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   スターダストアストレイズ - アズミ - 2013/09/28(Sat) 00:14:41 [No.563]
アウトオブスタンダード・1 - アズミ - 2013/09/29(Sun) 23:08:22 [No.566]
アウトオブスタンダード・2 - アズミ - 2013/09/30(Mon) 01:15:12 [No.567]
アウトオブスタンダード・3 - アズミ - 2013/09/30(Mon) 20:42:55 [No.568]



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スターダストアストレイズ (親記事) - アズミ

 C.E.74――アマゾン奥地にて。


 頭上の夜空を、また一つ星が流れた。

 ここ数年で、随分と流れ星が増えたという。
 大気圏に突入し燃焼するならば、それは自然の天体である必要はない。原因は衛星軌道上に大量に存在する、デブリだ。
 そも宇宙開発の激化以来、衛星軌道上のスペースデブリはDSSDの定める安全基準を下回ったことがないというが、加えて3年前の大戦からこっち、戦禍に見舞われ損壊したコロニーやMS、MAの残骸によって航路の安全に支障を来たすほどに増加し、地球の重力に捉まっては星屑となって降り注いでいるという。

 そうしているうちに、また一つ流れた。

 現在、地表に辿り着き得るサイズのデブリは事前にジャンク屋同盟によって回収されるため、幸いにしてあの輝きが地球に災厄をもたらすことはない。
 とはいえ。

「こう引っ切り無しに流れるんじゃ、願い事をするありがたみもないわね」

 風花=アジャーは一つため息をついて、シュラフの上にごろりと寝転んだ。
 三枚重ねにしているが、敷いているのがMSの装甲の上――湿地に立膝をついたブルーフレームの肩の上だ――ではどうにも硬くて寝づらい。地面というのはあれで案外柔らかいものだったのだな、といまさらのように気づいて、風花は7mほど下の湿った大地が少し恋しくなった。
 蛭さえ出ないなら今からでも喜んで下に寝床をこさえるのだが。

「コックピットに入るか?」

 ハッチを開いて、中からこの青いMSの主……叢雲劾が声をかける。
 視線はコックピットに繋いだコンピューターのコンソールに落としたままだ。彼は今、次のミッションに備えて愛機の設定を変更する作業に追われていた。
 MSはその両の足で雪原だろうと砂漠だろうと都市部だろうと問題なく踏破するが、人間がそれらの場所で歩き方を変えるようにMSもまた脚部接地圧などの設定を変更しないと足を取られてパワーロスや故障を起こしやすくなる。
 大切な作業だ。風花もそれを分かっているので、

「気にしないで続けて、次の仕事に差し支えるでしょ?」

 劾は傭兵だ。
 この業界で随一といっても差し支えない傭兵部隊『サーペントテール』の中心人物。
 風花もまた、その一員である。
 ……まだ見習い同然だが、仕事に対する誠実さは一人前のつもり……否、それ以上でなくてはならないと、自分に任じている。
 であるから、劾の申し出を固辞して、敷き直してどうにか眠ろうと努力した。
 劾はそれ以上何も言わなかった。もともと口数の多いほうではないし、風花を子供扱いして何くれと面倒を見るタイプではない。そして、そうした態度が風花は好きだった。
 が、さりとて……誤解されがちではあるが、酷薄な人間でもない。
 やがて、設定作業を続けたまま口を開いた。

「何か聞きたいことはあるか?」

「え?」

 問い返す風花に、劾は表情を変えぬまま続ける。

「寝物語に付き合う程度の余裕はある」

 彼は風花にとって、語らずして多くのことを教えてくれる良い教師であるが、それでも言葉で伝える教えは値千金である。
 つまるところ、それは彼の優しさであるらしかった。表情は動かないし、声音は相変わらず冷えた剣のようであったが。

「私が居ない間の仕事の話、聞きたいな」

 風花が半身を起こしてそういうと、劾は鷹揚に頷いた。

「いいだろう……そうだな、これは72年の、夏の話だ……」


 そうして語られたのは、彼が独りで携わった幾つかのミッションの話。
 歴史の中で瞬き、あるいは人知れず消え――あるいは、それを見た人の胸に残り続ける、星屑たちの話。

