第6回リトバス草SS大会(仮) - 主催 - 2008/03/26(Wed) 23:51:21 [No.201] |
└ 頭が春 - ひみつ@ちこく - 2008/03/29(Sat) 04:38:49 [No.213] |
└ それはとても小さな春 - ひみつ 甘@遅刻はしたけど間(ry - 2008/03/29(Sat) 02:03:12 [No.212] |
└ 春秋 - ひみつ@遅刻 - 2008/03/28(Fri) 23:46:30 [No.211] |
└ 葉留佳の春の悲劇 - ひみつ - 2008/03/28(Fri) 23:27:42 [No.210] |
└ 最後の課題 - ひみつ - 2008/03/28(Fri) 22:05:49 [No.209] |
└ ほんの小さな息抜き - ひみつ - 2008/03/28(Fri) 21:58:39 [No.208] |
└ 宴はいつまでも - ひみつ - 2008/03/28(Fri) 21:57:58 [No.207] |
└ はなさかきょうすけ - ひみつ - 2008/03/28(Fri) 21:57:57 [No.206] |
└ 春の寧日 - ひみつ - 2008/03/28(Fri) 21:56:39 [No.205] |
└ 春の朝 - ひみつ - 2008/03/28(Fri) 17:14:22 [No.204] |
└ 少年、春を探しに行け。 - ひみつ - 2008/03/27(Thu) 21:20:32 [No.203] |
└ 感想ログとか次回とかー - 主催 - 2008/03/30(Sun) 01:35:31 [No.216] |
「雲が出てきたな」 「夜中に雨が降り出すらしいからな。それはいいから飲みたまえ、今日の主役はあなただからな。それとも私が注いだジュースは飲みたくはないと?」 向こうではジュースを恭介のカップに注ぎながら来ヶ谷さんが話をしている。僕はそんなふたりをぼんやりと眺めていた。恭介のお別れ会をしよう、そう言い出したのは意外なことに謙吾だったように思う。でも、みんなの想いは同じだった。むしろ一番率先していたのは恭介だったかもしれない。 しかし、思い直すようにもう一度辺りを見回す。場所が学校の中庭になるとは思わなかった。誰が言い出したのか分からないけど、反対する人もいなかったし、何より恭介がいいと言ったのだから問題はないのだろう。 「どうした、難しい顔してるじゃねーか」 ある意味不法侵入だよね、という僕の言葉は聞かなかったことにされたけど。 「そんなんじゃないよ、ただ……」 小学校の時も中学校の時も、恭介は先に僕達から離れていく。それでも僕達は恭介のいる場所に集まってこれた。高校受験のときはどうなるかと心配したけれど、ある意味真人は凄かった。周りから絶望的だと言われていたのにしっかり合格したし。リトルバスターズの絆の強さに今更ながら驚いたものだった。 「かーっ、そんな辛気臭い顔してんなよっ。なんなら俺の筋肉でも見るかっ」 でも、就職となると話は別だ。 「それはいいよ……」 来年になればきっとみんなばらばらになってしまう。それは、抗いようがない流れ。僕達はどこへ向かっていくのか、期待よりも不安の方がずっと大きい。 「なんだと? うるさい俺は邪魔だろうから、木の根元にセミの幼虫と一緒に埋まりながら、夏に木に登って筋肉を鳴らしてくださいってことかよっ!」 「いつも以上に訳が分からないよ」 そういう気持ちはきっと真人にだってあるはずだ。 「こら、あまり理樹に絡むんじゃない。理樹はお前と違って考えることが多いんだからな」 「謙吾は部活の方は終わったの?」 遅れてきた謙吾が登場して全員が揃う。この一年、このメンバーはいつも一緒だった。夏は夏で騒いだし、冬は冬で盛り上がっていた。本当にかけがえのない時間を過ごすことができた。 「ああ、もちろんだ。おかげで準備を手伝うことはできなかったな、すまん。片付けの時は好きなだけこき使ってくれて構わんぞ」 剣道部の活動は春休みでも変わらない。