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No.232へ返信

all 第7回リトバス草SS大会(仮) - 主催 - 2008/04/09(Wed) 22:56:46 [No.217]
猫は笑顔を求める - ひみつ 初、甘、遅刻 - 2008/04/12(Sat) 16:48:51 [No.235]
ある現実。 - ひみつ@初 - 2008/04/12(Sat) 14:30:58 [No.233]
私の幸せ - ひみつ@ちょいダーク - 2008/04/12(Sat) 05:43:01 [No.232]
幸薄い - ひみつ@ぢごく - 2008/04/12(Sat) 05:20:04 [No.230]
願い事ひとつだけ - ひみつ - 2008/04/11(Fri) 23:01:20 [No.229]
儚桜抄 - ひみつ - 2008/04/11(Fri) 22:15:05 [No.228]
幸多き妄想の海にて少女はかく語りき。 - ひみつ - 2008/04/11(Fri) 21:52:10 [No.227]
ただ「生きる」ということ - ひみつ@容量越えのため厳しくお願いします - 2008/04/11(Fri) 21:48:46 [No.226]
幸福論 - ひみつ - 2008/04/11(Fri) 21:05:59 [No.225]
恭介の一問一答 - ひみつ - 2008/04/11(Fri) 03:53:14 [No.224]
[削除] - - 2008/04/11(Fri) 03:51:42 [No.223]
個人の力は無力に近し - ひみつ - 2008/04/10(Thu) 23:03:31 [No.222]
棗家スタイル - ひみつ - 2008/04/10(Thu) 19:19:51 [No.221]
シアワセの在り方 - ひみつ - 2008/04/10(Thu) 11:56:52 [No.220]
[削除] - - 2008/04/10(Thu) 11:49:33 [No.219]
感想ログと次回と - 主催 - 2008/04/13(Sun) 02:33:14 [No.236]


私の幸せ (No.217 への返信) - ひみつ@ちょいダーク

「誰かが幸福になれば誰かが不幸になるゲーム」
 世界をこう評した誰だっただろうか。哲学者、だったのか小説家だったのか、それとも、うちの親戚の誰かがどこかで言っていたのか。それはどうしても、思い出せない。
 だけど、もし、この言葉が正しいのだとしたら。
 私は幸せでなくったっていい。葉留佳が幸せで私が不幸なら、それでいい。
 この言葉を知って以来、これが、私の願いだと、ずっとそう、思っていた。そのことを私は、疑いもしなかった――。



『私の幸せ』



 夢をみている。本当に、嫌な夢を。
 あまりにも嫌で、本当に何度も見た夢だから、今見ている光景が、夢だとわかってしまう夢を。

「酒に、なったか?」
 雨の中、葉留佳の頭を鷲づかみにし、泥にたたきつけながら、叔父がいう。
 この日は、年に一度の斎場で儀式の日だった。何の意味がわからない、鈴を祀った小さな社に、三枝家が戦後勝手につくった斎場で一年の感謝を述べたりする日だ。この年は叔父が事業で大失敗し、その失敗が事件を起こした三枝晶の娘である葉留佳に押し付け――葉留佳を神に赦してもらうため、無理やり土下座させているのだ。「ごめんなさい、ごめんなさい」何度、葉留佳はそういっただろう。
 服はぐっしょりとぬれ、たたきつけられた顔はすでに傷だらけになっていた。それなのに、
「酒に、なったか?」
 下卑た笑みを浮かべながら、叔父はやめない。赦してもらったら、酒になる。そう、葉留佳に言い聞かせ、何度も何度も土下座させている。この社には泥水を、お酒にしたという伝説があるらしく、それを実現させようとしているのだ。……そんなどこにでもあるような逸話を本気でやろうとしているのだ。狂っているとしかいいようがない。
 私は何も出来ず、ただ、祈るしか出来なかった。「はやく、こんなことやめてください」と。本当にただ、私は祈ることしか出来なかった――。
 


