第7回リトバス草SS大会(仮) - 主催 - 2008/04/09(Wed) 22:56:46 [No.217] |
└ 猫は笑顔を求める - ひみつ 初、甘、遅刻 - 2008/04/12(Sat) 16:48:51 [No.235] |
└ ある現実。 - ひみつ@初 - 2008/04/12(Sat) 14:30:58 [No.233] |
└ 私の幸せ - ひみつ@ちょいダーク - 2008/04/12(Sat) 05:43:01 [No.232] |
└ 幸薄い - ひみつ@ぢごく - 2008/04/12(Sat) 05:20:04 [No.230] |
└ 願い事ひとつだけ - ひみつ - 2008/04/11(Fri) 23:01:20 [No.229] |
└ 儚桜抄 - ひみつ - 2008/04/11(Fri) 22:15:05 [No.228] |
└ 幸多き妄想の海にて少女はかく語りき。 - ひみつ - 2008/04/11(Fri) 21:52:10 [No.227] |
└ ただ「生きる」ということ - ひみつ@容量越えのため厳しくお願いします - 2008/04/11(Fri) 21:48:46 [No.226] |
└ 幸福論 - ひみつ - 2008/04/11(Fri) 21:05:59 [No.225] |
└ 恭介の一問一答 - ひみつ - 2008/04/11(Fri) 03:53:14 [No.224] |
└ [削除] - - 2008/04/11(Fri) 03:51:42 [No.223] |
└ 個人の力は無力に近し - ひみつ - 2008/04/10(Thu) 23:03:31 [No.222] |
└ 棗家スタイル - ひみつ - 2008/04/10(Thu) 19:19:51 [No.221] |
└ シアワセの在り方 - ひみつ - 2008/04/10(Thu) 11:56:52 [No.220] |
└ [削除] - - 2008/04/10(Thu) 11:49:33 [No.219] |
└ 感想ログと次回と - 主催 - 2008/04/13(Sun) 02:33:14 [No.236] |
「あ」 はらり、と視界の端を白が舞う。 「どうした、理樹」 後ろで危なっかしく食器類の整理をしていた――はずだが、いつの間にか先日拾った猫にミルクをやっている――鈴が、不意に上がった理樹の声に反応した。 舞った白い紙は、理樹が手にしていた漫画本に挟まっていたものらしい。 春。大学への進学を決め、2人は新しい生活を始めた。かつて暮らした町から遠く離れた大学に通う事は、リセットは出来なくても、心を切り替えるにはいい機会でもあった。 引っ越し。大抵のものは順次揃える事にしていたが、それでも最低限必要なものや持って来るものはある。 その中の一つが……恭介の遺品である漫画本だった。これと言って大した趣味の無い理樹と鈴が、時間が合わずアパートで1人で居る時の暇潰しになればと読めそうなもの、或いはかつて読んだものを選んでいくつか拝借してきたのだ。 鈴がフローリングの床の上に落ちた紙を手に取る。2つ折りになっていた。 「紙……中になんか書いてあるな」 比較的薄い紙で、中に何かが書かれている……と言う程度の事は簡単に分かった。 理樹が鈴の隣にしゃがみ込み、覗き見るように顔を寄せた。 「なんだろう、これ」 「面白かったページのメモ書きじゃないのか? 或いはえろいページの」 「いやまあ、……うん」 ありそうだけど、と言いかけて理樹は飲み込む。 本当にえろいシーンのページがメモしてあったとしたら鈴に内緒で……なんて事は無い。絶対に無い。 だいたい一応一般誌に分類される漫画でそんな所業が出来るほど子供ではないのだ、理樹は。もっとこう過激な……なんの話だ。 鈴が折ってあった紙を開き、目を通す。 