宇宙世紀0080、12月25日。 一年戦争の終結から間もなく1年が過ぎようとしているが、その終戦を不服とする多くのジオン兵達は残党化して宇宙と地球の各地に潜んでいた。 そして一年戦争の緒戦、所謂一週間戦争で壊滅的被害を受けたサイド4にもまたジオン軍残党は隠れていた。
「たくよぉ、なんでクリスマスなのにこんなとこでゴミ漁りなんてしてんだ。俺らはよ?」
ありふれた民間輸送船の操舵室で船長の中年男性が外に見えるデブリを眺めながら愚痴をこぼす。彼しかいない操舵室に響く愚痴に無線から返事が返る。
「お前が言い出した事だろうが、この近辺はまだ同業者が少ないからお宝が拾えて一攫千金だ!ってな」
そう返すのは作業用ポッド、民間の非武装で装甲も最低限のボールでデブリを物色している男だった。 彼らは所謂ジャンク屋であり、自分達のコロニーからわざわざこんなところまで出向いてきたのだ。
「……あー、そうだったな。まぁ今のとこは収支はこの出張費用とトントンってとこだが、外れだったかねぇ」
「いや、そうでもないぞ……今ザクを見つけた。下半身は無いが上半身は殆ど無傷だぜ!」
赤字になるかもしれんと溜息を吐く船長に対してボールの男が喜びの声を上げる。 男が外から見る限り、そのザクは核融合炉など高く売れそうな部分は壊れてなさそうでこれなら良い値がつくとザクに牽引アンカーを巻き付けて輸送船に戻ろうとする。 が、そこでふと男は違和感を覚える。
船長からの返事がない、ザクの上半身なんて大物を拾ったのだから赤字回避は確実でその喜びの叫びが聞こえてもいいはずなのだが……
それが男の最後の思考であり、それを最後にそうと気づく間もなく彼はビームに焼かれて蒸発した。
シンリィは今しがた貫いたボールからビームナギナタをビームを消しながら抜いた。 見れば小隊長のドムも操舵室の潰された輸送船から貨物部分を切り離しているところだった。 シンリィのゲルググが自分の方に向いたのに気付いた隊長のリックドムから通信が入る。
「そっちも終わったか、サト伍長」
「はい、隊長。こいつが運んでいたザクの残骸も確保しました。バズーカも保持したままですから弾薬の補給も可能かもしれません」
「ほぉ、ザクか。ならこっちの積荷も期待でき………この宙域のザクでバズーカだと?」
貨物部分の切り離しをしていたドムの作業の手が止まり、スラスターを吹かして慌て気味に近づいてくる。 慌ててシンリィがその針路上から退くと、それに何も言わずにドムはザクの残骸に接近する。
「これは、間違いない06Cだ」
ザクの残骸を間近で確認して、そのままドムはザクの上半身の残骸が保持したままだったバズーカを手に取り何かを調べ出す。 そして、ドムは動きを止め。ゲルググのコクピットにドムに乗る隊長の笑い声が通信機から届いた。
「くっ、くくくく……あははははははっ!」
「た、隊長?」
戸惑い、声をかけても、ただ隊長は狂ったように笑っている。どこか狂気を感じさせるその笑いが収まるまでシンリィはその場を動くことが出来なかった。
「くくっ、いいね。サンタの粋なプレゼントってか………サト伍長、サンタクロースを信じるか?」
「え、いや……馬鹿にしていますか隊長。サンタなんて本当に子供の時ぐらいですよ、信じていたのは」
漸く笑いを収めた隊長の唐突な質問に、疑問に思いながらもそこまで子供に見られていたのかと不満気に答える。 今シンリィのヘルメットの下の素顔は唇を尖らせ、不機嫌ですといった表情を露わにしていることだろう。
「いやいや、馬鹿にしたわけじゃないさ。俺は今この瞬間からサンタを信じるぞ。最高のクリスマスプレゼントを貰ったからな!」
隊長のドムはザクの残骸よりも、むしろそのバズーカを大事な物だというように抱え込み。そう高らかに宣言した。
名前:シンリィ・サト 性別:女性 年齢:18 解説: ジオン軍残党のアジア系人種の女性パイロット、搭乗機はゲルググ。 学徒動員兵で初陣は当時17歳でア・バオア・クー攻防戦。 ア・バオア・クーからの寄せ集めの部隊で脱出してサイド4に渡り、そのままシンリィも残党化。 同部隊でのMSパイロットでは一番の新兵で何かと子供扱いされては不満を示す。 学徒動員の訓練中の成績はそれなり程度だったらしいが、実戦を経て一皮向けて大きく成長した。 尚、ア・バオア・クーでの戦果はジム1機にボール3機と自称している。
[No.576] 2013/12/27(Fri) 21:22:40 |