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No.234に関するツリー

   特撮ヒーロー本編再録スレ2 - 咲凪 - 2011/05/01(Sun) 21:55:25 [No.234]
選ばれざる者達 - 咲凪 - 2011/05/01(Sun) 21:56:18 [No.235]
空間切り裂く剣閃と二人1 - ライン - 2011/05/01(Sun) 21:56:54 [No.236]
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Sの仮面/選ばれざる男 - 咲凪 - 2011/05/01(Sun) 21:58:19 [No.238]
彷徨うもの達4 - ありくい - 2011/05/01(Sun) 21:58:58 [No.239]
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Aの逡巡/天使の使命 - 咲凪 - 2011/05/01(Sun) 22:14:57 [No.244]
震える大地 - ありくい - 2011/05/01(Sun) 22:16:35 [No.245]



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特撮ヒーロー本編再録スレ2 (親記事) - 咲凪


 ここまでの三つの大きな出来事は!!

 一ぉつ!、尽介が結合点の少女、空奈と出会う!

 二ぁつ!、襲撃してきたダダが率いるワーム軍団をヒーロー達が打ち倒す!

 そして三つ!、SPIRITSの統括、佐久間ケンが現れた!!


[No.234] 2011/05/01(Sun) 21:55:25
選ばれざる者達 (No.234への返信 / 1階層) - 咲凪



 各々が各々の戦いに決着を付けていた頃、ゴセイファイヤーことハルトはダダの攻撃の際に皆とはぐれていた。
 彼がすぐさま戦線に復帰しなかった理由は単純だ、“此方にも、戦うべき相手が居た”のだから駆けつけられる状況では無かったのだ。

「ぐああぁぁぁっ!!」

 胸板を打ち据える拳の一撃にゴセイファイヤーの身体が吹き飛び、既に瓦礫と化している病院の一角へと叩きつけられる。
 その衝撃で肺の中の酸素が搾り出され「かはっ」と短く息を吐いたゴセイファイヤーだったが、彼とて護星の使命を担う者の一人、その自負もある、既に何度膝を折り、倒れながらも……今度もまた、剣を杖のようにして立ち上がる。
 ゴセイファイヤー……ハルトは決して弱い戦士ではない。
 努力を惜しまずに磨き続けた剣技は決して他より劣るものでは無い――――が、彼は今、圧倒的に一人の戦士を相手に追い詰められていた。

「何故だ、何故その子を攫う!!」
「…………」

 ハルトは目の前に立ち塞がる緑色の戦士に向かって問いかけるように叫んだ。
 仲間達とはぐれたハルトが目にしたのは、激戦の隙を狙い“ある入院患者”を攫おうとしていた3人組の姿だった。
 例えば、患者を救出に来た風に見えればハルトはそれを見逃したのかもしれないが――――入院患者、その「少女」一人を抱えてその場を後にしようとする3人組は、明らかに異質だった。
 そして事実、ハルトがその事を問い詰めた後に、3人組の1人がその姿を緑色の戦士へと変え、ハルトに襲い掛かって来たのだ!。

「赤いお兄さん、堪忍なぁ、ウチらもおたくに恨みは無いんやけど……」

 緑色の戦士の後方で、戦いの推移を見守る3人組のもう1人……何処かの学校の制服に身を包んだ、十代前半程度の年頃の少女が、申し訳無さそうに……だが若干楽しそうに、ハルトに向かって言葉を投げた。
 だが当のハルトは緑色の戦士の相手で手一杯であり、彼女の言葉に言葉を返す余裕すらない。
 さらにもう1人、病院から連れ出した少女を肩に抱える大男が居るのだが……彼はただ黙して、事の推移を見守っている。

「くっ……、でやぁっ!」
「ぬ……!」

 ハルトが飛翔する、跳躍ではない、飛翔だ。
 護星天使であり、それもスカイック族の血が流れる彼が得意とする戦法こそこの空中戦だ。
 地上での戦いは圧倒的に緑色の戦士の方に分があった。
 ならば此方も此方の得意な戦場で――空間そのものを足場にして戦えば、力の差を埋める事が出来るとハルトは判断し、そしてそれは成果を為した。

「ゴセイカリバー!」
「ぐあっ!」

 ハルトが中空を舞うように滑空し、緑色の戦士を袈裟に斬り裂いた。
 このまま大男から少女を奪還して……!、ハルトがそう思った次の瞬間だった。

「うっ!?」

 滑空するハルトの脚を何物かが掴まえ、彼を墜落させたのだ。
 それは――――いまだ健在の緑色の戦士の腕から伸びる鞭のような触腕だった。

「ドクダリアンの鞭……」
「なっ……」
「そしてクラゲダールの電流攻撃!」

 言葉と共に、緑色の戦士の体内器官から発生した電流が鞭を伝い、ハルトへと襲い掛かる。

「ぐああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「フンッ!」

 緑色の戦士の電流鞭がハルトから離れた次の瞬間、過度のダメージにハルトの装着しているゴセイファイヤーのスーツが火花を上げた、ダメージの許容量を超過し、変身が解除される。
 ゴセイファイヤーから生身へと戻ってしまったハルトは、それでも倒れた状態から何とか上体を起こし、緑色の戦士を睨み付けた。

「何故だ……」
「…………」

 緑色の戦士はその問いに答えず、身体を起こすのが精一杯のハルトの横を素通りして2人の仲間の元へと……誘拐した少女の元へと歩む。

「何故こんな事をするんだ……仮面ライダー!!」

 追いかけようとして、身体の深いダメージから再び倒れたハルトは緑色の戦士……仮面ライダーに向けて叫んだ。
 背を向けていた仮面ライダーはハルトに振り返りそして……。

「俺を仮面ライダーと呼ぶなっ……!」

 その一言だけを残して、仲間達と共にいずこへと姿を消した。
 ハルトはそのまま気を失ったが、その直前に――――。


「この娘が、結合点の一つか」


 深い後悔の入り混じった、そんな呟きを聞いた。


[No.235] 2011/05/01(Sun) 21:56:18
空間切り裂く剣閃と二人1 (No.235への返信 / 2階層) - ライン

「はあああああああ・・・・・でりゃああああ!!!」

横薙ぎ一閃 時空ごとヤミーとワームを切り裂いた。

空間ごと切り裂かれ、ワームは消滅する。

ヤミーは姿が消えていくと同時に銀色に輝くメダルに変化する。

巨人型ヤミーだったそれは・・・
何百何千のメダルを重ね合わせて作った巨人の様な物に入れ替わっていた。
巨人を形成していたそれは一瞬にして崩れ落ち、銀色の洪水となって地上に降り注いだ。

