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No.79に関するツリー

   サイバーパンクスレ本編再録 - 桐瀬 - 2011/04/30(Sat) 22:37:17 [No.79]
ストレンジ・モーニング・デイ - 咲凪 - 2011/04/30(Sat) 22:37:53 [No.80]
終焉の位階計画 - ジョニー - 2011/04/30(Sat) 22:38:27 [No.81]
Return failed 1 - 深選 - 2011/04/30(Sat) 22:39:17 [No.82]
マッド・アヘッド・ブラッド - 雉鳴・舞子 - 2011/04/30(Sat) 22:40:03 [No.83]
Return failed 2 - 深選 - 2011/04/30(Sat) 22:40:38 [No.84]
キス・デス・ケース - 雉鳴・舞子 - 2011/04/30(Sat) 22:41:08 [No.85]
とある電脳の魔術少女の日誌 - イライザ・F・霧積 - 2011/04/30(Sat) 22:41:52 [No.86]
フェイス・フェイス・フェイス - 雉鳴・舞子 - 2011/04/30(Sat) 22:42:24 [No.87]
Return failed 3 - 深選 - 2011/04/30(Sat) 22:42:58 [No.88]
長耳の懇願 - ロングイヤー - 2011/04/30(Sat) 22:43:51 [No.89]
ドクター・ザ・ライアー - 雉鳴・舞子 - 2011/04/30(Sat) 22:44:37 [No.90]
霧積さんちの魔術少女 - イライザ・F・霧積 - 2011/04/30(Sat) 22:45:17 [No.91]
微睡みを壊すもの - 上山小雪 - 2011/04/30(Sat) 22:46:19 [No.92]
セレクト・ルート・サイド - 雉鳴・舞子 - 2011/04/30(Sat) 22:46:47 [No.93]
魔術少女の一存 - イライザ・F・霧積 - 2011/04/30(Sat) 22:48:14 [No.94]
Return failed 4 - 深選 - 2011/04/30(Sat) 22:48:51 [No.95]
長耳の危機 - ロングイヤー - 2011/04/30(Sat) 22:49:46 [No.96]
その覚悟は - キュアスノー - 2011/04/30(Sat) 22:50:31 [No.97]
パラサイト・ナノブレイカー - ドク - 2011/04/30(Sat) 22:51:42 [No.98]
グッバイ・ロング・イヤー - 咲凪 - 2011/04/30(Sat) 22:52:16 [No.99]



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サイバーパンクスレ本編再録 (親記事) - 桐瀬

そのいち。

[No.79] 2011/04/30(Sat) 22:37:17
ストレンジ・モーニング・デイ (No.79への返信 / 1階層) - 咲凪

 上海の夜は、今日も暗かった。
 首尾よくゴミ……もとい、骨董品を盗み出した泥棒達が、首尾よく警察に御用となった、そんな一日の一コマがあったのだ。

 そんな一コマのどさくさの内に、骨董品の一つに“たまたま”流れ弾が当って、
 それが原因で故障した骨董品が、“中の物”を蘇生させたとしても、それは警察には何の落ち度も無い事だ。
 唯一つ落ち度があるとすれば、それを警察がゴミと間違えて回収しなかった事だ。
 それは何分、あまりに古い機械だったから、今の目でみればゴミにしか見えなかったのだ、骨董品なのだから、その価値がわからない事を責める事はできない。

 まぁともかく、その“中身”は上海の地で目覚めたのだ。

「う〜ん……」

 寒い、と感じて“中身”はぶるっと身震いした。
 しかし寒い筈だ、夜中である事は勿論、機械の中に入る都合で、“中身”は薄着でいなければならなかったのだ。

「ふっ…はぁ……へっくしっ!!」

 “中身”は盛大にクシャミをして、目を覚ました。
 祖母から脈々と受け継いでいる青い瞳が周りを見回し、艶やかな黒い髪が肩でゆらゆらと揺れる。

「……?」

 寝ぼけている事はこの際関係ないが、“中身”は状況がさっぱり判っていなかった。
 自分が何故泥棒達のオンボロアジトに居るのかなんて、判る筈もあるまい、ましてや日本に居た筈の自分が上海に居るなんて、想像出来る筈が無い。

「此処……何処?」

 それでも、“中身”は目覚めてしまったのだ。
 コールドスリープにより、永く眠りについていた中身の名前は、雉鳴舞子という、遠い過去からの異邦人だった。


[No.80] 2011/04/30(Sat) 22:37:53
終焉の位階計画 (No.80への返信 / 2階層) - ジョニー

 薄暗く小汚いゴミの散乱する部屋の中で、そんな部屋に似合わない薄汚れた白衣を纏った13歳ぐらいに見える少女が震えていた。
 彼女はカタカタと震えながら信じられないものを目にしたように視線を宙に這わせ、カチカチと恐怖に歯を鳴らしていた。

「ぁ…ぅ……う、そだろぉ…誰だよ、こんなもん考えた馬鹿野郎はぁ!?」

 そう吠えながら、机に置かれたウォッカのビンを手に取り口端から零れるのも気にせずに一気に飲み干し、乱暴に壁に叩きつけるに空き瓶を投げる。
 ビンの砕ける音にさえ、苛立つように少女はその容姿に似合わず口汚く罵りを上げる。

「かぁー!くそっ、繋がらねぇ!? 旦那っ、俺だっ…ロングイヤーだっ!!」

 手にしたデータを、いまだ絶滅せぬ紙媒体に移しながら彼女は連絡の繋がらぬ依頼主に泡食ったようにメッセージを送る。

「あぁぁ! 金はいいっ、すぐに情報は渡す!! その代わりに俺が高跳びする用意をしてくれぇ。場所は上海から遠けりゃ何処でもいいっ! なんなら地球の裏側にでも行ってやるぅ!?」

 叫びながら、移し終えた書類と一部の貴重品を鞄に詰め込め、すぐさまこの場から引き揚げる用意を済ませていく。
 何かに脅えるように、否…彼女、いや彼は確かになにかに脅えていた。

「例の場所で待ってるからなっ! 此処は引き払うっ、これ聞いたらすぐに接触してくれぇぇ!」

 ハァハァと息を荒らげ、メッセージを転送し終え鞄を抱えてドアを勢いよく開け放ち、歪んだ活気に満ちたスラムへと駆け出そうとして、爆風に煽られ無様に転がっていく。

「ア、ガァァッアアァ!?」

 右肘から下が消失し、それでも爆心地に目を向ければ、つい一瞬前まで己がいた部屋が消えうせ多くのスラム民が悲鳴を上げて逃げまとっていた。
 持っていた鞄も炎の中に見つけて、すぐさまそれを諦め彼女は逃げまとう者達に紛れてその場を離れようとする。

「クソッが……幾らなんでも早すぎだろうが…あぁぁ、毎度毎度消されてたまるか、今度ぐらい…逃げ延びて、やるぅ!」

 無くなった右腕の付け根を左手で押さえながら、ぼろぼろになった身体を引きずるように人混みの中へと消えていく……




 燃え盛る炎の中、ブチ巻かれた鞄の中身は散乱し燃えていく。
 その燃え逝く書類の一枚に、確かにそう記されていた………



―――プロジェクト End Rank


[No.81] 2011/04/30(Sat) 22:38:27
Return failed 1 (No.81への返信 / 3階層) - 深選

 型落ちのセキュリティを甘んじて使うほど迂闊で、そのくせ自身も警戒心に乏しく、サイバーウェアもロクに入れていないくせに生身の身体を鍛えてもいないとくれば、いっそ今日まで生き残っていたのが不思議なくらいだ。

『命と運を無駄遣いしたな、小僧』

 蹴って転がしたストリート・ギャングの年は、せいぜい16、7。
 ストリートで野垂れ死ぬ手合いとしては、聊か年嵩な部類だ。
 それでこの迂闊ぶりということは、よほど豪運に恵まれたか、あるいは最近になってホームを飛び出したホワイトエリアのどら息子か。

『弾が勿体無かったかもしれんな』

 絡んできたので適当に食い散らかしたが、懐を改めてみても出てくるのは残高の少ないクレッドスティックに、安いポートコム(携帯端末)、密造拳銃が一丁だけ。
 これではコイツらの脳天に撃ち込んだ9mm弾7発で足が出てしまう。

