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   えろりるら〜とても下世話な追想曲〜 - アズミ - 2013/06/30(Sun) 19:14:10 [No.540]
世界の危機がやってきた! - アズミ - 2013/06/30(Sun) 20:03:51 [No.541]
責任は取ろうぜ、青年! - アズミ - 2013/06/30(Sun) 21:14:09 [No.542]



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えろりるら〜とても下世話な追想曲〜 (親記事) - アズミ

 これまでのあらすじ。

 あるところにアーカイアという世界がありました。
 オーストラリア大陸ほどの大きさで、女性しか住んでいないというまるで90年代のラノベアニメ(ドラゴンマガジン系の)みたいな世界です。

 ある日、異世界からアーカイアに奇声蟲(ノイズ)という怪物がやってきてさぁ大変。
 奇声蟲はアーカイア人の腹に卵を産みつけて繁殖するという、エロゲのような設定の巨大生物です。実際のビジュアルはグロすぎてエロゲどころか4作続いた宇宙ゴキブリですが。

 困ったアーカイア人は、かつて奇声蟲に襲われた際の記録に頼り、地球から機奏英雄(コンダクター)という存在を呼びました。
 機奏英雄とはつまるところ、地球人の男性です。
 地球人の男性でさえあれば高校生だろうが職業テロリストだろうが、一子相伝の超剣術の使い手だろうがキモオタだろうがオールオッケー。
 全員に歌姫(メイデン)という美少女(……まぁ、例外はあるでしょうけど)のパートナーと絶対奏甲(アブソリュート・フォノ・クラスタ)という超かっくえーロボが宛がわれ、無敵とは言わないまでも俺TUEEEEEE!はできるヒーローに早変わり。
 まるで最低系SSですが、それが群をなして襲いかかるのだから奇声蟲としちゃたまったもんじゃありません。
 機奏英雄無双で拍子抜けするほどあっちゅーまに奇声蟲は退治されました。

 まぁ、本当はその後、00年代ロボットアニメ的なめんどくさくて鬱いなんやかやあってすったもんだでどんどこしょだったのですが、それはいいです。
 アーカイアは平和になりました。

 でも、滅びの危機は去っていなかったのです。

 別に平和でも、世界は普通に滅びるのです。

 そこに人間がいなくなれば。


[No.540] 2013/06/30(Sun) 19:14:10
世界の危機がやってきた! (No.540への返信 / 1階層) - アズミ


 機奏英雄は、まだ大半がアーカイアに残っています。
 漫画やアニメやゲームのように、都合良く全てが終わったから帰る、とはいかなかったのです。アーカイアの現人神『黄金の歌姫』は勝手に呼び付けたくせに機奏英雄が現世に帰る手段を用意していなかったのでした。
 当然不満は噴出したのですが、正直アーカイアは割合居心地がいいのですぐにみんなどうでも良くなりました。基本、機奏英雄は現世に不満があったり執着がなかったりするようなのが呼ばれるのです。

 なもんで、機奏英雄たちはアーカイアに適応しなければなりませんでした。

 幸いにして、働き口には困りません。
 アーカイアの文明は日本の中世程度。おまけに女性しかいないので、男性である機奏英雄は力仕事に引く手数多です。一部技術職に至っては言うまでもありません。
 また、なんやかんやで絶対奏甲は戦争中のあれこれで使えなくなってしまったのですが(詳しくはノクターンでggrks)、最近薄化幻糸処理という簡単な処置でまた動かせる目処が立ちつつあり、国防やら治安維持やらにまで駆りだされるようになりました。



 さて、ここに志摩康一という機奏英雄がいます。

 名前で解る通り、日本人。21歳。
 目つきが悪く反骨心に溢れ、斜に構えているようで実は熱く、妙にモテるがシスコン気味、おまけに特技はピアノ演奏というどっかのガンガンの推理系バトル漫画の主人公のような青年です。……いや、当時特に意識したわけではないのですが。
 彼は英雄大戦(ゲーム本編ってことですよ)でなんだかんだそこそこ活躍し、額面上は世界的に名が売れ始めるぐらいのレベルまで成長。
 戦争が終結した現在、北の果てにある『虹諸島』という地域の領主の下でだらーっと暮らしていました。
 まぁ何もしなくても一応国が出す補助金で暮らせるのですが、康一は領主の頼みで絶対奏甲で治安維持をしたり宴の余興にピアノを披露したりして過ごしていました。
 食客、と表現すれば一応角は立たないかもしれません。

 その日、康一は領主に呼ばれてその館を訪れていました。
 
「よくいらっしゃいました、志摩様」

 応接室で相対する老齢の女性こそ、虹諸島の『領主』です。
 ヴァッサマインという雪国の貴族で、本国に本来の領地を持っているのですが、避暑地のように使っているこの虹諸島が政治的空白地だったためになんとなく領主のように扱われているという、大変ふわっとした立場のお人です。
 雰囲気もふわっとしていて温厚に見えるのですが、こんなところに好き好んで住んだり、戦争の真っ最中に奏甲のバトルトーナメントを開いてみたりと大概ちょっと変な人だと康一は思っています。

