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No.188に関するツリー

   サイバーパンクスレ本編再録第二部 - アズミ - 2011/05/01(Sun) 00:34:27 [No.188]
Otaky-dokey - アズミ - 2011/05/01(Sun) 00:35:19 [No.189]
Shadow run - ミド=クズハ  - 2011/05/01(Sun) 00:38:53 [No.190]
とあるテロリストの日常 - 夜天光の愉快な仲間達 - 2011/05/01(Sun) 00:39:53 [No.191]
Otaky-dokey2 - アズミ - 2011/05/03(Tue) 21:02:36 [No.246]
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BeastBeat1 - アズミ - 2011/05/03(Tue) 21:04:06 [No.248]
Otaky-dokey3 - アズミ - 2011/05/03(Tue) 21:04:58 [No.249]
MkU対MkV・ラウンド1 - 咲凪 - 2011/05/03(Tue) 21:05:39 [No.250]
Shadow blade - ミド=クズハ - 2011/05/03(Tue) 21:06:33 [No.251]
Otaky-dokey4 - アズミ - 2011/05/03(Tue) 21:08:27 [No.252]
奇襲、あるいは殴りこみ - 鷹目 - 2011/05/03(Tue) 21:09:20 [No.253]
苦戦 - 遼 - 2011/05/03(Tue) 21:10:03 [No.254]
Phantom Crash1 - アズミ - 2011/05/03(Tue) 21:10:44 [No.255]
Shadow mission - ミド=クズハ - 2011/05/03(Tue) 21:14:39 [No.256]
Phantom Crash2 - アズミ - 2011/05/03(Tue) 21:15:15 [No.257]
やりたい放題、あるいは喧嘩を売る - 鷹目 - 2011/05/03(Tue) 21:15:59 [No.258]
Phantom Crash3 - アズミ - 2011/05/03(Tue) 21:16:44 [No.259]
Shadow - ミド=クズハ - 2011/05/03(Tue) 21:17:18 [No.260]
ティム・アンダーソンの憂鬱1 - DD3 - 2011/05/03(Tue) 21:18:17 [No.261]
ティム・アンダーソンの憂鬱2 - DD3 - 2011/05/03(Tue) 21:19:02 [No.262]
見上げた空は高く青く - カオル・ミヤタカ - 2011/05/03(Tue) 21:19:55 [No.263]



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サイバーパンクスレ本編再録第二部 (親記事) - アズミ

でし。

[No.188] 2011/05/01(Sun) 00:34:27
Otaky-dokey (No.188への返信 / 1階層) - アズミ

AM7:00。
 アラームプログラムで、強制的に私の意識は目覚めたくもない朝を迎える。

 今日のスケジュールは午前10:00からマクハリコロッセオでフリーバトル。
 重要性は低いが、ランカーともなればポイント稼ぎ程度の試合にも、出場は極力しなければならない。
 それが王者たるものの務めだ。仕方なし。速やかに我がマスターを起床させねばなるまい。

 アパートメントのコンディショナルシステムにジャックイン。我が主人が就寝するはずの枕元の端末から現実とリンクする。

『おはようございます、My Master。
 お目覚めのほどは――』

 挨拶する暇も有らばこそ。
 すえた臭いと、端末に引っかかった生暖かい感触が私の意識を不快の奥底に叩き落した。

「あ――」

 恰幅のいい男が、下半身裸でこちらを見ている。
 お世辞にも美男とは言えず、健康状態を害するほど肥満で、眼鏡の向こうの視線は常に陰気に下を向いた――つまるところ、第一印象においておよそ想像し得る限り最低なこの成人男性が、私の主人。
 カケル・オオタその人だ。

「……Chu-B?」

 カケルは呆けたように私を呼んだあと、慌てて下着を上げて居住まいを正そうとし、片付けようとした性処理用ガイノイド(要するに喋るダッチワイフだ)に蹴っつまずいてベッドの下に転げ落ちた。

『この上なくスッキリお目覚めのようですわね、マスター』

 できればまずは速やかに、端末に引っかかった精液を拭っていただきたいのだけれど。

 本日の義務を果たしたガイノイドが、思考の無い瞳に窓の外の朝陽を映していた。





 無機質な壁が、上から下に流れて行く。
 コロッセオに続く上昇リフトは少々長く、圧迫感のある光景と天板から伝わる微細な振動はルーキーの緊張感とベテランの高揚を助長する。

「だから……悪かったってばさ、Chu-B」

 コクピットの中で謝罪の言葉を繰り返す主人を放置し、私は黙々と機体のアセンブルの最終確認を続けた。

『全く、一切、これっぽっちも気にしておりませんわマイマスター。
 極めて遺憾ながらこれが初めてではありませんので』

 世間の男性の自慰回数の平均は寡聞にして知らないが、普段自宅のシステムに常駐している以上、何らかの形で主人の秘め事を目撃してしまうことはままある。
 それが恋仲の女性相手というならこちらこそ恥じらい、申し訳なく思うところだが、残念ながら私が知る限り彼の相手は常に性処理用ガイノイドだ。

「や、でも怒ってるでしょ君?」

「何を怒る理由が?
 私にはマスターの生理現象を咎める権限は与えられていませんけれど」

「いや、でも不機嫌じゃんさ」

「……端末に精液が付着したせいで不機嫌になる権利は、認められていますから」

 ジャックインしている端末に汚物を引っ掛けるのは本当に勘弁して欲しいのだが、それにしてももう3度目になる。
 ……まさか狙ってやってるのではないでしょうねこの白ブタ。

「わざとじゃないんだって。こう、体位がさ、偶然……ほら、あのガイノイド重いから……」

「弁解はそこまでで結構です、マスター。ワイヤードはお済になって?」

「あ、うん」

 ずらずらと言い訳を並べ立てるマスターの言葉を遮って、システムを立ち上げる。
 アセンブリオールグリーン。
 ワイヤード・ジャックオープン。
 カケルの電脳と我らが騎乗のAW『窮鼠』がリンクし、鋼の四肢に人の意識と戦術が宿る。

『さぁーっ、ここで皆お待ちかね、チャンプのお出ましだ!』

 旧市街各所に配されたスピーカーから、実況の肉声が響き渡る。

『2099年春シーズンのデビュー以来、同年内に軽量ランク制覇の大偉業!
 黒が踊ればブロックへッズが赤に染まる!
 誰かコイツを止められないのか、三期連続チャンピオン!』

 窮鼠のAWにしては細い足が、ゲートを出てアスファルトを踏みしめる。
 目の前に広がるのは廃墟と化した旧市街。学園都市が夢の跡。

『“OtaK”の登場だァー!』

 実況のシャウトと共に、その声の背後から「殺(シャー!)」「殺(シャー!)」というギャラリーの歓声が飛んでくる。
 古の剣闘士への殺せ殺せという野次と、有名なロボットアニメの登場人物をかけたコールらしい。
 ……正直品が無いので私は嫌いだ。

『さぁ、ぐちぐちした貴方はお仕舞い。
 ブタにダンスが踊れて、マスター?』

「わかってる」

 モニターギア越しに外界を睨むその顔は、既に醜い白ブタではなく、王者の顔だ。
 この一線があるからこそ、彼は私のマスターなのだ。

「行くよ、Chu-B!」

『ヤー、マイマスター!』

 黒き鼠が獲物の喉笛を噛み裂くべく、コンクリートのコロッセオへ躍り出た。


[No.189] 2011/05/01(Sun) 00:35:19
Shadow run (No.189への返信 / 2階層) - ミド=クズハ 

 闘戯運営委員会
 東京中央部の一角に本部を構える当委員会は、今日本で最も注目を浴びているエンターテイメント『バトリング』の発信地である。
 現在バトリングの運営を一手に担っている組織ではあるが、最初期から存在していたというわけではない。
 当初は主催となるいずれかの組織が存在し、行われていたバトリングであったが、やがて興行としての地位を確立してくると競技者を対象とした犯罪が横行するようになる。競技場内だけでならまだしも、外部の風紀治安を乱す様な興行は流石に警察組織が黙ってはいない。
 このままではバトリングの将来が危ぶまれる、という事で各企業が出資しあって立ち上げたのが当委員会である。
 当委員会の目的はバトリングが『正常に』取り行われるように取り計らう事。
 それには会場や競技ルールの設定から、各企業の橋渡し、選手の安全保護などバトリングに関わるあらゆる業務が含まれる。
 故に当委員会の職員は、バトリングに関する広範な知識が求められる。日々学び職務にも励む事

「はい、以上」

 委員会本部の一室で手元の資料を読み上げたミド=クズハはそう言って一息ついた。
 その眼前に居並ぶは、この春から委員会にて働くこととなった新人達。

「色々と大変な事も多いと思うけれど、頑張っていきましょうね」

「はい、ありがとうございました」

 期待と不安の混じった眼差しの中、激励の言葉をかけたミドは司会の言葉と共に壇上を下りた。


●●


「ミド、おつかれ」

「あら、わざわざありがとう」

 控室に戻ったミドを待っていたのは彼女の友人であり同僚でもあるところのリリであった。
 種族こそ違うものの、同じ亜人であり同期でもある二人は入社以来の友人である。
 決定的に違うのは、リリは戦闘ができないが為に並んで戦場に立つような事は無いという事であるが。

「部長が探してたわよ」

「……お仕事?」

「たぶんね」

 委員会の仕事はバトリングに関わる全ての事である。どのような手段をもってしても試合が正常に行われる事を至上命題とし、活動する。
 その手段として暗殺などを用いる事も躊躇せず、構成員の中には戦闘に特化した技能を持つ者もいる。
 ミドもその一人であり、普段は雑務をこなしている彼女に上から仕事が降ってくる場合は大抵がそのような仕事の要請である。

「私の仕事は給仕なんだけどな」

「もう諦めなよ。今の挨拶だって、『そういう場』だったんでしょ」

 元々戦闘要員として組織に入ったわけではないミドとしては現在の境遇には不満はあったが、だからと言って嫌だというわけではなかったので続けている現状である。職務に誇りは持ってはいるが、やむを得ずと言えばそうでもある。

「まあ、行ってくるよ。無事を祈っててね」

「頑張って。帰ったら美味しいお店、連れてったげるから」

 
●●

 今回の任務は、後日マクハリで行われる試合に出場する選手の安全を確保する事。
 本部の情報によると相手は二名。両選手のどちらを狙っているかまでは情報で入手できなかった為、現地で判断との事。本部にしては情報があやふやなのがひっかかるが、任務に支障はないと判断。

「リリ、別所はどうなってる」

「特に異常無し、ね。そっちでアタリじゃない?」
 
 通信機越しにリリが答える。
 次の一戦、彼我の実力差を考えれば、おそらくは相手は放っておいても負ける。
 ならば……

「来た」

 サイバーアイの感度を上げる。
 サーモセンサーに反応するのは道端の小動物を除けば人影が二つ。
 真下にあるビルとビルの間の裏路地。通常であれば入る必要のない地点。