『後は――コイツか』

「ひっ……!?」

 ギャングのアジト……だろう、恐ろしくスケールが小さいが、たぶん……の奥で震えていた女が、自分に意識が向いたことを悟り、引きつった声をあげる。
 『お楽しみ』の真っ最中だったのだろう。衣服は泥に汚れている上に引き裂かれて半裸だが、どうも病院着らしい。
 病院着。ここらの闇医者ではまずお目にかかれないシロモノだ。ざっと値踏みするなら鉄格子つきのお上品な病院から逃げ出してきたグリーン(中産階級)以上のお嬢さん、と言ったところか。
 差し当たり、ヤツらの遺品の中では一番カネになる。

『オーライ、お嬢さん。怯えなくていい』

 見たところ生身だし、暴れられたところでどうということはないが、これ以上カネにならない面倒はノーサンキューだ。
 俺は両手を開き、極力鷹揚な態度で宥めすかして見せた。

『俺は味方だ。
 生憎、身分証明なんて大層なものは持ち合わせてないが、仲間は深選(フカエリ)と呼ぶ。
 どうか、安心してくれ。手荒な真似はしない。君の両親なり保護者に、送り届けた時の充分な謝礼の用意さえあれば』

 慣れない営業スマイルさえ浮かべてやったのに、このアマときたらあたりにあるものを手当たり次第に投げつけてきやがった。

「なんなのよっ!人殺しっ!来るな、近寄るなぁっ!」

 ……いかん。返り血浴びたままだったか。


[No.82] 2011/04/30(Sat) 22:39:17
マッド・アヘッド・ブラッド (No.82への返信 / 4階層) - 雉鳴・舞子

 血の臭い、を嗅ぐ事は初めてじゃない気がした。
 自分でげろっと吐いた事があるのだ。

 あの暗い部屋から目が冷めて、記憶が殆ど戻らないうちに漠然と「人を呼ばないと」なんて思って外に出たのがほんの少し前……だったような気がする、まだ自分の体感時間が不鮮明だ、頭も体も本調子では無い。
 それはともかく、ともかくだ、私は今――凄くピンチだ。

「なんなのよっ!人殺しっ!来るな、近寄るなぁっ!」

 正直に言うと、私は自分がもう少し穏かで“おしとやか”な方だと思っていた。
 けれど今の私はそう――これがキレる、という事なのだろうか、頭の中で何かぷつんとスイッチが入ったように、思考を差し挟む余地が無く反射的に言葉と行動が出てきてしまう。

「来るなっ!、来ないでっ!、来る――っ!!」

 ――っ!?。
 何だ、苦しい!?、声が出ない、どうしたというんだろう。

「ぜっ!?、ぜぇ…!?、ぜっ!!」
「……どうした?」
「はひっ!?」

 血に濡れた男が近づいてくる、私は後退りをする……が、声は出ない、それに体が固まったような私と違い、深選と名乗った男の足は速い。

「過呼吸はよくやるのか?」
「ひっ……ひっ……」

 返事は出来ない、ただ首を横に振る。

「落ち着け、呼吸に異常が起きているようだ」
「ひっ……?」

 確かに、喉が痛い。
 どうしたんだろう、考える事も出来ない、喉が痛い、頭も痛い。

「……医者は、金が掛かる、そこまでしてやる義理は無い」

 深選は、困ったように呟いた。

「無いんだがな……弾を使った事が全くの無駄になってしまうのも、癪な話だ」


[No.83] 2011/04/30(Sat) 22:40:03
Return failed 2 (No.83への返信 / 5階層) - 深選

 普段邪魔になほど見かけるものほど、必要な時には見当たらないものだ。マーフィだかなんだかの言葉だったと思う。
 過換気症候群の対処法は一先ずポリ袋なりなんなり、密閉できるもので呼吸を適度に遮ることなのだが、見回してみても紙くずやら肉塊やらは腐るほど転がっているくせに、袋状のものがまったく見当たらない。
 ジャケットを脱いで口をすぼめてみるが、装甲を仕込んであるのでどうにも塩梅が悪かった。

『しょうがない』

 息を一つ吐くと、娘の口をマウストゥーマウスで塞いだ。

「んんーっ!?」

 手足をばたばた振り回して暴れるが、ウブいレスに付き合う義理もないので力づくで押さえ込む。
 喉に内臓したフィルターで換気を調整してやると、すぐに娘の呼吸は回復した。

「なっ、なっ、何するのよ!」

 飛んできた平手は適当に捕まえる。が、それだけに飽き足らず続けて脛を蹴り上げ、罵詈雑言を喚きたてた。

『また過呼吸になっても知らんぞ』

「うるっ、さっ、げほっ、げほっ!」

 ……どうも過呼吸ばかりでもなさそうだ。ホワイトエリアの子供はアレルギーが酷いことが多いが、老街の汚れた空気が合わないのか?

『河岸を移す。少し黙ってろ』

 返答も聞かずに担ぎ上げると、娘は暫く暴れたがすぐに大人しくなった。

 遠くで鳴り響くサイレンの音が、俺たちとは関係のないことを祈る。



『ところでな、お嬢さん。
 名前ぐらい教えてもらえないか』

 返答を期待したわけではないが、果たして背後からは「キジナキマイコ」とぶっきらぼうな声が返ってくる。
 その後、道中、住所やら両親の健在やらいろいろ聞いては見たが、全てだんまり。
 どうにも嫌われたらしい。仲良くする筋合いも、勿論ないのだが。

 さて、どうしたものか。
 さしもの俺も生きた人間をバラして冷蔵庫送りにするのは気が引ける。
 さっきのウブい反応からしてまだ『未使用』だろうし、娼館に売り込むのが妥当なところだがツテもない。そのまま頂くには発育が今少しか。

 思案していると、功刀行政特区……通称ブシドー租界の入り口が俺たちを出迎えた。
 あとは5分も行けば俺のアパートメントだ。

『ようこそ、我が家へ』

 背中の少女は、ブシドー租界特有の高層建築群に圧倒されたようだった。


[No.84] 2011/04/30(Sat) 22:40:38
キス・デス・ケース (No.84への返信 / 6階層) - 雉鳴・舞子

 答えない、というのも正しいが、答えられない、というのがより正しい。
 私は決して記憶喪失では無い、自分が雉鳴舞子である事を思いだせるし、自分の親の顔を思い出す事が出来る、自分が冷凍睡眠をしていた事も、思い出してきた所だ。

 ただ、思い出せない事もある、ペットを飼っていたように思うのだけど、何を飼っていたのか、本当に飼っていたのかを思い出せない。
 もしかしたら、誰か知り合いが飼っていたペットを、自分が飼っていたと錯覚しているのかもしれない、記憶が混乱しているのだ。
 おそらくこれは冷凍催眠後の影響で、時間を掛ければ記憶がスムーズに回復するのか……それはわからない。

 ただ一つ思い出したのは、私が病に侵されていた事。

 私が冷凍睡眠していた理由であり、私を長年苦しめてきたモノ。
 これが今、私の体の中でどうなっているのか……これも判らない、先ほどの呼吸困難は私の病気の症状では無いし、それにキ……。

「ああああ……」
「どうしたんだ、古いコンピュータゲームの主人公の名前を適当に付けるような声を出して」
「アンタを呪ってたのよ……」
「そうか」

 キス。
 いや、違う、あれは人工呼吸だったのだ、断じて、断じてキスでは無い、認めない、許さない。
 ……閑話休題。
 あの後、呼吸が落ち着いたのは確かだ。
 この怪しくて怪しくて溜まらない男、深選を多少なり信じる……いや、状況に流されているだけで、信じてはいないのだけど、それでも騒いで抵抗する事を止めたのはそれが理由だ。

『ようこそ、我が家へ』

 担ぎ上げられたまま、どうする事も出来ずに居ると、深選の方から声を掛けられた。
 だから、彼の視線がある方に目を向けた、目の前には幾層にも重なる積層式……とでも言うのだろうか、論理的のような、不可思議のような、やたらと高く高く伸びた街が広がっていた。

