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all 第5回リトバス草SS大会(仮) - 主催 - 2008/03/13(Thu) 20:57:40 [No.182]
音信 - ひみつ@リリカル☆遅刻 - 2008/03/15(Sat) 04:31:04 [No.192]
それは呪いにも等しくあり - ひみつ@マジカル☆遅刻 - 2008/03/15(Sat) 00:45:12 [No.191]
ヒット - ひみつ - 2008/03/15(Sat) 00:05:15 [No.190]
騒がし乙女の憂愁 - ひみつ - 2008/03/14(Fri) 21:50:34 [No.189]
二人きりの僕らに雨の音は聞こえない。 - ひみつ - 2008/03/14(Fri) 21:49:19 [No.188]
下弦の月 - ひみつ - 2008/03/14(Fri) 21:02:12 [No.187]
しあわせのおと - ひみつ - 2008/03/14(Fri) 01:52:21 [No.186]
ギロチン - ひみつ - 2008/03/13(Thu) 23:38:38 [No.185]
感想会ログとか次回とかですよ - 主催 - 2008/03/17(Mon) 00:47:13 [No.198]


ギロチン (No.182 への返信) - ひみつ

 カラカラカラ
 ジョキン。
 ガシャン。
 ズバッ。
 コロコロ。
 ユラユラ。
 ニヤリ。










『ギロチン』











 たまに出歩けばこれだ。
 目の前の光景に私は嘆息した。
 なんとなく服でも買おうかと街へと来てみただけ。ただそれだけ。私は不幸属性なんだろうか? まあ、そうなんだろう。
 目の前には車に轢かれてぐちゃぐちゃになった猫の死体があった。何度も車の下敷きになったようで、タイヤの跡がくっきりと残っている。今もまたなんの障害にも感じていないように車が猫の上を通り過ぎた。もう死んでる。だから、置物と同じなんだろうね。逆に笑える。
 私の周囲は、一様に気持ち悪いだとか、かわいそうだとか、そんなお通夜のような雰囲気になっていた。それが少し辛い。
 アレは私だ。あの頃の私だ。今も一緒。ずっと道路に寝ているの。目覚めないの。吐気がする。
 気分が悪いし、見ていられない。どうせその内掃除のおばちゃんが片付けにでもくるだろうね。ゴミを片付けに。そんなもの、見たくない。
 私は踵を返した。目的の服屋さんへ向かおう。ミニスカートが欲しい。デニムでピチピチの。Tシャツは黒の無地かな。重ね着で、ストライプのタンクトップ。靴下も合わせてストライプでどうだ。うん、まあ、そんなイメージ。いいんじゃない?
 気を取り直し、意気揚々と服屋へと向かおうとする私を引き止めたのは、周囲の喧騒。先ほどのお通夜のざわめきとは毛色の違う、困惑や驚嘆のざわめき。
 振り返ると、道路に走る女の子の姿が見えた。それを守るように男が四人、彼女の周りを固めていた。
 姫一人に騎士四人とは贅沢な。ケッと思う。いや、これは決して羨ましいとかそういうのでは無い。断じて無いですヨ?
 女の子を守るように立っていた男の中で特にゴツイ人が車に轢かれた。おいおい。そう思ったが頭から血を流す程度で、十分それでも危険だけど、筋肉筋肉騒いで、平気なのをアピールしていた。その間に女の子がぺちゃんこになった猫を抱きかかえていた。
 彼女は歯を食いしばり泣きそうな顔で、ギュッと腕に力を込めていた。彼女の飼猫だったんだろうか。よかったね。私にはいなかったよ。
 ふと、見覚えのある顔だと思った。何処で見たのか分からない。でも、確かに見たことがある。
 モニュモニュするなぁ……。こう、喉の奥で何かがつっかえている感じ。歯の間に何か挟まって取れそうで取れない感じ。
 ぬふぅ、とモニュモニュイライラしていると、ふと、周りから拍手が巻き起こった。泣いている人もいた。急にアホらしくなった。
 興ざめ、とはつまりこういうことを言うんだろう。さっさと服買って帰ろう。










 大きな鋏を引きずりながら、ゆっくりと歩く私。
 その先の断頭台で首を差し出す私。
 死刑執行間近。見物している私。
 私。私。私。
 三人の私。
 同じ顔をしているのだから、私なのだろう。
 鋏を持った私が、ギロチンの刃を吊る縄を躊躇無く切る。
 刃が落ちる。私の首も落ちる。
 転がる。転がる。私の首。
 見物していた私の前に転がる。
 シーソーのように揺れた後、ピタリと止まる私の首。
 私はその生首から目が逸らせない。私が死んでいる。
 首がニヤリと笑う。
 私を殺したのは私?