「うん、やっぱりきょーすけの字だ」 「すごいね……パッと見でわかるんだ」 「うんにゃ、小学生のころ、あたしが提出した夏休みの日記を書いたのが実はあいつだと見破った教師のほうが多分すごい」 「それ胸張って偉そうに言う事じゃないからね」 「な、なにぃ……今のあたしは物凄く謙虚だったと思うぞ」 「とりあえず鈴は謙虚の意味を学ぶべきだと思う……。……ところで、なんて書いてあるのかな?」 「えっと……『最近、気付いた事がある。」 ……そこには、恭介が見た理樹と鈴の距離……と言えるものが書いてあった。 明らかに互いに気のある2人。けれど近付かない距離。その事に気付きすらしない2人。 けれど2人なら幸せになれると、理樹なら最愛の妹を、鈴を任せられると。 まだまだ弱い2人を強く出来るか、そうなればいいとは思っても恋心など押し付けられるものではないから、放っておくべきか……など。 それは、恭介が他人に漏らす事の出来なかった不安を、独り言のように書き綴ったものだったのだ。 「……まだ時間はある。卒業までに、2人に出来る限りの事を』」 「恭介……」 淡々と読んでいた鈴の方が震え始め、理樹はそれに触れる。 けれど理樹の肩も震えていて、その震えは指先まで伝わっていて、何の意味も成さなかった。 卒業までは叶わず、それでも恭介は2人を強く、強く生きられるようにしたのだ。 「……ずっと、事故に遭うよりずっと前から恭介は僕たちの……ううん、もしかしたら全員の幸せを願っていてくれたのかな」 「かもしれない。あの……ばか、あにき」 次第に、鈴の声には嗚咽が混じる。 傍らの猫が見上げ、なにごとかとばかりににゃーと鳴いた。 鈴の手から紙を取り、理樹も直接目を通す。……と、隅に小さな字で、付け加えるように何か書かれていた。 文量はそれなりにあり、普通に気付けるものだが、鈴はここまで読んで気付く余裕をなくしていたらしい。 なんだろう、と理樹は思う。なんとなしに、読み始める。 「『だが理樹だって男だ。周りには魅力的な女性もたくさん居る。今は大丈夫だろうが、やはり今のままの鈴では不安だ。』」 「続き……か? あたしのこと?」 「みたいだね……えっと、『鈴には今ひとつ魅力が足りない部分がある。意外とモテるし、その事は兄として誇らしい……だけど足りないんだ。圧倒的に」 理樹は一息入れ、動揺しかけた自分を落ち着かせる。 そんな事は無い、そんな事は無いんだと自身に強く呼びかけ、そして、続きを読みきる。 「……まぁ、何と言うか胸が【 幸 薄 い 】。うん、薄い。能美は論外にしても西園とは戦力的に同等……他とは、比べ物に(;;』」 「………………」 「………………」 「………………だれの胸が幸薄いって?」 「…………ねぇ、り」 「あたしの胸が不幸の産物だとでもいいたいのか!? 今すぐぶっ殺してやるから出て来いこの馬鹿兄貴ー!!」 「……いや、落ち着いて。既に死んでるから」 台無しだ。感動が台無しだ。さっきと同じ『馬鹿兄貴』と言う呼び方なのに、180度回転してギロチンで切断してしまったくらいの勢いで篭っている感情が違う。 でも躊躇無く頷いてしまった自分自身が一番台無しだ、と理樹は自嘲した。 「……死んでもなお失礼なやつだな。しかもなんだこれ、めったに使わない顔文字まで入れてかっこでおおって思いっきり字と字の間が開いてるじゃないか」 「それだけ不安だったんじゃないかな……」 「理樹……お前はどう思う? あたしの……その」 腕で胸を隠し、目を逸らし頬を染めて鈴は問うた。 その仕草に興奮を覚え、しかしそれを隠して。 理樹は……しばし逡巡し、返した。 「もちろん大好きだよ」 「手をわきわきしながら鼻血だされたらしょうじき嬉しくないな。むしろ全力でキモい」 立ち上がった鈴が足を上げ、低姿勢のままにじり寄って来る理樹の頭頂部目掛けて振り下ろした。 