 彼と同じく“正道を外れた者(アストレイ)”たちの――……


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機動戦士ガンダムSEED
-STARDUST ASTRAYS-

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[No.563] 2013/09/28(Sat) 00:14:41
アウトオブスタンダード・1 (No.563への返信 / 1階層) - アズミ

「私の素性は訳あってお話できません。こうして直接お会いすることが私に出来る精一杯であると、まずはご理解いただきたい」

 依頼人の女は劾の対面に座するや、最初にそう切り出した。
 まず、その頭頂部から爪先まで隈なく観察する。個人情報が全て伏せられていても外見から読み取れることは少なくないし……こうして姿を晒すということは、当の依頼人もまたそれを期待しているということだろう。
 美しいが、顔の部品単位を羅列するとやや地味な印象を受ける女だった。恐らくはナチュラルだろう。纏っているのは地球連合軍の女性士官用の制服。階級章は大尉。
 今時、連合軍の制服など裏社会で幾らでもイミテーションが手に入る(現に劾自身や彼の仲間であるリードが愛用していた)。が完全な偽装品となるとそれなりに高くつくし、細かな動作のクセを見るにまず間違いなく、現役の連合軍人だった。
 劾は連合軍と相性が良くはなかったが、しかしそれだけで仕事を選ぶほどではない。

「続けてくれ」

「ありがとう」

 先を促すと、女は軽く頭を下げ傍らに提げた情報端末をデスクの上に広げた。

「現在、東アジア共和国旧日本地区、長野山中にある連合軍基地……非公式のものですが……が、反乱分子によって占拠されています」

「反乱分子?」

「その基地に所属する……兵士です」

 女は少し、言い淀んだ。
 下手な嘘を吐こうとする反応ではない。“どう表現するか迷った”。そういう反応だ。
 そこを突くことはせず、劾は別の情報に話を向ける。

「戦力は?」

「MSが1。それだけのはずです」

「MS1機でその基地を占拠したと?」

「加えて、既に連合の鎮圧部隊……MS2個小隊を撃退しています」

 非常識とまでは言わないまでも、相当な大立ち回りだった。よほどその反乱分子の腕が立つのか、あるいはMSが高性能なのか。
 しかし劾の思考を読み取ったかのように、女は首を振った。

「腕も立ちます。MSの性能も低くはありませんが……実状としてはこの基地の特殊性が大きいのです」

 言って、端末を操作する。
 程なく表示されたのは、件の基地の全景図であった。規模のみを言えばいたって小規模であるが、地形は急峻な山岳の谷間。自動制御の迎撃戦力、etc……偏執的なまでに少人数による防衛に注力した施設だった。
 そもそも地形の関係上大規模な戦力を一度に投入するのが難しい。正攻法で行くなら長期戦か。如何に堅固な拠点でも、補給が絶たれ孤立している以上いつかは干上がる。無駄に戦力を浪費するなどナンセンスだ。
 が、そんな手堅い方策が許される状況ならそもそも劾たち傭兵に任務は回ってこない。

「猶予はMSのバッテリー限界予測時間まで、30時間。それが過ぎれば今度は1個中隊以上の大部隊が派遣され、確実に鎮圧されます。それまでにあなたにはこの基地を制圧していただき……」

 女はそこで切って、暫し逡巡し……しかし、確固たる意思を持って厳命した。

「必ず、反乱分子を殺さずに保護していただきたいのです」

 両者はそれきり、沈黙した。
 劾は腕を組んで女に視線を向けたまま押し黙り、女はその視線に耐えるように口を噤んで動かない。
 やがて、劾は静かに問うた。

「“制圧し”、“保護しろ”ということは……説得は不可能ということか?」

「あちらは、自分達に味方がいるとは露ほどにも思っていません。言葉による懐柔は欺瞞を疑われるでしょう」

 つまり、件の反乱分子は然したる展望もなく連合に牙を剥いたということになる。よほど切羽詰った状況なのだろう。そして、誰の援護もないまま磨り潰されて死ぬのを待っている。

