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   U.C.0080.12.25「聖夜の贈り物」 - ジョニー - 2013/12/27(Fri) 21:22:40 [No.576]
[削除] - - 2013/12/27(Fri) 23:58:30 [No.577]
禁断のクリスマスプレゼント - ジョニー - 2014/01/04(Sat) 20:54:26 [No.578]
1.「再起」 - アズミ - 2014/10/04(Sat) 16:42:55 [No.614]
2.「出発」 - アズミ - 2014/10/04(Sat) 18:42:14 [No.615]



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U.C.0080.12.25「聖夜の贈り物」 (親記事) - ジョニー

 宇宙世紀0080、12月25日。
 一年戦争の終結から間もなく1年が過ぎようとしているが、その終戦を不服とする多くのジオン兵達は残党化して宇宙と地球の各地に潜んでいた。
 そして一年戦争の緒戦、所謂一週間戦争で壊滅的被害を受けたサイド4にもまたジオン軍残党は隠れていた。



「たくよぉ、なんでクリスマスなのにこんなとこでゴミ漁りなんてしてんだ。俺らはよ?」

 ありふれた民間輸送船の操舵室で船長の中年男性が外に見えるデブリを眺めながら愚痴をこぼす。彼しかいない操舵室に響く愚痴に無線から返事が返る。

「お前が言い出した事だろうが、この近辺はまだ同業者が少ないからお宝が拾えて一攫千金だ!ってな」

 そう返すのは作業用ポッド、民間の非武装で装甲も最低限のボールでデブリを物色している男だった。
 彼らは所謂ジャンク屋であり、自分達のコロニーからわざわざこんなところまで出向いてきたのだ。

「……あー、そうだったな。まぁ今のとこは収支はこの出張費用とトントンってとこだが、外れだったかねぇ」

「いや、そうでもないぞ……今ザクを見つけた。下半身は無いが上半身は殆ど無傷だぜ!」

 赤字になるかもしれんと溜息を吐く船長に対してボールの男が喜びの声を上げる。
 男が外から見る限り、そのザクは核融合炉など高く売れそうな部分は壊れてなさそうでこれなら良い値がつくとザクに牽引アンカーを巻き付けて輸送船に戻ろうとする。
 が、そこでふと男は違和感を覚える。

 船長からの返事がない、ザクの上半身なんて大物を拾ったのだから赤字回避は確実でその喜びの叫びが聞こえてもいいはずなのだが……

 それが男の最後の思考であり、それを最後にそうと気づく間もなく彼はビームに焼かれて蒸発した。






 シンリィは今しがた貫いたボールからビームナギナタをビームを消しながら抜いた。
 見れば小隊長のドムも操舵室の潰された輸送船から貨物部分を切り離しているところだった。
 シンリィのゲルググが自分の方に向いたのに気付いた隊長のリックドムから通信が入る。

「そっちも終わったか、サト伍長」

「はい、隊長。こいつが運んでいたザクの残骸も確保しました。バズーカも保持したままですから弾薬の補給も可能かもしれません」

「ほぉ、ザクか。ならこっちの積荷も期待でき………この宙域のザクでバズーカだと?」

 貨物部分の切り離しをしていたドムの作業の手が止まり、スラスターを吹かして慌て気味に近づいてくる。
 慌ててシンリィがその針路上から退くと、それに何も言わずにドムはザクの残骸に接近する。

「これは、間違いない06Cだ」

 ザクの残骸を間近で確認して、そのままドムはザクの上半身の残骸が保持したままだったバズーカを手に取り何かを調べ出す。
 そして、ドムは動きを止め。ゲルググのコクピットにドムに乗る隊長の笑い声が通信機から届いた。

「くっ、くくくく……あははははははっ!」

「た、隊長?」

 戸惑い、声をかけても、ただ隊長は狂ったように笑っている。どこか狂気を感じさせるその笑いが収まるまでシンリィはその場を動くことが出来なかった。

「くくっ、いいね。サンタの粋なプレゼントってか………サト伍長、サンタクロースを信じるか?」

「え、いや……馬鹿にしていますか隊長。サンタなんて本当に子供の時ぐらいですよ、信じていたのは」

 漸く笑いを収めた隊長の唐突な質問に、疑問に思いながらもそこまで子供に見られていたのかと不満気に答える。
 今シンリィのヘルメットの下の素顔は唇を尖らせ、不機嫌ですといった表情を露わにしていることだろう。