「……何、コレ」
『日系人……日本語を話していたからジャパニーズに違いないと思っていたんだが、ブシドー租界は初めてか?』
「武士道?、何それ、何なのよもう……」

 見知らぬ街は、驚きと共に、本当に自分が見知らぬ地に居るのだという事を思い知らせてくれた。
 目尻に涙が浮かびそうになる、心も折れそうだ、いや、本当ならもうとっくに折れてる所なのだが、不幸中の幸いで、体が本調子でないのに合わせて心も本調子でないらしい、適度に麻痺して、何とか折れないで居てくれている。

「何処に行くの……」
『俺のアパートメントだ、とりあえずはな』
「…………」
『そう警戒するな、何もとって喰う訳じゃない』
「だって……!」
『お前を襲った連中とは違う』

 自分の体がそれだけでビクッと怯えた事に、私自身が驚いた。
 あぁ、そうだ、私は襲われたんだ、勿論動物……犬や熊なんかでは無く、人間に。
 人間に襲われたというのに、まるで犬か熊に襲われるようだった……それしか覚えてない、かろうじて纏っていると言える服は酷い有様だが、それでも深選が乱入して来てくれたおかげで、無事助かったと言える。

 ……あれ?、なんか忘れてる。

「あー!」
『大声を出すな、また呼吸が……』
「服!、やだ!?、ちょっと、このまま連れ歩かないでよ!、私殆ど裸じゃない!?」
『大声を出すな』
「だって!」
『お前が大声を出せば、また面倒事が起きて、お前の身は危うくなる』
「……!」

 さすがに、黙る。
 もう二度とあんな思いはごめんだ。
 私が黙った事に満足したのか、深選は何も言わずに足を……彼のアパートにだろう、進めていった。


[No.85] 2011/04/30(Sat) 22:41:08
とある電脳の魔術少女の日誌 (No.85への返信 / 7階層) - イライザ・F・霧積

 変わらぬ混沌の中に佇む上海で、私は相も変わらずちょっとした危険に遭遇した。
 今日はそんな中からピックアップ。

 ひとつめ。
 先日知り合った、とある強盗団がゴミ……じゃなくて骨董品を盗みたいというのでそれに協力してやった。
 私は具体的に何をやったのかというと、彼らの移動のお手伝いをしてから、警察に通報させて頂いただけ。

 どうせ放っておいても捕まりそうな奴らだったし、これで捕まらないなら大物になるかもね、というちょっとした試験気分だったのだけれど、あっさりと捕まってしまった。
 問題は、警察が私まで捕まえようとした事。
 話を聞いてみると、私が今までにしてきたあれやこれやの些事が積み重なった結果らしいのだけれど、そんな話は事前にしておいてほしいもの。そういえば前にも聞いたような気もする。
 当然さっさと逃げた。三十六計なんとやら、だ。


 ふたつめ。
 見るからにストリートギャングですと言わんばかりの……歳は私より少し下、だろうか。そんな少年達に路地裏で声を掛けられた。
 この上海で、しかも路上で知人以外から声を掛けられるなんて間違いなく良い話ではないのだけれど、私はちょうど暇だったので相手をしてやろうと立ち止まった。

 瞬間、彼らが飛びかかってきたので私は懐に忍ばせた符を取りだすと同時に地面に叩きつけた後、走って逃げた。
 追いすがる彼らに向けて、路地に置いてあった色々な――ゴミ箱や空きビンや人だったモノ――が飛んでいく間に私は彼らの視界から消えた。
 確認した限りでは刃物は転がってなかったし、きっと命はあると思うけれど、あの迂闊さでは数日後には五体満足でいられるかどうか。


 みっつめ。
 柄にもなく功刀行政特区へ行ってみた時の事。
 何故かというと、先日父様が生体兵器がどうのという話をしていたため。
 視察も娘の仕事です。護衛は置いてきたけど。

 この辺りはサムライだとかニンジャだとかいう武芸の達人が多いらしい。
 彼らが本気を出したらきっと私などものの数瞬で首と胴が離れてしまいかねないので、それが死に直結するかどうかはさておいて大人しくしていることにした。

 そのつもりだったのだが、そうは問屋が卸さなかったらしい。
 ちょっと人気のないところに入った矢先に、いかにも厳格で、厳しさを売りに生きてきたような声音の人から「『如月』のイライザ・F・霧積殿とお見受けする」などと声を掛けられた。
 こういう手合いは、確認を取ってくるけど否定して受け入れられた試しがない。何の為に確認しているのか。
 関わると大抵ロクな事にならないので、返事をする間も惜しんで私は駆けだした。
 相手も即座に追ってくる気配がするが、わざわざ人目のないところで声を掛けてきたという事は、人目があると不味いのだろう。
 そう思って私は人目のあるところを目指したのだが……

「どこだ、ここ」

 慣れぬ地で適当に術も行使しつつ動きまわったため、自分の現在位置がよく判らなくなってしまったのだ。
 声を掛けてきた、おそらくオジサンと思われる人物は撒いたと思うのだけれど、現在地が判らない事には帰りようがない。
 ……そんなわけで、今はどこぞの住宅地らしき場所の屋上でこれを書き記す。

求む。地図


[No.86] 2011/04/30(Sat) 22:41:52
フェイス・フェイス・フェイス (No.86への返信 / 8階層) - 雉鳴・舞子

 結論から言って、ロングイヤーは何とか“例の場所”に辿り着く事が出来た。
 適度に人が出歩いていて、適度に人目に付き、適度に個人が目立たない場所というのが、アームズストリートの内にある“夜でも営業している”巨大玩具屋だった。

「つまり」
「貴方は情報を」
「手放したのですね?」

 その玩具屋の“ピンク色の照明”の下で、同じ顔をした3人の男が、右腕を……消失した右腕の先を布で巻いて隠したロングイヤーである所の少女型の義体を囲んでいた。

「し、仕方なかったんだよぉ!?、判るだろ!?、俺もヤバ――」
「シッ!」
「むぐっ!!」

 騒ぎ立てるロングイヤーの口を同じ顔をした男の一人が手で聊か乱暴に塞いだ。
 続けざまに言葉をぶつけようとしていたロングイヤーは、その言葉の行き先を失って、言葉を少女の形をした容器に戻した。

「Mr.ロングイヤー」
「我々は」
「貴方を咎めているのでは無い」

 口を塞いだ手をそのままに、3人の同じ顔の男は一言ずつ分けるようにして、ロングイヤーに言い聞かせる。
 彼等の名前はそれぞれ、イー、アル、サン、当然偽名だ。
 彼等はロングイヤーが連絡を取っていた相手の配下であり、ロングイヤーの要求に応じてこうしてこの場にやって来ていた。

「良いですかMr.ロングイヤー」
「貴方は既に“連中”に嗅ぎ付けられている」
「我々はそれでもなお、貴方に接触した、わかりますね?」

 ロングイヤーはコクコクと頷く、正直な所いい加減口を塞いでいる手を退かして欲しかったのだが、これ以上の要求をして相手の機嫌を損ねる事を恐れたのだ。

「貴方が提供すべき情報を失った以上」
「今の貴方の擬態から、取り出せるだけの情報を得るしかありません」
「わかりますね?」

 情報を取り出す、義体に補助記憶装置が付いている場合はこれのデータの洗い出しを指すのだが、そうでない場合は“本体”の脳に進入される事を意味する。
 ロングイヤーの場合、前者なので差し迫って危機を感じるような要求では無い。
 だが、補助装置とはいえ自らの専用の義体の一部を他人に預ける事は酷く生理的な嫌悪感を覚えた。

「わかりますね?」
「わかりますね?」
「わかりますね?」

 そのロングイヤーの反応を見てか、イー・アル・サンは同じ台詞をそれぞれ一度ずつ三度も繰り返した。
 量産型義体である為、同じ外見である事はロングイヤーも当然理解していたが、それでも申し合わせていたようなやり取りに気味の悪さを感じた。
 口を塞いでいたアルの手がパッと退く、ロングイヤーの返答を聞こうというのだ。

