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No.115へ返信

all 第0回リトバス草SS大会(仮) - ひみつ - 2007/12/25(Tue) 23:04:22 [No.110]
夢、過ぎ去ったあとに - ひみつ 心弱い子 - 2007/12/29(Sat) 02:36:29 [No.119]
夢想歌 - ひ み つ - 2007/12/28(Fri) 22:00:03 [No.117]
前夜 - ひみつ - 2007/12/28(Fri) 21:59:21 [No.116]
夢のデート - ひみつ - 2007/12/28(Fri) 21:57:46 [No.115]
悪夢への招待状 - ひみつ - 2007/12/28(Fri) 21:52:10 [No.114]
思わせぶりな話 - ひみつ - 2007/12/28(Fri) 20:51:04 [No.113]
一応チャットでは名乗ったのですが - 神海心一 - 2007/12/30(Sun) 18:39:38 [No.121]
変態恭介 - ひみつ - 2007/12/28(Fri) 19:13:52 [No.112]
もしも恭介がどこに出しても恥ずかしくない漢(ヲタク... - ひみつ - 2007/12/28(Fri) 00:44:32 [No.111]
感想会ログとか - 主催っぽい - 2007/12/30(Sun) 01:14:54 [No.120]


夢のデート (No.110 への返信) - ひみつ

 これはいつも通り何だよね。西園さんと二人並んで歩く……ちょっとまだこの言い方をするのは恥ずかしいけれどデートする。それはもう珍しくないはずなのにどこか違うような気がする。本屋へ行って新刊本を選んで嬉々としているのも、その後ごはんを食べに行き、意外と子供っぽい味覚なのに意地を張ってちょっと辛いものを注文するのも、いつも通りの西園さんのはずなのにどうして素直に楽しめないのだろうか。
「どうしましたか直枝さん」
 穏やかな口調。柔らかい物腰。誰がどう考えたって西園さんだ。でもそれだったらどうして悲しい気分になるのだろう。目の前にいるはずの人がなぜか誰よりも遠くにいるような気がする。そんなありえない体験のはずなのにいつかどこかで体験したような気がする。一体どこで……ああ、そうだ。思い出した。こんな不思議な体験をどこでしたのか。そしてその体験をした時に誰がいたのか。
「ごめんなさい。約束を破って」
「直枝さん? 何の話ですか?」
「もうそんな風に喋らなくていいよ。忘れててごめんね……美鳥」
 その一言に目の前の少女はさびしく笑った気がする。少しずつ今まで普通だったファーストフード店の景色がグニャリと溶けていった。



「もうつまんないな、理樹君たら。せっかくデート楽しんでいたんだから最後まで気付かなければいいのに」
 美鳥のその言葉は本心なのだろうか。憶えているというたった一つだけ……けれど何よりも大切な約束を忘れていたのに本当にデートを楽しんでいたというのだろうか。文句を言われても嫌われてもおかしくないはずなのにどうしてそんな笑顔でいられるのだろう。無理して笑っていないのだろうか。そして僕はどうなんだろう。忘れたいたことの心苦しさもあるけれど、それと同時に美鳥に会えた嬉しさもある。現実には会えない美鳥に。現実には会えない人に会えるってことは……
「美鳥、ここは夢の中なのかな」
 夢の中ではっきり自分が今夢の中にいると自覚する。珍しい体験だと思うけど、そういうことが時々あるということは聞いたことがある。今の僕の状況はそんな状況が一番合ってると思う。
「そんなこと言われてもね。もしこれが理樹君の夢だったとしたら、夢の登場人物に聞いてもちゃんと答えてくれないのじゃないかな。だって全てを決めるのは理樹君だし」
「いまいちわからないのだけど」
「だからこれが本当に理樹君の夢だとして、それであたしがこれは現実ですって答えたら、それはきっと理樹君が現実であってほしいって願っているから。ねえ、理樹君は今何を考えているのかな」
 美鳥は僕の質問に明確な答えを与えてくれなかった。それは本当に美鳥がそう思っているからなのだろうか。それとも明確な答えを与えてくれないことの方が僕にとって都合がいいと僕が考えているからなのだろうか。
「じゃあ、今度はあたしから質問。現実って何?」
「僕にとっての現実はリトルバスターズのみんながいて、恭介が何かを思いついてそれで多少戸惑いながらも楽しく過ごしていくことだよ」
「本当に楽しそうだよね。でもね、それは本当に現実なのかな。ひょっとしたら理樹君の考える現実は実は理樹君が見ている夢で、あたしと一緒にいる今だけが現実ってことはないかな」
「そんなことはない! みんなとのかけがえのない時間が作りものってことはそれだけはない」
 思わず怒鳴ってしまった。リトルバスターズが存在しないなんて言われることは僕にとっては何よりも許せないことだけど、それでも女の子にこんなきつい言い方をしたことはちょっと後悔してしまう。けど美鳥はまるで何もなかったかのように余裕の表情をしている。
「ねえ、理樹君、次の質問いいかな。あたしは今理樹君を怒らせるようなことを言ったのかな。それとも理樹君が夢の中であたしに自分を怒らせるようなことを言わせたのかな」
 背筋が凍りついたように寒くなった。一つ疑問に答えてもそれはまた新たな疑問を生むきっかけになってしまう。永遠に抜け出すことができたい底なし沼に落ち込んだような気がする。ここは夢なのか現実なのか。それとも夢でもなく現実でもなく、同時に夢であり現実でもあるあの不思議な世界にまた迷い込んだのだろうか。
「理樹君、そんな怖い顔しない。考え過ぎなんだって。もっと単純に考えればいいのに」
「単純にってどんな風に」
「こんな美少女がいるのだからウハウハヤッホーって」
「……僕はそんなキャラじゃないけど」
「ええーっ、よくその口でそんなこと言えるわね。あたしの体をさんざんなめたりしたそのく・ち・で」
 一音ずつ強調するように美鳥はそう言った。その言葉に僕は頭を深々と下げることしかできなかった。