「彼、凄いなぁ、一太刀であの巨体を倒すとは!?」

「でしょ? 彼はオーズ、仮面ライダーオーズよ」

「あれは何なんだ? 人型がワームを吸収してモンスターを生み出した・・・巨大化して、倒されたら、銀色のメダルに変わった?」

「ワームを吸収して生み出された怪物はヤミー、生物の欲望を形にした存在。欲望の種類や欲望の進化によってヤミー自身進化するのよ」

「先輩!? 俺達以外の仮面ライダーのようですね?」

「俺達以外の仮面ライダー・・・オーズ・・・・・」

仮面ライダーを破壊するのが欲望なら、何故?その場で破壊しようとしなかった?
誰かの命令で、仮面ライダーの俺達とトルーパー達を引き剥がそうとしたのか?
戦術的分断というわけか? 先程の白スーツの男の命令か?
ヤミーはあのスーツの男の命令で動いた・・・
思考を巡らせるマンティスX1。

それを興味深そうに見つめるキュウティー

ゼクトルーパー隊員数名がマンティスX1、キュウティー、アゲハの前に現れる。

「隊長! 報告します。第一部隊の一部、病院内突入担当の第二部隊はワームと交戦中、院内はワームで溢れ返って、押されています。GIASのミサキ隊員、アニー隊員の二名と例の少女を見つけました。ゴセイファイヤーと名乗るヒーローも一緒です。ゴセイファイヤーはGIAS、我々と一緒に戦ってくれています。」

「ワームは我々のいる駐車場に次から次へと集まりだし、混戦となっています! いつ押さえが突破されるか、問題です! 増援を!」

マンティスX1は配下の兵士達の報告を聞きながら、考えを巡らす。
自分の周りで負傷したゼクトルーパー兵士数名に手を貸して撤退しているゼクトルーパー達。傷の少ないトルーパー達は手にした銃を携帯して警戒に当たる。

ゼクトルーパーブルー第一部隊も先程の交戦でダメージを受けた。
兵士数名は負傷で動けない。戦力低下している。
とすると・・・アゲハを見て

「アゲハ、駐車場へ行って、ゼクトルーパー部隊とゴセイファイヤー、GIAS隊員、例の彼女を助けに行ってくれ! 」
「オーズと彼女の事は俺に任せて、行ってくれ!」

「先輩! 分かりました! 俺行ってきます!」

アゲハは、ゴセイファイヤー、ミサキ、アニー、彼女こと空奈達の元へ向った。


[No.236] 2011/05/01(Sun) 21:56:54
空間切り裂く剣閃と二人2 (No.236への返信 / 3階層) - ライン

銀に輝くメダルの雨が降る中心にはメダジャリバーを持つオーズが立っていた。

「メダル三枚分、きっちり決めたぜ! キュウティー、カンドロイド頼んだぞ!」

「貴方達メダルの回収お願いね?」
キュウティーが銀色缶を手に取り出すと、ピンを抜く動作をすると、銀色缶だったそれは
動物型ロボットに変形して、メダル降り注ぐ空へと飛んで行った。
キュウティーの手から飛び立ったロボットと、何時の間にか集まってきた同型ロボット、それに混じって、別型ロボットの大群がメダルを回収していく。ある物は空を飛びメダルを、ある物は地面を走りメダルを体内に回収していく。

「小型ロボット? 」

「カンドロイドよ。普段は缶形態で待機、ピンを抜くと起動して動物や昆虫をモチーフとしたロボット形態になるのよ」


「先程の蜘蛛の糸に絡められた蝶と蟷螂の蜘蛛の糸というのは、オーズが蜘蛛の糸でヤミー達三体を止める事を言っていたのか・・・蜘蛛が蜘蛛の糸に捕ったということか・・・」
オーズとキュウティーを交互に見つめるマンティス。

「そういうことよ。所で増援の事だけど? 蝶さんだけでいいの?」
キュウティーが疑問を口にする。

「現時点で、あいつが一番適しているからだ。戦闘力、機動力、それに、彼女の護衛なら見知った人物なら安心するだろう?」
疑問に答えるマンティス。



銀色輝くメダルを回収していくカンドロイドの大群。

銀に輝くメダルの雨が降り注ぎ、カンドロイドが空に大地を駆ける空に

突然

灰色のカーテンが表れ、先程のシルクハットに白スーツの男が現れる

『セルメダルは私が頂きますよ オーズ!』

「お前はあの時のグリード!? モーホウとかいったな?」

オーズはメダジャリバーを構え、シルクハットを被り白スーツ纏った男を見つめる。

『その通り、私はグリードの一人、モーホウ』

『先行投資した分を回収しに参上しただけですから、戦いませんよ。今回はセルメダルの山分けということにしておきませんか? 何しろ今回は、多段変形するヤミーは初めてでしたからね?』