「お、俺の高飛びの用意は?」
「一応用意はしてあります」
「ですが止めた方が良い」
「えぇ、止めた方が良い」
「何……?」

 困惑の顔を浮かべるロングイヤーに、イー・アル・サンは困ったような顔を作った、内心ではほくそ笑んでいたのかもしれない。

「上海からの脱出は保障します」
「ですがそれからは保障出来ない」
「上海から出た途端に……」

 3人揃って「「「ボンッ」」」と呟いた。


[No.87] 2011/04/30(Sat) 22:42:24
Return failed 3 (No.87への返信 / 9階層) - 深選

「ね、ねぇ」

 マイコは、両手で裸同然の身体を抱え込みながら言った。

「贅沢は言わないけど、せめて何か服、くれない……?」

 視線には未だに不信の色が濃い。次の瞬間にも俺が自分を劣情のはけ口にするかと怯えている様子だ。
 無理もないし、それほど外れた想像でもないので訂正はしないが。
 とりあえず、俺はベッドのシーツを適当に放った。数日仕事で留守にしていたので、シャツの類は全て洗濯機に突っ込んだままだ。アーマージャケットの類よりは軽くて柔らかいシーツのほうがいくらか気が利いているだろう。
 そう思ったのだが、マイコは酷く不満な様子だった。

 ……まぁ、無理もない。彼女の身の上話を信じるなら、生まれ育ったのは21世紀の日本。よほどの貧乏人でなければ衣食住に困ることはない頃だ。

『しかし、コールドスリープで眠らされた病気持ちか……』

 似たような話はよく聞くが、生きて解凍された例ははじめて見た。大概その手のヤツは装置の不備で眠ったまま腐り死んだり、ギャングにバラされて肉屋に売られるのがオチだからだ。
 そういうことを説明してやると、マイコは震え上がった様子だった。まぁ、俺が助けなければ同じ末路だったのだから当然だが。

「で、わ、私をいったい、どうするの?」

 本題に切り込んできた。
 韜晦してもしょうがないので、俺は素直に返すことにする。

『それを困っている。いいか、まず言っておくが』

 ゆっくりと、咀嚼してやるように丁寧に伝えた。

『俺は慈善家でもなければ、慈善事業なんぞこの上海では笑えないだけジョークより価値がない、ということだ』

 俺がマイコを救う過程で払った支出は、9mm弾7発と1戦闘分の労力。あわせてざっと620新円(21世紀の日本円で言うと概ね62000円)程度が相場か。
 ギャングの死体から剥ぎ取った他のものは査定不能なレベルだったので、俺としてはどうにか唯一の戦利品とも言えるマイコから620新円分のプラスを得なければならない。
 最初はマイコを保護して親元まで連れて行き、謝礼をせしめる予定だった。あるいは渋るようなら身代金を。だが、このプランはマイコの両親どころか親類縁者が遠の昔に死亡していることでネガティヴとなった。
 バラして臓器業者に売り払うのはさすがに気分を害するからナシとして、娼館に売り払おうかと思っていたが、病気(何の病気かは知らないが)持ちとなるとまず買い手がつかない。
 そんなことを説明してやると、マイコの顔はみるみる青くなった。

「さ、さっきのならず者と一緒じゃない!何が『お前を襲った連中とは違う』よ!」

『違う』

 失敬なヤツだ。

『俺は、他人の持ち物を不当に暴力で奪う真似はしない。ビズは常に等価交換であって然るべきだというのが、俺の信条だ』

 逆に言えば、対価なしに人に施しは絶対にしないのが俺の信義だ。
 気まぐれな慈善は、"俺が救わなかったものに対しての"不義理になる。

『然るに、マイコ。俺はお前が犯され殺され解体され売り飛ばされるのを阻止した。押し売りの取引なのは認めるが、謝礼はするべきだと思うし、俺はなんとしてもせしめる気でいる』

 マイコは押し黙った。
 決して納得はしていないが、反論する余地……あるいは、度胸……はない。そんなところか。

「……お金なんか、無いわ」

『そうだろうな』

「お金に換えられるものもない」

『あぁ、弱った』

「じゃあ、どうするのよ」

『そうだな』

 俺はマイコをまじまじと見ると、顎をくいと上げて、視線を合わせる。
 まぁ、顔立ちは端整なほうだろう。磨けばさぞ光るとは思う。

『ただ、年がな……』

「は?」

『俺の相手をしてもらうぐらいしかないかと思ったが、少しばかり小便臭すぎる。
 肉付きももう少しあるほうが好みだ』

 マイコは吼えた。
 がぁっ!という勢いで。字にしづらい鳴き声で。手を振り回しながら。

「なんでそんなくそみそ言われた上にアンタなんかにだ、だ、だ、抱かれなきゃいけないのよーっ!?」

 罵詈雑言をまくしたてるマイコを適当にあしらいながら、俺はどうにか一つだけ建設的な案を講じていた。
 ……ひとまず、闇医者に診せてマイコの病名を確かめるか。結果として診療代分の価値が捻出できるかが怪しいところだが。


[No.88] 2011/04/30(Sat) 22:42:58
長耳の懇願 (No.88への返信 / 10階層) - ロングイヤー

 ――終焉の位階計画――


 ロングイヤーが入手したそれは、その計画の一端に過ぎなかったがそれでも尚計画のイカレ具合がよくわかるものだった。

 カルト教団「終焉の位階」が何者かの仲介で接触したナノ工学者が教団の依頼で作り出したナノ兵器「ベヘモス」。
 有機物・無機物問わず分解し、それを原材料に自身をコピー生産するという無差別破壊兵器である。
 もっとも開発者が精々二流の上といったナノ工学者である為にコピー時に劣化が生じて最悪の場合でも上海全てが呑み込まれるだけで済むだろうことは不幸中の幸いと言えるかもしれない。
 また現在は制御プログラムが未完成な為に一度動き出せばすべて焼き尽くしでもしない限りは止まることはない。

 終焉の位階計画は制御プログラムが完成した「ベヘモス」を使用してのテロによるデモンストレーションと、「ベヘモス」によるメガコーポの脅迫と要求であるらしい。
 脅迫時の請求内容こそは不明であったが、それでもカルト教団にしてテロ組織らしいイカレた計画であることは確かである。



「仲介者は不明、ナノ工学者も特定はできなかったが普段はブシドー租界で闇医者してるそーだ」

 ぐったりして精魂尽き果てたと言わんばかりに気だるげにロングイヤーが語り終えた。

「なるほど」
「嘘はなさそうですね」
「他には?」

 尚も情報を引き出そうとするイー・アル・サンにうんざりとした表情を向けるが、なに言っても無駄だと判断して諦めて再び口を開く。

「ベヘモスは起動前はカプセル一錠分で起動コードを送られれば動き出すそーだ。あぁ、さすがにコードは分らんかったぞ」

 むしろ、此処まで情報を得られただけでも俺すごくね? しかも、今回はまだ義体稼働してるしよ。
 それなのに俺、すっげぇー扱い悪くねぇか?

 などと思っても口には出さない。
 仲介者もナノ工学者も更にはコードも知らないと言って、現在進行形で役立たず的な視線を受けているのだから。

「頼むよぉ、口封じもなしにちゃんと俺の安全確保して上海から逃がしてくれよぉぉ、もうこれ以上この件に関する情報なんて持ってないからよぉぉぉ」

 それよりもロングイヤーを襲ったのは教団でまず間違いないだろう。
 つまりは制御プログラム未完成でもベヘモスを確保してメガコーポ脅迫、最悪ベヘモス使用に動くのは想像に難しくない。
 ハッキリ言って、ロングイヤーはもう今すぐ泣き出したいぐらいにこの上海から逃げ出したかった。
 恥も外見もなく、情けない声を出して懇願するぐらいには。


[No.89] 2011/04/30(Sat) 22:43:51
ドクター・ザ・ライアー (No.89への返信 / 11階層) - 雉鳴・舞子

「よぉ深選じゃないか……ん?」

 深選に連れられて来た“闇医者”というのは、外見からはとても医者には見えないアロハシャツを着た、髪をボサボサにした中年男性だった。
 ブシドー租界、とかいうこの街の外れ(と、深選は言っている、土地感が無いので私には判らない)にあるギリギリ診療所に見えなくも無い建物に彼は住んでいた。
 ……建物の前に、有名なフライドチキンのお店の人形が飾ってあったけど、少なくともフライドチキンを売っているようには見えない。

