第4回リトバス草SS大会(仮) - 主催 - 2008/02/20(Wed) 22:28:34 [No.166] |
└ ダイブ - ひみつ@遅刻 - 2008/02/23(Sat) 23:17:44 [No.178] |
└ 小鳥と子犬の恋愛模様 - ひみつ - 2008/02/23(Sat) 22:11:45 [No.175] |
└ Step forward - ひみつ - 2008/02/23(Sat) 22:11:29 [No.174] |
└ 散歩の途中 - ひみつ - 2008/02/23(Sat) 22:03:14 [No.173] |
└ 2008年5月11日 - ひみつ - 2008/02/23(Sat) 20:40:16 [No.172] |
└ 2月のクリスマス - ひ・み・つ - 2008/02/23(Sat) 18:31:36 [No.171] |
└ 真夜中の内緒話 - ひみつ ちょっぴり優しくして - 2008/02/23(Sat) 17:46:56 [No.170] |
└ 時をかけちゃった少女 - ひみつ - 2008/02/21(Thu) 02:58:00 [No.168] |
└ 感想会ログとか次回とか - 主催 - 2008/02/24(Sun) 23:06:52 [No.180] |
雪はしんしんと降っている。今年はどうやら大雪らしくて来る日も来る日も雪雪雪雪雪また雪。降り始めのうちこそはそれこそ雪合戦だったり鎌倉を作ったりして遊んでいたけど、雪遊びもあっという間にネタが尽きてしまった。 そんな雪が降り敷きなるかでも相変わらずクドはヴェルカ、ストレルカと元気に雪の中で遊びまわっていたし、鈴ははじめからほとんど外に出ることもなくコタツで丸くなっていた。 そして今はもう年が明けて、初詣もとうに過ぎた。そろそろ男子生徒が一同に期待と不安を寄せるバレンタインシーズンだって言うのに、そんなのかんけぇねぇって言うギャグもとっくに廃れたはずなのに、何で僕たちはこんなことをしているのだろう? 冷静に考えなくてもそんなことを考えてしまう。 だって…… 「筋肉持ってこーいっ」 「いや、持ってこれないから」 「よし、じゃあ俺の筋肉をこいつの一番上につけよう」 「お願い、やめて」 そもそもこの時期にこんなことしようという考えも分からないけど、モミの樹の一番上に真人の筋肉が輝いている光景も想像したくない。それ以前に筋肉はつけられないと思う。 モミの樹のてっぺんで光輝くポーズを取るを真人を想像して――イギリスのほうだと星の代わりに天使を飾ったりするらしいけれど――無いなと思った。おまけに少し気持ち悪くなった。想像するんじゃなかった……。 気持ち悪くなって頭を抑えていると、別の方向から声をかけられた。 「ねぇねぇ理樹君」 「なに葉留佳さん?」 「お願い事の短冊はどこにつければ良いですカ?」 「うん、それは5ヶ月ほど早い行事だからね」 「後はお化けのコスプレとお菓子の準備もしなくちゃいけませんネ?」 「うん。トリック・オア・トリートとか言って寮の中を駆け回るのはやめておこうね。後で二木さんに怒られるから」 「ちぇーちぇーちぇー」 残念がる理由が分からない。 「ちなみにみおちんは向こうで短冊をワッセワッセと書いてますヨ?」 葉留佳さんが指差した方を見てみると、なるほど、確かにそこには西園さんが書いたと思しき短冊と思われるものが山を作っていた。 「ちなみに、面白そうだったので一枚パチってきちゃいました」 そういって僕に短冊を差し出す葉留佳さん。そこには 「直枝理樹 棗恭介 カップリング(字足らず)」 不穏な川柳が書かれていた。……これ、短冊じゃないよね、そもそも。見なかったことにしよう、これが願い事でないことを祈りつつ。 樹の低いところでは鈴やクドがヴェルカ、ストレルカと一緒になって飾り付けをしている。ほほえましいなぁ。一方の高いところでは真人、謙吾、恭介、来ヶ谷さんたちが人間離れした技でモミの樹に飾り付けをしている。頼もしいなぁ。 嘘。真人だけはモミの樹にぶら下がって懸垂をしてる。飾り付けをしようよ。 そのうち足でぶら下がって腹筋でもはじめそう『バキッバサバサバサバサバサバサドウッ』だなぁって、うわぁ、枝が先に折れて真人が落ちちゃったっ。 「真人大丈夫っ?」 「井ノ原さん大丈夫ですかーっ?」 