「モントリヒトのヌーボーが手に入ったのです、おひとついかがですか?」

「はぁ……じゃあ、いただきます」

 月光(モントリヒト)とはハルフェア産の赤ワインです。
 季節の楽しみにされている新酒で、地球でいうとぼじょれーぬーぼー的なサムシングといえましょう。
 康一は酒豪というわけではありませんが、アーカイアで成人を迎えたため、一番思い入れのあるお酒です。
 一口飲むと、芳醇な香りとフルーティな酸味が口に広がります。

「ウマいですね」

 それほどお酒にくわしいわけではありませんが、それは正直な感想でした。領主も気を良くしてにっこりと微笑みます。

「ええ、今年も無事に葡萄平原も実りを迎えたようで。ただ……」

「ただ?」

 言葉を濁す領主に康一が眉をあげると、彼女は表情を曇らせて言いました。

「来年からはどうなることか」

「……何か、あったんですか?」

 どうやらただワインを御馳走するために呼んだわけではないようです。康一は身を乗り出して、領主に問います。
 領主は暫し瞑目し、やがて沈痛な面持ちで口を開きました。

「機奏英雄、志摩康一様。アーカイアに、再び危機が迫っています」

 ワインの話から世界の危機とは穏やかではない飛躍です。
 聊か驚いて、康一は椅子に座り直します。

「まさか、また奇声蟲が?」

「いいえ」

「では戦争の火種でも?」

「幸いにして、そのような報告はありません」

「では、いったいなにが?」

 世界の危機となれば再び機奏英雄が剣を取らねばなるまい、と覚悟していたのですが、今ひとつ要領を得ません。
 領主はどう説明したものか暫し悩んだ様子でしたが、やがて決然たる面持ちで康一を見ました。

「康一様……子供を100人作っていただけませんか」

 城戸光政かいな。


[No.541] 2013/06/30(Sun) 20:03:51
責任は取ろうぜ、青年! (No.541への返信 / 2階層) - アズミ

 先に述べた通り、アーカイアには女性しかいません。
 別に細胞分裂で増えるとかそういうこともなく、我々現世人と如何ほどの違いもない普通の人間の女性です。

 では、女性だけの世界でどう子孫を作るのか?

 かつて、アーカイアの中心部にあるポザネオ島には『恵みの塔』と呼ばれる施設がありました。そこに満15歳(アーカイアにおける成人年齢です)を迎えた女性が訪れると、黄金の歌姫から子を授かるのです。
 ぶっちゃけ現世人から見ると何をされているのかぞっとしない(当然のようにクローン技術を用いた人工授精施設だったのではと言われています)話ですが、それだけがアーカイアにおける出産の手段でした。

 ところが、その恵みの塔。現在は存在しません。
 英雄大戦のどさくさで崩壊してしまったのです。下手人は杳として知れませんが、もはやそれは瑣事に過ぎません。
 問題は、このままではアーカイア人が全く増えなくなってしまうということ。
 ですが、解決策は労せず見つかりました。

 機奏英雄と歌姫の子供が生まれたのです。
 歌姫は純潔を失うことで力を失ってしまうため、機奏英雄との性的接触は『歌姫堕ち』と称され厳に禁止されてきたのですが、なにせ戦場、なにせ運命に結ばれたカップルです。
 吊り橋効果のせいで致してしまった英雄と歌姫は少なくなく、彼らの間に子供が生まれたことが戦後になって次々発覚したのでした。
 戦時中であれば針のムシロ、歌姫の地位が高いヴァッサマインや軍事国家であるシュピルドーゼならば即刻軍事裁判ものの事実ですが、今となってはこの子たちがアーカイアの最後の希望です。

 各国は即刻、機奏英雄と歌姫の結婚を推奨するのでした。

「めでたしめでたしじゃないですか」

 動揺を隠しきれないまま震え声でそういう康一に、領主は首を振ります。

「考えてもみてください。機奏英雄はポザネオの記録を確認する限り、総勢で約一万。遅れて召喚されたなどの例を加味しても、せいぜい5万に届かないでしょう」

「……アーカイアの総人口ってどのぐらいでしたっけ」

「2000万と言われています」

 あかん。
 数字に強くない康一ですらそう思いました。

 機奏英雄と歌姫のカップルが2人ずつ子供を作ったとしても、次世代のアーカイアの人口は5万まで落ち込む計算です。空前絶後の人口減少、少子化なんて言葉で片付けられるレベルではありません。
 世界の滅びの危機、というのは大袈裟かもしれません。5万でも、その子たちが確かに残っていけば、アーカイア人は存続できるでしょう。
 ですが国単位、町単位ではそうもいきません。辺境の村々は過疎でどんどんブッ潰れ、産業は消滅し、社会は機能不全を起こしていくでしょう。
 殊に農業人口は深刻らしく(つまり、歌姫になった者が少なかったのです)、もともと高齢化が進み後継者の少なかった分野は早くも存続の危機を迎えているとのこと。
 領主が懇意にしているハルフェアの酒蔵も、その一つだったのです。