「いやいや、馬鹿にしたわけじゃないさ。俺は今この瞬間からサンタを信じるぞ。最高のクリスマスプレゼントを貰ったからな!」

 隊長のドムはザクの残骸よりも、むしろそのバズーカを大事な物だというように抱え込み。そう高らかに宣言した。












名前:シンリィ・サト
性別:女性
年齢:18
解説:
ジオン軍残党のアジア系人種の女性パイロット、搭乗機はゲルググ。
学徒動員兵で初陣は当時17歳でア・バオア・クー攻防戦。
ア・バオア・クーからの寄せ集めの部隊で脱出してサイド4に渡り、そのままシンリィも残党化。
同部隊でのMSパイロットでは一番の新兵で何かと子供扱いされては不満を示す。
学徒動員の訓練中の成績はそれなり程度だったらしいが、実戦を経て一皮向けて大きく成長した。
尚、ア・バオア・クーでの戦果はジム1機にボール3機と自称している。


[No.576] 2013/12/27(Fri) 21:22:40
[削除] (No.576への返信 / 1階層) -

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[No.577] 2013/12/27(Fri) 23:58:30
禁断のクリスマスプレゼント (No.577への返信 / 2階層) - ジョニー

 廃棄コロニーに潜むジオン残党とはいえ、外部との接触を完全に断っている訳ではなく残党は残党なりのネットワークを構築していた。
 そのネットワークは簡単な伝言状態とはいえ地球に潜む残党の一部とも連絡が取れる程のものであり、核弾頭を手にした彼らは賛同者を募ってある作戦を決行した。




 その日、連邦軍の地球軌道パトロール任務に就いていた多くの部隊は頭の痛い事態への対応に悩まされていた。
 地球連邦議会に席を置く議員の一人が外遊の為に搭乗していた地球―コロニー間のシャトルが大気圏を突破して暫くしてジオン残党に捉まったのだ。
 彼は小物議員ではあるが戦争で疲弊した地球経済の立て直しの為に各サイドへの増税を訴えて今回の外遊はどれ程の増税に耐えられるか見極める為のコロニー視察であると堂々と発表していてスペースノイドの心情を逆なでした挙句に日程その他も記者の質問に答えていたのだから、この事態は正直自業自得に思えてならない。
 その癖、自らは庶民派議員であると謳って通常の一般シャトルを利用して民間人を大量に巻き込んでジオン残党にシャトルごと確保されたのだから笑い話にもならない。

 ジオン残党はティベ級重巡洋艦とムサイ級軽巡洋艦が一隻ずつで、確認されたMSはシャトル上部に取り付きマシンガンの銃口をシャトルに向けているザクが1機だけだが当然それ以外にも艦内にMSが搭載されていると思われる。
 現状、問題の議員と一般乗客がどうなっているかは不明だが残党の声明にあった要求は当然受け入れることは出来ず、さりとて人質の見殺しも出来ないのでジオン残党と集結した多くのパトロール部隊は膠着状態に陥っていた。

 この連邦議員人質事件がジオン残党の陽動作戦であったとは、この時はまだ連邦軍は知ることが出来なかった。








 時を同じくして、地球軌道上でジオン残党のムサイ級一隻がサラミス級二隻からなるパトロール部隊と交戦状態になっていた。

「ちぃ、此処まで来てパトロール部隊に見つかるとは……コムサイには指一本触れさせるな!」

 残党軍はコムサイを目標地点に、地球の同胞の待つ場所に降ろすことの出来るタイミングまで死守の構えを見せ、連邦部隊は同時発生している連邦議員人質事件への優先度の高さからこの偶発的戦闘に対する士気は高くなかった。
 この士気の違いが、数的劣勢である残党を救った。結果として彼ら残党は全滅しながらもその目的を達したのだから。