男は両手を広げると、カンドロイドに回収されていないセルメダルが男の身体に吸収されていく。

チャリン! チャリン! チャリン! どこからもなくメダルが重なり合う音が響く。

『確かにメダルは回収しましたよ。 残りのセルメダルは君達に差し上げますよ。『実験』に付き合ってくれた御礼に受け取ってください』

「実験? あの巨大ヤミーを生み出して、暴れさせる事が実験なのか!」

『はい、人間以外の生命体の欲望、ワームの欲望、そして・・・ワームの欲望から生まれるヤミーを見たくて、今回実験を行いました。 機能強化、巨大化と実に興味深い。』

「お前! 人間以外にもメダルを使ってヤミーを生み出していたのか!」

オーズは言うのと同時に、ツチグモメダルのエネルギーの糸を駆使して、先程の巨大ヤミーと同じく動きを止めようとする。

『私のツチグモメダル力で私を止めようというのかい!?』

モーホウが答えると、モーホウの後方に九つの尾状のオーラが現れ、炎を煌かせる。オーズの放ったツチグモメタルのエネルギー糸は熔かされてしまう。

「ワームをヤミーに変えたシルクハットの男!?」

先程アラクネアワームをヤミーに変えたシルクハット、白スーツ姿の男が再び現れた。

「あら・・・モーホウ、お久しぶりねぇ」
マイペースなキュウティー。

『今回はこれで失礼しますよ。オーズ! 私のコアメダルは必ず返してもらいますよ!』

灰色のカーテンに包まれると消えていった。

モーホウが消えると同時にヒーローズ達に通信が入る。

『久我崎病院並び、その周辺で戦闘中の諸君。戦闘が終了次第、それぞれ合流の後、
SPIRIS本部へ移動してください。もちろん、結合点の少女と一緒に』

「敵もいなくなったようだし、呼ばれているようだから、そちらに行きましょうか」
キュウティー。

「敵もいなくなった事だし・・・改めて自己紹介と行きましょうか?」
オーズ。

「オーズ、キュウティー、助けて来てくれてありがとう!」
マンティス。

オーズ、キュウティー、マンティスが揃う。

「俺は仮面ライダーオーズ 」
「改めて初めまして、キュウティーよ 宜しくね」
「私は仮面ライダーマンティスX1 」

三人はゼクトルーパーブルー隊と合流してSPIRIS本部へと向った。



病院内、駐車場とは違うルートから潜入した突入部隊に属したゼクトルーパー隊

彼らは10人で行動していた。
「まったく、たった10人で病院内見てこいとはね」

「とにかく、別ルートで潜入する事は会議で決まっていた事だ。つべこべ言うな!」

「先程の敵宇宙人の巨大化に伴う地震で駐車場にいる味方部隊と合流出来なくなった」

「速く避難しないとここだって崩れる危険はあるからな」

「ん? あれ人よね?」
ゼクトルーパーの一人が人を見つけた。

地面に倒れた青年を見つけた。
先程の戦いでダメージ受け、変身解除して倒れたハルトだった。

「怪我は浅い掠り傷が多いが、生きている」

「良かった 彼を助けましょう!」

二人のゼクトルーパーがハルトに駆け寄り、ハルトを助け起こす
一人は大柄の男、一人は少女のようだ。

大柄の男と少女はハルトの状態を見て判断した。

彼は生きている。一緒にここから生きて帰ると・・・・・

携帯電話が鳴る。
『ウルトラマントゥモローと敵対宇宙人ダダがこの近くで戦っているわ! 貴女達すぐにここから退避して!』女性の声が響く

「今から私達もトレーラーに戻ろうとしていた所よ。倒れている青年を見つけたの。一緒に連れ帰ってくるわね。」

「紫音! 行くぞ!」隊長らしい男がゼクトルーパー装甲服の少女に呼びかける。

「青年、君も一緒に帰るわよ!」
携帯をポケットにしまって、ハルトをもう一人の隊員と一緒に運んでいくのだった。


[No.237] 2011/05/01(Sun) 21:57:32
Sの仮面/選ばれざる男 (No.237への返信 / 4階層) - 咲凪


 「ご苦労だった、諸君」

 秘密組織『選ばれざる者』のアジトは地上には存在しない。
 日本近海に潜伏している大型潜水艦こそ彼等『選ばれざる者』の移動拠点『アグル』である。
 そしてその中枢司令部にて、『結合点』の少女の誘拐に成功した3人組――――。

「……ボス、本当にあの娘が結合点なんだろうな」

 ショッカーライダー型改造人間、七士・勇。

「仮に間違えてたらえらいこっちゃで……ウチらこれで人攫いやのに」

 ルパーツ星人のレイオニクス、一条・貴沙羅こと、ザラ。

「…………」

 そして、人造人間、シロー。

 彼等の視線は彼等の統率者たる男に注がれていた。
 この巨大潜水艦『アグル』の総指揮を取っている『選ばれざる者』の首魁、仲間に対しては明確に名乗った事もあるが、此処ではあえて『髑髏(どくろ)の仮面の男』っと呼ぶ――文字通り、髑髏の仮面を被った男に注目が集まると、髑髏の男はゆっくりと頷いた。

「あぁ、保障しよう――あの娘が結合点の1人、この無秩序な世界を維持する鍵の一つだ」
「そうか……ボス、あの娘は?」
「医務室で寝かせてある、なぁに心配は要らない、手荒なマネはしていない」
「誘拐を指示しておいて何言うてんの!」

 『ボス』……つまり髑髏の仮面の男の言葉に貴沙羅が突っ込みを入れると、髑髏の仮面の男は「フッ、そうだな」と小さく笑って答えた。

「あの子、まだ起きてへんの?、……何処か悪いトコ打ったんちゃうの?」

 心配そうに貴沙羅が言うと、その問いにも仮面のボスが答えた。

「勿論彼女の身体は診察済みだ、外傷は無い、彼女が眠り続けているのは彼女の意思だ」
「あの子の意思……?」
「あぁ、あの娘は何故かはわからないが自分自身を封じようとしている、だから目覚めようともしない」
「何故判る――――ボスお得意の『超能力』でも使ったのか?」

 髑髏の仮面の男は凄い超能力の持ち主である、という噂は選ばれざる者の構成員の間で噂になっている。
 真偽を確かめた事は無いが、このアクの強い集団を統率するからにはそれ位の事はやってのけるのかもしれないと勇は思ったが……。

「まさか、そんな事は出来んよ」

 髑髏の仮面の男はやんわりとそれを否定した。

「これは彼女自身の言葉だ、最も……私自身がその言葉を聞いた訳では無いのだがね」
「えっ!?」
「彼女は目覚めたのか?」

 意外な言葉に勇と貴沙羅は驚いた、シローは会話を見守るばかりで、自らその中に加わろうとはしない。
 髑髏の仮面の男は懐から一枚の紙片を取り出すと彼等にその内容を見せる。

「少し目を離した隙にこのメモが置かれていた、驚くべき事に彼女は自らが置かれている状況と境遇を理解しているようだ」

 髑髏の男が取り出したメモには恐らく結合点の少女が残したのであろう伝言が書かれていた、その内容は彼女が自分の境遇を理解している旨であり、そして大きく、強く一言――――。

『起こすな』

 と、力強く書かれていた。


[No.238] 2011/05/01(Sun) 21:58:19
彷徨うもの達4 (No.238への返信 / 5階層) - ありくい

 今となっては患者も医師も居ない半分廃墟と化した病院内に、ヒーローズは集結していた。SPIRITSの佐久間から呼びかけがあった後、彼らは自然とここに集まったのだ。
 同じ場所で戦いながらも初対面の者が多かったこともあり、状況把握と情報交換に場は賑わっている。
 そんな中で身体を横たえて手当てを受けている者達がいる。尽介とハルトだ。

