第6回リトバス草SS大会(仮) - 主催 - 2008/03/26(Wed) 23:51:21 [No.201] |
└ 頭が春 - ひみつ@ちこく - 2008/03/29(Sat) 04:38:49 [No.213] |
└ それはとても小さな春 - ひみつ 甘@遅刻はしたけど間(ry - 2008/03/29(Sat) 02:03:12 [No.212] |
└ 春秋 - ひみつ@遅刻 - 2008/03/28(Fri) 23:46:30 [No.211] |
└ 葉留佳の春の悲劇 - ひみつ - 2008/03/28(Fri) 23:27:42 [No.210] |
└ 最後の課題 - ひみつ - 2008/03/28(Fri) 22:05:49 [No.209] |
└ ほんの小さな息抜き - ひみつ - 2008/03/28(Fri) 21:58:39 [No.208] |
└ 宴はいつまでも - ひみつ - 2008/03/28(Fri) 21:57:58 [No.207] |
└ はなさかきょうすけ - ひみつ - 2008/03/28(Fri) 21:57:57 [No.206] |
└ 春の寧日 - ひみつ - 2008/03/28(Fri) 21:56:39 [No.205] |
└ 春の朝 - ひみつ - 2008/03/28(Fri) 17:14:22 [No.204] |
└ 少年、春を探しに行け。 - ひみつ - 2008/03/27(Thu) 21:20:32 [No.203] |
└ 感想ログとか次回とかー - 主催 - 2008/03/30(Sun) 01:35:31 [No.216] |
「修学旅行、好きな人に告白する?」 ホームルームが終わり、先生が教室から出たとたん、そんな声が聞こえてきた。 なんでも「修学旅行で告白が成功したら、その二人は別れることがない」なんていう伝説がこの学園にはあるらしく、修学旅行が近づくにつれ、こういう話題を最近よく聞くようになった。 修学旅行は楽しみだが、私はそういうのに縁遠い。私は好きな人なんていないし、それに――。 そこまで考えたとき、頭の中に沸いて出た考えを振り払う。今から進んで憂鬱になることもない。 そんなことを考えながら、私は教室を出た。 今日は実家に帰らないといけないから早くしないといけない、そんなことを考えながら。 「それじゃあ、今日は早く寝るように」 久しぶりの実家に帰り、食事を終えた後、叔父がそういった。時間はまだ8時。今まで寝たことも、眠らせてもらったことがない時間だ。 「明日は大切な日なんだ、粗相のないように、粗相があったときにはわかっているな?」 最後は目をぎらつかせて叔父はいった。 「もちろんです。では失礼させていただきます、叔父様」 私は頭をさげると、自分の部屋に戻る。 「はぁ…」 部屋に入るなり、ため息が漏れる。いや、ため息しか漏れなかった。 「お見合い、かぁ…」 私は明日、お見合いをすることになっていた。 これだけでも笑ってしまうのに、相手は、最近親から会社を受けついだ、30歳の会社の社長。社長としてはとても若いのだろうが、私からすれば年上としかいいようがない。どうしてそんな相手とお見合いすることになったのかといえば、なんでも、私をこの前開かれたお茶会で見かけたとき一目ぼれし、叔父たちにお見合いを出来ないか、と打診があり、お見合いをする運びとなったらしい。叔父たちいわく、『社会的地位も社会経験も十分あって、しかも私の体に刻まれた傷を全く気にしない、心の広い人』だそうだ。自分で傷つけておいて、こんなことを言えるのだから、叔父たちには反吐が出る。ひょっとしたら、下手に私が家から逃げ出さないため、こんな傷をつけたのかもしれない、と、ふと思った。現に、小学生のころ、間違って長袖の下に隠された傷を男子にみられてから、男子と交流をもつことはなかったし、普通の男子と交流がなければ私の親みたいに駆け落ちすることはないだろう。だったとしたらどこまで最低なのだろうか、この家の連中は。 『これ以上の結婚相手はいないだろう?佳奈多?』 下卑た笑みを浮かべたあいつらの顔が思い出される。本当に、私をなんとも思ってないのだ、あいつらは。下衆にもほどがある。本当に――死ねばいいのに。 わかっていたことだがうんざりする。 私はため息をついた。 わかっていた。道具として生まれた私はこうして政略結婚みたいなのに使われるって。でも。 「いざこうなると厳しいものね…」 本当に、いざこうなると厳しい。 結婚。 今の時代、この年には縁のないもの。それ、をする。好きでもないような下衆な相手と。 考えただけで憂鬱になった。憂鬱にしかなれなかった。 明日お見合いの席でちゃんとできるだろうか。 『修学旅行、好きな人に告白する?』 そういっていた、クラスメイトが思い起こされる。自分ももしこんな家――男女7歳にして席を同じうせずという時代錯誤の精神で育てられ、子どもを道具としてしか見ていない家――に生まれていなかったら、恋に浮かれていたりしたのだろうか。とそんな益体もない事を考えていたそのときだった。 