「何をしている! たかだかMS1機……う、撃ち落とせぇ!」

「クリスマスプレゼントを地球に降ろす邪魔はさせん……ジィィィィク、ジオンッッ!」

 サラミスに特攻するリックドムは阻止せんとするジムを切り裂き、ジムの攻撃やサラミスの対空砲火に曝され満身創痍になりながらもサラミス艦橋に突っ込み、僅かな時をおいてサラミスを巻き込み大爆発を起こす。
 このサラミス一隻の撃沈によって動揺した連邦の隙をついて、ジオン残党はクリスマスプレゼントと暗号を付けられた核弾頭を搭載したコムサイを地球に降下させることに成功し、その後暫くしてサラミスの復讐といわんばかりの連邦の徹底攻勢によって全滅した。










 そして地球、海上にて。

「ようこそ地球へ、歓迎しますよ」

「シンリィ・サト伍長です、よろしく頼みます」

 海面に浮上したユーコン級潜水艦と海面に浮かぶコムサイの合流が果たされていた。
 コムサイに搭載されていた核弾頭、そしてMS2機がユーコン級に移されていく。

「これがクリスマスプレゼント、核ですか……急ぎましょう。何時連邦の糞どもが此処を嗅ぎ付けるともわかりませんからな」

 コムサイは爆破処理され海底に沈んでいき、荷を受け取ったユーコン級は海中へと消えていった。
 後に降下したコムサイを確認しに来た、連邦の航空機は海面に漂うコムサイの僅かな残骸を確認出来ただけであった。

 こうして禁断の贈り物はジオン軍地球残党の手に渡ったのだ。


[No.578] 2014/01/04(Sat) 20:54:26
1.「再起」 (No.578への返信 / 3階層) - アズミ

 UC0080、12月26日。
 ジャブロー 連邦軍総司令部の一角にあるブリーフィングルームにて。

「以上が、リークされた情報だ」

 レオン=リーフェイ中尉はそう言って、ジオン残党兵が映っていたモニターを切り替えた。

「ジオ――……“公国軍”残党が何か良からぬことを企んでいるのは理解しました」

 左隣に座る女……ジオン共和国からやってきたという、少尉の階級章をつけた兵士をちらりと見て、刃水信士(ハミズ・シンジ)中尉は出しかけた言葉を訂正した。

「配慮していただきありがとうございます、中尉。ですが、お気になさらず」

 感情のない声で、少尉はそうとだけ返した。
 モニター映写のため、作戦説明中のブリーフィングルームは光源を落とされている。薄暗さゆえにその表情は読めない。
 視線をレオンに戻し、続ける。

「それで、彼らが無茶な陽動をやってまで地球に持ち込んだというのは、いったい?」

 レオンは頷いて、モニターのコンソールを操作する。
 新たに表示されたのは弾頭。大雑把な形状は見慣れたザク・バズーカ用の榴弾に酷似しているが、その横っ腹に描かれたニュークリア・ハザードマークがその差異を明確に物語っている。

「核弾頭!? 大事じゃないの」

 シンジの右隣に座っていた劉鈴雲(リュウ・リンユー)軍曹が素っ頓狂な声をあげる。
 彼女は一年戦争後半からの志願兵であるので、その弾頭の素性を知らなかったのだろう。核、という字面だけで恐ろしい想像をしたに違いない。それこそ水爆クラスの。
 直接は見たことがないものの士官学校の授業でシンジはそれを見知っていた。
 背後に座っているアーニー・クロージェ准尉は尚のことだろう。彼はルウム戦役から前線で戦い続けているベテランである。直接目にしていてもおかしくない。案の定、気の利く男でもある彼がリンユーに説明した。

「南極条約締結前の初期型ザク・バズーカ用核弾頭ですよ、軍曹。せいぜい威力はマゼラン級を一撃で轟沈させるぐらいのものです」

 それでもMSが携行する火器としては破格の破壊力だが、少なくとも戦略級の大量破壊兵器としての運用は不可能だ。
 それを聞いて、リンユーは幾らか安心したようだった。

「なーんだ……でも、そんなものを奪取して連中は何をしようっていうんだろ?」

 それはシンジも疑問だった。
 確かに放射能汚染を引き起こす核兵器はこの宇宙世紀においても禁忌と言えるが、ただの対艦弾頭一発で如何ほどのことが出来よう?