 「へへ……カッコ悪いね、俺達」

 「そうだな……けど、このままじゃ終らないさ。だろ?」

 まだ戦意は喪っていない。頷き合った二人に近づく人影があった。仮面ライダーマンティス――刀伊達である。

 「先輩……すいません。せっかく任せてもらったのにこの体たらくで」

 頭を下げる尽介を、刀伊達はしばらく見つめた後おもむろに口を開く。

 「……確かに、過程だけを見ればお前は任務に失敗したかもしれない。しかし結果を見てみろ。お前はあの少女を守り、自らも生き延びた」

 「………」

 「クロックアップの連続使用で身体に負担がかかっていた中でお前は良くやった。もしお前がそれでも納得できないのなら、これからの働きで挽回して見せろ」

 「……はい!」

 その様子に、密かにはらはらしていたハルトも胸をなでおろす。そして、これからの働きで挽回して見せろ、その言葉を胸のうちで繰り返す。
 助けられるだろうか。あの、仮面ライダー達に攫われた少女を。

 「いや……『だろうか』、じゃないな。必ず助け出してみせる!」

 拳を握り締め、決意を新たにする。
 と、そこにこの騒がしい場を沈めるかのように男の声が響いた。

 「――なあ、そろそろ問題点――というか原因というか――をはっきりさせておいたほうがいいんじゃないか」

 しん、とその場が静まる。その中心には青年――写楽映が立っていた。
 その場に居る全員の視線に臆することも無く、写楽は平常通りと言った風情で言葉を続ける。

 「今回の騒動は、そこの……空奈ちゃんだっけ? を怪人どもが狙ってる訳だ」

 名指しされて一歩下がる空奈。しかし、それ以上怯まずに頷く。何故自分なのか、その答えを知りたいという強い意志を感じさせる瞳。
 その視線を受けて、ゆっくりと写楽は続ける。

 「……この目で見るまでは確信が持てなかった。が、実際に会ってあんたを見て分かった。――あんたと俺は同類、というよりも兄妹みたいなもんだ」

 「……え?」

 唐突な言葉にきょとんとする空奈を他所に、写楽は言葉を続ける。それは、あえて極力感情を込めずに言っているようにも聞こえた。




 「空奈という人間はこの世に存在しない。……あんたは、クエイク・ワンが起きた時に生じた次元の歪み、『結合点』。それが人の形を持った内の一人だ」
 
 


[No.239] 2011/05/01(Sun) 21:58:58
分裂T (No.239への返信 / 6階層) - アズミ

 息苦しい。
 焼けるようにからからに渇いた喉が張り付いて、呼吸が上手くできない。

 パッチワークの世界。

 結合点。

 彼らは何を言っているのだ。

 何を。

 言って。


「……つまり、この女が死ねば世界はオシマイ、ってわけだ」


 その言葉が耳朶に届いたのを最後に、空奈は意識を手放した。





「空奈っ!」

 意識を失い倒れ込んだ空を、写楽の腕が確と受け止める。
 駆け寄ろうとした尽介だが、写楽が掲げたバックルほどの大きさの機械に気圧され、踏み込む足を止めた。
 一見して小型のスキャナーか端末のように見えるが……アレは、武器だ。ゼクターに類する、攻撃性を孕む何かだと尽介の本能が断じた。

「……何の真似だい?」

「そいつは後ろのお仲間に聞きな」

 写楽に促されて静かに振りむく尽介を、背後から響いた剣呑な音が迎えた。
 ゼクトルーパー。
 秘密結社ZECTの、文字通りの兵隊アリ。40名に届こうかという屈強な兵士たちが、写楽の説明に聞き入っていたヒーローズを取り囲むように展開し、右手にマシンガンブレードの銃口をこちらに向けている。

「何の真似だ、ZECTの諸君!」

 咎めるように言うミサキ隊員に、しかし答えるゼクトルーパーは一人もいない。表情さえ、その黒いヘルメットに隠され窺うことは出来なかった。

「……説明しろ、お前たち」

 直属の上司である刀伊達の言葉に、ようやっと副隊長格が感情を押し殺した声で応じる。

「結合点の少女はこちらで保護しろ、とのことです。隊長」

「誰がそんな命令を出した!」

「ひょーぎかい、って連中らしいぜ」

 写楽が無造作に放って寄越したゼクトルーパーのヘルメットを、刀伊達は思わず受け取る。
 評議会。……ZECT構成員にさえ遥として知れない最高意思決定機関。

「バカな!」

 刀伊達が戦慄する。GIASやSPIRITSの構成員もいる中で、こんな強硬策を取れば組織は孤立する。
 否、孤立してでも結合点の少女を手に入れよ、ということなのか。それほどの価値が結合点には――。

(……ある、はずだ。世界の命運そのものなのだというなら)

 数度の自問で納得を得つつある刀伊達に対して、尽介がゼクトルーパーに食ってかかる。

「ちょ、待てよ!お前ら!」

 イリーガルエージェントである尽介にそこまでの遠慮は無用ということか、ゼクトルーパーは銃口を向けたまま動かない。

「ZECTがどうとか、そんな場合じゃないだろ!この娘、いったいどれだけの敵に狙われてるかわかりゃしないんだぞ!
 人間、みんなで護らなきゃ……!」

「尽介」

「刀伊達さん!」

「黙っていろ、尽介!」

 先達の一喝に、若き仮面ライダーは言葉を詰まらせた。
 刀伊達はゼクトルーパーに手ぶりで指示すると、彼らはまさしく蟻の従順さで散開し、銃口を他のヒーローズに向けた。
 その代わりとでも言うのか。刀伊達本人は未だこちらを牽制するようにバックル……ディレイドライバーを掲げる写楽と相対する。

「少女を渡したまえ」

「聞くと思うか?この状況で」

「上層部の短慮は詫びよう。
 ……だが、恐ろしいのだ。彼らもこの事態が。解るだろう?」

 恐ろしい?
 理解しかねて、尽介が眉をひそめた。この場に置いて誰より攻撃性を露わにし、他者を威圧するZECTが、ZECTの側こそが……恐れている?