 ようやく少し落ち着いてきた。ここが夢なのかどうか気にするよりも、美鳥が言うように単純に会えてうれしいと考えた方がいいのかもしれない。それでも最初にわいた疑問について尋ねずにはいられなかった。
「怒らないんだね。僕はあれからずっと忘れていたのに」
「許さない……あたしのことを忘れて他の女と付き合うなんて! 理樹君なんて死んじゃえ、グサリ……こういう風な展開の方が理樹君よかったの。ちょっとそれ趣味悪いよ」
 美鳥の鬼気迫る表情とは苦心の演技に思わずのけぞってしまった。そう言えば西園さんも芝居がうまいし、やっぱり重ならないようで重なっているのかな。
「仕方ないよ。あたしは人の夢の中でしかいられないような存在なんだし。すぐに消えちゃうようなあやふやな存在……人の夢と書いて儚い。誰なんだろうね。こんな寂しいこと考えた人って」
 どうして美鳥はこんなに笑顔でいられるのだろうか。あの時の美鳥だってそうだ。あの時は僕は西園さんが戻ってくることだけを考えて美鳥の顔がただ癇に障るものだと感じていた。でもあの時だって美鳥は今同様自分が必ず消える存在だってわかっていたはずなのに。西園さんのために、僕のために自分の寂しさとかは決して表さなかった。
「ねえ、理樹君。さっきから夢の話をしているけれどあたしはどうせだったらもう一つの夢の話をしたいな。すぐに消えてしまう方の夢ではなくて、いつか現実になるかもしれない方の夢の話を」
「美鳥にも夢ってあるんだ」
「そりゃあ、あたしだっていろいろと考えているよ……理樹君の周りには素敵な子が何人もいるけれどそれでも理樹君は美魚のことを選ぼうとする。美魚はそれを見て戸惑ってしまうけれど理樹君はそれをやや強引に抱きしめて唇を奪ってしまう」
 今の関係があまりに楽しいから僕は多分逃げているのだろう。みんなから少なからず好意を寄せられているのは正直うれしく思う。だからこそ僕は一人を選ぶことから決して逃げたりしてはいけないのに。当然かもしれないけれど美鳥は僕が西園さんを選ぶことを望んでいるんだね。
「そんな理樹君に美魚はもうメロメロ。みんなに祝福されながら理樹君と結ばれる。そしてしばらく経ったある日美魚は自分の中にもう一つの命が宿っていることに気付く。美魚の中で育ったその命はやがて二人が結ばれた日以上の祝福の中この世に出てくる。二人とも予想はしていたけれどその子の顔を見てそれが現実になったことを知る。美魚そっくりのかわいい顔を見て、別に示し合わせてなかったのに声を重ねてその子の名前を呼ぶ。美鳥って」
「僕と西園さんの子供に生まれ変わりたいんだ」
「どうなのかな。そもそも最初から生まれていないあたしに生まれ変わりって言葉が使えるのかな」
「でも美鳥はここにいるよ」
「……続けるね。優しい両親や楽しい両親の友人に育てられたその子はすくすくと育っていく。そんな美鳥の一番大好きな人はパパ。あまりにパパベッタリで、パパも甘いからその様子に思わずママはやきもちを焼いてしまう」
「そんなこと絶対しないと思うけど」
「理樹君てほんと女心がわからないな。女の子は一番身近な女の子でも好きな男が絡むとその瞬間ライバルになるのに」
 それはそれで間違った女の子像だと思うけど。でもそんなちょっと騒々しいだろう日々はとても楽しそうに思えてくる。その子は美鳥ではないし、美鳥の代わりにしてもいけないと思うけれど、それでも西園さんと美鳥、二人が一緒にいられるのはきっと幸せだと思う。
「やがて美しく成長した美鳥には次々と告白が舞い込むけれど、それらをすべて断ってしまう。なぜなら美鳥にはずっと想い続けている人がいるから。美鳥には父親以外の男性を愛する気にはなれなかった」
 ちょっと、流石にそれは。
「そんなある日ついに美鳥は一糸纏わぬ姿で父親に言う。『ねえ、パパ。私はパパのことを男性として愛してる。お願い私を抱いて』出会った頃の妻のような美しさと若さを兼ねそろえた娘に父親は思わず……」
「ちょっと待ってぇぇぇっ!」
「何よ理樹君、いきなり大声出して」
「それって父親僕ということになっていたよね」
「そうだけど」
「僕は娘とそんなことしないよ」
「えええーっ」
「えええーっじゃないって」
 途中まではわりといい話かもと思っていたのに。別に美鳥のためにするわけじゃないけれど、西園さんを選ぶべきじゃないかと思えてきたのに、そんな気持ちが一瞬で吹き飛んでしまった。
「どうしてそんなオチを付けるかな」
「オチってむしろここからが盛り上がるところなのに」
「盛り上げなくていいから」
「もう理樹君たら……ほんとあたしにつっこむの好きなんだから」
「それはどういう意味でのつっこみ」
「たぶん理樹君が今考えている意味」
 うん、そうだね。たしかに僕は西園さんのことを忘れて美鳥と……その色々としちゃったよね。さっき美鳥は生まれ変わりがあるかないかわからないみたいなこと言ってたけれど、もし生まれ変わりがあるとしたらどうしよう。一度は引っかかった……いやその言い方は悪いな。あれは僕の迷いが一番悪かったんだし。迷った末美鳥を選んでしまった。現実とあの世界を一緒に扱ってはいけないかもしれないけれど、やっぱり一度あんなことしたから現実では大丈夫だと言える自信をなくしてしまう。