「連邦主要都市への爆破テロ、あるいはもう少し気を利かせれば水源汚染……」

 思いつく選択肢は目一杯無謀なものを含めてもそんなものだ。
 そこで初めて、ジオン共和国から来た女が口を開いた。

「あるいは彼らさえ思いついてはいないのかもしれません。……“先”を考える能力の持ち合わせがあるなら、現在の情勢で反連邦活動など続けられないでしょう」

 その口調は、同じ同郷の者に対するそれとしては恐ろしく酷薄だった。思わず関係のないシンジが背筋に寒いものを感じるほどに。
 とはいえ、内容そのものには同意できる。サイド3がジオン共和国として連邦に対して恭順を示した現在、ジオン公国という国家は消滅している。公国軍残党は今以ってかつての30%に及ぶ規模で抵抗活動を続行しているというが、彼らにはもはや拠るべき国体が存在せず、銃後を支える国民も居らず、帰るべき国土も無い。
 如何に連邦を叩き、ジオン公国を復興したとしても彼らには統治能力がない。
 それどころかそれを打ち立てるべきサイド3、ジオン共和国の民も彼らを支持はしないだろう。この場にこの少尉が来ていることがその何よりの証左だった。
 ブリーフィングルームに照明が戻り、レオンが総括する。
 
「我々連邦軍情報部と実行部隊たる諸君らタスクフォース202は本日1200より核弾頭を取得したジオン公国軍残党の追跡を開始、これを奪取、ないし破壊する」

 ブリーフィングルームに照明が戻り、レオンが総括する。
 タスクフォース202。それがシンジらの現在の所属だ。
 一年戦争後、ジオン残党による緊急性の高い案件に迅速に対処する目的で、連邦軍統合参謀本部隷下に臨時結成された実行部隊である。

「今回の作戦はあくまで我々連邦軍の主導で行われるが、ジオン共和国国防軍から協力の申し出があった。マクレガー少尉」

 呼ばれて、マクレガーと呼ばれたジオン共和国少尉が立ち上がった。

「ジオン共和国国防軍から参りました、ベアトリクス=マクレガー少尉です。今回の作戦に際し、MSパイロットとして刃水中尉の指揮下に入らせていただきます」

 歳はシンジと同じぐらい……20代まだ半ばか。ピッシリとした制服に肩口で切り揃えられた染めた後のまるでない綺麗な黒髪、無駄な贅肉のない身体……とかく全身の全ての要素で隙のない印象を与える女だった。
 別の軍組織から人員を出向させるという強引さと、MSパイロットを一人送っただけというシンプルさ。不釣合いな二つの事実からは、明確な政治的意図が感じられた。
 つまるところ、これはジオン共和国の連邦恭順を示すポーズだ。
 一年戦争を通じ直接の被害が少なかったサイド3は、連邦の復興活動によって五指に入る有力なコロニー群に成長しつつある。今や連邦との経済交流なくして立ち行かない状態なのだ。
 ここで公国軍残党が連邦にダメージを与えた場合、それは金の流れを通じてジオン共和国へのダメージとなる。……どころか、地球側の宇宙移民に対する感情が悪化すれば、またぞろスペースノイドへの弾圧が始まらないとも限らない。
 公国軍残党の撃滅は、ジオン共和国の保身にとっても焦眉の急なのだ。それも、出来るならば己が協力した体を確保しておきたい。そういうことだろう。

「無論これは一時的な措置であるが……ともあれ、諸君らは本日よりMS小隊の定数を満たすことになる」

 シンジは渋い顔をした。彼とリンユー、アーニーらは元々、オーストラリア方面軍中央部攻略部隊「レッド・ポッサム」の一員であった。
 末期のヒューエンデン基地攻略戦で一名のMSパイロットを喪い、その後ジャブローに拾われ戦後処理に奔走していたため、小隊としては機能を停止したままだったのである。

「特に異論が無ければ隊の名称はそのままにしようと思う。……どうだ?」

 レオンの提案には幾らか、シンジたちの感傷への配慮を察した。
 ジオンに殺された仲間の代わりをジオンに埋めてもらう形になる。そこにかつての名を冠することには、シンジも感情的な障壁を全く感じないでもない。
 多分に困惑から一同は沈黙したが、ややあってリンユーが挙手して賛意を示す。