「結合点の少女に決して手荒な真似はさせない。他組織との協力も納得させて見せる。だから……どうか、この場は」

 写楽のみならず、ミサキやアニー、山吹らにも説得するように言う。その態度は真摯であったが、しかし納得できたものは一人としていないようだった。
 何より、相対する写楽はその言葉に決定的に態度を硬化させた。

「俺はアンタを信じられる。
 だが……アンタは、信じられるのか?名前も顔も解らねえようなおたくらの上の連中を、よ」

「…………」

 刀伊達は押し黙った。
 ZECTは人間に擬態するワームを相手どる都合上、その全容は構成員にさえ秘される。刀伊達とて例外ではない。
 ワームを駆逐する、というその姿勢において異論も疑いもないだけだ。
 それが、ZECTという組織だ。

「――残念だ」

「俺もだよ」

 100の言葉を重ねても信を得られない状況もある。ならば、取れる手段は一つしかない。
 刀伊達が構えた手に、飛来したマンティスホッパーが収まった。それに呼応するように、写楽がディレイドライバーを腰に装着する。

「先輩!?」

「やれないならそこで見ていろ、尽介」

 刀伊達は視線すら向けず、冷たく突き放した。
 暗に、手を出すなと言っている。尽介にはそう感じられた。
 写楽は何も言わず、空奈を抱えたままディレイドライバーから抜き放ったカードを構える。


「変身!」

――KAMEN RIDE...DYLAYED!


「変身!」

――Hen-Shin!


 そして、二人の仮面ライダーは絶対の敵意を持って相、対した。


[No.240] 2011/05/01(Sun) 22:08:44
分裂U (No.240への返信 / 7階層) - アズミ

 窓ガラスを突き破って跳んだディレイドと、それを追うマンティスが庭に降り立つ。
 ディレイドが空奈をその場に寝かせるのを待つように、ゆっくりとした足運びで近づくマンティス。
 激突は、ディレイドが振り向いた瞬間だった。

「せェやっ!」

「ぬうっ!」

 互いの胸に無遠慮に叩きこまれた拳が、両者の身体を数10cm強引に押しこむ。
 痛みに咽る間もなく、2人のライダーは蹴りを、拳を、いずれも必殺の威力を込めて打ち放った。

「ぐっ!?」

「おおっ!?」

 爆裂するような衝撃と破壊音が、空間を揺るがせる。有効打も捌いた数も同数。互角。
 真っ向勝負では埒が明かないと悟ったか、両者が次の行動に移るのも全くの同時だった。

「我々は組織だ。君独りに抗い切れるものではない!」

――Cast Off! Change Mantis!


「なぁに、仮面ライダーなんてのは、得てして独りで戦う羽目になるもんさ」

――KAMEN RIDE FIZE!


 ライダーフォームへ変形するマンティスが投降を促せば、仮面ライダー555へ変身するディレイドが涼と返す。
 聞き入れられないと見るや、次の瞬間には刀伊達の攻撃は容赦の色を失っていた。


「クロックアップ!」

――Clock UP!


「そういうの、こっちにもあるぜ!」

――FORM RIDE FIZE!
  ACCEL!


 世界を置き去りにして、銀と白の仮面ライダーが加速する。




「先輩!」

 駆けつけた尽介の眼には、ただ庭に吹き荒れる破壊の嵐だけが映っていた。
 ZECTのライダーシステム以外にクロックアップに対応するライダーがいたことも驚きだが、それ以上に尽介はあの写楽という男が刀伊達とほぼ互角に立ちまわっていることに戦慄を禁じ得なかった。現状、ZECT最強の戦士であるあの仮面ライダーマンティスに。
 だが、実状は彼の認識より少しだけ違っていた。





「くっ……!?」

 打ち込んだライダーブレードの一撃をファイズエッジに弾かれ、刀伊達が苦悶する。
 彼の不運は2つ。
 事前のダダらとの戦闘で先陣を切って奮戦した彼は少なからぬ消耗を被っていたこと。
 そして今一つは――鉄の如く鍛え上げた彼の精神ですら、組織の意志を執行する装置には成りきれなかったこと、だ。

「終わりにするぜ……!」

――FINAL ATTACK RIDE...
  FA FA FA FIZE!


 555アクセルのシルバーストリームがマンティスの視界に残光を残して迫る。

 拙い!

――3 2 1

「ライダースラッシュ!」

――RIDER SLASH!


 タキオン粒子を纏った刃は、辛うじてディレイドの必殺の一撃を受け止める。

「脆弱な人の……力は!
 団結によってのみ示される!
 他者の手を、たとえそれが怯えや虚栄に汚れていたとしても!
 疎んじていては……誰も護れはしない!」

 だが、荒れ狂うアクセルスパークルカットの破壊力はそんなことを意にも介さぬようにマンティスの剣勢を圧し切らんとしていた。

「……こんなもんに、誰かを付き合わせるのが団結か?」

「何!?」

 ZECTの判断は、恐らく全ての組織の誰もが頭に過ぎらせたものだっただろう。
 結合点。世界を崩壊させる導火線。その恐怖から目を逸らすのは、如何なる組織、如何なる存在でさえ耐えがたく恐ろしいに違いない。
 『自分が握ってないければ』、到底安心できない。その体質故に秘密結社であるZECTはそれが他より早く顕在化しただけだ。

「ビビって味方に銃向ける連中の手ぇ握って、ちゃんと戦えって言って聞かせるのがヒーローか?」

 それは、責められるべきことではない。
 脆弱な人間が、恐ろしいものを恐ろしいと感じる、それが罪過であるはずがない。
 こんな恐怖と、それに相対する使命を背負うのは人間の義務ではない。

「そのゴツい鉄の両腕は!踏みしめた鋼の足は!仮面ライダーは!」

 『だから』ヒーローは孤独なのだ。

 『だから』!彼らは孤高の戦士だったのだ!

「人に背負えねえもんを、背負い込むためにあるんだろうがっ!」

 接触面に蓄積した破壊力が、ついに両の抑えを振り払って爆裂する。
 弾かれたファイズエッジとライダーブレイドが、同時に宙を舞った。

「おォりゃあっ!」

「くうっ!?」

 間髪いれずに放った互いの拳が、火花を散らして擦過する。だが、コンマ1秒早く相手の胸に突き刺さったのはディレイドの拳だった。


――CLOCK OVER!

――TIME OUT!