 そこで、目が覚めた。あの夢をみたあとはいつも気分は最悪だ。たしかこのときは、ふと鳴った鈴の音により、神が赦した、として終わりになったのだったか。そんなことをうすぼんやりと思い出す。
 私はぼんやりとした頭であたりを見渡す。相変わらず、私はここにいた。8畳ほどの大きさで、畳張りの何もない、がらんとした部屋に私はいた。押入れの中には何かあるのかもしれないが、のぞく気にもなれなかった。唯一ある入り口には鍵がかけられ、出ることはできない。そう、私は、今座敷牢に閉じ込められていた。もう、ココに閉じ込められて、何日たっただろうか。
「反省、したか?」
 そんなことを考えているとドアをあけ、いつもどおり叔父が入ってきた。私は何もいわず、ただ、叔父をにらんだ。
 叔父はそんな私に腹をたて、いつもどおり、ベルトで私をたたく。何度も、何度も。あれほど、痛かった、痛くて痛くて泣いたこともあるのに、もうすっかり、慣れてしまったのか、感覚がないのかわからないけど、本当に痛みをほとんど感じなかった。
「死にたくなかったら、さっさと反省するんだっ」
 何度も革のベルトでそう叫んで、出ていった。
 それと同時に食事が入ってくる。たっぷりの、玉子焼き。
 私が卵アレルギーだと思い込んでいる叔父が、こんなことをする理由は明らかだ。
 こんなことで、昔卵アレルギーだと嘘をついたのが、役にたつとは思わなかった。玉子焼きを口にする。
「…!?けほっ、けほっ」
 水もここ数日、ほとんどのんでいないため、吐き出してしまった。私はこのまま死ぬのかな、そんなことをぼんやり考える。
 しかし、それもいいかもしれない。だって――。葉留佳はもう、いないのだから。


 修学旅行のときのことを思い出す。楽しいはずの修学旅行はあるときを境に一変した。葉留佳がのっていたバスが、がけから落ちたのだ。
 葉留佳を助け出そうと、私は、急いでバスを降りた。「葉留佳、葉留佳っ」と、何度も叫びながら。でも私は、先生に取り押さえられた。「妹の、葉留佳がのっている」そう何度いっても、離されることは決してなく――バスが爆破して、助けだすことは出来なかった。
 修学旅行はもちろんその場で中止。帰りのバスの中、バスに乗っていた全員が死亡した、と聞かされた。私はぼんやりと、その話を聞きながら学園にもどり、そして、ここに閉じ込められた。
 二木家の名誉を傷つけたとして。
 私の妹が葉留佳だとしられてしまったから私は閉じ込められた。私の様子が、二木家に連絡がいき、私は閉じ込められた。「お前は葉留佳を見下しているんじゃなかったのかっこの大嘘つきがっ」そう何度も罵られ皮のベルトでたたかれた。
 そして現在にいたる――というわけである。



 …気がつくと、葉留佳がまた、雨の中、土下座していた。ああ、また私は夢を見ている、と気づく。
 また、この夢だ。ということは、いつの間にか、気を失ったのか、そう、ぼんやりと思う。
 また、夢の中で葉留佳はなんどもたたかれていた。



 バシンッ
 革のベルトでたたかれているらしい感触で私は目を覚ました。いつの間に入ってきたのか、目の前をみると、叔父がいた。
「昼寝とは結構な身分じゃないか」
 そう叔父いうが、そんな叔父に私は何もいわない。無視するとたたかれる、としっていて。
 本当に、どうでもよかった。想像通り、叔父はベルトを振り落としたが、私は何も言わなかった。
 反応のない私に業をにやしたのか、いつもより、さらに力を込めているらしく、顔を真っ赤にして、ベルトでたたいた。
 それでも私はなにもいわなかった。
「次はもっと強力なのをもってくるからな」
 そういって叔父はさっていった。体を見ると、また傷が増えていた。本当に強くたたかれたらしい。しかし、そんなこと、どうでもよかった。
 葉留佳は、もう、いないのだから。
 ……私が葉留佳を殺したのもおなじなのだから。 そう、私が葉留佳を殺したのは間違いない。
 あの子がクラスで浮いている存在なのは前から知っていた。誰もクラスで葉留佳に話しかける人間なんていなかった。
 ほかのクラスでもきっと彼女は受け入れられてなかっただろう。そして、同じクラスに彼女の嫌いな私が同じクラスにいたのだ。
 だから私は、葉留佳を学園から追い出すべきだったのだ。
 それができなかったから――、葉留佳は死んでしまった。
 私が葉留佳を――。
 だから私は今しんでも。



