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あの子はずるい。 ずるい。 もう一度繰り返して、彼女は唇を尖らせる。 あたしのためなんて言っておいて、全部あたしに厄介ごとを押し付けた。 彼女の表情に浮かぶものは、苦さと、怒りと、苛立ちと、そしてわずかな笑み。顔というパレットに溶かして、深みの増した色を作り出す。 彼女は手を伸ばす。 そこには男の子がいて、女の子が一人いた。 幸せを望んでいたはずなのに、女の子は男の子から姿を消した。 あたしのため。 彼女はため息とともに呟いた。 嘘ではないことは分かっている。あの子はあたしに対して嘘をついたことはない。 「西園さん」 「はいはい」 あの子のクラスメートはあたしのクラスメート。 笑顔のやり取り、あの子はこんな笑顔を誰かに見せたことがあるのだろうか。 決してできないはずはないのに。 傘を通してでしか見ていなかった世界。それも自分のせいなのだろうかと、何者かに与えられた日々に、彼女はそれでも精一杯生きようとしていた。 しかし。 「理樹くーん」 『西園さん』 その響きには明らかな拒否。世界が彼女の存在を認めていても、頑なに彼は認めようとしない。 ピースが一欠けら足りないパズル。 空の青。 海の青。 彼はどちらにも染まらない鳥のよう。 こんなところまであの子に似ていなくてもいいのに。 彼女の心にまたひとつ新しい感情が生まれる。 ああ、そうか。 彼女とひとつであったのだから不思議ではない。そう思うと、すとんと心に落ちていくように彼女には感じられる。 だからこそあの子は彼に惹かれたのだと。 そして、きっとおそらく……。 ずるい。 再び彼女は繰り返す。 あの子は逃げたはずではなかったのか。 拠り所を彼に残して置き、また彼もそれを拠り所に。 言葉を形に残される。 それはまるで絆とも言うべき、強固な繋がり。 初めから勝ち目なんてなかった、そう自覚するまでに時間はかからなかった。 だから、あたしは幕を下ろさないといけない。 彼女は決意する。 あたしは『ミドリ』。 青のようで青ではない存在。 海の底深くから空を見上げる魚の目に何が見えているのか分からないけど。 あの子はずるい、そう思うけど、結局あたしはあの子が好きなんだと。 あっけないほど短い物語がつづられた本をゆっくりとめくるように、日々を楽しんで。 彼女は彼をあるべき場所へと導く。 美しき魚が潜むその場所へと。 現実と幻の狭間から彼女は生まれた。 だから、彼女は翼を翻して、あるべき場所へと還っていくのだ。 一つの願いを残して。 幸せでありますように、と。 だけど、彼女は引き止められた。 彼女の半身もまた、幸せを願っていた。 「「ありがとう」」 ふたりは初めて心から分かり合えた、そう思えた。 小さな、小さなふたりだけの物語はこうして終わりを告げる。 [No.229] 2008/04/11(Fri) 23:01:20 |
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