「深選、お前いつかやるとは思ってたが、やっぱりロリコンだったんだな」
『ちがう』
「なんだ違うのか」

 ロリコン……つまり私は彼から見ればそれだけ幼く見える、という事らしい。
 癪に障る話ではあるが、これまでの経緯で正直心身共に疲れ果てていた私には、そこに突っかかる気力は無い。
 理解出来ない訳では無いが、自分の過ごしていた世界が遠い過去だなんて、そう易々と受け入れられる事では無い。
 これだけのリアルの中にあって、「ドッキリじゃないの?」と我ながら甘すぎる考えが頭を過ぎったくらいには、信じたくない事実だった。

「……ナァルホド、それでこの病気のシンデレラを診てくれってぇ事か」
『あぁ、高くなるか?』
「いやぁ、見ただけじゃ何とも、お触りは?」

 深選は少し考えて。

『勝手にすると良い』
「勝手にするな!?」

 そのやり取りを見てケタケタと笑っていた闇医者の男が、くい、と立てた親指で彼の後ろにあった機械を指し。

「まぁ俺はロリコンじゃないから安心してよ、こっちの機械で検査するから」
「あ、はい……」

 その機械はCTスキャンの装置のようであったが、私が暮していた時間軸の病院で見たようなモノと比べると格段にコンパクトに思えた。
 しかし医療器具の登場はいよいよこの男が本当に医者なのだという説得力を感じる、素直に私は機械のベッド部に横になった。

「そんじゃそのまま動かないでねー、ウチの機械そんなに精度高く無いから」
『……ブシドー租界の闇医者でこれだけの設備をもってるのはアンタくらいだがな』
「惚れんなよ?」
『惚れるか』

 深選と闇医者の個人的なやりとりは“日本語では無い”ので私には何を言っているのか判らない。
 そうこうしている間に、仰向けに横になっていた私の上を天井側に備え付けられた機械から放たれた緑色の光が通過していく。
 ピー、というお決まりのような音を二度程立てた後、ガクン、と天井側の機械が下りてきて、まるで箱に蓋をするように私が横になる下のベッドと合体した。
 ……暗闇では無かったし、完全な密封状態では無いが、それにしてもロッカーに閉じ込められたようで少し気分が悪い、冷凍睡眠装置に入る前も、こんな気分だったのかもしれない。



 ガシュ、と音を立てて(外側から見れば箱のような形になっていたのだろう)機械から解放された私は、闇医者の「起きていいよ」の声を聞いて起き上がった。
 これだけで検査は終了したらしい、血を抜かれたりするのかと思っていただけに、少し拍子抜けだったが、こんな所の得体の知れない注射を刺されなかった事にはホッと胸を撫で下ろした。

『で、どうなんだ、実際の所』
「ガンの一種だね、だいぶ特殊なタイプだけど、大丈夫、治る治る」
「え……っ!」

 驚きだった、私の病気は原因不明のモノだとばっかり思っていたのに、ガンの一種!?。

「だって、ガンの症状なんて……」
「言ったろ、特殊なんだよねー。 便宜上ガンに分類してるだけで、もっと違う奴なんだなぁこれが」

 それだけ言うと、闇医者は深選に「治しとく?」と尋ねた。
 深選はというと、少し考える仕草を見せた後……。

『それだけか?』

 と尋ねた。

「エグいねぇ深選、いや……聞かれなきゃ黙ってようと思ってたんだが」
「な、何……?」
『聞かせてもらえるな』
「あぁ、結論から言うとこの子の病気は治る、けどまぁこの子の中身はそれだけじゃあないんだなぁ、これが」

 何を言っているのだろう、それを語る口調は妙に楽しげだった。

「この子の中には一種の寄生生物が居る、何処でこんなの貰って来たんだか、例の病気のガン細胞を隠れ蓑にしてたんだねぇ」
『寄生生物?』
「あぁ、か〜なりレア物だよ、得したねぇ深選。通称“ナノブレイカー”、本来は共生する生物なんだが、その際に寄生先の体細胞を自分が過ごし易いように作り変える、これが転じて、ナノマシンには致命的な毒になるんだなぁ、これが」
『ナノマシンをガン細胞化する事で無力化する……?』
「YES!、なぁ深選、治療の金は要らんから、この子を俺にくれんか?」

 深選と闇医者の話は、やはり日本語では無いので判らなかったが、それでも何か不穏な話をしているという事だけは……理解できた。


[No.90] 2011/04/30(Sat) 22:44:37
霧積さんちの魔術少女 (No.90への返信 / 12階層) - イライザ・F・霧積

 地図を手に入れるだけならば、今すぐにでも真下の家からちょっと拝借すればいいのだが、昨今の地図は猫も杓子も電脳電脳で全くよくわからない。見方どころか起動の仕方すらわからない。
 そういうわけで、地図を見るにもちゃんとここがこうだと案内してくれる人がいなければならないのであるが、真下のアパートメントはどこを見ても留守留守留守で途方に暮れていたところだったのだ。
 家に帰れば毎日更新される地図情報を『如月』の構成員に手写しさせている私専用の紙の地図が何枚も転がっているのだけれど、今日に限って持ってくるのを忘れたのは不覚と言ってよかった。
 地図が無いと瞬間移動も使い辛い。知らない場所に飛ぶというのはリスクも伴うのだ。気が付いたら、かべのなかにいる!では格好が付かない。

 ともあれ、今しがた見かけた人物がまたどこかにでかけてしまわないうちにお邪魔して、このあたりの行政特区一帯の情報を手に入れない事には身動きが取り辛い。何せ、さっき捲いたサムライに仲間がいないとも限らない。出来る事なら瞬間移動でぱっぱと逃げ出したかった。

 そうと決まれば善は急げと行きたいところだが、男女が――しかも片方は半裸で――連れだって住居と思しき建物に入っていったのだから、する事は決まっている。
 流石の私もその辺りの分別は持っているつもりである。有史以来続く男女の営みを妨害するつもりはさらさらない。
 ひとまず対象の二人組が入ったと思しき部屋の前に陣取って出てくるのを待つこととした私は、内部から痴話喧嘩のようなやり取りの断片が漏れ聞こえるのを聞かなかった事にしつつ、出てきた相手にどのように接するのが良いか考えることとした。

 ここは功刀行政特区である。であれば、今しがたの二人も例のサムライとかニンジャの類であるかもしれない。
 そうなれば、高圧的に出るなどした結果、下手に相手の神経を逆撫でして不味い事になるのは避けた方がいいだろう。強者と戦っていい事なんて一つもない。やはりここは、無害な少女が迷ったということで助けを求めるのが一番か。なにもウソついてないし。
 そう決めた私は、第一声は「地図……見せていただけませんか」でいいだろうかなどと考えつつ、壁に寄り掛かって大事な日誌を抱きながら蹲る。どうせする事してからじゃないと出てこないだろうし、それならば相応に時間がかかるだろうと思って少し微睡む事にした。


[No.91] 2011/04/30(Sat) 22:45:17
微睡みを壊すもの (No.91への返信 / 13階層) - 上山小雪

 「うーん……実際に自分で体験したことだけど、未だに実感がわかないよ……」

 その日、上山小雪はブシドー租界へを足を運んでいた。部活で使う新しいサッカーシューズを見繕うためだ。
 アームズストリートでもシューズは手に入るが、小雪の愛用するメーカーの物はブシドー租界にしか置いていない。スポーツ用品に関わらず、ここには職人が拘った逸品が多い。

 「しかし、全て現実です。電魎と呼ばれる電子的存在と霊的存在の複合存在。人に仇なす電魎を止めることができるのは」

 「キュアセイヴァーズだけだっピ! だから、二人で力を合わせて戦うっピよ!」

 小雪の隣を歩いていた少女――黒須京が口を開き、さらにその傍らを浮遊していたファンシーなぬいぐるみが次いだ。

 「正確には、電子的攻撃と霊的攻撃を同時に行うことが可能なら撃退は可能です。」

 「それが出来るのが、私たち、ってことなのね……」

 淡々とした京の様子と対照的に、小雪の表情は暗い。偶然暴れる化け物と戦う少女という場面に出くわし、偶然目の前に吹き飛ばされた少女を助けようとしたら、いつの間にか自身が変身して少女とともに化け物と戦う羽目になったのだ。おまけに……