[No.241] 2011/05/01(Sun) 22:10:28
分裂V (No.241への返信 / 8階層) - アズミ

 無機質な電子音の宣告と共に2人の仮面ライダーは常人の時間に帰還する。
 と、同時に。2人を認めた尽介の眼に飛び込んだのは、その直後にくず折れる、マンティスの姿だった。

「先輩っ!?」

 刀伊達が遅れを取った。その事実に、彼の心は激しく動揺した。敵を目の前にして、倒れた仲間に変身もせず駆け寄ったことが何よりの証左だ。
 しかし、元の姿に戻ったディレイドは刀伊達と尽介には一顧だにせず、空奈を抱えると表玄関に向けて去っていく。
 彼の腕の中の空奈の姿に、ようやく尽介は戦意を取り戻した。

「待て!」

 パピリオゼクターを手にした尽介に、ディレイドは僅かに振りむいた。
 緑の複眼が、彼の胸を射竦める。

「今は時間がねえ」

 くい、と親指で示す尽介の背後――病院の側からは、異変を察知したか一個小隊のゼクトルーパーがやってきている。
 組織を同じくする彼らであったが、尽介はそれを仲間の救援とはどうしても思えなくなっていた。
 そんな彼の心中を見透かしたように、ディレイドは再び歩を進め始める。

「用があるならついてこい。途中で聞いてやる」

「…………っ!」

 もはや、敵として見ていない。
 硬直する彼に、絞り出すような刀伊達の声が喝を入れる。

「追え、尽介……」

「刀伊達先輩!」

 ライダーシステムは既に過度のダメージにより解除されている。刀伊達の負傷は重くは無かったが、戦闘の連続で疲労もピークだろう。表情は苦痛のまま、半身を起こすことで精一杯の様子だった。

「少女を守るんだ……お前自身の手で」

「でも、先輩は!」

「俺は、大丈夫だ。……組織の真意も見極めなければならない」

 まごつく尽介の背を、刀伊達の手が押した。

「行け……!
 お前は……大空を往き、尽くを助ける男だろう!」

 負傷の身とは思えぬ力強い手。
 尽介の心は、決まった。

「……了解!」

 ゼクトルーパーの足音を背に、走り出す。
 刀伊達はそれを見送ると、大きく息をついてその場に倒れ伏した。





 久我崎病院から30分ほどの路上で、アゲハのアゲハエクステンダーが病院から離れ行くマシンディレイダーに追いついた。

「おい!」

 空奈がディレイドの後ろに括りつけられている以上、いきなり攻撃をしかけるわけにもいかず、尽介はただ、声をかけた。

「なんだ!」

 短く問い返すディレイドに、尽介は思わず続く言葉に窮した。空奈を返せ、と言うのは容易いが、奪還しても尽介にはそこから先のプランが無い。……ZECTは頼れないと、既に決めていた。

「……これから、どうする気だよ!?」

 我ながら間抜けな問いだと思ったのだが、しかしディレイドはそれを馬鹿正直に返答した。

「SPIRITSの佐久間ケンってのが会いたいって言ってたんだろ!まずは会ってみるさ、名前だけは風見先輩に聞いたことがある!」

 風見、という名前に聞き覚えはなかったが、しかし佐久間に個人的なコネがあるなら悪くないプランだった。
 道中の敵組織や……ZECTの妨害を往なせれば、の話だが。

「SPIRITSもZECTと同じようなら、また別を当たるしかないな!」

 まるで群れる連中は信用ならんというばかりの口調に、尽介は噛みついた。

「そんなに組織が信用できないのかよ!」

「お前、ZECTのライダーだろうが!?」

「それがなんだよ!?」

 呆れたような口調に、思わず声を荒げる。だが、ディレイドは何のことはないように言った。

「敵にワームがいるんだぞ!人がたくさんいるところは護りにくいんだよ!」

「あ……!」

 ワームは人間に擬態し、社会に潜伏する。それはワームを認識し敵対するZECTであっても同じことで、しばしばワーム侵入の被害は被ってきたし、それがゆえの秘密主義である。
 今まではワームに大規模な組織だった動きがなかったためあまり考慮しなかったが、確かに敵がワームを尖兵としている現状では警戒すべき要素かもしれない。

(……いや、まさか評議会も既にワームに……?)

 脳裏を過ぎった恐ろしい推測を振り払うように、尽介は声を張り上げた。

「SPIRITSの本部、何処だか知ってるのか!?」

「いや?お前、知ってるか!?」

 あっけらかんと敵対者であるはずの彼に問うディレイドに、尽介は少し呆れた。
 が、進むべき道は既に決めている。

「次を左!」

「おう!」

 敵対しているはずの2人の仮面ライダーは、しかし並んで走り始めた。
 目の前に広がる、たった一つの道を。


「俺は写楽映。お前、名前は!」

「大空尽介――大空を往き尽くを助ける男だ!」

「変な名前だな!」

「そっちこそ、言えた名前かよ!」


[No.242] 2011/05/01(Sun) 22:11:30
分裂W (No.242への返信 / 9階層) - アズミ

「もう、何なのよアイツら!」

 結合点の少女を逃がしたと見るや、ゼクトルーパーはミサキらへの包囲を解いて速やかに撤収した。
 ぷんすかと腹を立てているアニー隊員をさておいて、ミサキ隊員はGIAS本部への報告を済ませていた。

「アニー隊員、一度本部に戻ろう」

「どうして!?空奈ちゃんを追わないと!」

「隊長と参謀がZECTと話をつける方向で動いてくれている。人間が相手では我々が軽はずみに動くわけにはいかない」

「あ、そっか……」

 GIASはあくまで怪獣や侵略宇宙人を始めとした超常案件や国連指定のテロ組織による凶悪犯罪に対応するための組織だ。非公然組織とはいえ、一般の人間を相手に武力を安易に振るうことは許されない。

「それに、我々が追いついたところで事件の抜本的な解決はできない」

 空奈が結合点である限り、この事件は解決し得ない。
 彼女を狙う者は決して諦めないだろう。その要因が欲望ではなく、恐怖に根差すからだ。この世界が滅びるかもしれないという、眼を逸らしえない恐怖。
 それどころか、長引けば長引くほど自体は悪化しかねない。統率された組織であるZECTさえ暴走を誘発される事態である。これが一般人に知れ渡れば、それこそどのような惨事に発展するか想像もつかない。