「こっちでも確認したわ。間違いないわね」

「了解」

 確認完了を聞くと同時にビルを跳び下りる。
 落下しつつ左手で切羽の握りを確認。問題は無い。

「一人」

 着地と同時に後ろに居た人間を肩口から斬りつける。
 サイボーグでは無い。ならばこれで無力化したと判断。

「なっ……?!」

 もう一人は相方がやられた気配を察知したのか、振り向いて事態を確認するなり逃走を試みる。

「逃がさない」
 
 右手を投げ縄の要領で振ると同時に放たれた鎖が相手を拘束する。
 紫電を起動。鎖を通じて相手を感電させ、抵抗力を奪った瞬間にこちらに引き寄せる。
 飛んできた相手を切羽で受け止め、そのまま振り抜く。

「二人」

 念のため周囲を確認する。他にそれらしき影は見当たらない。

「完了したよ」

「確認したわ。後はこっちでやっておくから帰還して」

「了解」

 通信を終了する。後は本部に帰還して報告を済ませて帰るだけだ。
 夜が明ける前には眠れるだろうと判断する。

「悪く思わないでね」

 残った二体の骸に向けて手を合わせてから私はその場を後にした。


[No.190] 2011/05/01(Sun) 00:38:53
とあるテロリストの日常 (No.190への返信 / 3階層) - 夜天光の愉快な仲間達

〜1日前〜

……ポッチャン

「豆腐を落とさないでください、汚いお方」

慣れた手つきで鍋から飛び跳ねた汁を布巾で拭きとりながら、10代中ごろと思しき少女…アルカディアが対面に座る男に目を向ける。
視線を受け止めるのは30台と思しき目つきの鋭い男。鍛えられた肉体と、鋭い雰囲気から所謂『武人』と呼ばれる人種を連想させる。

「………いつもと違うのだが。普段のものより崩れやすい」

目の前で人が血を流して倒れても眉ひとつ動かさないであろうテロリストの長だが、手に持った箸の上に3分の1程残った豆腐を見つめる姿はやや悲しげにも見える。

「いつもの物が売り切れだったのだから仕方ありません。我儘を言わないでください、子供のような御方」

「……………」

ゆで卵と豆腐は固いに限る、が鷹目のちょっとした拘りなのだが、ここでそれを口にするのも大人げないので黙って落ちた豆腐の掬い直す。今度は慎重に。

「……………」

何が可笑しいのかくすくす笑っているアルカディアを無視して豆腐を口に運ぶ。
いつもよりは少し柔らかいが、それでも確かな口当たりが……

『来客デス』

無機質な音声が響き、ヘアのドアが開く。入ってきたのは人間離れしたメタリックブルーの髪の毛と美貌を持つ女性…

「失礼、食事中か」

「MkUさんですか。貴方も如何ですか?美味しいですよ、鍋」

もちろん合成物ですけど、とアルカディアがミトンを装着した手で机の上を示す。

「そうだな、では相伴に」

「待て。………お前はアンドロイドだろう。それより何の用で来た」

今まで豆腐を味わっていた鷹目が口を開く。

「そうだった。件のバトリング選手誘拐事件の次の当てが判明した。明日、マクハリコロッセオ」

「………犯人は?」

「相変わらず不明だ。どこかの企業絡みには間違いないはずだが」

鋭い目に力を宿し、鷹目が立ち上がる。その姿は正しく戦場に赴く武人そのもの。

「……この目で確かめる。集められる者だけ集めろ。夜天光、出るぞ」

「畏まりました、勇ましい御方。仰せの通りに」

鷹目に愛用の刀を差しだしながら、少女は微笑んだ。


[No.191] 2011/05/01(Sun) 00:39:53
Otaky-dokey2 (No.191への返信 / 4階層) - アズミ

 ビルの向こうから不意に襲い掛かってきた機影に、私は正直、死を覚悟したが、カケルは難なく対応して見せた。

「右脚部テンション固定!」

『ヤー!』

 窮鼠の回し蹴りが、下段から這い上がるように襲い掛かる対戦車ダガーを持った腕をなぎ払う。
 AWなら関節が破壊される会心の命中だったが、果たしてノックバックされたのは我々の窮鼠のほうだった。
 敵の機体が異常に『重く』、『硬い』!
 凝固した血のように赤黒い敵機の双眸が、こちらを見る。

「PG……!?」

『なんですって!?』

 軍事オタクでもあるカケルの判断はシステムの機種判別より迅速だった。
 PG。パワード・ギア。純戦闘用大型パワードスーツ。
 パーツアッセンブルが出来ないため汎用性には劣るが、出力、耐久性ともにAWを凌駕する兵器。
 当然、AWのバトリングに出てきていいシロモノではない。

『ジャッジ!
 コロッセオにPGが入り込んでいますわ、レギュレーション違反ではなくて!?』

「抗議は後にしてChu-B!
 来る!」

 敵PGが跳躍する。
 あくまで人間の動きをフィードバックするPGの動きはスラスターとバーニアを併用するAWに比して重いが、『重い』からこそ重力加速度を味方につけた打ち下ろしは決して受けてはならない攻撃だ。

「マゴロクは!?」

『いつでも!』

 カケルは敢えて回避ではなく、迎撃を選択した。それも白兵攻撃によるカウンター!
 関重工製単分子ブレード『関孫E(セキソンシックス。通称マゴロク)』が閃き、脚部がダンスホールを舞うように激しく機動する。

「とった……!」

 果たして、マゴロクの一撃はPGの腰部を切断し、敵の対戦車ダガーは空を切ってアスファルトの上を転がった。

『Excellent!
 今のは褒めて差し上げてもよろしくてよ、マスター』

「はは……ど、どうも」

 シートからずり落ちかかってカケルが力なく笑う。
 実際素晴らしい離れ業なのだが、どうも格好がつききらないのがこのマスターのブタなところ。

『レギュレーション違反を発見。
 当該機体を確保する。全選手は指定ゲートから帰還せよ』

 無機質な命令が、機体内に直接響く。違反者の確保感謝する、ぐらいは言えないのかしらこのポンコツプログラム!
 カケルはすごすごと機体を出てきたゲートへ向けて進ませる。途中、違反機の処理に来た運営側の機体に道を譲りながら。

 聞き分けの良すぎる男なんて、夢がないと思いませんこと?

『おおっとぉ、なんとコロッセオに乱入者!試合はお流れかぁ!?
 しかし流石はチャンプ!運営側の介入を前に乱入者を秒殺だァー!』

 実況の、スポンサーからお叱りを受けかねない過激なトークと、『殺ー!』『殺ー!』という歓声を背後に、窮鼠はリフトに戻った。
 ひょっとするとあの下品な実況とギャラリーだけが、我々の最後の味方なのかもしれない。




 バトリングは日本のエンターテインメントの頂点といってよく、その興行の成否には多くのスポンサー企業の業績と威信がかかっている。
 部外者の乱入で試合が流れるなど一番あってはならないことで、闘戯運営委員会は関係者全てを東京本部に召喚し、事情聴取と相成った。

『乱入者についてはそちらの落ち度でしょう。
 被害者である我々が何故こんな査問じみた儀式に煩わされなくてはならないのです?』

 私の嫌味たっぷりの言葉に、委員会の役員は困った表情をした。

「……大変申し訳ないとは、思ってるんですけどね」

 マスターの担当は狐の亜人……悪いことに女性だ。
 うちの白ブタは無機物にしか勃たない真性のアガルマトフィリア(人形性愛症)の癖に、対人恐怖症の気もあり、生身の女性は亜人だろうが人間だろうが、まともに視線を合わせられないのだ。
 おかげで事情聴取が遅々として進まない。

『だいたい、犯人のPGは我が主人が仕留めたはず。これ以上何を取り調べると言うのです?』

「あれだけじゃなかったんですよ」

 不意に、役員の視線が鋭くなった。
 選手のお守を押し付けられたOLではない。……企業の手先となって汚れ仕事をやる、エージェントの目だ。

「あの試合に出場していたランキング4位のJacks選手が拉致されています。
 試合終了後、収容リフト内から機体ごと」

「Jacksが……?」

 聴取が始まって以来、テーブルとにらめっこしていたマスターが顔を上げる。
 Jacksとは何度か手合わせしたことがある。親しいというほどではないにせよ、知らない仲ではない。

「迂闊でした。
 我々はフリーバトルの1時間前、中量級ランカーマッチを狙った不審人物2名を排除しています。
 つまり、今日は――」

「都合3回も、選手が狙われた――?」

 尋常な事態ではない。
 コロッセオは廃棄された旧市街をそのまま利用しているため万全の警備というわけにいかないのは事実だが、それでもこの女性らのようなエージェントの目を逃れ、それ自体が兵器の操縦者であるバトリング選手を拉致するというのは並の犯罪組織の所業ではない。
 まして昇降リフト内から機体ごとなんて。

「唯一の手掛かりだった乱入PGのパイロットは拘束班が到着する前にサイバーウェアに仕込んでいた毒で服毒自殺。
 詳細は不明なれど、AWランカーを狙った、企業規模の動きがあるのは明確です。
 遺憾ながら、ランカーの方々には我々の保護下に入っていただきます」

「は、はぁ。わかりました……」

 言われるままにこくこくと頷くマスター。……正直カンに触る処置だが、ここは大人しく従っておくのが賢明だろう。
 本部の宿泊施設が豪華なことを期待したいものだけれど。

「では、部屋にご案内します」

「あ、あの……」

 立ち上がって先導する役員を、マスターが裏返った声で呼び止める。
 ……嫌な予感がする。

「が、ガイノイド、自宅から持ってきてもらっていいですか?
あれないと眠れなくて……」

 役員の女性は、笑顔を引きつらせながら首肯した。
 ……性欲だけは一人前の白ブタめ。


[No.246] 2011/05/03(Tue) 21:02:36
Shadow gate (No.246への返信 / 5階層) - ミド=クズハ

「しんっじらんない!サイテーよサイテー!ああもう、こんな仕事引き受けるんじゃなかった!」

 本部の食堂の一角でリリの悲痛な叫びがこだまする。
 彼女が引き受けた仕事というのは、保護した各選手の監視業務である。
 委員会は今回の事態を相当重く見ている。御膝元ともいえる競技場で誘拐事件が発生したのであるから当然と言えば当然ではあるが。
 いつ何時何が起こってもおかしくない状況下である為、可能な限りのランカーが保護された、ないしは保護に向かっているところである。

 保護した選手は本部にある宿泊施設で身柄を確保……言い方を変えれば拘束する。
 誘拐犯がアクションを起こした場合に即座に対処できるように、というのは建前で、委員会は今回の事件に選手並びに委員会内部もしくは関連企業の関与を疑っている。
 収容リフト内から機体ごと拉致するなど、並の芸当ではない。しかもそれを事前に察知されることなく行ったとなれば、手引きした何者かがいるとしか考えられない。