「私は……彼らと深い友誼があるわけではなく、ごく個人的な心情を以って彼らを救いたいと考えているのです」

 “私”は。つまり、依頼人はこの女個人。
 どんな事情があるかはわからないが、情に任せて、下手を打てば連合を敵に回しかねない状態で、難攻不落の防衛拠点を制圧し、かつ対象を殺さず確保せよという。
 困難を通り越して、馬鹿げたミッションだ。いくら積まれても割に合わないと傭兵なら誰もが判断するだろう。
 しかし、劾は席を立たなかった。

「なぜこの依頼を俺に回す? サーペントテールではなく、叢雲劾個人を名指しにする理由はなんだ?」

 女の事情は敢えて問わなかった。
 いや、問う必要がなかった。恐らくはこの問いに女が答えさえすれば、全ての謎は氷解する。
 果たして、女の答えは劾の予想通りだった。

「――……その反乱分子が、あなたと同じ瞳を持つ者だからです」

 劾は、僅かに目を見開いてサングラスを外した。





 コックピットにけたたましく警告音が鳴り響く。
 劾のブルーフレームが基地に踏み込んだ瞬間、まず出迎えたのは雨霰と降り注ぐ弾丸とビームであった。

「虚仮脅しか」

 そう呟くだけで、劾はコントロールレバーから両手を離した。
 棒立ちになったブルーフレームが砲火と轟音に包まれ――……
 そして、一瞬後。無傷でその場に佇んでいた。
 劾の言う通り、この攻撃は威嚇だった。砲撃痕は正確にブルーフレームを取り巻き、円形に刻まれている。
 程なく、通信が入った。

『そのまま立ち去れ。次は当てる』

 誰何さえ無かった。
 ここに訪れる者は、例外なく自分の敵だと断じる冷たい声音。
 だが、劾は露ほどにも動揺することなく、名乗った。

「俺は傭兵部隊サーペントテール、叢雲劾。依頼により、お前たちを保護しに来た」

『保護? 誰の依頼だ?』

 あまりに予想外の文言だったゆえか。通信が問い返す。

「依頼人の素性は明かせない。ただ、そちらの状況は把握している。俺はお前たちを保護する」

 淡々とそれだけを述べる。
 通信の相手は、幾らか当惑した様子だったが……逡巡の間はそれほど長くはなかった。

『……生憎だが、信用できないな。引き返さないならば、攻撃する』

「そちらの状況は把握していると言った」

 劾は繰り返して、ブルーフレームを前進させる。
 同時に、センサーが再び警告音を発する。四方八方から迫る熱源。
 状況は予定通りに推移している。
 相手はこちらを信用しない。この難攻不落の施設を、ただ一機で攻略、制圧。然る後、相手を無力化し保護する。

「――……ミッションを開始する」

 劾の宣言に応じて、ブルーフレームが背にした大剣を抜き放った。


[No.566] 2013/09/29(Sun) 23:08:22
アウトオブスタンダード・2 (No.566への返信 / 2階層) - アズミ

 敵は単機。砲撃の質が均一であることから、それは間違いないと劾は判断した。
 にも関わらず、砲撃は四方から襲い掛かってくる。
 からくりは女が見せてくれた基地の情報で割れているが、だからといって即座に無効化できるような性質のものではない。
 そして、そのメカニズムはどうあれ十字砲火に晒される事態というのはそれ自体が致命的だ。劾ほどの凄腕でもそれは変わらないし、逆にそもそもそういう状況を巧みに回避するからこそ腕利きといえるのだ。

「守勢に回れば負けるな……」

 これほどの数の砲撃を全弾回避し切ることは如何に叢雲劾、如何にブルーフレームとて不可能だ。当然、軽い反面脆い発砲金属装甲で耐えるのはなお不可能。せめてPS装甲であればレールガンに対しての防御力はある程度期待できたが、無いものねだりをしても始まるまい。
 劾がペダルを踏み込むと、ブルーフレームが基地外縁目掛けて突進。メインスラスターが咆哮をあげる。
 一瞬遅れて、ビームとレールガンがブルーフレームのいた地面を抉り灼いた。
 続けて前方から襲い掛かる砲撃。
 メインスラスターに比べれば幾らか控えめに、肩のサブスラスターが不規則に火を噴く。