むしろ主将としての立場がある分、謙吾は大変なのだろうと思う。それでも僕たちとの付き合いは変わらない。忙しい立場の中で時間を見つけては僕たちの輪に加わっていてくれた。 「ふむ、なるほど、真人がお前に絡みたくなる気持ちも分からないではないな」 「え?」 「まあ、大体考えていることは分かる。確かにこれまでのように恭介と会うことはできないだろう」 謙吾の表情もどこか神妙だ。 「だがな……それ以上は俺が言うことでもないか」 「てめえ、さっきは俺のことを馬鹿にしやがったなっ!」 何か言いかけた謙吾の言葉を真人が遮った。すごく気になるけどふたりをなだめるのが先だ。 「はいはい、喧嘩はだめだよ。今日は恭介が主役なんだから」 「むっ、それもそうだな。謙吾、寛大な俺様に感謝しろよ」 真人があっさりと矛を収める。気を利かせようとしたのか、ポテトチップスの袋を開けようとして、盛大にぶちまけていた。 「この馬鹿っ!」 さっそく鈴に蹴り飛ばされている。思えばこの一年で一番成長したのは鈴かもしれない。まだ人見知りをすることはあっても、他人を拒否することはなくなった。日常の繰り返しの中で、人は確実に変わっていく。 「買い出しに行ってきたよー」 小毬さんと葉留佳さんとクドがスーパーのビニール袋を提げて戻ってくる。葉留佳さんがじゃじゃーんと効果音をつけて勢いよく走りこんできた。 「ずいぶん買いこんできたね」 お金は足りているのか少し不安だ。 「ふっふっふ、これくらいあっという間になくなってしまうのですヨ」 「そうだねー」 「わふー、ジュースが重いですよー」 後ろからよろよろと、クドが袋に振られるようにして歩いてくる。 「あ、ごめん僕たちも行くべきだったね」 「いいんですよ。さ、姉御、頼まれていたものはちゃんと買ってきましたぜ」 「おお、ご苦労さん。葉留佳君は実に優秀なエージェントだな」 うなずく来ヶ谷さんには威厳とでもいうのか、本当に同い年なんだろうか考えることがある。飄々として悠然としていて、ある意味恭介に近い人かもしれない。 「んー、今のは私に対して失礼なことを考えている顔だねえ」 「うわ、やめてくださいっ」 不意に上から体重をかけられる。ジュースが残っていたらきっと零してしまっただろうけど、この人はこのくらいは計算していそうだ。 「少年よ、こんな綺麗なお姉さんが密着してあげているのだからもっと喜びたまえ。ちょーさいこーっす、来ヶ谷様にめろめろーとでも遠慮なく叫ぶといい」 「叫びませんって」 「ふむ、それは残念」 「姉御の魅力は奥深いですからネ」 「そうか、もっと一般的に伝わるように、葉留佳君で練習させてもらうか」 くっくっくと、この人は笑っている時が一番怖い。 「あ、嫌な予感がするので、葉留佳ちんはいったん出直してきたいと思います。さよなら、さよなら、さよなら」 「はっはっは、遠慮することはないぞ」 「とりあえず助かった……」 追いかけっこを始めたふたりを見送り、手近なところにあったペットボトルのお茶を飲んで一心地つく。 人の輪は波紋のように広がって会話を生み出していく。真人が留年しそうになった話とか、最近の話題を中心にして、楽しい時間は過ぎていく。 「ちょっと、あなたたちっ!」 不意に別の波紋がぶつかって、小波を生み出した。一斉に振り返ると、二木さんが険しい表情で僕達を見下ろしている。 「風紀委員長じゃないか」 二木さんはこの惨状をぐるりと見回すと、ため息をついた。 「わざわざ学校に忍び込んで、騒ぎを起こさないでもらえないかしら」 「相変わらず堅苦しいねえ……そうか、参加したいのなら素直に言いたまえ」 結局のところ二木さんに対抗できそうなのは来ヶ谷さんくらいなものだ。 「なっ、誰もそんなことは言ってませんっ」 うかつなことを言い出さないようにぐっと自分をこらえる。でも、もう来ヶ谷さんのペースに巻き込まれている。 「まぁまぁ、小毬君。佳奈多嬢にもコップを渡してあげたまえ」 「はいー、どうぞ」 「えっ、だから私は」 「ほう、君は人の親切を断るというのかね。