 場合によっては、私が排除した二名は囮であった可能性すらある。
 情けない話ではあるが、あれで終わりだ、という気持ちがあったのも確かではあるからだ。
 ID管理されDNAの末端まで登録されている上にそれでなくとも世間から注目されている選手を誘拐するなど、それだけ割に合わないのだ。普通に考えれば。

「……ミド、聞いてる?」

「え?ああうん、聞いてるよ」

「でね、それからアイツどうしたと思う?――」
 
 今リリが口悪しく罵倒している相手は、先に保護したバトリング選手のカケル=オータの事である。
 彼女は彼のモニター業務を引き受け……きっと見たくないものを見たのだろう。
 致し方無い部分もあると思う。処理するものは処理しなければならないのだから。寛容さが大事である。
 そう言うとリリに「……ミド。もうちょっと色んな事に頓着した方がいいと思うよ」と言われる。
 自覚はしている。けれど、不快だ嫌だと気にしすぎると仕事が務まらないのも事実だ。目を背けたくなるような事態などよくある。
 でもそういう事を普段から淡々と語ると、多くの人は引いてしまうし不快な思いをする。だから給仕の際はは努めて丁寧に振舞っている。御陰様で評判もそれなりのようだ。

「それで、何か不審なところとかは?」

「……ミドって本当に仕事熱心だよねえ」

 リリの愚痴を一通り聞き終えた後に尋ねると、彼女は呆れたように笑った。
 仕事熱心というのは少し語弊がある。単に、今の私の仕事は情報を集めることで、それには四六時中アンテナを張っていなければならないというだけの事だ。
 もっと暇をしていい仕事ならば、おそらくもっと羽を伸ばして適当にやっている事だろう。

「少なくとも、あの変態におかしなところ……挙動としてね。そういうところはないわ。」

「そう……」

 確かに事情聴取をした印象でも、それほど大それた事が出来るようには見えなかった。
 寧ろ、あのサポートAIの尻にしかれてそうな印象ですらあった。あれでバトリングの世界では名の知れた有名人だというのだから判らないものである。

「他の保護下にある選手に関しても同様ね。ただ……」

「ん?」

「まだ何人か所在が掴めてないランカーがいるのよね。たぶん、じきにそっちにも捜索令が出るとは思うんだけど……」

 新たな拉致被害者か、それとも自ら行方をくらませたか……いずれにせよ良い事態ではなさそうだ。
 
「保護下のランカーの今後の扱いは?」

「まだ据え置き。確実に潔白だと判断できるまでは戦力としてはあてにできないしねえ」

「相手がPGを持ち出してきてる以上、いざという時には期待したいのだけれど」

 委員会も戦力は保有しているが、『使い捨て』ても大きな損失とはならない上に一定以上の能力を有しているランカーは便利な存在とも言えた。

「まあ……ね。そういう意味じゃ、あの変態さんは敵性PGを撃退してる分白に近いんじゃないかしら。お芝居って可能性も無くは無いケド……そうするメリットも少ないしね」

 とりあえずは地道に当たっていくしかないか。
 そう思ったところで同僚が私を呼びに来た。どうやら仕事――さっきリリが言っていた事だろう――のようである。

 「頑張ってね」というリリに対して「そっちもね」と返すと、彼女は心底嫌そうな顔をした。
 さっきはああ言ったが、何度も見せられてそう気持ちのいいものではないだろう、というのは判るので少しだけ彼女に同情する。しかし、彼女はそれが仕事である以上やってもらうしかない。
 同じように、私は私の仕事をしっかりとこなさなければならない。それがどんなものであろうとも頓着している暇は無いのだ。


[No.247] 2011/05/03(Tue) 21:03:20
BeastBeat1 (No.247への返信 / 6階層) - アズミ

 その日、マクハリコロッセオに部隊を展開はしたものの、鷹目は様子見だけの腹づもりであった。
 この一件、背後関係が読めないのだ。
 バトリングランカーを狙った拉致事件の動きは以前から捕捉していたものの、それがどの企業の思惑なのかも判然としない。

(企業では、あるはずだ)

 たかが遊戯の運営係とはいえ、闘戯運営委員会はボンクラではない。そのまま企業軍の特殊部隊で通用する腕っこき揃いだ。
 その目を掻い潜って選手を拉致するとなれば、外部犯の可能性は低い。運営に関わるいずれかの企業の犯行でなければならない。

(だが、何の意味がある?)

 バトリングランカーは、優秀なAWパイロットだが、優秀な兵士ではない。その操縦資質において(そして多くの場合精神的資質においても)集団を構成する一部品として不適格だ。
 そんな人材を危険を冒して集める意味は、なんだ?

『悩ましい御方』

 アルカディアからの通信に、鷹目は思考を中断する。

「動いたか」

『はい』

 網膜投影式モニターに次々と情報が表示される。
 ハッキングした旧市街監視モニター。コロッセオの裏側20km先に、熱源が5つ。

『運営の通信を傍受しました。
 既に一機、ランカーをAWごと拉致したようです』

「鮮やかだな」

『どうします、雄々しいお方』

「……トレーサー起動。増幅角30」

 鷹目の音声を認識し、黒椿が鷹目の四肢と同調する。
 三度両手を握り、具合を確かめると鷹目は機体を立ち上げた。

「聞くまでもあるまい。
 ……出るぞ!」



 空を切り裂き飛来する弾丸を、身を屈めてやり過ごす。

「おォッ!」

 裂帛の気合と共に逆袈裟に切り上げた太刀は、しかし赤黒いAWの胸を浅く切り裂くに留まった。
 AWの右手が振り下ろされる。装備されているのは白兵戦用のレーザーカッター!

「ちッ!」

 刃で受けようものなら太刀ごと両断されてしまう。飛び退かざるを得ない。
 間合いを取ってビルの陰に機体を潜ませる。

(強いな……)

 遼機と思しき軍用PGも、現役企業軍並には手強かったが、目の前の一機とランカーを連れ去った一機……見覚えのないAWは飛びぬけて手強い。
 鷹目をして4合打ち合って勝負を決することが出来ずにいる。
 もはや『プロフェッショナル』ではない、『達人』だ。

「アルカディア」

『撤退は完了しましたわ、鈍間なお方。あなたもお早く』

「……致し方あるまいな」

 コロッセオからは離れているが、運営もいい加減この騒ぎに気づいただろう。もたもたしていればこちらがお縄だ。
 後方に跳躍し、高架に飛び乗る。
 最後に視線を一つやると、赤黒いAWは最早黒椿を見ることなく、都市の闇に消えた。




「1人のゴーストからは10機が限度。
 ……まだ少し、プレミアが過ぎますかねぇ」

 モニターの明かりに照らされながら、男は不満げに呟いた。


[No.248] 2011/05/03(Tue) 21:04:06
Otaky-dokey3 (No.248への返信 / 7階層) - アズミ

 委員会の用意した部屋は、まず以って上等と言って差し支えないものだった。……電脳上の存在である私には関係のないことだが。
 カケルも特に感慨を覚えた様子はなく、上着をテーブルの上に放り出すと、さっさとベッドの上に倒れこんでしまった。
 まだ午後の5時だが、AW操縦は結構な重労働だ。このまま眠らせても構うまい。

「……Chu-B」

 部屋のシステムから出ようとした私を、カケルが呼び止めた。

『何か御用、マスター?』

「Jacksはどうなるのかな」

 バトリングプレイヤー同士の交流は、概ね希薄だ。
 ゲームとはいえ不慮の事故で相手を殺してしまうケースも絶無とは言えないし、そもそも彼らはマスターを始めとして人付き合いが苦手な手合いがやたらに多い。
 その中ではJacksは社交的な部類に入っただろう。
 ジョークの好きな軽薄な男で、カケルが(それが例えネット上だけであっても)交流したことのある希少な相手だ。
 どうなったのか。私も、興味が無いではなかったが。

『私には解りかねますわ、マスター』

 少しだけ申し訳なく思いながら、私は正直に答えた。
 バトリングプレイヤーを誘拐してどうするのか。ランカーといえばファイトマネーは莫大だし、身代金を要求する可能性はある。あるいは委員会へ何らかの要求をするか、そもそもバトリングという娯楽自体へのダメージを狙ったものか。
 いずれにせよ、生きて帰ってくる可能性は少ない。
 誘拐とは、そもそういうものだ。

「そっか……」

 カケルもそれを悟っているのだろう。それ以上何も言わなかった。
 それほど交流が深かったわけではない。すぐにログアウトしてしまう電脳の絆。
 けれど、こうして消えてしまえば、人の心に痛みは残る。
 痛みを感じる程度には、カケル=オータはウェットなのだ。

「……もう休むよ。お休み、Chu-B」

 話はこれまで、というようにカケルはごろんと寝返りを打った。

『おやすみなさいませ、マスター』

 せめて眠りが、貴方の痛みを癒しますように。





 翌朝、AM7;00。
 部屋のシステムに入ると、マスターはいつの間に届いたのかお気に入りガイノイドの『ゼロ』とお楽しみを終えたところだった。

 ……少しでもセンチメンタルな気分に浸った自分が愚かしい。

 とりあえず処理が終わるまで、待ってから声をかけよう……と、私が決めたその瞬間。
 部屋のドアが、文字通り蹴破られた。

「へ――?」

 カケルがズボンを上げかけたまま、間抜けな表情で(私のいる端末からは見えないので想像だが)振り向くと、入り口には妙に着膨れした黒服の男が2名。
 ……明らかに委員会の手のものではない!

「標的を確認、確保する」

 男の片方が通信端末に囁き、カケルに迫る。

『マスター!』

 私が声を上げると、男は驚いた様子もなく端末に向けて拳銃を発砲した。

 暗転。





 私は速やかにネットの海を駆け巡り、ガイノイドのサポートセンターを経由して目当ての『身体』にジャックイン。
 警告を発する制御システムを宥めすかし、乗っ取ると『意識』を結線(ワイヤード)した。
 視界をリンクすると、ちょうど黒服2名はカケルを簀巻きにして持ち上げたところ。
 間に合った!

