第4回リトバス草SS大会(仮) - 主催 - 2008/02/20(Wed) 22:28:34 [No.166] |
└ ダイブ - ひみつ@遅刻 - 2008/02/23(Sat) 23:17:44 [No.178] |
└ 小鳥と子犬の恋愛模様 - ひみつ - 2008/02/23(Sat) 22:11:45 [No.175] |
└ Step forward - ひみつ - 2008/02/23(Sat) 22:11:29 [No.174] |
└ 散歩の途中 - ひみつ - 2008/02/23(Sat) 22:03:14 [No.173] |
└ 2008年5月11日 - ひみつ - 2008/02/23(Sat) 20:40:16 [No.172] |
└ 2月のクリスマス - ひ・み・つ - 2008/02/23(Sat) 18:31:36 [No.171] |
└ 真夜中の内緒話 - ひみつ ちょっぴり優しくして - 2008/02/23(Sat) 17:46:56 [No.170] |
└ 時をかけちゃった少女 - ひみつ - 2008/02/21(Thu) 02:58:00 [No.168] |
└ 感想会ログとか次回とか - 主催 - 2008/02/24(Sun) 23:06:52 [No.180] |
女子寮内、クドと佳奈多の部屋。 今日はここで親交を深めるため、と称し、リトルバスターズメンバーの女性陣が集まっていた。 全員が風呂に入った後パジャマへと着替え、雑談に興じていたところで寮長に注意され、消灯して現在に至る。 当然と言うべきかクドと佳奈多は自分のベッドに入り(ドア側から見て手前がクド、奥は佳奈多。ベッドの隙間は詰めている)、若干狭苦しいが床で他の五人が横になっている。クドの隣は美魚、佳奈多の隣には葉留佳が陣取り、彼女達四人と向かい合うようにして、玄関の方から唯湖、小毬、鈴の順に並んだ形。普段は壁側に枕を置いているベッド組も、本日ばかりは逆向きで寝転がっていた。 「……行っちゃいましたかネ」 「うむ、足音も大分遠ざかった。もう平気だろう」 葉留佳の呟きに唯湖が頷き、張り詰めていた室内の空気が少し緩む。 そのやりとりを聞いた佳奈多は、両腕を枕の上で組み、そこに顎を乗せながら呆れ混じりの声を放った。 「何を考えてるのか知らないけど、騒がしくするのは止めなさいよ。特に葉留佳」 「ええー、何で私だけー!?」 「ほら、早速声が大きい。もっとトーンを落としなさい。……起きていることは大目に見るから」 「ありゃ、珍しい。お姉ちゃんなら絶対さっさと寝なさいとか言うと思ってたのに」 「佳奈多君も混ざりたかったんだろう。監視の名目でわざわざ私達に付き合っているくらいだしな」 「な……っ、来ヶ谷さん、出鱈目を言わないでください!」 「……声が大きいですよ、二木さん」 唯湖に揶揄され、感情的に反論したところで、クドに隠れ姿の見えない美魚から指摘を受ける。 先ほど自分が同じ注意を葉留佳にしたこともあり、佳奈多は羞恥でさっと頬を赤らめた。続く言葉を探すが、結局口を噤んでしまう。そんな様子を前に、今まで喋らずにいたクドが楽しそうな笑みを浮かべる。 「わふー、皆さんとこういう風におはなしするのは初めてなので、わくわくします」 「そういえば、わたし達だけで集まるなんてことはなかったですね」 「いつもきょーすけたちがいたからな」 美魚が同調し、鈴もそう言って、ふぁ、と小さな欠伸を一つ。 横では小毬が早くもうとうとしていたので、おもむろに唯湖は隣の布団へと潜り込んだ。 「ほわあぁっ!? ゆゆゆいちゃん、な、なにするのー!?」 「む、起きてしまったか。おねーさんとしてはもう少し寝ていてくれても構わなかったのだが」 「でで、でもっ、いきなりあんなところに手を入れないでよ〜」 「静かにしなさい」 「静かにしてください」 「あう……」 素っ頓狂な悲鳴を上げ、全く懲りない唯湖に必死の抵抗を試みるも、佳奈多と美魚の両名に窘められて鎮静化した。 