 耳から離れない。夢で聞いた。錆び付いた鋏の音。肉の裂ける音。
 何処かで聞いたことがある。断頭台初期を使い始めた頃は、刃が丸くてうまく首が切れずに死刑囚は無駄に苦しみ、最終的には窒息死してたんだそうな。あー、こわいこわい。
 どうでもいいことを考えながら、私は目的地へと向かう。
 昨日のモニュモニュな疑問は、簡単に氷解した。だって、寮に昨日の五人が集まって動いてたんだもん。あんな目立つ人たちを忘れてるなんて。なんで忘れてるの、と自分のアホさを呪った。まあ、あまり周りに目がいってなかったのかもしれないけども。
 到着。隣の教室。今は放課後で、後はもう身支度をして帰宅するのみ。ガラリと躊躇無くドアを開ける。探す。昨日の光景のにいた男の子。
「お、いたいた。おーい直枝くーん!」
 私の声に驚いた彼は、早足にこちらに来た。そして、はたと立ち止まる。腕を組み、うーんと思考を巡らす。意を決したようで、声を出す。
「僕に何か用?」
「え?」
「え?」
 見詰め合うこと約二秒。
「ひどい! 何よその言い方! 私とは遊びだったのねー!」
「いやいや」
 無駄に大きなリアクションをとる。この前のドラマで見た感じではこんなんだったけど。
 彼に最初に声を掛けたのは、クラスでのリサーチによるもの。あの五人の中で一番彼が普通だと教えられた。
 ちらりと横目で彼を見る。呆然としているが、どこか冷静なようで。トラブルに慣れてるのか。単に鈍感なんだか。どっちにしてもおもしろい。
「三枝さんだよね」
「んえ?」
 素のリアクションを取ってしまう。なんで私の名前を知ってるんですかネ?
「有名だもん」
 私の心を読んだかのように、彼は言う。私ってそんな有名ですかネ?
「で、どうしたの?」
 今度は私の心を読めなかったようで、笑顔でのたまう。正直、特別な用があるわけでもなく、ただ、昨日のことがおもしろかったから。お近づきになりたくて。彼らと遊べば、何か分かる気がしたんだ。
 普通の人って何? 友達って何? 私って不幸?
 そんな疑問には答えてくれないよね。ほぼ初対面だし。
「んー、直枝くんは……」
「なに?」
 何にも考えてなかった。いざ、こんな場面になることも考えずの神風特攻。ノープランもいいとこ。最近、変な子だと思われだしているというのに。ここで、下手なことをすれば噂に拍車がかかってしまう。はるちん、ぴーんち。
 しかし、何も言わないのは変だ。沈黙が痛い。何か。何でもいい。何か言おう。
「お、お豆腐好きデスか?」
「え? 豆腐?」
 それは無いわ。
 自分で思う。いきなり大声で呼んでおいて豆腐て。
 二人の間で、温度が休息に冷えていくのが分かる。たぶん、今息を吐いたら白いはずだね。たぶん。
 自分で冷たい空気を作り出してしまった手前、責任は私にある。なんとか切り抜けねば。
「やあ、そろそろ湯豆腐の季節かと思いましてー」
「……思いっきり夏だけど」
「あ、あははー」
 やばいー。
 妙に怪訝な表情の直枝くん。このままではお近づきどころか、一生避けられかねない。再び、はるちん、ぴーんち。だぶる・ぴーんち。
「理樹、ナンパか?」
「あ、真人」
「ナンパならばもっと筋肉をアピールしていけ。筋肉の嫌いな女はこの世界には存在しないんだぜ」
「私、あんまりムキムキ好きじゃない」
「え……あ、いや、そうか。うん、まあ、ふっ。お子様には分からない……か」
 私の素の言葉に筋肉くん(仮)はゆっくりと教室を出て行く。その目にうっすらと涙が浮かんでいたのは気のせいではないだろう。私の無神経な言葉で彼を傷つけてしまったようで……落ち込む。
 ああ、ダメだ。私はダメだ。ダメ。もう本当ダメ。
 心の中で鋏を引きずる私。処刑場の風景。また私は殺す。私を。
 カラカラ。耳障りな音が聞こえる。
 躊躇は無い。後は縄を切るだけ。
「あ、気にしなくてもいいよ。真人はいつもあんな調子だから。すぐに戻ってくるよ」
「え?」
 鋏を持つ私の手がピタリと止まる。
「だから、そんな顔しないでもいいよ」
「どんな……顔してた?」
「すごい苦いものを食べたみたいな顔」
「あは、あははー。どんな顔ですカー」
「真人には、後で筋肉最高って言ってあげたら立ち直るから」
「やー、自分を曲げるのはイヤですネー」
「あはは。まあ、気が向いたらでいいから」
「にゃー。まあ、気が向いたらー。ではでは、さようならー」
「あ、うん。さようなら」
 ガラリとドアを閉める。はあ、と息を吐く。真人くん(仮)のおかげでなんとか誤魔化せた。
 変な人というイメージがついてしまったのは否めないが、まあ、いいでしょう。印象には残ったはずだ。これから、きっと、仲良くなれるはず。そう思った。