『マスターに触れるな!』

 身体の調子を確かめている暇はない。アクチュエーターをフル稼動させ跳ね起きると、手近な帽子掛けを引っ掴み、黒服の一人を全力で殴りつける。

「が、ガイノイ……っ!?」

 返す刀で黒服の歯をダース単位でへし折り、延髄切りで黙らせた。

「ぐあっ……!?」

 くず折れる男。
 トドメを刺しておきたいところだが、万が一にも委員会の関係者だった場合取り返しがつかないのでやめておいた。
 頭の中でやかましく警告音が響いている。
 荒っぽいプレイ用に頑丈に出来ているはずだが、さすがに殴り合いは専門外だったようだ。腕のモーターが悲鳴をあげている。
 簀巻きになったマスターの拘束を解くと、唖然とした顔でこちらを見ている。

「ぜ、ゼロ……?」

『私ですわ、マスター』

「Chu−B!?」

 そう。
 真に遺憾ながら、今私がリンクしているのは先刻までマスターが腰を振っていた性処理用ガイノイドだった。
 AWと同じ容量で操作できるとはいえ、人型に入るのは初めてだ。なんだかべとべとする股の感触が不快極まる。

『マスター、一先ず移動しましょう。
 これだけ騒いでも担当の役員が来ないなんて、尋常の事態ではありませんわ』

「う、うん、それは、その、いいんだけど……」

 マスターは何故か顔を赤らめて視線を逸らしながら、クローゼットを指差した。

「何か、服きなよ」

『……お心遣い感謝しますわ』

 なんでさっきまで性処理に使っていたガイノイドにそこまで恥らうのか、理解に苦しむ。


[No.249] 2011/05/03(Tue) 21:04:58
MkU対MkV・ラウンド1 (No.249への返信 / 8階層) - 咲凪

時間を少し遡る。

 MkUという得体の知れないアンドロイドを鷹目が使っている事には理由がある。
 一つは企業を相手取るという目的が一致する事、企業側の罠である可能性もあったが、ボディの調整を素直に明け渡してくれる都合上、その可能性は無い。

 もう一つは、彼女が自ら語った目的だ。

 MkVという姉妹を、破壊するという目的。
 その目的を語る時のMkUの眼こそが、鷹目が彼女を夜天光の仲間にした最大の理由だろう。



「ここで、お前を破壊する!」

 突き出された“黄金の右”がそのまま敵である所の“彼女”の居る空間に向けて射出される。
 戦闘用アンドロイド・MkUの右腕兵装「ゴルディオン」は射出式のアンカーナックルとなっていた。
 この一撃は対AW、対PG戦においても有効な兵器であり、MkU本人は並のPGよりも遥かに高い戦闘能力を有している。

 が、相手も同様の場合、その戦闘能力に優位性も何も無い。

 放たれたMkUの必殺武器であるゴルディオンを問題もなくひらりとかわした“彼女”は、常人どころか、MkUの能力さえ凌駕した身体能力を持っていた。
 空を切ったゴルディオンの拳がコンクリートを砕き、MkUの元へと戻る。

「MkV、この事件は貴様も絡んでいるのか?」
「まさか、私はバトリングに出資している企業のエージェントよ?、そんな訳無いじゃない。 ……それに」

 MkUは、偶然にも対峙していた。
 己の姉妹機であり、倒すべき敵である後継機、MkVである“彼女”と。

「私を、開発コードで呼ぶのは止めなさい」



 MkUとMkVの戦闘は互角では無く、終始MkVが押していた。
 そもそもMkVはMkUの後継機だ、そのスペックに差がある以上、この展開も必然だ。

「内部兵装にばかり頼るから、遅い!」
「ぐっ!!」

 武器を内蔵するタイプのMkUと比べて、MkVはボディの内部に武器を持たない。
 しかし攻撃力を後から補える以上、MkUの能力でMkVを上回る部分は無い。
 MkVの手に握られた高周波ブレードが唸りを上げると、弾丸のように踏み込んだMkVはMkUの主武装である右腕ゴルディオンを肩口からバッサリと切り落した。
 頭の中で鳴り響くアラートを無視して、MkUは左腕“血塗られし左”に内蔵した銃口をMkVの頭部に向ける、手首が上に持ち上がり、開いた銃口が火を吐くよりも早く、MkVの素手が“血塗られし左”の銃口を狙いから逸らし、発射シークエンスの始まっていた左から撃ち出された銃弾は虚しくMkVのメタリックグリーンの髪を少し掠って飛んでいった。

「遅いと言ったわ」

 極接近戦において、主兵装を喪ったMkUは圧倒的不利にあった。
 再び高周波ブレードが閃き、MkUはかろうじてそれをかわしたが、逃げ切れない。

「死ぬのは貴方よ、MkU」
「まだだ!、MkV!」

 さらに斬りつけるMkVを他所に、MkUは夜天光全体に出された撤退命令をキャッチしていた。
 MkVの破壊はMkUに最大の目的だ、
 だが今のままでは勝てない、MkUは逃げる事を決意すると、MkVのブレードを左腕を犠牲にする事でいなし、脚部に補助で搭載していたスモークを全開で放出した。

「逃がすと思っているの、MkU!」
「逃がすさ、此処の運営は有能らしい、お前とて何時までも此処には居られまい」

 MkVは逃げ往くMkUの言葉に舌打ちした。
 その通りだ、この場でトラブルに遭う事はMkVとて避けたい。

「……まぁ良いわ、利き腕は奪った、左も使い物にはならないでしょう」

 スモークの中で遠ざかるMkUの反応を渋々見逃しながら、MkVもまた静かにその場を後にした。

 残されたのはMkUの腕、“黄金の右”。
 ゴルディオンのみが、その場に残された。


[No.250] 2011/05/03(Tue) 21:05:39
Shadow blade (No.250への返信 / 9階層) - ミド=クズハ

 早い。
 予想以上に敵の動きが早い。
 まさか委員会の施設にまで直接仕掛けてくるとは……
 いや、予測はできた。そもそもが内部に内通者がいる可能性は考慮されていたのだし、ならば委員会の施設だからと言って絶対安全というわけではない。
 だが、だからこそ警備には万全を期していたはず。
 それなのに易々と侵入を許すとは……

「そこか」

 通路の角の先に一人。
 それ以外に敵がいない事を確認すると、立ち止まること無く角を曲がり、そのまま体を捻って回し蹴りを叩き込む。
 そのままの勢いでもう一回転。普段はペンダントに偽装してある陽炎を本来の形に戻しつつ首筋に突き立てる。
 
「これで5人」

 選手を保護している施設に入ってから仕留めた数である。
 最初は無力化するに留めて情報を聞き出そうとしたが、先のPGパイロットと同じく服毒自殺をしてしまった。
 ならば最初から殺害した方が話が早い。

 それよりも気になるのは、警備の数が明らかに少ない事。
 道中でいくらか倒れている元同僚を発見はしたが、それにしても厳戒態勢とは思えない程度の人数だ。
 それに敵も大した腕ではない。そうそう遅れを取るようなはずはないのだが……

「……またか」

 またも角の先に動体反応が一つ。
 ランカーが脱出できているとは考え辛い。彼らはAWを操作する体力や技能はあっても、生身での戦闘技術にたけているとは言えない者がほとんどだ。
 敵か味方の警備かの二択。ならば――

「……ッ!」

 左手で握った切羽を、角の先に居た人物に突き立て――ようとして寸前のところで逸らす。
 壁面を軽く穿った刃の横で曖昧な笑みを浮かべているのは、同僚でもあり、ここの警備の任にあたっていたはずの人物であった。

「……何だ、ミドか……脅かさないでくれ」

「それはこっちの台詞。まさか生きてるとは思わなかったから」

「……酷い言い草だなオイ」

 目を合わせて真顔で言う私に同僚は冷や汗をかきつつも笑いながら返した。
 ここまで生きている警備の者は一人も見なかった。だから、警備の任にあたっている者は全滅したのかとも思っていたが……

「現場指揮のあなたが無事で良かった。これで少しは情報も手に入る」

 情報源は確保した。生き残りがいるとなればそこから得られる情報も少なからずあるだろう。指令を受けてから急行した甲斐があったというものだ。別ルートで回った同僚の方でも収穫があるといいが……
 後はランカー達の身柄だが……

「敵を見たのなら、行き先に心当たりとか……」

 言いかけた私の背部に冷たい感触が走ったかと思うと次の瞬間には激痛に変わる。
 よろめきながらも振り向くと、先ほどとはうって変わって酷薄な笑みを浮かべる元同僚が一人。

「あなた……」

 私が次の言葉を紡ぐ間も無くその元同僚は私にとどめを刺すべく刃を振り上げた。

●●

「やっぱりそうなのね」

 眼前で刃をあらぬ方向に振り上げる元同僚の首元を右腕で掴みそのまま壁に叩きつけつつ紫電を起動し直接電流を流す。
 更に左手の切羽で肩部を貫きそのまま壁に縫い付ける。
 どうせサイボーグだ。そう簡単には死なない。彼は重要な情報源だから自殺されては困る。
 
 厳戒態勢の警備の中侵入するにはどうすれば容易いか。簡単である。警備の人員……それも現場での決定権を持っている人間を味方につければ早い話である。
 その考えに至ったのは彼の顔を見てからではあるが、目を合わせた時に咄嗟に術をかけておいたのは正解だった。
 そうでもなければ今頃は逆の立場だった可能性すらある。正面きってサムライと戦って勝てる自信はあまり無い。

「Dブロックで敵を一人確保。応援回して」

 手短にそれだけを伝えると通信を切る。傍受されないとも限らないし、長時間の通信は位置を特定されかねない。
 次に目指すは目指すはランカーの確保。ひとまずは部屋の確認か。この場は後は後続に任せれば大丈夫だろうと判断して切羽を抜き取り、代りに敵の刃を突き立ててから私はその場を後にした。


[No.251] 2011/05/03(Tue) 21:06:33
Otaky-dokey4 (No.251への返信 / 10階層) - アズミ

 あとコンマ1秒、役員がカケルを認識するのが遅ければ、ガイノイドの首は胴体から泣き別れしていたに違いない。

「ひぃっ!?」

 自分が狙われたわけでもないのに情けない声をあげてへたり込むカケルに、狐耳の役員は驚いた様子だった。

「チャンプ……!?」

『出会い頭に失礼では済まない対応ですわね、エージェント』

 暗器を突きつけられたまま半眼で言う私に、エージェントは不可解な顔をする。

「……あのAI?
 なんであなた、ガイノイドになんか入ってるの?」

 ……説明はせねばなるまい。
 長くなる上に人様には話たくない類の経緯だが。





「そう。じゃあ、セキュリティルームはもう制圧されたと見たほうがいいわね」

 沈痛な表情で狐耳のエージェント……ミドが言う。憐れな(あらゆる意味で)カケルの担当とは知り合いらしい。
 彼女が言うにはまだ相当数の運営側のサムライが事態打開に向けて動いているらしい。だが、その中のどれだけが造反者か解らないのでは全く楽観的になれる材料ではなかった。

「それで、他のランカーはどこに?」

『一先ず、安全を確保させに行きましたわ』

「安全……?」

 現在の本部に安全な場所などあるだろうか。まぁ、企業重役も訪れる施設であるからシェルターぐらいあるかもしれないが、委員会役員の先導もなしにたどり着ける見込みは少ない。
 ならば、選択肢は一つだ。