「賛成。いまさら、他の名前なんてしっくりこないし」

 その軽薄さは、こちらの気負いを解くために装ったものだとシンジは思った。
 それに続くように、アーニーが後から肩を叩く。
 
「隊長、自分も同意です。ご決断を」

 シンジはマクレガー少尉を見た。
 ジオンから来た女の表情は揺らがない。否、努めて揺らがないようにしているのだと、感じた。
 一つ、深く息を吐く。

「いいでしょう。よろしく、マクレガー少尉」

 シンジは立ち上がり、マクレガーに手を差し出した。
 彼女もそれを、迷うことなく取る。

「ようこそ、“グレー・クウォール”へ」

 部隊名に色と動物の名を冠するのは、地球連邦オーストラリア方面軍において、大陸奪還の電撃戦に従事した主力部隊の通例だった。
 グレー・クウォールはその一つ、特殊MS遊撃小隊として編成された部隊である。

「……時間だ」

 時計が正午を指した。作戦開始の時刻である。

「本日只今よりジオン残党追撃任務を命ずる。諸君らの健闘を祈る」

「タスクフォース202、グレー・クウォールはこれよりジオン残党追撃の任に当たります」

 復唱するシンジに習い、マクレガー、リンユー、アーニーもレオンに敬礼する。
 コロニーの落ちた地で死んだはずの灰色のフクロネコが、息を吹き返した瞬間だった。


[No.614] 2014/10/04(Sat) 16:42:55
2.「出発」 (No.614への返信 / 4階層) - アズミ

「リークによれば、残党はチリ沖で核を回収してから西に移動しているらしい」

 戦後1年近くが経過してなお、地球の海には相当数の公国軍残党が潜んでいると言われている。
 連邦の海洋戦力は一年戦争を通してついぞ、精強な水中用MSを要するジオンに追いつくことが出来ず、実質的な制海権こそ奪取したもののこれを壊滅させることなく現在に至っているのだ。
 残党内部の造反者からの情報リークが無ければ、捕捉にはかなり苦労しただろう。

「でも、そのリークって信用できるのぉ?」

 リンユーの疑念はもっともだった。
 そもそも、この急場に都合よく情報をリークしてくる造反者が出たことが都合が良すぎるように感じる。
 マクレガーは「情報操作の可能性はありますが」と前置いた上で、続けた。

「海上を移動しているということはユーコン級でしょう。潜水艦部隊はもともとザビ家の覚えが悪い人材が多く回されています」

「つまり?」

「反公国的な志向が潜在している、ということです。造反者が出ること自体は不思議ではありません」

 リンユーはなるほど、と得心した様子で頷いた。
 別の手段で裏づけがとれない以上、常に造反者を装って誤情報を掴まされている可能性は考慮しなければならないが、差し当たっての疑念は幾らか軽減されたといえる。

「敵の目標はラサでしょうか?」

 アーニーが地図を見て言う。
 航路上にある連邦側の重要施設となると、大規模拠点があるチベット、ラサぐらいだ。
 もっとも、そのぶん防衛能力も高い。ユーコン級に搭載できる数のMS(どれだけ工夫しても1個中隊だ)による作戦目標としては無謀な設定だった。アジアは潜伏しているジオン残党も少ない、周辺から掻き集めても1個大隊には届かないだろう。残党のMS稼働率を考えると小規模の基地をどうにか落とせるかどうか、というところか。

「そんなわかりやすい目標なら、俺たちが手を煩わせるまでもないさ」

 単純に攻撃目的に使用するなら対象の守備隊がどうとでもするだろう。MSの携行バズーカによる核弾頭なぞ有効射程に入る以前の問題だ。無論、可能性がないわけではないのだがグレー・クウォールの作戦上の視野からは外してよい。

「もう少し妥当性のある目標なら……非軍事施設で重要性の高い……」

「ホンコンあたりでしょうか?」

 ホンコン(旧香港とは異なる、移転都市)は現在東アジアの経済上の中心地である。
 地球の主要な企業体の中枢も集中しており、ここを標的としたテロならば地球経済に大きな混乱をもたらすことができる。
 アーニーの言葉に、シンジは肩を竦めた。