「じゃあ、どうするの?」

「空奈君の診察データは既に写しを取って本部に送ってある。
 量子物理学は高山博士の本領だ。何か対策を考えてくれるかもしれない」

「さっすが、ミサキ君!抜け目ないわね!」

「ハルト君の治療もしなくてはならないしな……彼の言う、女性を攫った仮面ライダーというのも気になる。
 あぁ、仮面ライダーと言えば……」

 そこで、ミサキ隊員は部屋を辞そうとしていた山吹に気づく。
 山吹はどさまぎにそのまま退散する気だったのか、ぎくりとした表情で振り返った。

「なにか?」

「君はどうする? 確か……」

「山吹です。鴻上ファウンデーションの山吹楓」

 恐縮した様子で名刺を差し出してくる。その様子はこの国の最大公約数的なサラリーマンに見えたが、しかし彼もまたヒーローズであることは先刻の戦闘で解っている。
 彼もまた、仮面ライダー。仮面ライダーオーズ。

「俺は、そのー……まだ仕事があるんで、ここらで退散しようかと」

 山吹の警戒は、つまるところ“お上”と関わる面倒を避けたい、小市民的なものだったが、そんなことは露知らずミサキは頷く。

「解った。道中気をつけたまえ。
 後ほど情報協力を求めるかもしれないが……」

「あ、それは勿論。上を通していただければ」

 山吹は幾度も頭を下げてそれ以上の追及を避けると、逃げるように病院を出ていってしまった。

「ちょっと、ミサキ君……いいの?」

「善意の協力者に強制は出来ないさ」

 ミサキ隊員は肩を竦めると、ハルトを迎えに行くべくGIASドライブに乗りこんだ。


[No.243] 2011/05/01(Sun) 22:14:13
Aの逡巡/天使の使命 (No.243への返信 / 10階層) - 咲凪


 ミサキ等の配慮は知らずに、当のハルトはゼクトルーパーに紛れて刀伊達の所へと駆けつけていた。
 先ほどの騒動は勿論目にしているが、倒れた彼を助けてくれたのもまたZECTの隊員なのだ。

 だからこそ、刀伊達に話を聞きたいと思ったのだ。
 ハルトはZECTという組織の内情を知らない、だからこそ刀伊達の言葉でそれを聞くべきだと思ったのだ。

「刀伊達さん!」
「君は……ハルト君か」

 丁度ゼクトルーパーに肩を借りる形で助け起こされていた刀伊達はハルトに気付くと、気丈にも肩を貸していた隊員から離れ、自らの足で立つとハルトに近づいた。

「刀伊達さん、ZECTって正義の組織じゃないんですか?」
「…………」

 ハルトは近づいてきた刀伊達に、遠慮の無い言葉をぶつけた。
 少なくとも、ハルトの見た範囲でZECTは善であると思えた、先ほどの一件も、写楽の話を聞いていれば大体の事情は察する事が出来る――あとは、当のZECT隊員である彼等の言葉が聞きたかった。
 ハルトは彼等に恩がある、彼等に敵対するという道は――できれば、とりたくは無い。

「……正しい事をしていると、俺は信じている」
「だったら――」

 ちゃんとその事を説明して、と言いかけたハルトの目の前で、刀伊達がぐらりとふらついた。
 慌てて言葉を区切り、ハルトは刀伊達を支えた。

「刀伊達さん!」
「……ハルト君、他のヒーローズと合流しろ」
「え……?」

 ごく小さい囁きは至近距離に居るハルトにのみ伝える為に囁かれた言葉だった。

「俺は俺の正義を信じている、だが俺はZECTの人間だ。
 ――――隊長として、こいつらを護る義務がある」
「…………」
「だがZECTという組織は一枚岩では無い、ハルト君、君は組織の中で戦う事には正直、向いてない……」

 刀伊達という男が隊長をしているのはその実力だけではない。
 彼は人の性格を汲み取り、正しく判断できる人間だった。

「まずは他のヒーローズと共に外からZECTを知るんだ、そして忘れないでくれ、ZECTの中には――」

 ようするに、彼は“人を見る目”が備わっているのだ。
 そして、その目を有用に使う為の判断力も持っている。
 ゼクトルーパー達が彼に絶大な信頼を置いているのは、その点に起因していると言って良い。

「ZECTの中には俺が居る。
 仮面ライダーマンティスが居る事を憶えていてくれ」
「刀、伊達さん……」
「忘れるんじゃないぞ、俺は――」

 俺は、味方だ。

 その言葉を告げると共に、刀伊達はやはり自分の足で立ち上がり、彼を心配して側に寄ってきたゼクトルーパー隊員を手で制した。
 丁度ミサキとアニーの乗るGIASドライブが姿を現していた。
 ハルトと刀伊達はそれを見ると、視線だけを交わして。

(行け!)
(……はいっ!)

 別たれた互いの道を、歩み始めた。


[No.244] 2011/05/01(Sun) 22:14:57
震える大地 (No.244への返信 / 11階層) - ありくい

 「……なあ、空奈ちゃんが結合点とやらだってのは分かった。この世界がとんでもなく脆いシロモノだって事も。……けど、それが何で彼女が狙われる理由になるんだ!?」

 SPIRITS本部に向かう道すがら、尽介は写楽に問いかける。彼女が世界の境界、結び目だという弁を信じるとして、死んだら世界が崩壊してしまうという恐ろしい存在を、何故敵性勢力達は欲しているのか。仮に世界を終らせるというカードを握ることが出来るとしても、それだけではリスクが高すぎる。
 これほどまでに執拗に彼女を狙うということは、そのリスクを補って余りあるメリットがあるのではないか。

 「……お願い、知っているなら話してください」

 「空奈ちゃん!? 気がついたのか!」

 「お前……。分かったよ、話そう」

 写楽はしばらくの間言いよどんでいたが、意識を回復させた空奈の強い視線を受け止めると頷いた。

 「とは言え俺だって全部知ってる訳じゃない。半分方憶測交じりだが……まず、さっきも言ったようにあんたは『結合点』の一つだ」

 本来ならこの世界は、クエイク・ワンで崩壊していたはずだった。それがどういうことか『結合点』と呼ばれる歪みが生まれることにより、辛うじて首の皮一枚で形を保っている。
 『結合点』とはその名の通り『別の世界』と直接関わりを持つ存在だ。