「く――ッ……!」

 肺が苦悶と呼気が漏らす。
 熟練のボクサーさながらの華麗な動きでブルーフレームが火線を3つ、次々に掻い潜る。人間であれば喝采に値するだけの動きだが、MSがするとなるとパイロットにかかるGは生半ではない。
 また、全てを回避することも出来なかった。ビームがブルーフレームの真正面から迫る。
 劾は吐き出した空気を鋭く、ゆっくりと吸い込み、そして――然るべき刹那を見切り、電光石火の速度で操作を走らせた。

『何ッ!?』

 こちらの状況は正確にモニターしているらしい。攻撃の主が驚愕する。
 ブルーフレームは着弾する瞬間を過たず、腰からアーマーシュナイダーを抜き放ってビームを受け止めていた。
 劾が愛用するMS用コンバットナイフだ。刀身に耐ビームコーティングが施されているのだが、無論、これだけの出力のビーム砲を真正面から受け止められるような堅牢な代物ではない。
 だが、溶解するまでの一瞬程度は稼げる。ブルーフレームが推力全開で走り抜けるには十分な時間が。
 コンマ数秒で、ブルーフレームは基地の外縁。ビームが放たれた源へ到達した。
 金属で出来た、MSほどもある無骨な輪。
 これこそが、手品の種。たった一機のMSが劾に十字砲火を行ってくるからくりというわけだ。

「これが例のゲシュマイディッヒ・パンツァーか」

 ミラージュコロイド技術を用いたビーム偏向装置である。
 元々はヤキン・ドゥーエ戦役末期に連合軍が試作MSフォビドゥンに搭載したビーム攻撃に対する防御手段だが、この装置はビームを“偏向する”という性質を応用し、基地の最奥に陣取った砲撃MSのビーム攻撃を基地の要所に配置したゲシュマイディッヒ・パンツァーで反射することで基地全域の任意の場所に十字砲火を仕掛けられるようにしているのだ。
 ともあれ。

「まずは一つ」

 ブルーフレームが袈裟懸けに振り抜いたタクティカル・アームズが偏向装置を切り裂く。
 元より防御力は度外視されている作りだ。ただの一太刀でゲシュマイディッヒ・パンツァーは無力化された。
 劾は間髪入れずに次の偏向装置に向けてブルーフレームを走らせる。
 砲火もそれを阻まんと襲い来るが、先刻に比べればほんの少し――紙一重。火線一本分、隙があった。先刻破壊した偏向装置の分、弾幕に綻びが出来たのだ。

「二つ!」

 二つ目の偏向装置をアーマーシュナイダーを投げ放って潰す。今度はあからさまに東側からの攻撃が薄くなった。
 もはや王手だ。依然として攻撃は執拗に為されているが、もはや叢雲劾を殺すには貧弱に過ぎる。

「だが、問題はここからか」

 王手はかけた。
 だが、実戦は将棋でもチェスでもない。追い詰められたキングが座して取られることは在り得ない。
 まして、この敵は……強い。
 いくら偏向装置による十字砲火とはいえ、いやそうした装置を間に挟むからこそ正確な砲撃を間断なく行うには並外れた集中力と精密操作を要する。おまけにご丁寧にも対ビーム装備で封殺されないよう、意図的に弾速を減じたレールガンによる曲射砲撃を織り交ぜてきさえした。
 そうだ、この敵は強い。
 窮鼠猫を噛むというが、劾はこの基地の奥で待つ敵を、鼠どころか猛獣と思ってかかることにしていた。



『あの砲撃を潜り抜けてくるとはな……化け物かよ、アンタ』

 基地の奥で待っていた砲撃の主は、むしろ呆れたようにそう言った。
 乗るMSは、見慣れない姿をしていた。
 例の偏向装置との同期に必要なのだろう、センサーが無秩序に貼り付けられた増加装甲に身を包んでおり、砲撃に使用したと思しきビーム砲とレールガンだけがサブアームに繋がれメインフレームから伸びている。、
 劾は向こうの言葉に取り合わず、タクティカルアームズを変形させ、ガトリングの銃口をそのMSに向けた。