「まぁ、現時点で予断を持つのは危険だ。引き続き情報収集に努めつつ、途中の補給地での阻止に注力しよう」
 
 如何に潜水艦……仮に理論上数ヶ月潜航を継続できる原子力潜水艦であっても、中に人間が入っている以上、実際には補給が不可欠である。
 であれば、太平洋を横断するにも数度の補給は必要になる。ハワイかオセアニア、東南アジアなどに寄航するはずだ。
 連邦の海上戦力がジオンのそれに劣ることは既に話した通り。グレー・クウォールとて例外ではない。勝負をかけるのはそれら陸地においてとなる。

 廊下を抜けてドックまで来ると、既にミデアへのMSの積み込みが始まっていた。
 アーニーが使用するホバートラックに続いて、並ぶMSは3機。
 それぞれリンユーのG型、シンジのD型のジム、そして識別用だろう、連邦の鹵獲機と同じく白く塗られたザクであった。

「S型だな」

「お詳しいですね」

 シンジの呟きにマクレガー少尉は驚いた様子だった。
 リンユーが横から口を挟む。

「S型って?」

「“角つき”のことさ」

「角、ついてないじゃん」

 リンユーは腑に落ちない様子だったが、実際のところ指揮官用のザクUS型と一般機の外観的な差異はほぼジオン軍において指揮官の証である角……通信用アンテナの増設以外ない。目の前のS型とされたマクレガーのザクにはそれがなかった。
 だが性能的にはS型は単に角がついただけのザクではない。総合的に性能が向上しており、ことによると後発機であるグフよりも手強いことがある。特に推力は30%増しになっており、このためスラスターやバーニアが僅かに大型化しており、シンジがS型と見破ったのはそれらの点に注目してのことであった。

「これがマクレガー少尉の機体ですか?」

 アーニーの問いにマクレガーは頷いた。

「ええ、グレー・クウォールと部隊行動を行うのに、他に適した機体がなかったので」

 戦時中、ジオン軍が犯しがちな失敗として、多機種混成のMS小隊運用があった。
 主な問題として、部隊の進軍速度と射程が個々の最大公約数に抑えられてしまう点がある。
 たとえばザクとドムで小隊を組ませた場合、進軍速度はザク側に合わせざるを得ない。せっかくのドムの120km/hに届く巡航速度は半分近くに抑えられてしまう。あるいはザクとグフで組ませた場合、ザクがバズーカやフットミサイルによる砲撃を開始したとしてもグフは横で見ていることしか出来ない。実際にはグフだけが機動力に任せて突っ込んでくるケースが多かったが、これは論外だ。部隊行動を行う意味がない。
 混成部隊にせざるを得ないなら、少しでもスペックを似せる必要がある。
 ジムはジオン側のMSに当てはめるならば進軍速度も射程もザク以上であるが、さすがに熱核ホバーによる移動機構を持つドムには及ばない。またグフは射程が極端に短く、運用に癖がある。
 推力が向上したザクUS型というのは確かに妥当な選択だった。ザクは多くのオプション装備を持つため、射程の点でもジムに合わせやすい。

「ふーん」

 そんなことを説明すると、リンユーは興味なさそうに相槌を打った。
 彼女は腕のいいパイロットなのだが、MSの運用に関する知識はない。向学心も旺盛とはいえないので、こういう話題にはあまり乗ってこなかった。

「ま、時間無いんだからさっさと乗っちゃおう。ほらほら、立ち止まんないのトリス。さっさと乗った乗った」

 言って、立ち止まったマクレガー少尉の背をリンユーが押す。

「は、はぁ……トリス?」

「ベアトリクスだからトリスでしょ?」

 困惑するマクレガーに、リンユーは何のこともないように言う。
 仮にも上官に対する態度ではないが、厳密には同じ軍組織ではないし――彼女の気安さ、空気の読めなさは大方意識的なものだ。シンジは黙認した。
 アーニーも続く。

「長い旅になります。隊長、乗り込んだら改めて自己紹介の時間を設けてはどうでしょう?」

「あぁ……そうしようか。それでいいな、トリス?」

 上官に乗られては否やとも言えないのだろう。マクレガー……トリスは、風に煽られた髪を抑えて首肯した。

「りょ……了解しました、中尉」

 少しだけ頬を染めて頷く。それは、出会ってから彼女が見せた最初の人間的な感情表現だった。


[No.615] 2014/10/04(Sat) 18:42:14
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