 「キュアセルフォンには小雪のデータが登録されたから、キュアスノーには小雪しか変身できないっピ!」

 だそうである。数日前までは平凡なサッカー少女であった小雪には、いささか唐突で受け止めがたい現実ではないか。

 「確かに、何があってもおかしくない世の中だけどさぁ……」

 「……。巻き込んでしまったことは申し訳ありません。しかし、あの場では貴女に協力してもらうしか選択肢はありませんでした。それに……」

 「それに?」

 京が口を開こうとした瞬間、爆音が響いた。





 「地図見せてっ! ……じゃない! な、何……?」

 突然轟いた爆発音と衝撃に、イライザ・F・霧積は無事現世へと帰還を果たした。

 音のした先を見れば、テレビや冷蔵庫などの廃品を無理やり寄せ集め強引に人型にくっつけたような、異形の物体が暴れている。

 状況がよく飲み込めないまま息を潜めて様子を伺っていると、異形の前にイライザより少し年下に見える少女が二人立ちふさがる。


 『キュアセイヴァーズ・トランスフォーム!』

 二人は光に包まれたかと思うと、ドレスのような服を纏い異形に戦いを仕掛けた。
 その跳躍力、膂力は常人のそれをはるかに凌ぐ。


 「ええと……この場合どうすればいいのかな?」

 イライザの声は、再び巻き起こった爆音に消えた。


[No.92] 2011/04/30(Sat) 22:46:19
セレクト・ルート・サイド (No.92への返信 / 14階層) - 雉鳴・舞子

 今度困った顔を見せたのは、意外な事に三男である所のサンだけであった。
 その事にロングイヤーは気付かなかったが、イーとアルはサンの心の動きに気付き、やれやれと内心ため息を吐いた。
 この弟は、聊か人が良すぎると思っているのだ。

「しかしMr.ロングイヤー、貴方の言い分も判りますが、イエロー……」
「サン、Mr.ロングイヤーは高飛びをお望みだ」
「我等はそれを拒む事は無い」
「しかし……」

 これにはロングイヤーも気付いた、コイツ等は何か意見を違えているのだ。
 しかしロングイヤーにとっては逃げる事が最優先事項、この際コイツ等の仲違い等関係無い。

「そうだよ!、俺は逃げたいんだ!、逃がしてくれるんだろ!?」
「…………」
「えぇ」
「勿論」

 やはりサンだけが黙った。
 彼等が利用している情報屋は何もロングイヤーだけでは無い、他の情報屋から「DOGS」と呼ばれるテロ屋が雇われているという情報を手に入れて居たのだ。
 この情報の“真偽は定かでは無い”のだが、彼等の潜入工作や爆発テロの腕前は超一流だ、油断する事は出来ない。

 確かに上海を脱出させる事は出来る、彼等の主であるArの影響力が強く行き届いている上海ならば、あるいは「DOGS」を牽制する事も出来るかもしれないが、その上海を脱出してから……ロングイヤーの安全を、サンは保障できない。
 当然、サンにとっても彼は護衛を配置する程の存在では無い、護る理由は無いのだが、少なくともこの上海に居る内は主であるArの意向により彼の生命を保護する事も出来るのだ、だが、彼はそれを望んで居ない。

「それでは、空港は利用出来ないので、此方の用意した高速機をご利用下さい」
「我々の組織が所有する機体です、安全に、快適に、貴方を逃がす事を約束します」

 やはりイーとアルだけが言葉を続け、ロングイヤーはその言葉に安心したように頷いた。

「お、俺を口封じしようとは……」
「Ar様はそのような無粋は致しません」
「快適な空の旅をお楽しみ戴けますよ、Mr.ロングイヤー」

 「さぁ、行きましょう」と、ロングイヤーを連れて行くイーとアルに少し遅れて、サンも彼等と同じ判断を下した。
 当人であるロングイヤーが望む以上仕方ない、後は「DOGS」が雇われているという情報がガセである事、ロングイヤーがせめて無事に逃げられる事を祈るしかない。

「貴方の旅の無事を祈ります、Mr.ロングイヤー」

 誰に聞かれる事も無く、小さな声でサンは呟いた。


[No.93] 2011/04/30(Sat) 22:46:47
魔術少女の一存 (No.93への返信 / 15階層) - イライザ・F・霧積

 私の安らかな睡眠は、暴力的な爆音によって妨げられた。
 咄嗟に発した自身の言葉で、そういえば私は地図を探していたのだと思い出すが、どう考えても地図が手に入りそうな展開ではない。
 何せ、眼前では電化製品を寄せ集めた即席のガラクタメカのようなものが暴れているのだ。
 それに対峙するは見知らぬ少女が二人。何やら掛け声と思しき一声と共に無暗に派手派手しいドレスのような衣装を身にまとったかと思うと、およそ少女らしからぬ跳躍力と加速力でもって謎のガラクタに挑みかかっていく。
 
「ええと……」

 二度目の爆音と共に私の呟きはかき消される。最初の爆発はあのガラクタの攻撃によるもののようだったが、今度はガラクタの腕が破壊されたことによる爆発のようであった。
 片腕をもがれたガラクタは、もともと悪かったバランスを更に崩してそれでも尚暴れ続けている。
 ただどうも眼前のガラクタは無差別に暴れているようで、私が狙われているわけではないらしい。さしあたっては目の前で抵抗してくるあの二人組の少女が邪魔なのだろう。狙いはそちらのようだ。
 
「そんじゃあまあ……ちょっと失礼して」

 正直関わりあいになるとまた面倒が増えそうだったし、何の特にもならなさそうだったが、あの二人組の力には興味があったのでしばし遠間から観察をすることにした私は、ひとまず手近な建物の屋上へ飛んだ。

「魔術の類……ではないよね?」

 寝ている間も抱えていた日誌に、見たところ感じたところを記していく。
 速記などこの電脳便利世界である上海では廃れて久しい技術であろうけれど、なかなかどうして役に立つものなのだ。
 一種記号のようなものなので読める人間が少ないし、何より魔術の行使にとって文字というのはやはり手書きが一番である。と思っている。

 それはともかく、あの少女二人組は自身の数倍もの体格を持つ相手に善戦しているようであった。
 技量としては黒い装束を纏った少女の方が上だろうか。敵の攻撃を的確に回避し、あるいは捌きつつ冷静に立ち回っているようだ。反対に白の少女は少し心許ない印象を受ける。まだ戦いに慣れていないといった感じで、身体的な能力こそはあるもののそれを十分に使いこなせているとはいえない。
 こと体術に関して私は素人ではあるが、今まで上海で生きていればそのくらいはある程度判断できる。

「うーん……ってこっち?!」
 
 私があの二人組の能力に対して更に考察を進めようとした矢先に、二人組の隙を突いたガラクタが腕を振りかぶったかと思うとその一部を構成していた家電製品をこちらめがけて飛ばしてきた。咄嗟に私は懐から術符を取り出して上に翳し、少しの距離を跳ぶことで直撃を回避する。

「びっくりしたー……」

 安堵したのも束の間、続け様にこちらに向かって多種多様な家電製品が飛んでくる。完全に狙いを定められてしまったようだ。
 功刀行政特区がどれだけ壊れようが全くなんとも思わないが、正直これ以上コイツに暴れられて騒ぎになられては面倒と私の罪状が増えるだけである。さっきのサムライもいつ現れるか判ったもんじゃない。ついでに地図が無いから帰れない。
 直接的な荒事は好きではないがここはあの二人組に協力してさっさとガラクタを撃退してしまうのが吉と判断し、まさに戦闘が行われているその場に転移し、宣言する。

