:55 [No.11] |
└ 博士と助手と人形と1 - 桐瀬 - 2011/04/24(Sun) 12:45:50 [No.12] |
└ 清水自動人形工房 - ジョニー - 2011/04/24(Sun) 12:46:52 [No.13] |
└ ジャックが笑う1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:47:30 [No.14] |
└ クレメンティーナは眠らない3 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:49:11 [No.15] |
└ ジャックが笑う2 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:49:53 [No.16] |
└ ジャックが笑う3 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:50:26 [No.17] |
└ 博士と助手と人形と2 - 桐瀬 - 2011/04/24(Sun) 12:51:12 [No.18] |
└ 赤の退魔剣士 - ありくい - 2011/04/24(Sun) 12:52:26 [No.19] |
└ ジャック狩り1 - ジョニー - 2011/04/24(Sun) 12:53:07 [No.20] |
└ 人形夜会1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:53:43 [No.21] |
└ ただの趣味だと彼は言った - 咲凪 - 2011/04/24(Sun) 12:54:23 [No.22] |
帝都四番街、通称『故買通り』。 その名の通り故買屋を始めとした小さな個人商店が立ち並ぶ、雑多とした通りである。 質流れ品に始まり、不法拾得物、盗品、果ては逸れ自動人形まで。帝都のありとあらゆる物品ががここに流れ込み、店先に並ぶ。 そんな一種アウトローな街でありながら治安が悪くないのは、組合がマフィアと繋がり自警能力を保持していること、そして……他ならぬ帝都警察が、この通りをよく利用するためであった。 (とはいえ、俺ァこの空気は好きになれんが……) ウィンストン警部は人ごみの中を進みながら独りごちた。 収入の実に6割が呑み代に消えるような、真性の飲兵衛である。昼間の商店街を歩くこと自体が「らしくない」。既に両手に余る回数訪れながら、未だにこの通りに馴染めないのもむべなるかな、と自覚はしていた。 4番街の中心を東西に横断する通りのちょうど中ほどから右折し、路地を進んで3つ目のビルヂング。外に張り出した階段を上って古いが場違いに小洒落たデザインの扉を開くと、目的の店はある。 『古物商 縁起屋』。 ● 扉を開けるとかららん、と低いベルの音が店内に響いた。 中は表の通りに負けず劣らず雑然としている。 人形、刀剣、壺に絵皿、異国の物らしい扇や織物、果ては古書まで並んでいる。総じて年代物のようだが、たまにピエロの人形まで転がっていたりして、アンティークとしての価値は疑わしいとウィンストンは思っていた。 「あら、いらっしゃいウィンストン警部」 並べられた人形の一つが首を向けてウィンストンに挨拶した。 頭と胸元に黒い羽があしらわれた、少女のビスクドール。 不本意にも不意を突かれて、渋面を作る。見知った顔であった。 「おどかすない、黒羽の嬢ちゃん」 「それは、ごめんあそばせ」 悪びれた様子もなく言うと、人形……黒羽のクレメンティーナはひょい、と跳んで近くの棚に着地する。 30cmに満たない人形と警部の視線の高さが、合った。 「それで何の御用かしら、警部。アンティーク趣味に目覚めたようにも思えないけれど」 ウィンストンはクレメンティーナの軽口に、うんざりした様子で手をひらひらと振った。 「当たり前だ、貴重な安月給をそんな高価い趣味に割り振れるか。 ……水仙寺はいるか?」 クレメンティーナは肩をすくると、「奥よ」と一言残して床に飛び降りるとそのままとことこと歩いていってしまう。ついてこい、ということらしい。 張り出した商品棚のおかげで随分狭くなった店内を突っ切り、奥の通用口に入る。 細長い廊下を歩くと、甘い匂いが鼻腔を突いた。 「……何やってるんだ、アイツは」 「アップルパイを焼いてるの」 「アップルパイぃ?」 「駅前で食べたら美味しかったからって」 アンティークショップの店主が、店先を放っておいて真昼間からアップルパイを焼いている。 ……道楽にしてももう少し店主らしくしても罰は当たるまい、とウィンストンは思う。指摘する義理もないので黙っていたが。 頑丈な鉄の扉を押し開けると、そこは工房になっていた。 「クレメンティーナ、ドアはノックしてから開けろよ……」 そこで、恐らくは料理用ではない前掛けをつけた青年が、恐らくはアップルパイ以外の何かを焼くために誂えられたはずの竃でアップルパイを焼いていた。 「って、あれ、ウィンストン警部?」 「……水仙寺」 これまた、ウィンストンの知己である。 青年……縁起屋店主・水仙寺千多はきょとんとした顔でウィンストンの仏頂面を見上げた。 その手には、焼きあげられたばかりのアップルパイ。 「……食べる?」 「……甘いものは好かん」 絞り出すように、ウィンストンはそれだけ言った。 ● 適当に引っ張りだした椅子をウィンストンに勧めて、自身は立ったままアップルパイの皿を作業台の上に広げた。 人形製作用のものらしく、大きさと形はちょうど手術台のそれだ。食欲を殺がれること著しいが、当の店主は気にしない様子でアップルパイを頬張る。 「……んで、何の用?」 「俺がアンティークを求めに来ると思うか?」 「そりゃ、明日には帝都が滅びるなぁ」 千多はけらけらと笑った。が、パイを一齧りする間に、真面目な表情を作る。 「じゃあ、事件か」 「……そうだ。魔法使いの手がいる」 ウィンストンは苦虫をかみつぶしたような表情で頷いた。 魔法。 古より続く、情報を物理力に変える秘儀。実在するオカルト。周知されたアンタッチャブル。 時として拳銃以上の殺傷力を発揮する凶器であり、最新鋭の防犯装置を無に帰するイカサマである。 帝都警察にも魔法使いは存在するが、犯罪の数に対して全く足りていないのが実情だ。 故に。こうして、市井の魔法使いに捜査員が個人的な伝手を使って渡りつけ、協力を仰ぐことはザラにある。 つまるところ、ウィンストンと千多の関係も、まさしくそれであった。 「報酬は?」 「官憲への協力は市民の義務だ」 「酷い話だなぁ」 「断るか?」 「いや? 協力しよう」 千多は手に残ったパイを胃袋にさっさと収めると、前掛けを外して壁のフックに放り投げた。 「ちょうど、退屈してたんでね」 「言ってろ、万年、閑古鳥鳴いてるくせしやがって」 甘いものは好かないのだが、昼飯を抜いてきたせいか小腹がすいた。 ウィンストンは作業台の上のパイを一切れひっつかむと、むしゃりと一齧りした。 「クレメンティーナ!」 「お傍に。マスター」 何時の間に持ってきていたのか、クレメンティーナが足元にステッキとコートを持って控えている。 千多はコートを翻してステッキを携える。髪はぼさぼさ、眼鏡は弦が少し曲がっており、お世辞にも整っているとは言い難いが、これが彼の「余所行き」だ。 「で、今回はどんな事件なんだい、警部」 問われてウィンストンは食べる手をピタリと止めた。 「……お前、切り裂きジャックって知ってるか?」 [No.7] 2011/04/24(Sun) 12:41:47 |