「やっぱり美鳥は僕が西園さんを選ばなかったら嫌かな」
「うん、別に」
「あの無理してそんなこと言わなくても」
「いや、本当に大丈夫だけど。あの夢は2番目だから」
「そうなんだ。じゃあ一番は」
 一瞬美鳥の唇が動いたけれど言葉は発することはなく、その代りに僕の首筋に抱きつかれた。
「ちょっと美鳥」
「ねえ、理樹君。このまま一生目を覚まさないでくれる。女の子ってやっぱり好きな男の子とずっと一緒にいられるのが一番の夢だと思う」
 髪の毛が邪魔をして美鳥の表情がわからない。こんな密着するほど近くにいるのに少しも様子がわからない。いつもと同じような表情をしているのか、それとも今まで決して見せなかった寂しそうな表情をしているのか。それでも僕は美鳥にさらに苦しい思いをさせないといけない。僕の居場所はここではないんだ。
「……ごめん」
「……そう……お願い、あたしがいいっていうまで目をつぶってくれる」
 わずかな嗚咽が聞こえる。想像すらできなかった美鳥の泣き顔がすぐそばにはあるんだろう。でもその顔を見るわけにはいかない。美鳥は自分の気持ちを押し殺しても僕につらい表情を見せなかった。だから僕は何があってもみてはいけないんだと思う。
「……もういいよ。それじゃそろそろお別れかな。もう目を覚ましても」
「待って、ねえ、今からそのデ、デートしない」
「ちょっと理樹くーん。今振ったばかりの女を普通デートに誘う。いくらなんでも節操無いよ」
「ご、ごめん。でも、最初のデートは美鳥とのデートじゃなかったから。だからもう一度最初からやり直したいんだ」
「はあ……やっぱり恋愛って頭で理解しても全然ダメね。どんだけ恋愛の駆け引き知ってても、理樹君みたいな女の子とっかえひっかえの本物の外道には何の役にも立たないんだから。ああ、初めて好きになった男の子がそんな人だったなんて。あたしはなんて不幸な少女何だろう」
「お、女の子とっかえひっかえってひどいよ」
「そうだった。理樹君の場合は男の子もだっけ」
「もっとひどいよ」
 すっかりいつもの余裕がある表情と口調に戻っている。これが本当の姿なのかはわからないけれど、どこか笑顔でいてほしいと願っている。どうかこの笑顔が自分を偽っていない笑顔でありますように。
「それじゃあ哀れな子羊らしく悪い狼さんに食べられましょう」
「しないってそんなこと」
 見ると歪んだ景色が形を取り戻している。いつの間にかいつもの町並みができていた。ここは初めに見かけた場所か。ここから二人始めていきたいんだね。僕にどれだけのことができるかはわからないけれどできるだけがんばって本当の笑顔にしたい。
「何からしようか」
「基本は映画かな」
「わかった」
 本当の街にはこのあたりには映画館はなかったはずなのに、なぜか小さな映画館ができていた。そこで上映されているのは昔見たアクション映画。やっぱりここは僕の記憶をもとに構成されているのだろうか。