「我が名はイライザ・フランセス・霧積!協力してやるからさっさとそのガラクタを倒しなさい!」

様式美、というやつである。


[No.94] 2011/04/30(Sat) 22:48:14
Return failed 4 (No.94への返信 / 16階層) - 深選

『やめておいたほうがいい』

 俺はまずそれだけを口に出した。
 ドクは怪訝な顔をするが、俺が懐から愛用のバレッタ・レイヴンを抜いたのを見て慌てて両手を挙げた。

「お、おいおい、そういう手荒な真似は……!?」

『伏せろ』

 俺に撃たれるとでも思ったのだろうか。しかしドクはその一言で勘違いを悟り、速やかに受付の下に隠れる。

「え、え?……きゃっ!?」

 ただ一人、事情を掴みかねているマイコを掴んだ引きずり倒す。

 刹那、入り口から吹き込んだ爆風が、診療所内を蹂躙しつくした。



「ひでェザマだな、修理費は誰持ちだ?」

 スキャナの残骸を押しのけて、ドクが身を起こす。

『俺は知らん。壊した本人に聞け』

 遅れて、俺も倒れてきた壁を持ち上げて立ち上がった。
 押し倒された形になっていたマイコが、急なことで思考が追いつかないのか、目をしばたたかせている。

「い、いったい何が起きたの?」

『襲撃だ』

 俺はマイコに『そのまま寝ていろ』とだけ言い残して瓦礫に押し倒し直し、自分はレイヴンを手にしたまま受付の外に躍り出た。

「出たぞ!」

 男の声がした。
 サイバーアイの感度を低光量対応に調整、強化反射神経、人工筋肉を戦闘レベルにブートアップ。

『3人か』

 一瞬のうちに視界が夕暮れのようなぼんやりとした明かりに包まれ、診療所の入り口に3人の武装した人影を認識する。
 体格からして恐らく全員男、武装はSMG……突入する気は無さそうだ。入り口で待ち伏せる構えか。

『だが甘い』

 不用意にこちらを覗き込んでいる一人の脳天を既にスマートリンクが捕捉している。
 シングルショットで引き金を引くと、9mm弾が男の頭部を柘榴のように叩き割った。

『まず一人』

 もんどり打って倒れた仲間に動揺したのか、俺が入り口に踏み込むまで反撃はなかった。
 俺の姿を認めて慌てて銃口を向けてくるが、ブーステッドリフレックスを仕込んだ俺の反応速度からすれば欠伸が出るほどスローだ。
 一人の顔面を蹴り砕いて黙らせ、もう一人の銃を握った手首を撃ち抜いて戦闘力を奪うと、首根っこを引っ掴んで壁に叩きつけた。

「ぎっ!?」

『誰に頼まれた?』

 簡潔にそれだけを問う。
 男は一応、黙秘を試みたが、こちらとしても長々尋問する余裕はない。
 レイヴンの銃口をこめかみに押し付けてやると口の滑りが幾分良くなったらしく、くぐもった声で一つ答えた。

「きょ、きょうだん……」

『教団?』

 問い返した瞬間、俺は飛来物の気配を感じ、身を捻った。ほぼ同時に、バスケットボールほどもあるコンクリートの塊が尋問していた男の頭部を叩き潰し、「ぎぴ!」という悲鳴だけをひねり出して絶命する。
 飛来物の来た方向に視線を送り、俺は舌打ちした。

『クリッターか』

 廃品を無理矢理くっつけて人型にしたような巨人が暴れている。
 あの文明の臭いを感じない暴力性は、明らかに魔法の所作だ。俺たち、魔法に明るくないものはああいう手合いの半生物を総括してクリッターと呼んでいる。

『相手はしてられんな……』

 あれとやりあうには最低でもAMライフルか榴弾がいる。
 俺は身を低くして診療所の中へ戻った。

「深選!」

『逃げるぞ』

 顔を出したマイコの手を強引に掴んで裏口に向かう。
 ドクは特に引き止めず、シェルターらしき地下への跳ね上げ戸に手をかけていた。

「お前が持ち込んだトラブルだ、一つ貸しとくぞ」

『覚えておく』

 俺は診療所を飛び出すと、ブシドー租界のストリートを駆け出した。



『お前は狙われている』

 解っていることは少ないし、長々説明する暇も義理もない。
 だから、それだけ言っておいた。

「人様に命を狙われるようなことはしてないわよ!?」

 それはそうだろう。今日目覚めたばかりのコールドスリーパーに恩讐もしがらみもあるはずはない。
 思い当たるファクターは一つだ。

『ナノブレイカーだ。説明通りのシロモノなら、充分に兵器転用が利く』

 ナノマシン兵器は決して多くないが、軍の主力兵器レベルを機能不全にできれば十二分に脅威だ。
 狙っているのは企業軍か、ソーサリス・レイシスト(魔術差別団体)か、はたまた……。

『教団……か。さて、どこのどいつだ……?』

 あの男が漏らした言葉。
 “敵”の手掛かりは、それだけだ。

「私、どうしたら……」

『現状、お前は俺の物だ。換金が済むまでは護ってやる』

 マイコは酷く不満そうな顔をしたが、繋いだ手は、強く握り返した。


[No.95] 2011/04/30(Sat) 22:48:51
長耳の危機 (No.95への返信 / 17階層) - ロングイヤー

 ロングイヤーはヒィヒィと情けない声を上げながら路地から路地へと駆けていた。
 既に自分が何処を走っているのかもわからない。無論、確認すればすぐに判明するであろうがそんな時間があれば少しでも遠くへ逃げることを選択していた。

 あの3人とは襲撃があってからすぐに逸れた。
 あるいは自分が囮として見捨てられたのではと、ちらりと脳裏を過るが詮索する暇などありはしない。
 襲撃者はもちろんあの3人と比べても今のロングイヤーは足が遅い、少女型義体なんぞにするんじゃなかったと内心過去の自分を罵る。

「ヒクゥ!?」

 目の前の曲がり角から現れる、鋼鉄の人食い蜘蛛。ロングイヤーが内心惚れ惚れするような反応速度で残った左手で護身銃を抜いて相手に3発叩きこむ。
 が、甲高く空しい金属音を立てるだけで相手の装甲の僅かなへこみすら作ることは出来なかった。

 主に拠点防衛に用いられる軍用自立型機械兵器。
 目の前のキリングマシーンは多少型は古いが、戦闘用でもなんでもない少女型義体のロングイヤーを五十人殺してもお釣りがくるだろう。
 なによりもその殺人機械にマーキングされた、二つに割れた十字架が描かれた棺桶のマーク。
 つまるところカルト教団にしてテロ組織である「終焉の位階」のエンブレムが施されたその兵器、それを操る人物を情報屋であるロングイヤーは知っていた。

「ア、あぁああぁぁぁっ!!?」

 振り下ろされる死を呼ぶ鋼鉄の脚を無様に転がりながら避けて、すぐさま建物の陰に飛び込む。
 重苦しい音と共に吐き出された銃弾が壁が削り、流れ弾で近くにいた不運な浮浪者が断末魔を上げる間もなくミンチになった。
 その不運な男に0.1秒にも満たない時間で哀悼の意を示して、再び駆け出す。

「な、なんでぇだぁ!?」

 教団にこうも付け狙われるとはロングイヤーも想定外であった。
 既に計画を掴んだことがバレて、部屋を吹き飛ばれた最初の襲撃からかなり時間が経過している。
 普通は既に情報は流れておりロングイヤーを消したところで遅いと判断するだろう、事実ロングイヤーはベヘモスの巻き添えを恐れて高飛びを考えたのであって、こんな手段に出るとは思っていなかった。

 オマケに、ロングイヤーの知る限り教団でこの手の機械兵器を使うのは一人しかいない。
 悪趣味な企業人に面白半分で散々身体を弄られて飽きたからとスラムに捨てられ、そこを教祖グレーシスに拾われたという、教祖グレーシスの右腕にして狂信者!

「…………ぁ」

 路地の向こうに、襤褸切れのようなローブを羽織った、今のロングイヤーよりも尚小さい人影あった。
 ローブの向こうであっても尚、その肥大化した頭部がわかり、その人影が一歩ロングイヤーの方に踏み出せばその小柄なシルエットからは想像できない重い足音を響かせ、踏まれた鉄パイプはプレスに掛けられたかのように潰れて曲がる。

「……ぁ…あぁ………ああぁぁああぁぁぁぁあああああ!!!」

 ロングイヤーは、その人物を知っていた。
 直接目にしたことないし、ましてローブに隠れてその容貌を窺うことはできないが、それでもその特徴だけで判別は容易だった。


 一人の双子、キリングドール、教祖の右腕、終焉の位階狂信者、狂気の軍団………

「教祖様は、あなたを、神の御許、に、送ること、をお望みで、す。ねぇ、お兄様」
「えぇ、そして、ワタシタチが、私が、その役、を、受けたま、わり、ま、した。お姉様」

 そいつは壊れたテープのように途切れ途切れで、感情が見えない無機質な中世的な声で二度喋る。

 双子の脳を一つの身体に押し込めた狂気の産物。教団最高最悪のハッカーであり、最大50体もの殺人機械を操るという、そいつは確かこう呼ばれていたはず。

「…………デェリート」

 消えた双子、抹消された者、そして抹消する者。


[No.96] 2011/04/30(Sat) 22:49:46
その覚悟は (No.96への返信 / 18階層) - キュアスノー

「我が名はイライザ・フランセス・霧積!協力してやるからさっさとそのガラクタを倒しなさい!」


 目の前に突如出現した少女の台詞。一体どんな状況なのかと問いたかったけど、今の自分も端から見れば似たようなものなんだろう。
 改めて、キュアスノーは考える。電魎の攻撃を回避した上に、今の瞬間移動。どんな手品かは分からないが、何かの伊納を持つことは間違いなさそうだ。その少女が協力してくれるという。
 キュアエレクトロを見ると、頷いて