「打ち合わせもしてないのに、何だか漫才みたいですネ」 「こまりちゃん、今のはなかなかおもしろかった」 「なるほど、これがじゃぱにーずこんとなのですねっ」 「え? えーとぉ……ありがとうございます?」 「……ちょっと頭痛くなってきたわ」 「はっはっは、キミはまずこの会話のペースに慣れるべきだな。……さて」 と、ここで進行役の唯湖が話を区切る。 一旦周囲を見渡し、それぞれが起きているのを確認して、 「では始めようか。男子禁制、女同士の内緒話というものを」 真夜中の内緒話 「時に葉留佳君、修学旅行の夜にありがちなこの状況だが、キミならまずはどんなことを話すかね?」 「ここはいっちょ怪談の一つでも始めて、キャーとかウヒョーとか小声で叫ぶのがいいんじゃないっスか?」 「わふ……。怖い話は苦手なのです……」 「大丈夫だ、眠れなくなったら私がクドリャフカ君に添い寝をしてあげよう」 「却下です。来ヶ谷さんにそんなことをさせたら、クドリャフカの貞操が危険に晒されますから」 「ほう……さしずめ佳奈多君は能美女史の騎士ナイトといったところか」 「っ! ……別に、そんなつもりはありません。保護者として見過ごせないだけです」 「わふ!? 私、佳奈多さんの子供ですか!?」 「じゃあ誰がクーちゃんのおとうさんなのかな?」 ふとこぼれた何気ない小毬のひとことで、一瞬空気が凍った。 「お姉ちゃん、まさか……!」 「ちょっと葉留佳、まさかって何よまさかって! 言葉の綾に決まってるでしょう!? だいたい保護者だからって血縁関係だとは限らないし、父親が必ずいるっていうのは短絡的な考えに過ぎるんじゃない!?」 「でも、かなちゃんならいいおかあさんになれそうだね〜」 「ああもう、神北さんも余計なことを言わない!」 「……なあはるか、どうしてかなたは慌ててるんだ?」 「やはは、お姉ちゃんってばこういうのにあんまり慣れてないですからネ。本当は楽しくてしょうがないのデスヨ」 「佳奈多君は着々と墓穴を掘っているな。これならいじられ要員としての地位を確立するのも遠くはないぞ」 「誰が……っ!」 「……二木さん、そこで構うと来ヶ谷さんの思うツボですよ?」 どんどんヒートアップしていく佳奈多を、さらっと美魚が制止する。 案外いいコンビかもしれないな、と思いながら、散々場を引っ掻き回した諸悪の根源である唯湖は悪びれることなく、 「まあ、怪談は止めておいた方がいいだろう。おねーさんとしては、クドリャフカ君や小毬君がこの後トイレに行けなくなってくれれば付き添いと称してあれこれできるからむしろ大歓迎なのだが、肝心の怪談そのものを話せそうなのがほとんどいないようだからな」 「……残念です。いくつか準備していたのですが」 「あのー、みおちんが言うと何かシャレになってない気がするんですけど……」 「それは次の機会に回すとして、やはり修学旅行と言えばアレだろう」 意味深に告げ、数拍の溜めを置く。 アレ、という単語で葉留佳はその内容を察したのか「あー、アレですネ」と共犯者の笑みを見せた。 美魚も唯湖が言おうとしていることがわかったらしく、微かに眉根を潜めたが、他の四人は続く言葉を待つしかない。 結局長い沈黙に耐えかね、佳奈多が訊ねた。 「勿体ぶらずに言ってください」 「いいのか?」 が、返ってきた簡潔な問いに心中でたじろいだ。眼下で浮かべている唯湖の表情に、佳奈多はチェシャ猫のような、という形容を思い出す。例えようのない嫌な予感を覚えつつ、純粋な興味もあり、無言で首肯した。 「うむ、佳奈多君の同意も取れたところで……こういう時の定番、恋の話でも始めようか」 「こ、ここ恋の話ですかっ!?」 「定番なのか? あたし飼ったことないぞ」 「いや鈴ちゃん、ちょっとそのボケはベタ過ぎない?」 「フフフ、今のクドリャフカ君の反応を見られただけでも、この話題を選んだ甲斐はあったな。それと鈴君、一応言っておくが、carpではなくloveの方だぞ。