佳奈多君が委員会の活動に精を出しているから、労う意味でジュースを差し出したつもりだったのだがな」 「くっ、まぁいいでしょう。感謝いたします」 うわあ、すっかり来ヶ谷さんのペースだなぁ、そんなのん気なことを考えている状況ではなかったことに気がつくのは、まだ少し先のことだった。 すぐ近くにいる人の顔が判別できなくなってくる時刻、空のオレンジ色が濃紺に塗り替えられようとし、お開きにしてもよさそうな頃合にはなっていた。 「でね、私だってつらいんですよ」 「はぁ」 そんな中、なぜか僕は二木さんの愚痴を聞くはめになっていた。その場から逃げ出したいけど、服の袖をがっちりと掴まれていて、これでは逃げ出せるはずもない。 「……ねえ、二木さんの顔が赤いんだけど何飲ませたの?」 そろそろ正座をした足が痺れてきている。 「ん、チューハイと呼ばれる飲み物だな」 「それってお酒じゃないかっ」 「まぁ、よいではないか、今日は無礼講だ」 「無礼講の使い方が間違ってるよ!」 「いいじゃないか」 来ヶ谷さんに抗議をするけど、まったく取り合ってくれない。それどころかみんなわざとこっちを見ないようにしている。 友情ってこんなものなのかな、人生の無常について考え始めた時、恭介がぽんぽんと僕の肩を叩いてくる。 「こんなに盛り上がってくれて、俺はうれしいぜ」 「恭介」 「だから、あいつの相手は任せたぞ」 凄くいい笑顔をしたまま去っていってしまった。 「わ、いかないでよ。あ、来ヶ谷さんまで」 目をちょっと放した隙に姿が消えている。視線で来ヶ谷さんを探すと、さっそく小毬さんに絡んでいた。 「ねえ、直枝理樹。聞いているのかしら?」 「聞いてます、言いづらいんですが、目が据わっていてとても怖いんですけど」 「怖い? そうよ、みんな私のこと怖いって言うわ。でもね、誰も好き好んで怖い女になんてなりたくはないのよ……ないんだってば! ううっ」 「泣き出したよこの人!」 ……勘弁してください。 「あーあ、お姉ちゃん泣かせたー」 「茶々入れていれないで、助けてよ……」 「いやー、この状態になったお姉ちゃんは私には無理ってもんですよー。理樹君の健闘に乾杯!」 言うだけ言って今度はクドに突貫していく。置いてきぼりの僕はどうしようもなく無力だった。 「あのね、私だってね。女の子なんですからね」 「はいはいそうですね」 さりげなくみんなが僕達から距離を取っていく。こんな薄情な人たちだなんて……少しは思っていたかもしれないけど。 「もう、はっきりしないあなたが悪いのよっ!!」 「ええっ、僕の責任なのっ?!」 話がとんでもないところに飛んできた。これは真人にも負けない言いがかりだと思う。 「あなたがいつまでもはっきりしないから、先に進まないのよ」 「はっきりしないっていきなり言われても、何がなんだか分からないんだけど」 だけど、それは僕だけのようで、二木さんの言葉に今まで距離を取っていたみんなが側に寄って来ていた。 「まさか佳奈多嬢から切り出してくるとは、分からないものだねえ」 「え? え?」 「あのう、理樹君に決めてもらうようにって、話し合ったはずですよ」 小毬さんまで話に加わってくる。 「しかし少年はこちらから言わないとはっきりしないと思うが? 恭介氏には申し訳ないことになったが、せっかくの機会だ」 「ああ、一向に構わん、好きにしてくれ」 「いや、僕が構うよ!」 「どうしよう、どうしよう、心の準備がまだできてないんだけどぉ」 小毬さんが顔を赤らめ、混乱している。 「こういう時は手のひらに人という字を書いて飲み込むとよいらしいです」 やけに詳しいなって、クドもなんだかいつもの雰囲気と違う。みんな様子がおかしい。これはひょっとすると……。 「遅まきながら理解してもらえたようだな。自分の未来は自分の手で掴みたまえ……ただ、私を選ばないと君がどんな目にあうかは想像できるだろうねえ」 説得という名の脅迫だと思います。 「え、ちょっと。今日は恭介を送る会で、何で僕がこんな目に遭わないといけないのさ」 「これも運命なのです……私としては恭介さんと直枝さんが結ばれるという結末でも悪くはありませんが」 西園さんの目が妖しく光る。 