「ふぅーっ、鋼の筋肉たちが俺を守ってくれたぜ」 ……いろいろ間違ってる気もするけど、とりあえず真人が無事でよかった。あわてて駆け寄ってみたけど本当にかすり傷ひとつもない。落ちた時に聞こえた嫌な音をものともせずにケロッとした顔でほこりを払っている真人を見て思わずほっとする。……だけどもう筋肉とか頑丈とかそういう問題じゃない気がする。 「よっと。大丈夫か真人」 「おうよ、自慢の俺の筋肉達ががうなりを上げて俺の体を守ってくれたからな」 ……筋肉も体の一部だと思うんだけど。 「そうか」特に心配した様子もなく降りてきた恭介はそれだけ返事をして、モミの樹を見上げて言った。「この時期に作るクリスマスツリーってのも、なかなかオツなもんだろ」 みんなもだいぶデコレーションされたモミの樹を見上て頷いた。そう、これは僕たちリトルバスターズの、クリスマスツリーだった。 恭介がこのモミの木を見つけてきたのはずいぶん前らしい。どうやら旅(就職活動)をした帰りにさまよった山の中で見つけたらしいんだけど、それからみんなが忙しくなったり、なかなか時間が合わなくなってしまい、今日までずるずると日程が延びてしまった、ということだ。 なんでクリスマスも過ぎたのにこんなことするの? と一応言ってみたら 「それは俺達が」 恭介はゆっくりと目をつぶる。「どうせつまらない理由だろ」うん、僕もそう思う。そんな鈴のツッコミもものともせずにくわっと目を見開いた恭介が言い切った。 「リトルバスターズだからだ」 「わけが分からないよ」 「なら、ここにモミの樹があるからだ」 爽やかに言ってのけるし。そもそも『なら』て……理由はなんでもいいんじゃないか。そして予想通りたいした理由じゃなかった。そもそも理由が無かった。 「こいつやっぱりバカだな」 無事に内定が出た(らしい)恭介は就職活動から開放されたせいも手伝ってか、頭のネジがさらに何本か緩んだか飛んだ気がする。鈴の発言をものともせずに嬉々としてモミの木に登って飾り付けを再開している。そんな楽しそうな姿を見ていると僕も子供のころみたいに木に登って楽しく飾り付けをしたくなってしまう、なんて考えるのは僕が流されやすい性格だからだろうか。 「そういえば、クリスマスツリーなんだよね、これ」それだけ言って小毬さんは髪飾りに付いた星をいとしそうになでながらツリーを見上げる。「私のこれ、一番上につけたら……届くかな?」 まだモミの樹のてっぺんには何も付いてなくて徐々にデコレーションされていくモミの樹が少しさびしげな印象を受ける。 「だれに」「なにを」を言わずに漏れた小毬さんの言葉。きっとみんなの願いが、ってことなんだと思う。いつも自分以外の誰かのために一生懸命なんだから、自分の願いだって誰かに届けたっていいと思う。 「小毬さんは?」「ふえ?」 「小毬さんは何か願い事、あるの?」 「私?」 「うん。小毬さんも、何か願い事ってないのかなって思ってさ」 「う〜ん」 「う〜〜ん」 「う〜ん? そうだね〜」 顔が百面相していて見ていて飽きない。しばらくうんうんうなっていろいろ考えてた小毬さんがほんのりとほほを赤らめた。 「赤ちゃんが、欲しい……かも」 「赤ちゃん?」 「うん、赤ちゃん。家族は、いつか減っちゃう。それは仕方がないことなんだよ、どうしても。でもね、増やすことだってできるんだよ?」 普段のほんわりとした空気をまとった小毬さんはそこにはいなくて、大人の空気をまとった女性が一人たたずんでいた。僕はなんて返事をしたらいいのか分からなくで、あいまいに返事をした。 「? 理樹君、どうかしたの?」 さっきまでの空気はどこへやら。いつもの空気を取り戻した彼女に「なんでもないよ」とだけ、僕は答えた。 「ぼ、僕も、上に行って飾り付けを手伝ってこようかな」 ギクシャクとし始めた空気から逃げるために、それだけ取り繕って、上にあがろうとするとどこからともなく、声が聞こえてきた。 『おぎゃ〜っ、おぎゃ〜……』 気のせいかとも思ったけど、たぶん気のせいじゃない。 注意深く耳を済ませて泣き声が聞こえるほうへと向かうと、なぜかそこには鎌倉があった。どうやら泣き声は鎌倉の中かららしい。 「理樹く〜ん、どうしたの〜。……あれ? 中から声がするね〜」 どうやらモミの樹からはなれて行く僕を心配して後からついてきてくれてたらしい小毬さんも、鎌倉とその中から聞こえる泣き声に気づいた。 「この泣き声って……赤ちゃん、だよね?」 