好きな人がいるか、という話だ」 「ちょっとゆいちゃん、そんなの言えるわけないよ〜」 「だからゆいちゃんは止めろと……」 「……神北さんの言う通りよ。それに、私達から訊き出そうとするのなら、来ヶ谷さん、あなたが真っ先に告白するのがフェアじゃないですか?」 「確かに、一理あるな」 佳奈多の指摘にも、唯湖はまるで動じなかった。 どころか、それならと前置きして、 「私が言えばキミ達も包み隠さず告白してくれる、ということだな?」 「な……それは論理が飛躍してるでしょう!?」 「佳奈多君にとって言えるはずのないことであれば、当然私にとってもそうだとは思わないか? 何せ乙女の秘め事だ、他人に知られるのを恥ずかしいと感じるのは当たり前だろう。それとも、キミは私に恥じらいがないとでも言うつもりかね」 「いえ、そんなつもりは……」 「……ふむ。まあ、無理強いするのは私も好まん。具体的な名前を出すのには抵抗があるという気持ちもわかる」 言い放ち、唯湖は視線を軽く巡らせる。表情の読めない美魚、未だにきょとんとした顔の鈴はともかく、誰の目から見ても明らかなほど頬を火照らせ俯くクドや、笑ってごまかしているつもりらしいが微妙に目が泳いでいる葉留佳、明らかに免疫の低そうな小毬は、被った毛布を揺らし頷いていた。 「なら来ヶ谷さん、どうするつもりです?」 「簡単なことだよ。具体性をなくせばいい」 「へ? 姉御、それってつまりどういうこと?」 「もっと質問を曖昧なものにして、それだけでは判別できないようにしよう。イエスかノーか、単純な二択にでもすれば情報はさらに少なくなる。……ただ、これは嘘を吐かないことが前提だ。どうしても答えにくい質問以外には正直に答えてもらわねば、公平性に欠けてしまうからな」 「………………」 「何か言いたそうだな、佳奈多君」 「……いえ」 「ではこうしようか。質問に対しイエスなら挙手、ノーなら動かずにいる。原則として目を開けてはいけない。これならある程度答えるのが恥ずかしい質問でも、皆に知られることはないだろう。もっとも、全員がそうしていては挙手をする意味がない。だから、目を開ける役は佳奈多君にお願いするとしよう」 予想だにしなかった指名に一瞬思考が停止し、佳奈多は口篭もった。 「……どうして私なんですか?」 「この中ではキミが一番適任かと思ってな。風紀委員長の佳奈多君なら、こういうことに関しても公平だろう?」 そう言われれば認めるしかない。 全く、単純ながら腹が立つほど優れた一手だった。 半ば仕方なく、けれどそんな気持ちを表情には出さず佳奈多は引き受け、カウント役に徹することにした。 手が挙がった人数を自分も含めて数え、誰が、とは言わず、何人が、と公開することで匿名性を守る。質問の内容と照らし合わせて挙手者を推理してみるも良し、純粋に緊張感を楽しむも良し、というわけだ。 一人につき質問は一つ。先陣を切るのは、唯湖だった。 「そうだな……核心に近いものは後回しになるのを祈るとして、まずは小手調べと行こう。――今、気になる人はいるか?」 しばらく、静寂が満ちた。やがて恐る恐るといった様子で、手が控えめに天井へと伸び始める。 挙げたのは、四人。小毬、クド、葉留佳……そして、佳奈多。 「もう下ろしてもいいわよ」 「さて佳奈多君、早速だが、何人いた?」 「四人。勿論誰とは言わないけど」 「ほぼ半分かー。結構多くない?」 「そうですね。これだけいると、結構簡単に特定できてしまいそうです」 「わふ、お手柔らかにお願いしますー……」 「で、くるがや、次は誰なんだ?」 「小毬君に頼むとしようか」 「うん、わかったよ〜」 以降順に、小毬、鈴、美魚、クド、葉留佳と続く。本題に関係ない問いも混ざったが、途中美魚がかなり狙ったところを突いてきたので、佳奈多にはおおよその構図が見えていた。 (クドリャフカと葉留佳は直枝理樹に気がある……まあ、これは予想の範囲内だったけど。特にクドリャフカなんてわからない方がおかしいし。神北さんは微妙なところね。彼か、あるいは棗恭介か……。西園さんと妹さんはさっぱり。そして――) 暗闇に慣れた目が唯湖の端正な顔を捉える。