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all スチームパンクスレ再録 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:39:13 [No.5]
File:1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:40:42 [No.6]
クレメンティーナは眠らない1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:41:47 [No.7]
クレメンティーナは眠らない2 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:42:47 [No.8]
帝都迷宮案内1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:43:30 [No.9]
帝都迷宮案内2 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:44:55 [No.11]
博士と助手と人形と1 - 桐瀬 - 2011/04/24(Sun) 12:45:50 [No.12]
清水自動人形工房 - ジョニー - 2011/04/24(Sun) 12:46:52 [No.13]
ジャックが笑う1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:47:30 [No.14]
クレメンティーナは眠らない3 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:49:11 [No.15]
ジャックが笑う2 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:49:53 [No.16]
ジャックが笑う3 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:50:26 [No.17]
博士と助手と人形と2 - 桐瀬 - 2011/04/24(Sun) 12:51:12 [No.18]
赤の退魔剣士 - ありくい - 2011/04/24(Sun) 12:52:26 [No.19]
ジャック狩り1 - ジョニー - 2011/04/24(Sun) 12:53:07 [No.20]
人形夜会1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:53:43 [No.21]
ただの趣味だと彼は言った - 咲凪 - 2011/04/24(Sun) 12:54:23 [No.22]


クレメンティーナは眠らない2 (No.7 への返信) - アズミ


 帝都警察四番街詰め所の一室。

 ごとりと重い音を立てて、千多の前のテーブルの上に刃物が置かれた。
 大きい。
 全長はクレメンティーナの身長より少し小さい、程度。ナイフにしては少し歪で、携帯性に劣る。肉の切断に特化しているようだが、包丁の類にしては刃が肉厚すぎ、頻繁なメンテナンスを必要とするだろうと千多は看破した。

 つまるところ――――。

「……医療用メス?」

 テーブルの上に座っていたクレメンティーナが評する。

「らしいな。外科医が一般的に使っているものとは違うらしいが」

 ウィンストンが珈琲を一啜りして首肯する。
 千多が一応「触っても?」と問うと、「あまり指紋をつけるな」という条件付きで許可が下りた。
 素手で、柄の先に指を乗せる。

「――起動」

 スターター・ワードを唱えると触れた指から若干の熱量が奪われ、メスの内側で1/1000ナノメートルの歯車が回転を始めたのを『感じた』。
 脳裏に4つばかりの術式が浮かぶ。

「……『魔法の杖』だな、これ。
 搭載術式は『切断』『探査』『癒着』『分析』。
 医療用魔法使いが使う奴だったと思う」

「そうだ。つまりこれが犯人の遺留物ならば――」

「……切り裂きジャックは魔法使いってことか」

 ふん、と鼻を鳴らして千多はメスから指を離した。





 切り裂きジャック。
 それは帝都を1月ほど前から騒がす、連続殺人事件の犯人の通称だ。
 犯行はいずれも夜。犠牲者は全て女性。その名の通り、鋭利な刃物で一突きにされていずれもほぼ即死。
 犯人の特定は遅々として進まず、既に犠牲者は計18名を数えた。
 手掛かりは、必ず犠牲者から幾つかの内臓を摘出し持ち去っていくという猟奇的な手法と、そして……今千多の目の前にある、遺留品と思しきメスだけ。





「でもこれで犯人を特定しろってのはなぁ……」

 千多は息を吐いて首を傾げた。
 階差機関はその性質上、用途が限定される。
 魔法の杖も例外ではなく、どれだけ優れた魔法使いでも、搭載された術式以外を行使することはできない。魔法使いの仕事とは愛用の杖に編み出した魔法を階差機関として追加していくことであると言っても過言ではないのだ。
 優れた杖ならば1000以上の魔法記述が搭載されていることもザラだが、目の前のメスはたった4つ。使い捨てとまではいかないが、間に合わせ程度の出来と言えるだろう。

「外装も普通のメスを転用したものだろうし、術式もクセがない。
 魔法の杖である以上、犯人の指紋は出たんだろ? ……個人特定はそれが限界だろうな」

 魔法の杖の起動には先刻千多がそうしたように、素手で接触する必要がある。
 当然指紋は出たのだろうが、犯人がある程度絞れなければ有効には働かないだろう。
 ウィンストンの返事も色のないものだった。

「出たとも。
 だがこの三日間で帝都中の医療用魔法使いをあたったが、アタリは無しだ」

 黙り込む千多とウィンストン。
 そこに、クレメンティーナが声を挙げた。

「……人形師は?」

「あ?」

「人形師なら、メスを使うこともあるわ。そうでしょう、マスター?」

「……そうか、義肢装具士なんかをやってれば可能性はあるな」

 人形師とは自動人形を製作、あるいは保守整備する技術者の総称だが、自動人形のパーツは生体電流と同期させることで義肢にも転用できるため、義肢装具士を生業にする者も少なくない。
 一般に蒸気機関に造詣の深い技師が多いとされるが、自動人形の人工知能には高度な階差機関を要するため、そのスペシャリストである魔法使いを兼ねることも多かった。

「……そうか、『人形師』で『魔法使い』!それならだいぶ絞られるな。さっそく出るぞ!」

 色めきだって立ち上がるウィンストンに、千多は眉をひそめた。

「今から?」

「当たり前だ、こちとら一刻も早く解決しろって上からせっつかれてるんだからな!
 お前も来い、同業なら条件に当てはまる心当たりぐらいあるだろうが!」

「へいへい……おいで、クレメンティーナ」

「慌ただしいことね、マスター」

 クレメンティーナは肩をすくめると、コートを纏った千多の肩に飛び乗った。


[No.8] 2011/04/24(Sun) 12:42:47

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