理樹は頭を抑えて蹲り目玉だけを動かし、珍しく私服でスカートをはいている鈴を絶妙な角度から見上げる。 三毛猫風味だった。白も縞々も越えた新領域。実に新鮮である。 「じゃあ理樹、もうひとつ聞いていいか」 「うん、何なりと」 「理樹は胸がちっさくてもあたしのなら、満足してくれるのか?」 ぴしっ、と音がしてもおかしくなさそうな雰囲気で、周囲の空気ごと理樹が固まる。 表情を変えず、しかし返答に窮し、そのまま短くは無い時間が流れて行く。 あらゆる思考の末に何とか結論を導き出した理樹は、腕を組んで真剣な表情を作り、正面に居る鈴に答えを返した。 「そりゃ、大満足だよ」 「理樹、すごくいいことを教えてやろう……あたしは今、こいつとの散歩からもどってきたところだ」 にゃーご、と鈴の足元の猫が鳴いた。 猫って散歩に連れて行くモンじゃないよなぁ、と思いつつも笑顔を作る。 だいたい、まだ引っ越してきたばかりでろくに道も知らないはずだ。 まぁせいぜいアパートの周りをゆっくりと10分くらいかけて回ってきたのだろう。 なぁに10分くらい。 辛い過去を乗り越え紆余曲折の末に同棲と相成った可愛い恋人のおっぱいから連なる脳内世界のおっぱい真理について考えるなら許容範囲、むしろ早いくらいである。 おっぱおー。世界は胸で出来ていた。 そうか、つまり、と理樹は思った。 「ねぇ鈴、僕、いいこと思いついたんだ」 「うん?」 「その猫に、色んな願いを込めて『おっぱい』と言う名前をへぐぅ!?」 「ふざけんなこのエロ魔人!!」 「この子メスなんでしょ!? ならこれ以上に相応しい名前は!!」 「というかまず落ち着け。理樹は普段そんなこといわないじゃないか」 「ハッ!」 我に返った理樹ではあるが何故か鼻血が垂れていた。 もう色々とダメっぽい見た目ではあるが、その分だけ冷静さは取り戻したのか、鈴に一言声をかけるなり布団を引っ張り出す作業に戻っていた。 真昼間である。と言うか先ほど理樹がしていたのは引っ越しに際し持ってきた本の整理である。 客観的に見て脳内は全然冷静じゃなかった。きっと、今の理樹の脳内では理性と本能がせめぎあい、その隙に勝手に身体が動いているに違いない。 「さぁ、鈴、用意出来たから一緒に寝よう」 「だからおちつけ理樹」 にゃご、と猫が面倒くさそうに鳴いた。 「でも、僕は、今、僕の中の真実を確かめたいんだ!」 「あたしには理樹が何を言っているのかわからない」 「これだけじゃ足りなかったね。……鈴が大好きだから、その胸の真実を確かめたい」 「ようするにエロいことしたいんだな」 「鈴だって嫌じゃないでしょ。この前、こうしてると幸せだって言ってたじゃない」 「しちゅえーしょん、とかそういうのがある」 鈴だって女の子である。 こんなはちゃめちゃな展開からそういうのも嫌なのだ。 思えばこの状況は、恭介が生前に書いたメモから招かれたもの。 死して尚、メモ1枚で2人にこれほどの影響を与える恭介、恐るべしである。 「鈴」 理樹が優しく、呼ぶ。 「理樹?」 だから、鈴は優しく返す。 「安心して、鈴。恭介やみんなが僕たちを強く育ててくれたように…………もし鈴が望むなら、僕が育ててみせる」 「あたしは……別にこのままでいい」 そう言いつつも、鈴の表情は僅かに陰った。 先ほどメモで怒った事と言い、多少は気にしているようだ。 でも、 「それならそれで」 「いいまとめ方しようとしたけどようするにあたしとエロいことしたいってことだよな」 「うん。育てるには、揉むしかないから」 「いや、あるだろ他にも。…………多分」 「そうだとしても、2人で頑張りたい」 「理樹の、エロ大魔王」 幸薄かろうが、そんなのは胸だけの話だ。 2人はきっと、幸せになれる。エロくとも。 ぎしぎし。 [No.230] 2008/04/12(Sat) 05:20:04 |
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