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all 第8回リトバス草SS大会(仮) - 主催 - 2008/04/23(Wed) 20:37:59 [No.239]
さいぐさはるかが大学でぼっちになっているようです。 - ひみつ - 2008/04/25(Fri) 22:04:52 [No.250]
Invitation to Hell(原題) - ひみつ   グロ注意 - 2008/04/25(Fri) 22:00:53 [No.249]
虚構世界理論 - ひみつ - 2008/04/25(Fri) 21:55:39 [No.248]
誰かが何かを望むと誰かがそれを叶えるゲーム - ひみつ - 2008/04/25(Fri) 21:12:18 [No.247]
Engel Smile - ひみつ - 2008/04/25(Fri) 18:30:18 [No.246]
笑顔(SSのタイトルはこちらで) - ひみつ - 2008/04/26(Sat) 08:41:43 [No.251]
夏祭りトーク - ひみつ - 2008/04/25(Fri) 18:30:17 [No.245]
小さな頃の大切な想い出 - ひみつ - 2008/04/24(Thu) 20:17:47 [No.244]
笑う、ということ - ひみつ@初 - 2008/04/24(Thu) 18:57:03 [No.243]
笑顔の先に - ひみつ@甘 - 2008/04/24(Thu) 10:56:09 [No.242]
遥か彼方にある笑顔 - ひみつ@長いですスミマセンorz 初めてなので優しくしてもらえると嬉しいかも - 2008/04/24(Thu) 02:49:25 [No.241]
感想会ログー次回ー - 主催 - 2008/04/27(Sun) 01:58:36 [No.253]


Invitation to Hell(原題) (No.239 への返信) - ひみつ   グロ注意

「珍しいな、今日は小毬君の部屋か」

 買い物から帰ってきてドアにメモが張り付けられているのを見て思わずひとりごちた。

『今日は私の部屋でお泊まり会を開きます。ゆいちゃんも来てね。小毬』

 小毬君らしいと言える丸みを帯びたかわいらしい文字でそう書かれてあった。
 やや疲れはあるがそのようなものは誘いを断る理由にはならない。
 リトルバスターズのメンバーと過ごす時間は今の私には至福の時といえるものだから。





 コン、コン、ガチャ

「やあ、み……」
「クーちゃん、かわいい。本当に絵本から出てきたみたい」
「そうですか。そんなに褒められると照れてしまいます」

 バタン

 ……気のせいだな。あのような光景あるはずがないな。

 ガチャ

「あら、あなたでもそのような格好をすれば少しはかわいらしく見えますね」
「お前はどんな格好をしてもかわいくないな」
「何ですって」
「ああん、りんちゃんもさーちゃんもけんかしたらメッ」

 バタン

 いかんな、季節の変わり目だし風邪でもひいたかな。今日は早めに切り上げた方がいいかもしれない。

 ガチャ

「だらしないわね、葉留佳。タイが曲がってるわよ」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「だから前から注意していますように、こういう場合はお姉さまと言わなければなりません。そうですよね、来ヶ谷さん」
「あっゆいちゃん。いらっしゃい」

 この場から逃げ出したかったがどうやら逃げる機会を失ってしまったらしい。
 頭がくらみそうになるが、それでも意を決して小毬君にこの状況について尋ねてみる。

「小毬君、これはいったい何なのだろうか?」
「ううん、お泊まり会だけど今日はみんなでファッションショーかな」
「ああ、ふぁっしょんしょーか……」

 思わず棒読みになってしまう。
 それぐらいこの部屋の人間のファッションセンスは異次元へ向かっていた。
 こんな狭い部屋の中にロリータファッションに身を包んだものが7人。
 こんな光景はかつて想像したことはなかった。










 ようこそ☆来ヶ谷秋のロリヰタまつり(邦題)










 美魚君が出してくれた紅茶を飲むうちに少し私は落ち着きを取り戻した。
 しかし、そうしたところで目の前に広がる光景は一向に変わらない。
 できれば本当に私が何らかの理由で幻覚を見ていただけだったらよかったのだが。