「多分」 一応あたりを警戒しながら鎌倉に入ってみる。 外の気温に比べれば意外と暖かな鎌倉の中で、厚手の衣装をしこたま着込んだ赤子がぽつねんと一人、泣いていた。 「わぁ〜、やっぱり赤ちゃんだ〜。ほ〜ら、もう大丈夫でちゅよ〜」早速赤ちゃん言葉で小毬さんがその赤ちゃんをあやしながら、嬉しそうに言った。「早速願い事がかなっちゃったよ〜」 うん。家族を増やしたいみたいなことをさっき言ってたもんね。早速かなってよかったね、って僕も言ってあげれればいいとは思うよ。それに赤ちゃんをあやしてくれたことも凄いと思んだ、多分僕じゃできないし。でも、それ以前にこのわけのわからない状況に気が付いて欲しい。 「……って、そういう問題じゃない〜〜〜〜っ」 あ、遅まきながらようやっと気が付いた。子供を抱えながら早速テンパる小毬さん。首はちゃんと据わっているらしく、小毬さんに抱きかかえられてとキャッキャと喜んでいる。ほんわかとしている小毬さんが赤ちゃんを抱えているのを見ると、どことなく母親って気がしなくもない。見ているこっちもほんわかとしてくる。いいお母さんになりそうだな、なんて思ってしまう。現在テンパってる真っ最中だけど。 「おんやぁ? 急に二人が消えたと思ったらこんなところ出会いの巣を構えておまけに子供までいちゃったってオチデスカ?」 鎌倉の入り口から顔を半分だけ出して家政婦は見た、のようなポーズのまま葉留佳さんがニヤリと笑った。……やっぱりいなくなった僕らを探しに来てくれたんだろうけど、出歯亀をしようとしていたようにしか見えない。多分実際そうだろう。葉留佳さんに続いて続々とみんなが入ってくる。 「わふーっ、その子はリキと小毬さんのお子さんですかっ!?」 「なにぃ〜理樹とこまりちゃんの子供だとーっ」 「直枝さん、存外鬼畜だったんですね」 ……あらぬ誤解とともに。 「なんだそりゃ? ってうぉっ、子供じゃねぇか。なんだこの子供、筋肉が無いぞ」 いくらなんでも赤ちゃんにまで筋肉を求める必要は無いと思う。 続々とやってくるバスターズのメンバー。あれやこれやと勝手な妄想を各人繰り広げてくれる。何でこういうときばっかりチームワークがいいんだろう? 「どれどれ、俺が筋肉を分けけてやろう」 むちゃくちゃなことを良いながら赤ちゃんを抱えようとすると 「ふぎゃーふぎゃーふぎゃーーーーっ」 息つく暇も無いくらいに必死に赤ちゃんが泣き出した。きっと身に危険を感じたんだと思う。 「なんだこのガキは。筋肉は暑苦しいので近くで息を吸いたくありません。だから泣いて必死に抵抗します、って感じだなっ」 「すごい、赤ちゃんにまで無理やり言いがかりをつけるなんて、さすが真人だね」 「ほめるなよ」 ……ほめてない。だけど、真人と赤ちゃんって言うカップリングもある意味凄い。筋肉マッチョで長身の真人と赤ちゃんを一緒にみると、どうしても違和感がついて回る。真人が父親になるっていう光景はちょっと想像できない。まず第一に相手が。 「ふむ、赤ちゃんか。そういえばクドリャフカ君」 「はい、なんでしょうか?」 「実は赤ちゃんは木の股から生まれるという事実を知っているかい?」 「わふー、それは知りませんでしたっ」 「そうなのか?」 「いやいやいやいや、クドに嘘を教えない。鈴も信じないでよ」 「なんだ嘘か。って言うか、子供ってのは筋肉から生まれるんじゃないのか?」 「……イヤーーーーっ!!」 筋肉から真人が生まれてくる光景あたりをリアルに想像したんだと思われる葉留佳さんが頭を必死に振って想像をかき消そうとしている。……うわっ、僕も少し想像しちゃったよ。葉留佳さんが必死になって頭を振る気持ちも分かる。筋肉から真人が生まれてくる光景はなかなかにしてシュールだ。いや、なかなかどころの騒ぎじゃない。シュールだ。 「ダメですよ、嘘ばかり教えては」 モミの樹の一角をダークなオーラが出ている短冊で占拠し終えたらしい西園さんが冷静に会話を割った。小毬さんもそれに続く。 「そうだよ、赤ちゃんはね、男の人と女の人がせっくすをして、女の人が妊娠をして生まれるんだよ〜」 …………場が、凍った。小毬さんの台詞にほぼ全員が硬直している。 意外な人からとんでもな台詞が出てきた気がする。……いつもどおりののんびり口調でそんなことを言われて、聞いたこっちが赤面してくる。言った本人は相変わらずほわほわしてるし。 来ヶ谷さんだけが鼻血をダボダボと垂れ流している理由も分からない。