と、微かな笑みを返してきたので、何となく視線を逸らしてしまった。 ……そもそも、何故自分に集計を任せたのかがわからない。質問をする人間が結果を確認した方が色々な意味でいいだろうに、わざわざこちらだけが正解を仔細に知ることができるようにしたのは、何らかの意図があっての策謀なのか。 困惑しつつも佳奈多は自身の質問を終え、これで全てが済んだと思った瞬間、唯湖が口を開いた。 「すまないが、最後に私からもう一つだけいいかな?」 「こまりちゃんがそろそろ限界みたいだから、さっさとしろ」 「うむ、心配しなくともすぐ終わるよ。佳奈多君以外は目を閉じてくれ」 さっきと同じ状況が生まれる。唯湖と佳奈多以外の、視覚を封じた五人が耳をそばだてる。 静寂を割るように、ゆっくりと動き出した唇が言葉を紡いだ。それは、 「ここに――恋を諦めた、あるいは、諦めようとしている者は、いるか?」 嘘を吐かない、という取り決めがあった以上、佳奈多は。 そこで、手を挙げるしか、なかった。 「……もういいわよ」 「そうか。佳奈多君、何人いた?」 「……二人」 声は震えてないだろうか、と思う。幸い他の五人には気付かれなかったらしく、特に追及されることもなく終わったが、皆が床に就いた後も、しばらく佳奈多は寝付けずに過ごした。どうにも胸にずしりと残った重いものが消えず深い溜め息を吐くと、不意に小さく喉を鳴らす音が聞こえる。それが誰のものかを確認しないまま、声は自然に口をついて出た。 「まだ起きてたんですか」 「寝付けなくてな」 「奇遇ですね。私も同じです」 「フフ、なら眠くなるまで語り明かすのはどうだ?」 「遠慮しておきます。あなたと話していたら、余計眠れなくなってしまいそうですから」 「……素直じゃないな、キミは」 「野菜だって、真っ直ぐなものよりも少しくらい歪な方が美味しいでしょう?」 冗談めかして言うと、唯湖は心底可笑しそうに「そうだな」と呟いた。 笑われているとは思わない。ただ、複雑な感情が胸の奥で波打っていた。 「……どうして、あんな質問を?」 「その答えは、もう佳奈多君の中で出ていると思うのだが。私の勘違いだとしたら申し訳ないがな」 「恋の話、なんて言い出したのも、答え方を二択にしたのも、集計役に私を指名したのも……全て、布石ですか」 「美魚君辺りは途中から感付いていたようだがね。しかしそれでも、最後の質問の意味まではわからなかっただろう。だから安心するといい。佳奈多君、キミの想いは、私以外の誰にも知られてはいない。大切なもののために、決してその気持ちを表に出すまいというキミの決意は」 「………………」 ――例えば、ずっとずっと幸せでいてほしいと願ったひとがいて。 泣かせた分、苦しめた分、そばにいようと思った子と、同じ相手を好きになってしまったなら―― 自分を抑え付けてきた彼女にとって、恋慕の情を閉じ込めるなんてことは、本当に簡単だったのだ。 もう一度傷つけてしまうよりも、そっちの方がよほどいい。佳奈多は、心の底からそう信じていた。 「む……我ながら、少々芝居めいた言い回しだったな。空気に酔っていたようだ。そこは反省しよう」 「反省するところが違うでしょう。……本当に、来ヶ谷さん、あなたって人は」 「それは褒め言葉だよ」 「褒めてません。あと、早く寝てください」 「少しくらいは素直になった方がいいと思うぞ?」 「余計なお世話です!」 布団をばさりと被り、胎児のように身体を丸めると、精神的な疲れが来たのか、急に瞼が重くなっていくのを佳奈多は感じた。遠ざかる意識の内で、ふと考える。同じというのなら……彼女は、何を守るために諦めたのだろうか、と。 「……おやすみ、佳奈多君。良い夢を」 最後に聞いたその声は、いつもの彼女からは想像もつかないほどに――儚げで、寂しそうなものだった。 [No.170] 2008/02/23(Sat) 17:46:56 |
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