ふと、一人の男の顔が浮かんできた。 学園のある一人の生徒のこと。 「……なんであいつの顔が浮かんでくるのよ」 わけがわからない。ただ春先にちょっとあることがあっただけだ。 春先にちょっとの間、二人っきりになっただけだ。 もしあれを恋の始まりなんていったら笑い話にしかならないだろう。 そんなことを思いながら、私は眠りについた。 この日の夢をみることになるとも知らずに。 ”それはとても小さな春” 「屋上にあがったらいけないでしょう!」 「ほ、ほんとにごめんなさい」 私が叫ぶと、直枝理樹は素直に頭を下げた。 昼休み、いつもの見回りの最中、屋上にいる直枝理樹を発見し、私は直枝理樹を注意していた。最近屋上で自殺騒ぎがあったので先生から誰かが屋上にいないか特に注意するよう言われていたからだ。 「…大体なんで屋上なんかに来たの?」 「ちょっと忘れ物、とりにきて」 「……直枝理樹、あんたしょっちゅうここにきているの!?」 あ、しまった、と直枝理樹がつぶやいた。 「大体、ここ、鍵かかっていなかったの?」 今まで鍵がかかっていなかったが、自殺騒動以来、ここには鍵がかかっていたはずだ。 「あいていたよ?」 そういいながら目が泳いでいた。嘘をつけない性格らしい。 でもとりあえず、今追求することはやめていこう。きりがなさそうだから。 「とりあえず、一緒に、職員室にいっしょにきてもらうわよ!」 「ご…」 直枝理樹が何かをつぶやこうとしたとき、直枝理樹の体がこちらに寄りかかってきた。 「え?」 一瞬何がおこったのかわからない。 しかし、直枝理樹の体が自分の体に触れた瞬間状況を悟る。 まさか――。 「な、何を考えているの、直枝理樹!」 そう叫ぶが、直枝理樹は私の体によしかかるのをやめようとしない。 「きゃあっ」 体が、倒れる。 「ちょ、ちょっと直枝理樹、いい加減にしなさい!」 そういうものの、直枝理樹は無言だ。 私は懸命に直枝理樹から、逃れようとする。手遅れになってからでは遅い。 私は直枝理樹のほうをきっ、とにらもうと、直枝理樹のほうへ顔を向けた。 「くーーー」 ――――え? 直枝理樹は眠っていた。 「直枝理樹、ナルコレプシーだったわね…」 直枝理樹を膝枕しながら、私は去年のことを思い出す。 去年写真つきで、直枝理樹について聞いていた。ナルコレプシーでどこで寝るのかわからないから注意してくれ。といわれていた。だからほとんどあったこともないような、直枝理樹の顔を私はしっていたのか、と今更ながらに納得した。 「くー」 直枝理樹は私のひざの上で眠っている。 俗に言う、膝枕の体制だ。体を少しずつずらしている間にこの体制になってしまった。 「昼休み、終わるまでは、このままでいてあげるわよ」 さっき、失礼なことを思ったお詫びだ。空を見上げる。 相変わらず真っ青な空が広がっていた。ふ、と昔、葉留佳を膝枕したことを思い出す。 二人でたしか品評会までの待ち時間のとき、葉留佳が疲れて寝てしまったのだ。 私はそんな葉留佳に膝枕をした。姉として。 品評会のあと、「なんのつもりだ、葉留佳は見下せ、といっていただろ」といってベルトではたかれたけど。そういえば膝枕したのってそれ以来だっただろうか。 「くーーー」 あのときの葉留佳も、こんな風に幸せそうに寝ていたっけ。直枝理樹もまた、無邪気に笑顔で眠っていた。 女顔してる、と第一印象でおもったけど、こうして寝ている姿はまるで本当に女の子だ。――本当に、かわいい。 あのときの葉留佳をみているようで楽しくなる。 ふ、といたずらしたくなった。 鼻をつまむ。 「ん、んーーー!?」 苦しそうな顔をする。この顔もまたかわいい。破壊力がある。 次は口をふさぐ。 「ん、んーーー!?」 って、何やっているんだろうか、私は。そう思うがとまらない。 そのまま私は、直枝理樹で遊んだ。 そして――。 12:40。昼休みもあと10分で終わるという時間になって。 「あ、あれ?」 直枝理樹が目を覚ました。 「お目覚めですか?」 そう皮肉たっぷりに私はいった。 ――いつもの私どおり、かわいげなく。 ☆ チュンチュン…。 朝になる。目を覚ました。 「そういえば」 あのとき、本当におわったあと本当に寂しい思いをしたことを思い出す。 あのとき直枝理樹と一緒にいることに間違いなく幸せを感じていた。 まるで、昔、一度だけ葉留佳に膝枕していたときのように。 「……きっと誰でもよかたんでしょうけどね」 きっとほかの人物でも私はそうおもっただろう。ただ、私に膝枕されたのが直枝理樹だった、というだけで。 それはとても恋とは呼べない、恋とよぶのはおこがましい、ただ、私が幸せだったという感情。 ――それが、それだけが、今の私には重要だった。 「ありがと、直枝理樹」 ああいう気持ちにさせてくれて。 異性と今までそんなにつきあいがなかった私にはアレだけでも十分だった。 大丈夫、きっと私は今日がんばれる。どんな最低なお見合いでも。 そんなことを思いながら私は朝の準備を始めた。 [No.212] 2008/03/29(Sat) 02:03:12 |
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