「嫌だよ、そんな運命っ」 完璧にこの展開はまずい。すっかり周りを囲まれていて、助けになりそうな謙吾は真人となにやらヒートアップしている。四面楚歌ってこういうことを言うのだろう。 「さあ」 「さあ」 「さあ」 「ひっく」 「みんな、落ち着いてよ。うん、こういうときは人という字を書いて……」 「理樹くーん、ここは真面目になる場面ですヨ?」 葉留佳さんに真面目になれと指摘されるなんて! まさに絶対絶メーン! ってそれはこないだ真人が言っていた言葉で、その、ああどうしたら無事に。 「……あ?」 一斉にみんなで空を見上げる。まるで僕の助けに答えてくれたかのように、地上に引かれるように雨粒はしだいに激しさを増していく。 「思ったよりも早く降り出してきたな……水入りとはこのことか」 うっとうしげに前髪をかき上げて腕組みをする来ヶ谷さん。 「あーあ、残念っすねー」 「でも、ちょっとほっとしたかも」 そういう小毬さんの顔はまだ赤い。 「どうぞ、能美さん一緒に入りませんか?」 どこから取り出したのか、西園さんがトレードマークの傘を手にしている。 「ありがとうございます」 「あー、私もー!」 「さすがに無理です」 「うわーん、みおちんのいけずー」 蜘蛛の子を散らすように、賑やかに雨宿りに向かう。 「みんな僕をからかっていただけなんだね……」 僕はポツリと呟いた。服に染み込んでくる雨のせいで疲れがどっと押し寄せてくる。 「あ、そういえば誰か忘れている気がしたんだけど」 「ふん、別に寂しくなんてありませんわよ」 どこかで誰かが黄昏ている声を聞いた気がした。 降り出した雨に追われるように後片付けをすると、僕達の時間は終わりを告げた。騒動のきっかけになった二木さんは葉留佳さんが連れて帰るらしい。たまには悪くないってことですヨ、そう言いながら二木さんに肩を貸す葉留佳さんの表情は穏やかで、当たり前の幸せをようやく味わうことができた姉妹を祝福したい気持ちだった。 「はあ、最後まで無茶苦茶だよ」 最後まで残ってゴミが落ちていないか確かめていた僕に声がかけられる。 「ん、何が最後なんだ?」 「あ、恭介……」 恭介を目の前にすると、どうにも言葉が出てこない。僕が戻る寮にはもう恭介の居場所はなく、新入生のために用意されている。恭介が帰る場所は別なんだ、そう思った瞬間何かこみ上げるものがあった。 「理樹、今日は恭介様卒業おめでとうパーティーだぞ。なのに、そんな寂しそうな顔をするなよ。まるでこれっきり会えなくなるみたいじゃないか」 「うん、ごめん」 僕が頭を下げると、髪にまとわりつく雨粒がぽたぽたと落ちていく。一緒に別のものが混じっていた気がするけど、視界がぼやけた僕にはそれが何なのか分からない。 「こらこら、謝るなよ。で、さっきの話を蒸し返すようだが、実際のところはどうなんだ?」 「その話は勘弁してよ」 「兄としては鈴のことを頼みたかったが、まぁいいさ、これも人生ってやつだ。お前の気持ちしだいだからな」 恭介が出口に足を向ける。僕は慌てて、ずっと言いたかったことを恭介に伝える。今言わないと遅くなってしまう気がした。 「恭介……ありがとう」 口にした瞬間、ふっと気が緩む。歯を食いしばって涙をこらえた。ここで泣いてしまったら何にもならないから。そんな僕に気づいたのか、恭介は振り返ってにやっと笑った。 「あ、そうだ、今度の日曜はみんなで集まって花見をするからな、しっかり予定を空けておけよ。準備はリーダーに任せるぜ」 「花見?」 きっと今思いついたに違いない。こうやっていつも恭介は僕達を振り回す。 「それとな、さっきのお前のセリフは間違いだからな」 「へ?」 「またな、だ」 ああ、この人にはどこまでも敵わないのかなと思わされる。 「……またね」 「ああ」 今度こそ恭介は振り返らなかった。 [No.207] 2008/03/28(Fri) 21:57:58 |
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