「――もう一度言う。俺はお前たちを保護するよう依頼を受けている」

 静かな声音で、通告した。

「『水郷劔(スイゴウ・ツルギ)』。武装を解除しろ」

 名を呼ばれた男――水郷劔は、ハッ、と吐き捨てる。

『この期に及んでそんな眠たいことを言うってことは、本当に殺すなと言われてるらしいな』

 そのMSは偏向装置に向けた左手のビーム砲を手放し、保持アームを畳んで背中に収納する。
 が、右手に保持したレールガンの砲門はそのままブルーフレームに向けられ、左手には新たに小型のビームガンと思しき銃を装備する。
 どう見ても、武装解除する気はない。

『連合は俺たちのデータが惜しくなったか? ……いや、東アジア共和国か、ユーラシア連邦の横槍か……それとも、プラントの手回しか?』

 値踏みするように言いながら、じりじりとブルーフレームとの間合いを計る。
 劾は敢えてその疑念を否定することはしなかった。
 たとえ億の言葉を重ねようと、今の彼に信用されることは不可能だとわかっていたからだ。
 相応の地獄を見せれば、人間の精神から信頼の二文字を削除するのは難しくないということを、劾は知っている。それを躊躇いなく行う人間がいることも。

『いずれにせよ』

 劔のMSが足を止める。

『ここから先には行かせねえ。アイツらを、これ以上誰にも好きにはさせねえ。たとえ、ここでくたばろうとな』

 そう宣言して、MSが腰を落とした。
 全身から小さく炸裂音と火花が上がる。
 連結するボルトが破裂し、増加装甲とセンサーがばらばらとその場に脱落していった。
 中から現れたMSは、連合に有り触れたダガー系MSではなかった。
 むしろブルーフレームに似た双眸を持つ面構えには見覚えがある。実機を目の当たりにするのは初めてだが、データは随分前に閲覧したことがあった。

「GAT-X103……バスターか」

 連合が最初に開発した5機のMSの一つ。同じヘリオポリスで、オーブのモルゲンレーテ社に製造されたブルーフレームにとっては腹違いの兄弟と言っていい機体。
 ブルーに入れてあるデータとは内部数値に若干の齟齬がある。近代化改修された再生産機か。

『恨みは無いがな――……倒すぜ、サーペントテールの叢雲劾!』

「相手になろう――……来い!」

 山間の基地を舞台に、2機のガンダムが激突する。


[No.567] 2013/09/30(Mon) 01:15:12
アウトオブスタンダード・3 (No.567への返信 / 3階層) - アズミ

 GAT-X103バスターは二挺の長大な火砲を背負うその姿からわかるように、遠距離からの支援砲撃を目的としたMSである。
 原型機の開発されたC.E.70年当時はコスト度外視の高性能機であったが、2年が経過した現在その性能はもはや最新鋭のMSに伍するものではない。またバスターを始めとする前期GAT-Xシリーズ……通称G兵器は初めてMSを開発・運用する連合の概念実証機としての側面があり、単機あたりはやや汎用性に欠ける側面がある。
 バスターであれば携行火器や白兵戦用装備……それこそビームサーベルさえ装備しておらず、格の劣る機体であっても至近距離まで踏み込めば十分押さえられる可能性がある。
 ……はずだったが。

「ほう……」

 劔のバスターは、戦端が開かれるや否やビームガンを乱射しながら劾のブルーフレーム目掛けて突進した。
 初手から定石を外した奇襲。PS装甲(厳密にはVPS装甲)の防御力に飽かせて強引に間合いを詰め、虚を突く算段か。
 しかし劾も然る者、訝りながらも機体を傾け、タクティカルアームズの陰に入れる。
 このブルーフレームの半身を覆うほど長大な刃はビームの熱量を拡散、減殺するラミネート装甲製であり、艦砲並の大型砲ならともかく、MSの携行火器程度のビーム兵器が相手ならば十二分に盾として機能する。
 刀身の向こうでビームが弾けるのを尻目に、劾はガトリングのトリガーを引き絞った。
 タクティカルアームズの中央にマウントされたこの90mmガトリング砲は4つの砲身のうち2つがビーム砲になっており、実体弾とビームを交互に発射することが出来る。このため、PS装甲やラミネート装甲など特殊な防御手段にも押し並べて一定の有効性を確保しているのだ。
 いかにVPS装甲に身を包むとはいえ、直撃すればバスターとて耐えられはしない……はずだった。
 しかし。