 「さっきあんたの事を兄妹分と言ったのはまぁ、俺も『結合点』だからだが……。『結合点』にはそれぞれ役割っつーか、世界との『関わり方』みたいなもんがあるらしい」

 「『関わり方』……。それで、空奈ちゃんの役割ってのは一体」

 写楽はちらりと後ろの空奈を見やると、口を開く。

 「……『現出』、とでも言えばいいのかな。恐らく、あんたは他の世界に存在する可能性をこの世界に引き込むことが出来る」

 例えばショッカー。この秘密結社が他の世界にも存在している場合、その戦闘員や怪人を生み出す事が出来る。それが人でなくても、何処かの世界に存在さえしていれば、空奈を通じて意のままに生み出す事が出来る。

 「誰かがあんたの力を利用すれば、望む全てが手に入るだろうよ。――その力でこの世界すら掴めるなら、奴らが死に物狂いで手に入れたがるのも当然だな」

 ぐらり。何度目かも分からぬ、目眩で世界が揺れる感覚。
 悪い夢か冗談のようだ。これもまた、何度呟いたか知らぬ思い。

 あまりにも現実味がなさ過ぎて。あまりにも規模が違い過ぎて。

 「そん…な……」

 「なんでだよ……なんで空奈ちゃんがそんな目に遭わなきゃいけないんだ! そんなの理不尽すぎるだろ!」

 「それが運命だからだ。……『結合点』として生まれた者の、な」

 尽介の叫びに、冷たい響きすら帯びる写楽の声。
 生まれる重苦しい沈黙を破ったのは、やはり写楽であった。

 「だが、俺は運命って奴が嫌いでね。何もそんなもんにほいほい従ってやる道理はねぇさ。そんな運命、俺が破壊してやる」

 「写楽……さん」

 「あんたが一人抱え込む必要はないさ。そんなくそ重てえもん、俺が背負ってやる」

 「お、俺も! 俺も守るららね!」

 話に置いていかれそうだと慌てて声を張り上げる尽介。しかし、頭の中では別のことを考えていた。
 空奈の力を使えば、望むものが手に入る。とすれば、その力を狙う者は、一也は一体何を手に入れようとしているのか。
 世界制服、ワームによる支配……通常のワームの目的ならばそんなところだろうが、兄に擬態したあのワームの目的はどうにも違う気がした。

 そもそも、そういった目的ならば先ほどのように単独で動く必要がないのだ。今までも一也がサナギワームを手駒として使ったことはあっても、組織的に動いたことは無かった。
 ならば独自の目的がある筈だが、それは一体――

 「まさか……――っ!」

 咄嗟にブレーキ引く。甲高い音を上げながらバイクが横滑りしながら止まると、一瞬遅れて写楽のバイクも停止する。
 写楽が何事かと口を開く前に、尽介の緊張した声が往来に響く。

 「クロックアップしたワームだ! 一体だけみたいだけど――変身!」

 「なんだって!?」

 言うが早いか装甲を取り払った仮面ライダーアゲハは、クロックアップし姿を消す。次の瞬間、道のあちこちで火花が散り、看板が吹き飛び、停車した車のドアが凹む。何の前触れも無く起こるそれは、まさしく超高速の世界で戦闘が行われている証だ。
 通行人達は突然の異変に戸惑い、悲鳴を上げながら避難を始める。

 「うわー!?」

 しかし、混乱の中躓いた少年の上に破壊された建物の破片が降り注ぐ。写楽はそれに気づき駆け出すが――

 「……間に合わねえ!」

 「――うおおおおお!」

 少年の身体を襲う直前、破片が弾け飛ぶ。キックで破片を破壊したと同時にクロックアップを終えたアゲハが姿を現す。
 仮面ライダーは少年の手を取り立たせると、少年の頬を流れる涙を拭う。

 「……よし、怪我は無いみたいだな。怪人は俺がやっつけてやる。だから泣かないで逃げるんだ。いいな?」

 「……うん!」

 少年が走り出すのを見届け、アゲハは機敏に振り向く。
 振り上げた腕で背後からのワームの一撃を防御すると、カウンターの正拳突きを叩きつける。
 奇声を発して仰け反るワーム。その隙にアゲハはベルトのゼクターを操作すると、高く跳躍する。

 「――とおっ!」

 ――Rider Kick!

 ふわりと空中で静止したアゲハの肩から透明な翅が生える。
 展開したアゲハフェザーの振動を推進力に変えた、急降下のキック!

 一条の光の矢と化したアゲハがワームの胸を貫くと、一拍の間をおいてワームが爆発する。
 ……他に敵の気配は無い。変身を解除した尽介に、先ほどの少年が駆け寄ってくる。

 「お兄ちゃん、ありがとう! お兄ちゃんもヒーローズなの?」

 きらきらと光に満ちた瞳で問いかける少年。この真直ぐな心を闇に染めさせる訳にはいかない。
 尽介はちらりと写楽を見やると再び少年に目線を戻し、

 「ああ……俺はアゲハ。仮面ライダーアゲハだ。なあ少年、もしこれから大変なことがあっても、決して諦めないって約束してくれないか?」

 「決して…あきらめない……?」

 「ああ。諦めない心が光を生むんだ。ヒーローズはその光を力にして戦うんだ。ま、大先輩の受け売りだけどさ。……さ、一人で帰れるかい?」

 頷き、手を振りながら去っていく少年に手を振り返す尽介。やがて少年が完全に姿を消すと写楽達に向き直る。

 「……俺ってさ、ZECTとかヒーローズとか、そういった立場みたいなのに甘えてて、流されっぱなしだった。こうやって着いて来たのだって、刀伊達先輩に言われたってのは大きかった……。けど今は違う。色々考えたけど、俺は俺の意思で空奈ちゃんを守りたい」

 真直ぐに見据える尽介の顔には、今までには無かった覚悟が表れている。その声は今までのどの言葉より力も強く聞こえた。

 「人に背負えねえもん……背負ってやろうじゃねえか!」

 挑みかかるようにこちらを睨む尽介に苦笑する写楽。すっと一歩近づくと、片腕を上げる。

 「頼りにしてるぜ、後輩」

 「いきなり後輩扱いかよ!?」

 がし、と二人の仮面ライダーは腕を組み交わす。
 その様子を泣き笑いの様な表情で見つめる空奈。

 「この10年で、初めての事だけど……私、他人を…貴方達を頼りにしちゃって、いいかなぁ……」

 「当然!」
 「当然だ」

 何を今更と言わんばかりの二人の返事に顔がほころぶ。






 そして、世界が闇に包まれた。


[No.245] 2011/05/01(Sun) 22:16:35
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