『あるでしょう、彼らが彼らである限り最も安全な場所が』

「貴方たち、まさか……!」

 廊下が一つ、大きく揺れた。
 続けて規則的な振動がリノリウムの床を揺るがす。
 窓の外。朝靄の中を、複数の巨体が蠢いた。

『OtaK!格納庫は無事だ!
 お前らも早く来い!』

 言わずもがな、彼ら自身と共に本部へ移送されていた、ランカーたちのAWだ。

「す、すす、すいません!
 勝手にマズいと思ったんですけど、他にいい方法が思いつかなくてっ、そのっ!」

 慌てて弁解するカケル。
 全く、過失は向こうにあるのだからどんと構えていればいいのに。

『では、私達も避難させていただきますわ、エージェント。
 我がマスターがマスターである限り、この世で最も安全な場所に』





 いろいろと不満はあったようだが、最終的にミドは納得したらしく、私達を大人しく格納庫へ通した。
 リフトを上昇して行く窮鼠。

「Chu-B、戻ってきてる?」

『御傍におりますわ、マスター』

 ここに至ってガイノイドの身体に用は無い。制御システムを手放し、意識は本体である窮鼠に戻った。……やはり、AWの五体が一番落ち着く。股もべたべたしないし。

 ゲートが開き窮鼠が中庭に出ると出迎えたのは榴弾砲の砲撃だった。

「うわっ!?」

『遅いぞ、チャンプ!』

 黒い中量級AWが榴弾をかく乱するように動き、窮鼠に接近してくる。
 中量級ランカー、『RYO』の機体『Noir』だ。

『識別不明の機影が近づいている。恐らく例のPGだ』

「ほ、他の人たちは?」

『裏を護りに行った。本部は囲まれている可能性がある』

 レーダ―を確認すると、バトリングでは作動しないUnknown識別が5つ接近している。
 ランカーにとって2対5はフリーバトルにおいて珍しい状況ではないが、賊の機体だとすれば、決して侮ることは出来ない。奴らは既にランカーを機体ごと拉致しているのだ。

「ミドさん、委員会の機体は出せないんですか?」

『寝返るかもしれない戦力は出せないでしょ、何とか保たせて!』

 カケルの問いに、通信でミドが応じる。
 期待はしていなかったが状況は悪い。
 しかし、一度AWに乗れば、我がマスターに狼狽はない。

「しょうがない……ここは僕らで保持します。いいですよね?」

『無論だ。
 相手は軍用装備らしい、食らってくたばるなよ、OtaK』

 窮鼠と共に戦闘機動を始めるノワール。
 アイカメラの向く、本部の正面玄関にはあのコロッセオで出会った赤黒いPGが5体、姿を現そうとしていた。


[No.252] 2011/05/03(Tue) 21:08:27
奇襲、あるいは殴りこみ (No.252への返信 / 11階層) - 鷹目

「あの動き……」

剣を交えた相手を想うのは久しぶりだ。
闇の中、赤黒いAWの動きを脳裏に描く。

一合、二合、三合……
そして四合を持って勝負は中断を迎える。

「…………」

達人、と呼べる。

状況に合わせた判断力。
武器の特性を把握した動き。
そして何より、戦い方に『型』を持っていた。
何十、何百という戦いの中で磨き上げられた、本人に最も合致した攻め手・守り手。
絶対の信頼を持つことのできる『型』を持っていた。

故に、達人と呼べる。

「…………」

だが違和感を覚える。

迷いが大きかった。
一瞬一瞬の攻防において、達人と呼ぶに相応しからぬ間があった。
腕も判断力も一流。しかし、そこだけまるで凡庸な使い手のようなチグハグ。

だから違和感を覚える。
あの機体は……

『――方、寡黙な御方』

「……アルカディアか」

思考を中断して目を開くと、眼前。至近と言える距離から黒髪の少女が鷹目を覗き込んでいる。

「声をかけるまで気がつかないなんて珍しいですね、無防備な御方」

くすくすと笑う少女に対し、鷹目は表情を動かさない。

「………用件はなんだ」

「早速動き出しましたよ。場所は闘戯運営委員会所属の施設、AWやPGを持ちだして派手にやっていますよ」

「随分と思い切った手を打つ。事を荒立てることに躊躇いなしか」

立ち上がる鷹目を見ながら。
貴方が言う事ではありません、と笑う少女だが、口から出るのは異なる言葉。

「準備は出来ていますよ。我慢のできない御方」





高層ハイウェイから黒いPGが戦場を見下ろす。

「状況は?」

黒いPG、鷹目が着込んだ黒椿の内部に声が響く。

『バトリングのランカー達が善戦しています。ですが、運営委員会の内部の敵らしく今一歩組織立った反撃は出来ずに押され気味ですね』

「都合良く混乱しているという訳か」

黒椿のカメラが戦場を捉える。
ランカーと思しき軽量・中量の2機のAWが、赤黒いPG5機と戦火を交えている。

『中量ランカー『RYO』の『Noir』と軽量チャンプ『Otak』の『窮鼠』ですわ、無知な御方』

同じ映像を見ているアルカディアが注釈を入れるが、鷹目は聞き流し余所に目を走らせる。
施設内部数か所と、施設周囲で戦火が上がっている。

「夜天光は移設の周囲から襲撃者を押さえろ。お前は襲撃者の出所を洗えるだけ洗え」

『畏まりました、人の話を聞かない御方』

「通常リミッター解除、黒椿戦闘起動。往くぞ」

刀を携えた巨大な人型は、跳躍。ハイウェイを砕きながら宙に舞う。
戦場に躍り出るために。


[No.253] 2011/05/03(Tue) 21:09:20
苦戦 (No.253への返信 / 12階層) - 遼

 『RYO』こと黒木遼は、恐らくバトリングのランカーの中でトップクラスで軍用機との戦闘経験がある。
 そう遼は自任しているし、まず間違いないだろうとも思っている。

 柊重工と契約しているランカーではなく、柊重工を日本での隠れ蓑にしている北米トップクラスの軍需産業体であるオルファネイジの保有する傭兵大隊、その中のデュランダール隊に属していて少尉の階級を得ているのは伊達ではない。
 少尉という階級は間違いなく遼本人が自力で勝ち取ったものである。
 当然、企業軍としての軍事訓練も一通り受けてきた。もっとも、義体である遼に肉体的訓練はあまり意味はないし、何よりもアッセンブル=ウォーカーのパイロットであるのだから訓練科目は自然そちらに偏ってはいたが。


「ちっ、さすがによく研究してるな!」

 思わず舌打ちが零れる。
 通常のAWとはかなり異なるノワールの攻撃に対応する敵PGの動きは、それがランカー達の戦闘データを研究・対応した上でのものと分る。

 右腕のアームドバイパーは初見殺しに適しているし、なによりほんの3日前に交換されたばかりのモジュールアセンブルなのでバトリングでの使用は未だない。
 つまりは敵にとって未知の武器である。それだけに使いどころが難しい、なにせ基本はテールバイパー等のバイパーシリーズと同じなのだ、対応法も当然それに準じる。
 故に使うならば確実に1機は仕留められる状況で使いたい。

 正面の敵の斬撃をランスで往なすと、ロックオン警報が響く。後方の敵、対ドローン用の小型ミサイル。
 だが、その系統の武装への対処法は散々身体で覚えている。訓練初期に何度殺されたと思っている。
 遠隔操作義体だから死んでも特に問題ないとはいえ、柊重工の訓練施設での実弾使用の戦闘訓練で最初は何度も死んだのだ。
 サイボーグ兵、軍用ドローン、AW、PA、PG、果ては戦車。現実・電子世界(シュミレーション)問わずに一通りの相手との戦闘経験はある。
 それら相手に死ななくなり、まがいなりに倒せるようになったからこその少尉という地位であり、バトリングでの戦闘データ収集任務なのだ。
 むしろ、そういった武装の方が接近戦を挑まれるよりも余程対処が楽だ。

 即座に地を蹴り、バーニアとスラスターを振り絞って距離を取る。同時に左肩分離したガンユニットと左手に持ったSMGが火を噴きミサイルを的確に撃ち落とす。
 ついでとばかりにSMGの銃弾が正面のPGを襲うが、その殆どがむなしく装甲に弾かれる。

「分ってはいたが、威力不足かっ」

 普段相手するAWより重装甲のPGを相手するには現在のノワールが装備している銃器では火力不足だ。
 ただでさえバイパーシリーズでバランスが悪い仕様であるし、それらのバイパーシリーズのデータ収集を命じられているので連射性を重視した牽制用のSMGではPG相手では殆ど役立たずである。

「だがっ!」

 銃弾を弾きながら接近する敵機に、ランスを突き出す。
 ランス内蔵のブースターを火を噴き、同時に右腕が伸びる。

 殺った!そう思ったも束の間、PGが手に持った刀が大剣に姿を変えて盾のように構える。
 ランスと大剣の激突音、しかしブースターの勢いによってランスはその刀身に沿って後方に流される。
 ランスが右腕ごと後方に流され、そのままの勢いでそのPGはお返しとばかりに大剣をランスへと変化させて突っ込んでくる。

 懐に飛び込まれるっ。咄嗟に身を捻るが左脇腹の装甲が幾つかの内部部品をぶち撒けながら吹き飛ぶ。
 そのままPGはランスをバットに見立てるように振り切る。

「ガァッ!?」

 衝撃が走る。
 5〜6m程吹き飛ばされ、地を滑るがすぐに体勢を立て直して立ち上がる。

 一瞬のうちにダメージチェックを済ませる。胴体フレームに若干の歪みと地面に叩き付けられた際にランスを取り落としたが幸運にも致命的損傷どころか戦闘に影響が出るダメージもない。
 今の一撃、もしランスを刀剣類に変化させられていたら、胴体が真っ二つになってだろう。

「嬲って…いや、楽しんでやるな。こいつ」

 歯切りしする。
 遼には、敵が「それで終わりか?つまらないだろう」と言っているように思えた。
 事実、追撃の機会をわざわざ見逃している。

 すっと周囲を見渡せば窮鼠は遼とは逆に遠距離からの攻撃で距離を詰められないでいる。

「本当に、よく研究してやがるっ!」

 近距離を苦手とするノワールには接近戦に持ち込ませ、接近戦がウリの窮鼠にはひたすら距離を取っている。
 オマケに此方が連携できないように牽制する専門役までいる。
 まるで誂えたようにノワールと窮鼠の2機を相手する為のような編成だ。

 偶然だとは思うが、それにしてもやり辛いことこの上ない。

「くそっ、向こうと選手交代と行きたいが……そうはさせてもらえないだろうな」


[No.254] 2011/05/03(Tue) 21:10:03
Phantom Crash1 (No.254への返信 / 13階層) - アズミ

 榴弾の雨を避けながらビル壁面を蹴れば、その先に待ち受けるのは機関砲の洗礼。並木を盾にきわどくかわしながら正面玄関までダッシュ。
 スピードは落とせない。敵は窮鼠のスタイルを知った上で『籠』を作ろうとしている。
 動きさえ止めれば、所詮ゲーム用の軽装甲機など恐れるに足りないと、そう考えている。