『おぉ……』

 バスターが前方に倒れこむように……否、実際に倒れこんで弾幕を回避する。
 バスターはその砲戦MSの多分に漏れず鈍重な機体である(でなければ、実体火器のリコイルに負けてしまう)。推力も高いとは言えず、いざ敵機と正対すればPS装甲の耐久力に任せて足を止めた撃ち合いに徹するほか無い。そもそも避ける戦い方をする機体ではないのだ。
 そのまま転倒する敵機を撃ち抜かんと、ブルーが銃口を向ける。

『ぉぉおお』

 だが、その瞬間、バスターが手放したレールガンがあらぬ方向……倒れこもうとする地面に向けて火を噴いた。反動で上半身が跳ね上がり、さらにレールガンを後方に向けて発射。空いた右手を地に突いて、前方に向かって掻き出す。

『ォォォォオオオオオッ!!』

 咆哮。メインスラスターが焼け付かんばかりに輝きを放ち、弾丸の如くバスターがブルーに向けて加速する。
 先刻ブルーが行った肩部サブスラスターを用いた回避運動を、レールガンのリコイルで乱暴に真似たマニューバーだった。
 あれでは補助アームが保つまい――実際、骨折した腕のようにぷらぷらと頼りなく動いている。だが、その損傷に見合う効果はあった。
 バスターは既にブルーの目前、タクティカルアームズを剣に変形させている余裕はないし、そもそも長大に過ぎるため密着するほどの距離では使えない。
 そうした間合いの為の武器としてアーマーシュナイダーを装備していたわけだが……ここまでに腰の2本とも喪失してしまっている!

「ぐっ!?」

 バスターにタックルを食らう形で、2機がもつれあって転倒する。
 強かシートに押し付けられて、肺から空気が搾り出された。

『終わりだ、傭兵!』

 バスターがどこに隠し持っていたのか、ビームサーベルを振り上げている。前述した通り基本装備ではない、ダガー系が使うES01ビームサーベルだ。端からこれを狙って接近戦を仕掛けたか。

「だが、甘いッ!」

 ブルーが身を起こし、馬乗りになったバスターの体勢を崩す。同時に反動で足を振り上げ、爪先でビームサーベルを保持した腕の肘を蹴りつけ――……
 その関節、非装甲部を“貫き壊し”た。

『アーマーシュナイダー……そんなところに!?』

 そう。ブルーフレームは劾が最も得意とする武器であるアーマーシュナイダーを、両腰に2本、両爪先に2本の計4本装備している。
 両爪先の2本は単なる予備ではなく立膝や登攀時のハーケンとしても機能するのだが、今回のように暗器としての役に立つ場面もある。
 劾はすかさずブルーフレームの身を捻って起こし、伸び上がるような回し蹴りをバスターに放った。

『うおおっ!? こっ、のォ……』

 それでも、即座にオートバランサーを起動させ着地して見せた劔は実際、いい腕をしていた。
 すかさず砲を連結し、対装甲散弾砲を用意したこともだ。

『くらえぇーっ!』

 発射された散弾が弾幕の壁となってブルーフレームを押し潰さんと迫る。本来、遠距離から広域制圧に使われるモードだ。連結の隙さえ凌げれば、人間の使用する散弾銃と同じく近〜中距離でも圧倒的な制圧力を発揮する。

「……相手に飛行能力が無ければ、な」

 基地に来た当初のように、タクティカルアームズが翼のような形状に変形しバックパックにマウントされる。
 ブルーフレームが地を蹴り、18mの巨体が弾幕を飛び越えて宙に踊った。

『飛んだ!?』

 右側補助アームが機能していない今、バスターはその長大な砲身を片手と片側の補助アームだけで保持している。加えて元より連射に向く銃器ではない。迎撃もままならぬまま、バスターが再び大剣に変形したタクティカルアームズを構え、落下するブルーフレームを呆然と見上げている。

 轟音、衝撃。

 分割されたままの切っ先でバスターの腰を挟んだまま地に縫い止め、ブルーフレームが立ち上がる。

「俺の勝ちだ、水郷劔」

 劾の勝利宣言を肯定するように、バスターのVPS装甲が色を失い、機能を停止した。


[No.568] 2013/09/30(Mon) 20:42:55
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