「この虹諸島も楽観視できる状態ではありません。ただでさえ人口が少ないため、子供のいない農家の将来を危ぶむ声がこの館まで届いています」

 虹諸島の人口は5つの島全てを含めてもせいぜいが500人足らずです。下手をすれば半世紀以内に自然消滅しかねません。

「解決策はもはや唯一つ。英雄様にどんどんがんがんずっこんばっこんヤっていただき、じゃんじゃんばりばり子を成していただくしか」

「いや、ちょ」

 温厚そうな顔はそのままに体裁をいきなりあさっての方向にブン投げた発言に、康一は顔を引きつらせます。
 しかし、領主はいたって大真面目でした。

「笑い事ではないのです、康一様」

「お、おう」

「辺境では英雄様が立ち寄った村で……その、襲われた挙句無惨な姿で見つかったという事態も報告されています」

「ええー……」

 さすがに言葉を濁しましたが、要するに村の女総出で強姦された挙句腹上死したということ。
 それなんてエロゲ、と思われるでしょうが、現世でも中世の貴族拷問に不貞を働いた貴族の男性を貧民街の女性の群に裸で放り込むというものが存在しました。貧民街の女性は地位を上げるべく男性の子種を求め襲いかかり、最終的に男性はテクノブレイクで死亡するという壮絶な物です。
 まさしく、現実はエロゲより怖し。

「この虹諸島の未来のため、そして英雄様の御身の安全を守るため、皆様には是非ご協力いただきたい」

「ご、ご協力て」

「無論、英雄様の意志は尊重いたします。一部の国では望まぬ重婚を強制するような動きまであるようですが、そのような英雄様を種馬扱いするような……いえ、失礼」

 ごほ、ごほとわざとらしく咳払いしますが、完全に手遅れだと康一は思いました。
 敢えて指摘する元気もありませんでしたが。

「ともかく、そのような配慮を欠いた行いはしないことを、お約束いたします」

「そ、そりゃ助かりますけど」

「ですので、あくまで自由意思でずっこんばっこんしていただきたい」

「助からない!?」

 思わず叫ぶ康一に、しかし領主はにこりともせずに続けます。伊達に貴族をやっていません。

「島民が英雄様に不貞を働くことは厳に慎ませます。
 ですが、英雄様が火遊びをする分には全力でお見逃しいたします。村娘の奇麗どころを手籠にしようが館の使用人を妾にしようが私の侍女を第二第三夫人にしようが全力でお見逃しいたします!」

「いらねーよ!? そんな配慮!」

 心なしか目が赤く染まっているような錯覚さえ覚える気迫で吼える領主に、康一は必死で突っ込みますが、当然のように聞き入れられはしませんでした。

「私でもいいのよ!?」

「あ、いやそれは遠慮します」

「……そうですか」

 年の割には若く見えますが、さすがに康一も熟女属性はありません。丁重にお断りすると心なし残念そうに領主が椅子に座り直すのを見て、少し付き合い方を考えた方がいいかな、と思いました。

「ともかく、英雄様には極力子作りに励んでいただきたいのです。努力目標は100人ですが、最低でも10人はなんとか」

「いや、ンな無茶な」

 幾らか現実的な数字ですが、それでも大家族スペシャルに出られる数です。医療も未発達なアーカイアでは聊か危険も伴うでしょう。
 ですが、領主は事も無げに言いました。

「一人頭5人と思えば、そう無茶でもないのでは?」

「え?」

 思わず康一が問い返してみると、領主の微笑みにいつもの彼女にはない、どこか底冷えのするような気配が混じっているのに気付きました。

「マリア=シエル=ユイファさん」

「ぎっくー!」

「少し捻くれて見えますが、なかなか良い娘じゃないですか」

 康一が妙にモテることは以前に述べました。
 マリア=シエル=ユイファ。
 普段はイクス、と名乗っている少女です。英雄大戦に際し徴用された戦時歌姫で、戦時中康一と出会い、なんやかんやあってなんとなーくいい仲になり、康一たちと共に今も虹諸島で暮らしています。
 が、康一はその仲を公言はしていませんでした。
 歌姫と二股をかけているから? それはもちろんありますが、大きな問題ではありません。

「15歳、という年齢はさすがに如何なものかと思いますが」

 上弦の三日月を描く領主の瞼の奥に、康一は酷く冷え切った視線を感じました。
 養豚場の豚を見るような、そんな零下の眼光です。
 あるいは、スカしてんじゃねーぞこのロリコン野郎、エロゲるなら最後まで責任取りやがれ、みたいな眼です。

「……康一さん。これは虹諸島の領主ではなく、一人の女性として、言います」

「はひ」

 喉が引きつって、上手く言葉が出ませんでした。
 白目を剥きながらどうにかこうにか答えます。
 そんな康一に、領主はあくまで笑顔で宣告したのです。

「責任、とりましょうね」

 さすがに、ここで首を横に振る勇気も外道さも康一は持ち合わせていませんでした。


[No.542] 2013/06/30(Sun) 21:14:09
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