『マスター、ロケットです』

「いいよ、かわす」

 だからこそ、走る。
 敵の戦術の想定領域から外れるまで。こちらの戦術が組みあがるまで。
 カケルの指はトリガーにかかっていない。遠距離武器はそもそも牽制程度にしか使えないスラグV散弾砲だけだし、まだ撃つべきときではない。
 2発のロケットの軌道が作り出す檻の中を縫うように駆け抜けると、初めて敵影を正面に捉えた。

「一つ目……」

 正面に捉えたPGがロケットランチャーを発射するが、不意を打たれなければ関重工製最速を誇る窮鼠の足なら回避は容易い。
 まだ、指はトリガーにかからない。
 横をすり抜け敷地の刑務所よろしく高くそびえた外壁に登り、頂点から跳躍。

 対空時間は僅かコンマ1秒以下。

「2つ、3つ」

 だが、カケルの目は中庭からこちらに機関砲を構えるPGと、西側の壁を遮蔽にグレネードを構えるPG、一体ずつを確実に捉えていた。

「……よし、ルートは覚えた。
 始めよう、Chu-B」

『ヤー、マイマスター』

 右腕の単分子ブレードをアクティブ。
 迫ってくるロケットと榴弾、機関砲をスラスターと重力加速度を利用してかわし、窮鼠がその機動力を全開にして突撃する。
 走る。走る。走る。
 走ってかわし、走って射程に収め、走りながら倒す。敵の位置と、速度を落とさず肉薄する為のルートは見極めた。
 並木をかわすことなく正面から貫くように突っ込み、敵が機関砲を構える前に樹を相手に向けて蹴り倒して怯ませると、その上を疾走、PGを両断する。

『1つ』

 そのまま樹のたわみと助走を利用して飛翔。

『誘導弾接近、数2』

「迎撃距離カウント」

『カウント2…1…今!』

 機体の腰を捻り、左手の散弾砲を発射。ベアリングのシャワーは狙い違わず2基のロケットに降り注ぎ、空中で融爆させた。
 爆発の勢いとスラスターを使って方向を強引に転換。
 ロケットランチャーを装備したPGの前に着地、そのままブレードを古い、ロケットランチャーごと袈裟懸けに切り裂く。

『2つ』

 斬るより前に蹴りが飛んでくるぐらいは覚悟していたが、相手は動揺してそれどころではなかったらしい。

『マスター、相手は『プロ』です』

「うん、コロッセオで来たヤツと同じだ。やりやすい」

 すべきことを完璧にこなす。上等な織物のように綿密な戦術は相手に状況さえ把握させぬまま倒す。それがプロフェッショナルの仕事だ。常識的には、強い。……『だからこそ、常識外には弱い』。
 MBTの正面装甲さえ両断する単分子ブレードのみを頼りに、機動性に優れる多脚戦車の3倍ものスピードで三次元戦闘を仕掛けてくる目標など、彼らの戦場には存在しない。
 再び榴弾砲の雨が降り注ぐが、逃げ場が存在する以上、最早なんら脅威にならない。

『三つ』

 最後の敵PGが刀の錆になる。

「Chu-B、RYOは!?」

『梃子摺っているようですわ。
 援護に向かわれますか、マスター?』

「そうしたいところなんだけど……」

『っ、3時方向から質量武器!』

 本部ビルの上から投げつけられたそれは、攻撃でさえなかったのか難なくかわすことができた。
 破片を撒き散らしながら中庭に転がったそれは……。

「Ze-On!」

 裏に回ったランカーのAWだ。しかも、モーターカノンによる狙撃で鳴らした中量級のチャンプ。

『あれは……』

 見上げれば、本部ビル別棟の屋上に佇む、AWが一機。
 ……AW!
 カラーリングは賊と同じ血のような赤であることからして、恐らく敵なのだろうが……。

「来るよ、Chu-B!」

『くっ!』

 両手からレーザーブレードを展開し肉薄する敵AWを、窮鼠が単分子ブレードで迎え撃った。


[No.255] 2011/05/03(Tue) 21:10:44
Shadow mission (No.255への返信 / 14階層) - ミド=クズハ

 ハンドルを握ると性格が変わる、というものの一種だろうか。
 AWに乗ったカケル=オータの声色はおよそそれまでの自信の無い青年のものとは感じられなかった。
 事態は楽観視できる状態ではないが、私はAWの操縦に関しては並程度の域を出るものではないし、ここは彼らの腕に期待するしかないだろう。
 
 それよりもこちらはこちらで事態の解決に動かなければならない。
 まずはセキュリティルームの奪還。あそこを取り返さないと様々な作戦行動に支障が出る。
 現状は誰かがプロテクトか何かを間に合わせたのか、本部内の機器の制御が奪われた感は無いが、時間の問題だろう。
 完全に掌握されてしまうと施設内での動きが著しく制限される。そうなっては手間だ。事は迅速に運ぶ必要がある。
 
「いたぞ!」

「見つかったか」

 そうこうしている間に敵の一団がやってくる。
 監視カメラが動いた様子は無い。ならばAWの起動を聞きつけてこちらに向かってきたか。
 数は4。正面から同時に相手をするには不利。となれば。

「食らえ」

 携帯していたグレネードのピンを引き抜き、大仰な動作でもって敵の正面に投げつける。
 敵が蹴り返そうとする前に、ソレは蒸気にも似た白い煙を瞬く間に辺り一面に撒き散らす。
 熱感知など極普通のこの世の中で、スモークなど気休め程度にしかならないが、それでも一瞬敵の気を逸らすには十分である。
 その一瞬の間に横にあった部屋に飛び込み、即座に通気口に潜り込む。
 いざという時の為に、それこそ穴という穴の経路の一つずつまで本部の構造は熟知している。
 セキュリティルームに辿りつくのはそう難しい話ではない。問題は、そこをどう制圧するかという事だ。
 一人では限界がある。とはいえ、内通者がいる以上味方がどこまであてにできるかは全く判らない。

「……これよりセキュリティルームに向かう」

 短く通信を入れる。味方と敵の動き、どちらが早いかの賭けではある。が、何もしないよりはマシだろう。
 少なくとも、私を囮に他の味方は連携を取れる。例え死のうが任務に貢献するのが今の私の仕事だ。それでいいのだ。


●●


 天井の留め具を蹴破って部屋の中に降り立つと同時に、真下に居た一人に刃を突き立てる。
 近場に居た一人が反応するが、遺骸をそちらに蹴り飛ばして視界を奪うと同時に首を刎ねてから、入口へとスモークを投げつけ、一旦机の裏に潜む。 

「後は……」

 サイバーアイに力を込める。動きが見えるのは五人。
 視界も不完全でこちらを正確に判別できない間が勝負。態勢を整えられてクリーンな視界で躊躇う事無く火器を使われれば負ける。
 人数だけ確認すると、一番手近な相手に向かって駆け寄る。
 その頭部を掴み眼前まで思い切り引き寄せて相手の眼を直視する。

「お前に近寄る者は全て『敵』だ」

 それだけ言うとあらんかぎりの力を込めて向こう側へと蹴り飛ばす。
 机や機材が派手な音を立てて散乱した気配がしたが、頓着している場合ではない。
 敵も視界を対応させたようで、迷うことなくこちらに向かってくる。
 
「不用意」

 手前の敵に対して鎖を放ち、首を絡め取る。
 抵抗する間を与えずに電流を流し、引き付け、刺す。
 同時に出入口の方で、敵のものらしき呻き声が聞こえる。
 先に術をかけた奴がやった――

「ッ……!!」

 二発の乾いた発砲音と共に右腕に鋭い痛みが走る。咄嗟に後ろに跳躍し、机の裏に身を隠す。
 『目をこらして』見てみれば、動く敵は二人。先の発砲音のもう一発は、敵が術にかかった敵に向けて撃ったモノのようだ。大分減らしはしたが、この人数ともなれば視界制限下でも火器を使用しての同士討ちはないと判断したか。相手の得物が判別できない上、こちらに火器が無いとなれば不利は否めない。
 まだ手持ちの武器は出し切ってはいない。やってやれなくはないが……
 
(年貢の納め時、か)

 こちらに詰め寄る敵の後方――部屋の出入口に更なる動体反応が増えたのを見るに至って、私は死を覚悟した。


[No.256] 2011/05/03(Tue) 21:14:39
Phantom Crash2 (No.256への返信 / 15階層) - アズミ

 日が翳った。
 レーザーブレードの白光を引いて、赤黒いAWがこちらに迫る。

「……切り抜け……いや、かわすっ!」

『了解!』

 散弾砲を正面から叩き込み、スラスターを吹かしてバックジャンプ。外壁にホイールを食い込ませ、そのまま壁面ダッシュで敵機の側面に回りこむ。
 観測する限り、散弾砲によるダメージは微少。やはり単分子ブレードによる白兵戦しかないだろうが、敢えてカケルが迎撃を避けたのは……。

「アレは正面からやりあっちゃダメだ」

 光熱剣はエネルギーを常時消耗するという難点があるが、実体剣に比べて打ち合いにアドバンテージがある。熱量そのものであるため、刃なり盾なり、然るべき防御手段で受け止められないのだ。
 それでも並の相手なら一合で両断するだけの腕を我がマスターは持っているが、それを避けたということはあのAW、少なくともランカー級の腕らしい。
 いや、むしろ事件の顛末を考えれば……。

『マスター、あれが件の拉致されたランカーということはございませんこと?』

 私の問いに、マスターは精査するように視線を鋭くするものの、ついぞ応えなかった。
 壁面を蹴って、そのままAWに肉薄する。右手のレーザーブレードがなぎ払いをかけてくるが、これは掻い潜ってかわした。
 Vの字を描くように切り上げた単分子ブレードは、しかし――

「な――ぁっ!?」

 突如、ホイールを唸らせ『バク転』を敢行したAWに回避された。
 『メロンターン』!

「チッ……!」

 バク転の勢いそのままに襲い来るレーザーブレードの一撃をかわし、再び窮鼠は距離を取る。
 メロンターン。拉致されたJacksの得意技だ。締まらない名前は何でも古いアニメから取ったものらしいが、ネーミングはともかく初見で回避するのは極めて難しい格闘マニューバー。
 やはりこのAW、拉致されたランカーが……。

「Jacksじゃない」

 カケルはぽつりと言った。

『マスター?』

「Jacksなら、あの追撃を外したりはしない」

 カケルは断言した。珍しく、その語調には怒りというか……攻撃性が含まれていたように、感じた。

「あいつの技だけ、盗んだんだ」

 ホイールを収納し、脚部をバランスが取れるぎりぎりまで屈曲。腰を落として単分子ブレードを構える。

「Chu−B、次で決める。
 操作はオールマニュアルで」

『はっ!?』

 多脚歩行三次元戦闘兵器であるAWの操作は、PGのような動作とレースではなく機械式にする場合、どうしても多くの場合をオートメイションにせざるを得ない。
 普段はマニュアル動作で如何に有用な動作パターンを開発するか、戦闘時は如何に限られた動作パターンから最適のものを選択するかがAW操作の肝と言えるわけだが……戦闘中にマニュアル操作など!