「そろそろおしまいかな」
 どれだけの時間が流れているのだろうか。よくわからない。これが夢の中なのかそれともあの世界なのか。現実にはほんのわずかの時間なのだろうか。美鳥が望む全てをこの時間でかなえられたのだろうか。
「また、会えるかな」
「どうだろう、理樹君のがんばり次第かな。会えただけどうれしく思ったけれど、なんだか一つ願いがかなうとどんどん欲張りになっちゃったかも」
「憶えておくって約束忘れたから信じてもらえないかもけれど、必ずまた会いに来るから」
「期待しないで待っておくから。じゃあ、最後の締めにキスしようと思ってたけれどそれは次回にお預けね」
「うん」
 ようやく本当の笑顔をみられた気がする。誰かのための笑顔ではなくすべて美鳥自身のための笑顔に。そんな笑顔を僕が生み出すことができたのなら少し誇らしい。
「それとあたしだけじゃなくて美魚も大事にしてね。美魚ったらあれだけ強力なライバルが何人もいて何遠慮してるのかしら」
「でもそう言うのも西園さんらしいけど」
「甘いって。美魚ったら口先ばっかりで行動に移せないんだから。あんなんじゃ一度理樹君ゲットしても簡単に盗られちゃうのに」
「盗られるって、もし僕と西園さんの子供に生まれ変わっても、さっき言ったように僕を盗ろうとかそんなこと考えちゃダメだからね」
「あっひどい。理樹君たら。あたしがそういう人間に見えるわけ」
「だってさっきそんなこと言ってたじゃない」
「もうだからさっきつっこむのが早すぎたんだって。あたしが考えてるのはあの後紆余曲折会った末にみんなで和解し最後は親子3人で3ピ」
「だめえぇぇぇー!」
 もう既に手遅れかもしれないけれどそれども叫んで言葉を遮らずにはいられなかった。西園さんと美鳥が二人一緒にいられるのは幸せなことだと思う。それでもこんなこと考える娘なんか絶対欲しくないよ。
「ところで最初に今のあたしが言うことはすべて理樹君が望んでいることかもしれないって言ったよね。じゃああたしが今言ったようなこと理樹君は望んでいるのかな」
「ちょっと」
「またね」
 お願い、最後の言葉を取り消してよ。今の一言で自分がものすごく信じられなくなってしまった。ああ、美鳥と話した全てをすぐに忘れ去ってしまいたい……





「……」
 光が飛び込んでくる。何か夢を見ていたような気がするけど思い出せない。変だけどとても大事な夢だったような気がするけど、どんなのだったろう。
「大丈夫か、理樹。随分眠り込んでたけど」
「うん、ちょっと夢見てただけだから」
「へぇどんなだ」
「おぼろげなイメージしか残っていないけど、全体的には少し悲しい夢なのにそんな印象が薄れるほどわずかな変な部分の方がはるかに残るようなそんな夢」
「……なあ、理樹。俺はやっぱり馬鹿なのか。お前の説明聞いても全然どんな夢だか想像できねえんだが」
「ごめん、僕も自分で言っていて本当にそんな夢があるのか疑問がわいてきた」
「まあ、そんな変な夢見たことはとっと忘れちまった方がいいぞ」
「いや」
 真人が心配してくれているのはわかる。でもたしかにところどころ変で悲しい部分もあったと思うけれど、どこか忘れたくないという気持ちがわいてくる。きっと悲しいけれどそれでも見たい夢、見なければいけない夢だったのだと思う。
「憶えておくよ。また見ることができるから憶えておくよ」
 なんとなく夢の中で誰か会った気がする。そのおぼろげにしか残っていない人に会うことを僕は固く誓った。


[No.115] 2007/12/28(Fri) 21:57:46

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