 期待と興奮に満ち溢れた私は、かつてない充足感を携え、スキップをしそうなほどに上機嫌になっていた。この歳になってスキップは流石に頭のおかしい子にしか見えないので自重し、それでも漏れ出るわくわく感やらは止められない。鼻歌として体内から放出する。
 自分の教室に戻り、まだ残っていたクラスメートに、また明日、と告げる。クラスではそれなりにうまく立ち回ってたりするのだ。
 何も入っていない軽すぎる鞄を振り回しながら、私は教室を出た。
 しかし、どうしても私は不幸を引き寄せるのだろう。こんな楽しい気分だったと言うのに。
 帰りの廊下。下駄箱まであと数メートル。あいつはいた。私と同じ顔で不貞腐れたような表情のあいつが。風紀委員だかなんだか知らないが、偉そうに帰宅する生徒数名に説教を垂れているようだ。うざったそうな顔でそれを聞く生徒の気持ちは分かる。あいつなんかに注意されていると思うだけで私なら殺したくなる。
「あら」
 あいつが私に気づく。
 私はそれを無視して通り過ぎる。強く握った手がギリギリと痛い。
「気をつけて帰りなさいよ」
 困ったような表情であいつが言った。なんの……つもりだ。
 カッとなる。あいつは何の気なしに言ったのだろう。そんな言葉が私を苛々させるんだ。そんなことにも気づいてないこいつが、本当に殺したいほどむかつく。
「だまれ」
「え?」
「だまれ。お前なんか死ね」
 視線だけで人を殺せるなら、私は今こいつを殺した。それぐらいに睨みつけた。あいつは、ただ呆然としていた。温室育ちと雑草の違いだね。本当、さっさとこいつ死なないかな?









 
 大きな鋏を引きずりながら、ゆっくりと歩く私。
 その先の断頭台で首を差し出すあいつ。
 死刑執行間近。見物している私。
 私。あいつ。私。
 鋏を持った私が、ギロチンの刃を吊る縄を躊躇無く切る。
 刃が落ちる。あいつの首も落ちる。
 転がる。転がる。あいつの首。
 見物していた私の前に転がる。
 シーソーのように揺れた後、ピタリと止まるあいつの首。
 私はその生首から目が逸らせない。あいつが死んでいる。
 見物していた私はニヤリと笑う。
 処刑した私も声を上げて笑う。
 あいつを殺したのは私。










 彼らに接触した翌日も私は、隣の教室へと赴いた。目的は一つ。
「直枝くーん、あーそーぼー」
「ちょ、小学生じゃないんだから……」
「いやー、遊びに誘うのってこんな感じかなー、と思ってさ」
 小学生の頃なんてほとんど陵辱されてました、って言ったらどんな顔するんだろう。そう思ったけど、引くことだけは明らかだったのでやめておく。
 あの日以降、私はこんな感じでちょくちょく隣の教室へと遊びに行った。直枝くんと絡んでいる内に真人くんなんかともそれなりに打ち解けていった。謙吾くんは、寡黙な人だ。私はちょっと苦手で、積極的に彼には近づかなかった。彼も私が苦手なんだろう。彼からも話しかけられることはなかった。
 鈴ちゃんは、人見知りが激しいのか、直枝くんの陰に隠れていつも威嚇してくる。それは小動物的で、私の嗜虐心を煽る。煽りすぎる。ついちょっかいを出してしまう。それを警戒し、私を見るたびにフカーっと威嚇してくるようになった。その姿がより私をぞくぞくさせているというのに。
 先輩の恭介さんは、鈴ちゃんのお兄ちゃんなんだそうな。仲の良い兄妹である。世の中にはこんな仲睦まじい兄妹もいれば、殺したいという感情しか向けれない姉妹もいる。
 そんなことを考えると、カラカラカラ、あの引きずる音が聞こえてきた。
 仲良くなるにつれ、頻繁に聞こえるようになった。
 人との違いがより鮮明に浮き彫りになるんだ。
 誤魔化しても拭えない。一度汚れた身体はどんなに擦っても綺麗にならない。
 黒い絵の具にどれだけ白を混ぜたって、絶対に白くはならない。
 行かなきゃ。









 心の中の処刑場。
 首を差し出すのは、私? それともあいつ?
 カラカラカラ。
 私の精神安定剤。
 ジョキン。
 私を殺すことで、私は新たな気持ちで進める。
 ガシャン。
 あいつを殺すことで、私は私でいられる。
 ズバッ。
 私は人殺しなんだ。
 コロコロ。
 何回殺したんだろう。
 ユラユラ。
 もう、分からないや。
 ニヤリ。


[No.185] 2008/03/13(Thu) 23:38:38

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