『自殺行為ですわ、マスター!』

 何より、私の補助も全く不可能になる。
 だがマスターは頑として受け付けなかった。

「黙ってて、Chu-B」

『マス……!?』

 窮鼠が散弾砲を上方、外壁へ向けて撃った。それを合図に窮鼠が地を蹴り、敵AWも突進してくる。
 レーザーブレードが閃いた。
 命中すれば軽量AWの装甲など一瞬で溶断されてしまうだろう。
 だが外壁の瓦礫が降り注ぐ中、マスターは臆さず突進した。否、厳密には機械にも不可能な精密な速度調整を行っていたのだが、このときの私は気づかなかった。
 レーザーブレードの刃が目の前に迫る。

『マスター!』

「大丈夫」

 マスターが応えると同時、一際巨大な瓦礫が落下しブレードを遮った。

『なっ……!』

 驚き狼狽したのは私だけではないらしい。瓦礫を飛び越えた向こうで、立ち尽くしたAWが迫る単分子ブレードをぼんやりと見上げていた。

「GameOverだ!」

 むき出しの脚部を地面と擦過させながら停止した窮鼠の背後で、四肢を失った敵AWの胴体がアスファルトの上に転がった。


[No.257] 2011/05/03(Tue) 21:15:15
やりたい放題、あるいは喧嘩を売る (No.257への返信 / 16階層) - 鷹目

 マシンガンから放たれた光の点線が建物の壁を薙ぎ払う。しかし放たれた殺意は敵を標的を捉えられない。

一拍。

 破壊の連弾に耐えかねて崩れ始めた壁の陰から黒い巨体が飛び出す。地を蹴り、破壊の跡を後方に。

 躊躇い無く進むその姿を再度放たれた弾丸の軌跡が追いかけるが、届かない。銃弾は黒い巨体の影を薙ぎ、瓦礫に更なる破壊を撒き散らすのみ。

 それとほぼ同時。
 風と共に翻った鋼の煌めきは1度。甲高く、硬質な音と共に赤黒いPGの胴体を切り裂く。

 崩れ落ちる上半身が握ったままのマシンガンから放たれた銃弾が虚空を撃ち抜く。

「これで3つ………」

 周囲に敵影なし。黒椿が刃を納める。

 既に1つ、破壊したPGの残骸を夜天光が確保した。アルカディアが分析の準備を進めている。

 遠からず、襲撃者の身元は明らかになるだろう。
 口に出すことはないが、鷹目はアルカディアの腕をその程度には評価している。

 ならば鷹目がすべきは

「……この戦場を終結させることだけだ」

 センサーが付近の戦闘を捉える。至近で戦闘が2つ。

「これは……あのAWか」

 鷹目の表情がわずかに動く。
 自分の仕留めきれなかった赤黒いAWと、それと戦うもう一機のAW。どちらも興味がある。

「……往くぞ、黒椿」

 そして歩を進めた鷹目の見たものは―――


「……見事だ」

 赤黒いAWの曲芸にも近いバク転を回避し、落下物を完璧に利用しての一撃。
 それを鷹目は近くの建物の影から目撃していた。

 軽量級のAW……確か、軽量級チャンプとアルカディアが言っていた。

「……………アルカディア」

『はいはい、何の御用ですか』

 通信回線を開く。

「状況は?」

『被害を出しながらもテロリストは押され気味、といった所です。元々数が多くありませんから、遠からず、戦闘は終わるでしょう……あら?』

 鷹目の顔を見たのか、モニター越しの少女の笑みが微かに深くなる。

『いったい何をお考えですか、見境のない御方』

「……昔の血が騒いだ。久しぶりに腕試しをしてみたくなった」

 表情一つ動かさない鷹目に、少女は肩をすくめる。

『はぁ……お好きにどうぞ。ただし程々になさってくださいな』

「わかっている。……いくぞ、黒椿」

 黒椿がゆっくりと軽量級AWの前に前進する。刀を構える姿は闘争の意思を告げる合図。

『まったく。今はあなただけの体では無いという事を忘れないでくださいね、子供の様な御方』


[No.258] 2011/05/03(Tue) 21:15:59
Phantom Crash3 (No.258への返信 / 17階層) - アズミ

 窮鼠の単分子ブレードと、黒いPGの太刀が3度、銀光を散らした。

「う――、わぁっ!?」

 情けない悲鳴をあげつつも、マスターの操縦は的確無比だった。剣撃は全て受け流し、すかさず散弾砲を向け間をおかずに連射する。

『無粋ッ!!』

 黒のPGはそれを物ともせず、散弾を全身に受けながら無理やり斬りかかって来る――ってちょっと!?

「軍用ッ!?」

 先刻の赤黒いPGも軍用といえばそうなのだろうが、あくまで施設制圧を目的としたもの。その装甲は小火器程度なら完全に防ぐ、程度のもので、如何に威力の低いスラグXでも正面から直撃すればただでは済まない。
 が、コイツは格が違う。この黒いPGは恐らく、『MBTの主砲が直撃しても耐えうる』、企業軍のトップレベルに相当する装備だ。
 となれば、こちらに打てる手はただ一つ。

『左腕出力カット、右腕の出力維持に専念します』

「お願いっ!」

 銀に染まった突風のごとく襲いかかる刃を、辛うじていなす。出力も段違いだ、正面から受け止めれば恐らく関孫Eの剛性では耐えられない。
 足運びを合わせ、一撃、二撃、合わせていくたびに少しずつベクトルを修正する。

『今ッ!』

「ううっ!?」

 脚部のホイールが咆哮を上げた。視界が引き延ばされ、黒いPGの脇腹の向こうに見える1点へと収束していく!

『おおうっ!!』

 胴を狙った鋭い一撃は、しかし辛うじて間に合った太刀の刀身に阻まれ――

 甲高い音を立てて、単分子ブレードの刃が折れた。

「折れたぁっ!?」

 間の抜けた悲鳴をあげている場合ではない、これで我々の勝ちはなくなった。ともかく早急に後退ルートを確保し撤退に入らねば!
 だが、黒いPGは何を思ったか、刃を納めて外壁の上へ跳躍した。

『機体が遊戯用ではこんなものか……惜しいな』

 先刻からパイロットはこちらに広域通信で繋ぎっぱなしだ。どうも機体といい挙動といい、襲撃犯とは別口のようなのだが……?

『奴らの企みは大方、割れた。
 企業の闇は――夜天光が照らす』

「やてん……?」

 夜天光!
 広域指定テロ集団!

『テロリストですわ、マスター!』

「え、ええっ!?」

 慌てて(具体的に何にかはわからないが)折れたブレードを構えるマスターに、夜天光の男は笑ったようだった。

『この件、追っていくならまた遭うこともあろう』

 楽しみにしている。
 その一言を残して、黒いPGは立ち去った。

「―ーお、わっ――……た?」

 シートに身を沈めて呆然と呟くマスターをよそに、通信機から響くRYOの声は、事態が収束に向かっていることを教えていた。


[No.259] 2011/05/03(Tue) 21:16:44
Shadow (No.259への返信 / 18階層) - ミド=クズハ

「部長……?!」

 顔を出して視認した私の目が捉えたのは、常と変らぬ穏やかな笑顔を浮かべた、最近健康が気になると言っている上司その人であった。


 
 部長の話によると、施設は粗方制圧できたそうである。
 というよりも、元々あまり多くの戦力は配備されていなかったようで、内通者の危険を除けばさほどの障害は無かったようである。

「……部長、今回の敵の主目的はやはり……」

 撃たれた右腕に応急処置を施しつつ問う。任務に支障が出る程ではないが、怪我は怪我である。

「ランカーの拉致、だろうねえ。施設を制圧して見せたのは、さしずめ拉致部隊が逃げるまでの囮といったところかな」

「そうですか……」

 そうなると私は二度までも敵の陽動に引っ掛かった事となる。
 仕方のない面もあるが、これまでもそれなりに場数を踏んできてはいるだけに不甲斐無い、悔しいという思いが強い。

「まあそう落ち込まずに。何にしても翠君が無事で良かったよ。
 施設はともかく、人の代えはなかなかきかないからねえ。まして内部にも問題があったとなれば……」

「……」

 同僚の裏切りは私もそれなりにショックではある。
 それが、実直さをもって知られるサムライであったとなれば尚更である。
 何故彼らはそのような事をしたのか。金か、地位か……あるいは単純に刺激がほしかったのか……

「裏切り者は」

「君が確保したのは既に搬送したよ。彼には色々と吐いてもらうとして……後は……どれくらい出てくるか、だねえ。あんまり大勢いても仕事が増えて大変なんだけどねえ」

 部長はのんびりとしたような口調で言うが、実際にはのんびりとしていられる状況ではないのだろう。
 単純に考えてまず人手が減る上に、組織としての信用問題にも関わる。
 末端の私はあれこれと考える必要はないが、部長としては大きな心労だろう。

「まあそれはそれとして、だね」

「はい」

「ちょっと気になる事がね」

「と、言いますと?」
 
 部長が語ったのは、今回の敵の目的である。
 ランカーを拉致するだけにしては、規模が大きすぎるというのである。
 確かに、本部としてもいつまでもランカーを保護下に置いているわけにもいかないから、拉致するだけであればしばらく期間を置いてほとぼりが冷めた頃を狙ッた方が良いに決まっている。
 にも関わらず今回敵が仕掛けてきたのは、何か試したいモノでもあったのではないか、というのである。
 
「……試したいモノ、とは」

「それが判れば話は早いんだけどねえ。ただね、今回敵の襲撃してきた敵のAWの動きがね、拉致されたランカーのものと似ていた、というような話を観測班から聞いてね」

「……ランカーが、敵に協力していると?」

「自らの意志でかどうかは判らないけれどね。何らかの関係はあるんじゃないかな。」

「しかし仮にランカーを味方につけたとして、一体何を……」

「そこまでは判らない。ただまあ……さっき、あの軽量級のランカー君が敵のAWを首尾よく倒したみたいだし、調べればもしかしたら何か出てくるかもねえ。処分されなければ、だけど」

「そうですか、彼が……」

 敵を倒した、という事は刺し違えていない限りは無事だろう。数少ない朗報ではあった。
 送り出しておいて、やられましたでは流石の私も後味が悪くはなる。

「後は、例のテロリストも動いてたみたいだねえ」

「……彼らですか」

 正直に言って、治安維持活動は私の管轄外であるから普段はテロリストの事はどうでもいいと言えばどうでもよかった。
 しかし、この場にいたとなると、調べないわけにもいかないだろう。

「まあ、施設を完全に取り返し次第、状況と情報を整理していこう。怪我は辛いだろうが、色々と働いてもらうよ」

「お任せください」

 言うと同時に、味方の一人が部屋に入ってくる。
 彼の報告が施設制圧の完了を示すと、私は柄にもなく安堵の息を漏らした。


[No.260] 2011/05/03(Tue) 21:17:18
ティム・アンダーソンの憂鬱1 (No.260への返信 / 19階層) - DD3

「何故バトリング会場なのにバトリングしていないの?」

 ティム・アンダーソンは対応に苦慮していた。既に40半場、無意識に近頃めっきり薄くなった頭を掻く。

「ですから、昨日あの様な事件が起きたばかりですので……」

 ティムは闘戯運営委員会の役員だ。バトリングの運営、開催に関する意思決定を行うメンバーの一人で、彼の言葉一つで中小企業が揺らぐ事だってある。

「そんな事あったの?」

 つまりは重要人物だ。
 本来ならばクレーム処理など彼の仕事ではない。もっともっと下の者の仕事だ。

「はい。昨日、委員会の施設が襲撃されています。犯人は何処かの企業体とテロリストだとか、そうでないとか。表向きはただの事故ですが」

 その彼が。
 こんな……こんなトップニュースも知らない様な世間知らずの小娘の相手をしなければならないとは……!