「ヤバイ、小毬君が言うとえろい……」とか言ってるけど、それはこのさい聞かなかったことにしよう。 「え? ……あっ、……ふぇ、ふええええええ〜〜〜〜〜〜〜!???」 どうやら自分が言った台詞がとんでもな内容だったことにいまさら気がついたらしい。……遅いよ。 自分の言った内容にわたわたとしている小毬さんに 「うむ、見事なエロテロリストっぷりだったぞコマリマックス」 来ヶ谷さんが止めを刺した。あ〜あ。 「うわああああああん、私がえろい〜」 「みんなどうしたんだ、気が付いたら人が減ったり騒がしかったり」 気が付いたらて……そんなに飾り付けに熱中してたんだ。 「ああ、恭介。この子なんだけど……」 「……やべっ、すっかり忘れてた」 「「「「「「「「「へ?」」」」」」」」」」 状況にほぼ完全に全員が置いていかれる。間抜けな声を上げた僕らに恭介はあっはっはと爽やかにかつぬけぬけといつもの調子で言い切った。 「いやぁ、その赤ん坊さ、実は俺がベビーシッターのバイトで頼まれた子だったんだ」 「はい?」 「せっかく内定ももらったんだから、バイトでもして金を稼ごうと思ったらちょうどいい仕事があってな、まぁそれがベビーシッターだったわけなんだが。せっかくだからバイトで金を稼ぎながらなんか面白いことでもできないかなと思ってさ、それでちょっと……な?」 「ふむ、赤子の存在をすっかり忘れてツリーのデコレーションに励んでしまった、と言うわけだな」 「はっはっは。そのとーり」 あきれながら言う謙吾の言葉も爽やかに跳ね返すし。いや、自分のバイトでしょうが。 「もぉむちゃくちゃだな」 「いや、くちゃくちゃだ」 確かに、めちゃくちゃくちゃくちゃぐだぐだだった。 「はぁ〜、恭介……鎌倉まで作って赤ちゃん自体は寒くならないようにいろいろ厚着させて工夫しようとしたのは分かるけど、忘れちゃダメでしょ、忘れちゃ」 「いや、面目無い」 少なくとも悪いとは思っているようでだったけど、次の瞬間には「ああ、いいこと思いついた」とテンションを明るくした。うぅ、嫌な予感がする。 「この赤ん坊は理樹と小毬の直枝夫婦に任せたいんだが、いいか?」 予感的中。めちゃくちゃなことを言ってきた。 「ふっ、夫婦? ふーふぉわああああああ?」 小毬さんは錯乱してるし。 「見ての通り、小毬はその赤ん坊になつかれているみたいだしな。小毬をここに一人にしていくわけにもいかないだろう?」 「うっ、まぁ、確かに」 ていよく恭介のバイトをタダで押し付けられただけな気がする。っていうかそれ以外の何物でもない。 「まぁまぁ、礼はちゃんと後ではずむからさ。な、理樹? このミッション、引き受けてくれるか?」 はぁ、『ミッション』と言われてしまうと、もうこっちの負けだと思う。仕方なくだけど了解すると、恭介はみんなを連れてクリスマスツリーへと戻っていった。 急にあたりが静かになる。ここだけ急にクリスマスを離れて正月になった気分だ。それでもまだ現実とは一ヶ月遅れなんだけど。 「ふふふ、赤ちゃん、かわいいねぇ」 とりあえず落ち着いたらしい小毬さんは、今度はうれしそうにつぶやく。そういえばさっきからずいぶんと長いこと赤ん坊を抱えてる気がする。変わったほうがいいのかな? 「腕、疲れない?よかったら変わるけど」 「ううん、だいじょぶ。……ふふふふふ」 「僕の顔に何か付いてる?」 「ううん、そんなんじゃないよ。ただ、こうしてると本当に家族みたいでいいなーって、そう思っただけ」 「願いごと、かなっちゃった」 「叶ったね」 「特別なクリスマスだね、今日は」 「そうだね。僕も何かお願い事を伝えておけばよかったかな?」 「だいじょうぶ、まだきっと間に合うよ」 そんな、他愛のないことを話しながら時間は淡々と過ぎていって、ゆるゆるなミッションは終わった。 赤ん坊と別れるとき、小毬さんはきっと泣いちゃうんだろうなと思ったけど、意外tなことに笑顔で別れを告げていた。 「お別れするのはやっぱり寂しいけど、だいじょうぶ、きっとまた会えるから」 満面の笑みを浮かべて笑う小毬さんがいつもより少し大人っぽく見えて、少し、ドキッとしてしまった。あまりにも照れくさかったから僕は 「そうだね、いつかまた、きっと会えるよ」 とだけ、返事をした。 [No.171] 2008/02/23(Sat) 18:31:36 |
この記事への返信は締め切られています。
返信は投稿後 30 日間のみ可能に設定されています。