 「イライザさん、貴女が何者かは分かりませんしかし、協力していただけるのなら助かります。私は黒須京。この姿の時はキュアエレクトロといいます。」

 「あ、ええと、上山小雪です。この姿の時はキュアスノー……うわあ!?」

 会話の最中にも電魎は自らの一部を切り飛ばし、砲弾にして攻撃してくる。
 しかし、イライザの放った符がその軌道を逸らし、少女たちの傍の地面を穿つ。

 「す、すご〜……」

 「それで、私は何をすればいいの? 出来ればあんまり派手にならずに時間もかけたくないんだけど」

 「直接攻撃は私たちが行います。イライザさんには後方援護をお願いしたいのですが。」

 「引き受けたわ。今みたいな感じでよければ、ね」

 イライザさんとキュアエレクトロがいれば、私が何かしなくても……というキュアスノーの思いはあっさりと却下されてしまったようだ。二人が電魎を見据え構えるのを見て、あわてて自分もそれに倣う。

 《おおおおおおん!!!》

 再び電魎が廃品砲を放つ。生身の人間が喰らったらひとたまりもないであろう一撃だが

 「遅い……! っていうか遅くする!」

 イライザがすばやく放った符の効果が、砲弾の速度を急激に緩める。

 「スノー、行きますよ」
 「あ、う、うん!」

 間髪入れずに跳躍するエレクトロに追いすがる。
 二人はイライザの力で減速した砲弾を足場に、一気に電魎との距離をつめた。
 そのまま拳を振り上げ――

 《おおおおおおおおんんん!!!》

 「……ひっ!?」 

 電魎の雄たけびを聴いた瞬間、スノーの体が硬直する。もしも上手くいかずに攻撃を貰ったら、自分の体もあの穴が開いた地面のように……

 「スノー!?」

 珍しく焦ったようなエレクトロの声に、はっと前を見る。眼前には電魍の巨大な腕が迫って――




 とすっ



 死を覚悟した割りに、思ったよりもずっと軽い衝撃。……そして、まだ生きている。
 何故? その答えは単純だった。


 「エレクトロッ!!?」

 キュアスノーを庇い、電魎の一撃をまともに受けたキュアエレクトロは吹き飛ばされ、激突し、巻き起こる砂煙の中へと消えた。


[No.97] 2011/04/30(Sat) 22:50:31
パラサイト・ナノブレイカー (No.97への返信 / 19階層) - ドク

 ナノブレイカー。
 それが最初に発見されたのは、20年以上昔の事だ。

「本当にレア物だぜ、深選よぉ」

 地下シェルターは同時に、ドクの研究室でもあった。
 ドクは深選達と別れてから、ナノブレイカーに関する資料をデータバンクから“自らの”メモリスペースにダウンロードしていた。

 ナノブレイカーが始めて発見されたのは20年以上も昔の事だ、
 今よりもナノテク開発が盛んで、ナノテクに対する夢があった頃、限定的なナノマシンの利用による革新的な治療法が考案されたのだ。
 その治療法は概ね成功を収め、数多くの患者が回復を見せたのだが……1名、ナノマシンの投与による成果を全く受け付けない患者が居た。

 ナノブレイカーの共生者だったのだ。
 当時まだ発見されていなかったナノブレイカーは患者の体内に侵入したナノマシンを外敵と判断し、攻撃した。
 驚くべき事に、宿主に寄生して生きる生命体であるナノブレイカーは、究極的にはメカニズムであるナノマシンに影響し、対象をガン細胞化する事で完全無力化する事が出来たのだ。

「だが、それが原因でその患者は結局助からなかった」

 ドクは考える。
 舞子の病気は、今では治す事の出来る病気だ、だが“自然治癒はしない”、そして放置しておけば当然、死に至る。

「そいつぁ勿体無いぜ、深選よぉ。 せっかくのナノブレイカー、無駄にしないでくれよ……」

 ドクが懸念しているのは舞子の命では無い、舞子が死ぬ事で、ナノブレイカーも死ぬのだ。
 何処かでまた彼等に会う必要がある、ドクはそう思っていたし、そう願っていた。

 あんなレア物を研究出来る機会は、一生に一度有るか、無いかだ。

「死ぬなよ、シンデレラ……ありゃ」

 ここでドクは思い出した。
 コールドスリープの件を聞いて、何となしに“シンデレラ”というフレーズが浮かんでいたのだが……眠りについた姫の童話はもっと別のタイトルだった筈だ。
 何というタイトルだったか、それをドクはどうにも思い出せなかったし、そもそもそんな事にドクは大した興味も無かったのだ。

 彼の関心は唯一つ、自分が作ったべへモスを、ナノブレイカーが果たして浄化出来るのか、否か。


[No.98] 2011/04/30(Sat) 22:51:42
グッバイ・ロング・イヤー (No.98への返信 / 20階層) - 咲凪

「本当に良かったんだろうか」

 サンは2度、同じ事を言っていた。

「くどいぞ、サン」
「彼はもう、我々とは関係ない」

 二人の兄、イーとアルは既に割り切っている。
 “ロングイヤーを助けない”という判断を下したのもこの二人だ、そして、サンがこれから3度続ける台詞の一度目を言ったのもその時だったが……サンは結局、この二人の兄に逆らう事はしなかった。

「我々はAr様のメッセンジャーだ」
「余計な仕事はしない」
「……余計な考えも持つなと言うのか?」

「「そうだ」」

 3人は既にアームズストリートを出ている、より確実なルートでArに手にした情報を届ける為だ。
 そしてその仕事はイーが執り行う事になった。
 アルは老街を中心に“教団”の調査、サンはブシドー租界に居るという例の闇医者を調べる事が既に決定されていた。
 調査と行っても現地視察程度の事、下見の段階でその街に詳しい情報屋かマフィアを見つけ出し、後はそれを利用する……彼等の、いつもの手段だ。
 アルが老街に向かうのも、テロ組織の事ならば老街のマフィアの情報網を侮れないと思っているからだ。

「アル、サン」
「なんです、兄さん」
「なんです、兄さん」

 ブシドー租界に向かう路地に分かれる途中、イーが二人の弟に語りかけた。

「我等の仕事は地味だ、だがAr様の統治する未来の為には、決して欠かせない仕事だと思っている」
「はい、私もです」
「私も同じです、兄さん」

 そこでイーはサンを見た、イーは長兄として純粋に、甘すぎる所のあるこの弟を心配していたのだ。

「サン、我等は我等の務めを果たす為、時としてMr.ロングイヤーのような存在を使い捨てなければいけない」
「そんな、ですが兄さん……」
「サン、自分の拘りは捨てるんだ」

 アルは穏かにサンの肩に手を置く、生まれた日は同じでも、彼にとってはまだ末弟のサンは我侭な子供に思えるのだ。

「我々は自己を捨てて、ただAr様の手足として働く」
「その先にこそ、人々の輝ける未来があるんだ」
「……Ar様の……為に……」
「そうだ」
「そうだとも」

「「「我等は、ただ、Ar様の為に」」」」



 誓いも新たにしたサンだったが、目下の所は自己の命を護る為にただ走るしかなかった。

「う、わ、あぁぁっ!?」

 彼とて、電魎……クリッターとも言う、それを見た事は初めてでは無い。
 だが、たまたま向かっていた先に、たまたまその被害が炸裂していたのだから堪らない。
 貧乏くじを引いてしまった事を噛み締めながら、サンはもはや情報収集どころでは無く、夜の闇をひたすら逃げ走る……。


[No.99] 2011/04/30(Sat) 22:52:16
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