「ふぅん……でもバトリングとは直接関係ないわよね」

 普段ならば「お前にこそ関係の無いことだ」と切り捨てるティムだが、今日はそうもいかない。
 内心を見せることなく、丁重に相手をする。

「いえいえ……また同じことが起らないとも限りませんので、安全のためにも……」

 何しろ相手はこの世界の特権階級、ティムですらも立ち入ることの出来ない星界の住人、天上人なのだ。

 絶対に機嫌を損ねる訳にはいかない。例えそれが、どんなに道理のわからないガキだったとしても。
 バトリングファンだと通ってきた時にはしめたと思ったが、子供はこうなると面倒だ。

「でも………」
「ですから………」

 ティムの長い一日は始まったばかりだった。


[No.261] 2011/05/03(Tue) 21:18:17
ティム・アンダーソンの憂鬱2 (No.261への返信 / 20階層) - DD3

 バトリング会場の玄関に、全身が滑らかな金属で構成された少女(としか言いようのないもの)と、いかにも古風な風体の執事、そして企業の重役らしき男性が立っている。

「バトリングが見たかったのに。これが残念というのね。そうね、そうに違いないわ」

「まったく残念無念また来年でございます」

 機械の少女、フィリアは大げさな動作で肩をすくめる。一挙動の度に、ほんの微かに聞こえるモーター音が非人間らしさを一層引き立てている。

 お付きの執事、ベルフェクトゥスは完璧な服装、そして微かな微笑を崩さない。

「はー……ようやく終わった。これだから世間知らずのガキの相手は……」

「何か仰いましたか?」

 抜け目ないティム・アンダーソンはフィリアの見送りに来ていた。安堵からか些か以上に気は抜けているようだが……。

「いえいえ!なんでもありません!それよりもフィリア様!本日はワザワザ来て頂いたのに申し訳御座いませんでした」

「ベルフェクトゥス、せっかくだから街を見てみたいわ」

 一瞬で企業人の態度に戻したのはさすがだが、鋼鉄の令嬢はまるで気にもかけていない。
 もちろんそのお付きたるベルフェクトゥスもまるで気にしていない。

「畏まりました。直ちにコースを設定いたします」

「あの、フィリア様?再開の折にはこちらから連絡させていただきますので、ぜひ今後も……」

「いやよ。飽きたわ」

「飽きた、と仰いますと?」

 鋼鉄の少女とその執事、口論の様相を呈しているがどちらも顔の表情は動かない。

「あの、ベルフェクトゥス様?早急にご連絡を差し上げますので、どうぞグレズ家と今後とも……」

「言葉通りよ。ベルフェクトゥスの決める、お定まりの観光名所巡りは飽きたの。私は自由に歩きたいの」

 微かな微笑を湛えたままの執事の瞳が、ほんの少しだけ弧を深くした事に気がつく者は、今この場にはいない。

「フィリアお嬢様、我儘を仰られては困ります。このベルフェクトゥス、お嬢様の安全を万全に完全に十全に安全にお守りするように旦那様から言い使っておりますので」

「あの、フィリア様?ベルフェクトゥス様……?」

「危険な事なんて何も無いわ」

「フィリアお嬢様。お嬢様はまだまだ知らぬことが多うございます。どうかお聴き分けください」

「あの……」

「いやよ。私はもう子供じゃないんだから、自分で決められるわ。もういいわ、私一人で行くわ」

「お待ちください、お嬢様……」

「いやよ。先に帰ってなさいベルフェクトゥス」

 その言葉と同時にフィリアの姿が徐々に背景に溶けて消えていく。ステルス機能、光学迷彩だ。
 先ほどまで微かに聞こえていたモーター音も聞こえない。

 戦闘用では無いはずの、唯のお嬢様の体に何故そんな機能が搭載されているのかは不明だが、とにかくフィリアはその姿を完全に消した。

「…………やれやれ。お嬢様の我儘にも困ったものですね。ねえ、アンダーソン様」

「は、はぁ……お気の毒に……」

 いきなり話を振られたティムはぽかんと相槌を打つしかなかった。

「しかしこのままでは旦那様にお叱りを頂いてしまいます。探すのを手伝ってはいただけませんか?もちろん内密に」

 問われてティムはとっさに頭を巡らせる。
 グレズ家としての頼みならばともかく、恩を売れないのであれば意味は無い。
 むしろフィリアの機嫌を損ねては逆効果だ。さすがにそこまで関わる必要はない。
 この間、わずか0.2秒。

「……い、いやそれは」

「おや、よろしいのですか?お困りになるのはアンダーソン様ですが」

「なに?」

 執事は一切微笑を崩さずに、口から彼の者ではない言葉を吐きだした。

『はー……ようやく終わった。これだから世間知らずのガキの相手は……はー……ようやく終わった。これだから』

「なっ、ななな……!?」

「組織の役員らしからぬ油断ですねえ、アンダーソン様。天上人たるグレズ家のご令嬢に対して暴言とは……これが知れたらどうなるか」

 この時代、記録装置を体内に仕込むのは大して珍しい事でも無い。天上人を浮世離れした存在と油断しすぎていたようだ。

「アンダーソン様、力をお借りできますよね?」

 アンダーソンが大慌てで部下に指示を飛ばしたのは言うまでも無かった。

●●●

「………困ったわ。ここはどこかしら」

 1時間後。
 フィリアは迷子になっていた。


[No.262] 2011/05/03(Tue) 21:19:02
見上げた空は高く青く (No.262への返信 / 21階層) - カオル・ミヤタカ

 腹部に柔らかな重みを感じ、カオル・ミヤタカはまどろみから目覚めた。

 「……ミッコさん?」

 ぼんやりと開けた目が見たのは、馬乗りになってこちらを見つめる女性。
 その目は非難の色を帯び、口は堅く結ばれている。

 「あのぅ、僕さっき寝たばっかりなんだけど……」

 時計を見ると、寝入ってからまだ1時間も経っていない。
 深夜営業の店で客同士の衝突があり、それの仲裁をしているうちに夜が明けてしまったのだ。ふらふらと根城にしているメイド喫茶の自室に戻り、安眠を貪ろうとしたらこれだ。

 「………」

 ミッコさんはますます不機嫌そうな顔つきになり、カオルの身体をゆさゆさと揺する。

 ミッコさんはカオルの店の名物三姉妹メイドの三女で無口でクールな物腰で人気だ。メイド喫茶のメイドとしてどうかとは思うが、多くのファンが居ることも事実だ。
 長女のイチコさんは柔らかな物腰で家事全般から店の運営まで完璧にこなす、まさに本物のメイドと言った風情。
 次女のニコさんは元気が有り余ってる感じで、生身で戦闘用サイボーグと渡り合えるほどの格闘術のエキスパート。
 ちなみにミッコさんは情報処理の達人で、この三姉妹が現れてからアキハバラのメイドの勢力が格段に大きくなったとかならなかったとか。

 「……約束」

 「約束……? あっ! 買い物に付き合うって言ったの今日だっけ!」

 慌てて身体を起こすと、ミッコさんの顔が触れそうなほど接近する。
 やっと思い出したか、という表情をしてミッコさんがカオルの身体から降りる。

 「5分待つ……」

 こつん、と額と額を軽く当てて、さっさとミッコさんは部屋を出て行った。

 「しまったなぁ……。でも女の人との約束は守らないと」

 急いで身支度を整える。
 ミッコさんたちの過去を、カオルは知らない。少なくともただのメイドではなかったのだろう。人には言えない人生を送っていたのかもしれない。

 しかしそんなことは今の生活と、目の前のデートにはなんら関係の無いことだった。
 カオルは髪型をセットし、ミッコさんが待つ部屋の外へと扉を開けた。




 ミッコさんはなんでも『手造り』のものを好む。それは実態の無いものを常に扱う反動なのか、はたまた単純に個人の嗜好なのか。
 とにかく、完全ハンドメイドをうたったファンシーショップで特大のテディベアを僕にねだったミッコさんは、ようやく機嫌を直してくれたようだった。

 「でも、こんなに大きいの部屋に飾れるの? ミッコさんの部屋、そろそろぬいぐるみで溢れそうなんじゃ……」

 テディベアを前に抱くと前が見にくくて仕方が無い。四苦八苦しながら往来を歩いていると、ミッコさんがぽつりと返事をする。

 「……置けなくなったら、カオルの部屋に置くから、いい」

 「あのぅ……僕の意見は……」

 「却下」

 「しくしく……」


 そんな会話をしていると、不意に何かとぶつかった。

 「うわっ、ごっごめんなさい!」

 言ってから、人とぶつかったにしては妙に固い感触だと思った。テディベアがクッションになったおかげで怪我も何も無かったのだが。

 「痛いわね。いったいどこを見ているの」

 「すみません、不注意で……って、あれ?」

 テディベアをいったん降ろし、前を見て見ても、そこには何もなかった。ただ道が広がっているだけだ。

 「まったく。この私にぶつかるとは本当に不注意もいいところだわ」

 何も無い空間から声がする。思わずミッコさんを見るが、その表情からすると彼女にも聞こえるらしい。空耳ではないようだ。



 「……光学迷彩」

 ぽつりとミッコさんが呟く。するとややあって、何も無い空間から鮮やかに少女型のアンドロイドとおぼしき姿が浮かび上がる。

 「私としたことが、ベルフェクトゥスから逃げたときのままだったわ。まぁこんなこともあるわよね。」

 少女はしばらくカオルの顔を物色するように眺めていたが、やがてびしっと指を刺し、


 「決めたわ。貴方、この私フィリア・レーギス・グレズ・フトゥールムを特別に道案内してくれてもよくてよ」


[No.263] 2011/05/03(Tue) 21:19:55
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