 いい加減にして。



 ふと、声が聞こえてきた。


「はる…か?」
 目の前をみると、葉留佳がいた。いるわけが、ないのに。ましてやこんな座敷牢に入ってこれるはずがない。
「葉留佳、なの?」
 もういちど聞く。葉留佳は私をにらみつけていた。葉留佳は私の問いに答えずいう。
「何、悲劇のヒロインきどり?自分が世界でいちばん可哀想だとおもっているんでしょ?あんたはそうおもう資格なんてあるの?大体あなたは私を追い出すなんてできない。あんたは私がどんなに不幸でも、関係ないんでしょ?」
 違う、そんなことはない。信じてもらえないかもしれないけど、私はこれでも葉留佳の幸せを、
「祈ってないでしょ?あんたも二木家のほかの人間と同じ。あんたは、自分の幸せしか考えていない。だから私がどんなに不幸でも関係ない」
 葉留佳はそういうといっそう私のほうを強くにらむ。
「あんたの望みはただ、私が近くにいてほしかっただけ、あなたはただそれだけで良かった。いや、私がいれば、私がどうであろうと関係がなかった、それはあんたにとってどうでもいいことだった」
 どうでもいい、なんておもっていない。だって、自分が好きな人の幸せを祈る事は当然でしょ?
「普通なら、そう、でもあんたはちがう、だって、あんたは最低だから、本当に、最低だから、だからあんな――私がたたかれる夢をこんな場所で、みる。これがあなたの強烈な思い出だから。私とのある意味、一番の思い出にすがっている。私の存在を強烈に確認したくて」
 そんなことはない、そんなことは、ない、そうおもったが口が動かなかった。そうだ、私はなんであんな夢をこんな場所でみている?
「そもそも、あんたは本当に死のうとおもっている?助け出される、とおもっていない?」
 え?
「私を両親に引き取ってもらったとき、いつか、助け出してやる、そう両親が言った言葉が本当は希望なんじゃない?あなたは私のためじゃなくて、あくまでも自分のために両親を探し出した。だからあなたは本当はまったく死にたくない。死にたいっておもって、自分をかわいそうがっているだけ、そうおもうことがあなたの最高の快楽、あなたは徹底的なマゾヒスト、だから」
 そんなことは、ない。
「だったら、証明してみせて押入れの中にナイフがあるから」
 そう、最後に葉留佳はいった。


 そこで、目が覚めた。さっきまでみていたのは夢だったことを今更ながらわかる。
 ちがうちがう、ちがう。
 うわごとのように私はつぶやく。
 私は間違いなく、葉留佳の幸せを祈っていた。間違いなく祈っていた。葉留佳が大好きだった。
 私は、本気で葉留佳が幸せなら私が不幸でいい、そうおもっていた。
 そう、おもっていた。
”だったらどうして、死なないの?”
 頭に響いたその言葉で、ふらふらと押入れの中を開ける。
 そこには、確かにナイフがはいっていた。しかし、そこで立ち止まる。
 死ねない、たしかに、死ねない。
”最低、だからね”
 そんな声が聞こえてくる。いえ、私は死ねる。本当に、死ねる。
 私はナイフで手首を切った。
 血が出た。それでもかまわず、なんどもなんどもきった。痛みは感じない、まったく、感じない。それどころか、気持ちよかった。
 その感覚に、戸惑う。
”本当は死にたくないから”
 葉留佳のそんな言葉が頭の中にひびく。ちがうちがうちがう!
 私はあなたのためなら――死ぬことが、できる。あなたがそれを望んでいるのなら、こんな葉留佳がいない世界から死ぬことが出来る。
 私は意をけっして、首をきった。
 ――そこで私は意識を失った。
”よく、出来ました”
 葉留佳はそういうと――髪飾りをほどき、頭を後ろからたたいた。そこに、たっていたのは――自分だった。
”――ほんと、最低のマゾヒストね”
 にやっと想像の中の私は笑っていた。そこにたっていたのは葉留佳ではなく、自分だった。私は声のない、悲鳴を叫んだ。



 薄れゆく、意識の中で私は思う。本当に自分はダメな姉だったと。
 葉留佳のために、何もしてやれなかった。
 ねぇ神様。
 もしいるとしたら。
 私がいい、姉であることを証明させてください。
 お願い、します。




『だったら、証明してみせろ、そのチャンスをやろう』
 え?
 そんな声が突然聞こえ、
 チリン。
 ふと、鈴の音がなった気がした。



 気がつくと、私は学園にいた。
「それでは、整備委員会は風紀委員会に統合ということでよろしいでしょうか」
 生徒会長のそんな声が聞こえてくる。ここは、どこだろう? そしてどういう状況なんだろう?
 カレンダーを見ると、5月だった。 そしてこの議題。
 私は夢をみているのか。
 ふと、外を見ると、葉留佳が歩いていた。
 ここはいったい、なんなの?
「風紀委員長?意見をお願いします」
 ぼーーっとしている私をみて生徒会長がいう。そうだ、私はこのとき反対したんだ。葉留佳がいたから。 でも、今は。
「賛成です」
 この私の言葉を皮切りに統合賛成、となった。実際は、存続したのに。
 

 そうだ、私は、これくらいできる。それを証明していこう。この夢の中で。

―――
――
 一ヵ月後。そう、この世界にきてから一ヶ月がたっていた。
 冗談みたいだが、夢が一ヶ月続いている。
 校門で葉留佳が髪をほどき、直枝理樹に何か言っていた。葉留佳が、退学届けをだしていることは確認済みだった。
 これが、最後の別れ、ということか。ああ、私は、出来た。妹を追い出すことが出来た。
 それが出来て本当に、よかった。
 私は、良い姉だった。


 そう証明できて、私は幸せ、だった。


[No.232] 2008/04/12(Sat) 05:43:01

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