「来ヶ谷さん、何だかお疲れのようですが大丈夫ですか」
「ああ、大丈夫だ。いや、それにしても良く似合ってるな、お姉さん驚きだよ」
「ありがとうございます。小毬さんは色々とかわいい服を持っているからふぁっしょんの勉強になります」
「できれば反面教師にした方がいいと思うがな」

 今のクドリャフカ君は青いワンピースに白いエプロンドレス、そして頭に変則的な形のリボンをつけさらにはウサギのぬいぐるみを胸に抱いている。
 早い話がディズニー映画の不思議の国のアリスをイメージしたようなファッションだ。
 いくらクドリャフカ君が幼い外見をしているとはいえ、こういうのは流石に幼稚園児とかのファンが着るようなたぐいのものではないのか。
 でもあのテーマパークは熱狂的なファンを大人にも多数抱えているしな。
 ひょっとしてこれも普通に大人向けなのだろうか。





 それにしてもこのようなコスプレ姿が、お世辞とか抜きでほんの少しだけ似合っているかもと思わせるなんて恐るべしクドリャフカ君。
 いや、クドリャフカ君だけに限った話ではないかもしれない。
 常識的に考えればありえない格好の集団のはずなのに、ひょっとしてギリギリセーフではないかと思わせるとはなんというスペックの持ち主たちだ。
 よくよく考えてみればリトルバスターズのメンバーさらには今日はプラスしている佳奈多君も佐々美君も、色々な意味で常識破りのスペックの持ち主のであるからな。
 必ずしも驚きには当たらないか。










 いや、待て、気をしっかり持つんだ。
 この雰囲気に飲まれてどうする。
 この状況で突っ込まなくて一体いつ突っ込めばいいというんだ。
 理樹君、君の突っ込みのセンスをほんの少しだけ分けてくれ。
 ……すでにこういう思考に陥っている状況が理樹くんに突っ込まれそうだな。
 さて、誰に突っ込めばいいだろうか。
 私は小毬君に対して絶望的に相性が悪いから無理だ、またゆいちゃんゆいちゃんを繰り返されて返り討ちにあうだろう。
 鈴君は……小毬君に言われるがままあんな格好をしているのだろうし、私の突っ込みではまるで理解してくれないだろう。
 クドリャフカ君は一度褒めた手前いまさら突っ込めないな。
 葉留佳君は……そうだ葉留佳君なら大丈夫だ。
 私が突っ込んでも葉留佳君ならうまくリアクションを取ってくれて、きれいにオチを付けてくれるだろう。





「葉留佳君、おかしくないかその格好」
「え、姉御なんかおかしいのかな。ごめん、私オシャレとか知らずに育ったからよくわからないんだ」
「えっ……」
「お前みたいなクズにはそんな恰好がお似合いだとボロボロの服を着せられて、それでも足りないのかお姉ちゃんに負けた時は裸で蔵に閉じ込められたりしたし」
「葉留佳……」
「あ、お姉ちゃんは気にしなくていいよ、悪いのはあいつら何だから。というわけで姉御だったらファッションとかも詳しそうだし、なんか変なところあったら教えてくれる」
「……その、ごめん。よく似合っている」

 重い、とんでもなく重い。
 葉留佳君がこうであれば多分佳奈多君もあまり差はないだろう。
 この姉妹がどんな格好をしてもそれに突っ込んだら100%突っ込んだ側が悪い。
 葉留佳君なら何を言っても笑ってる流せるだろうと甘く見ていた私が馬鹿だった。
 それにしても突っ込みがこれほど神経をすり減らさなければこなせないものだったとは。
 それを易々こなす理樹くんはなんとすごい男なんだろう。





「来ヶ谷さん顔が真っ青ですよ」
「ああ、いろいろ考えることが多すぎて」

 いわゆるゴスロリという奴だな。
 黒をベースにふんだんに白いレースを取り入れ胸元には赤いリボン。
 頭にも同様に黒いヘッドドレスの着用。
 美魚君の白い肌に黒をベースにした服は映え、正直なところかなりつぼに入る。

「美魚君は今日の集まりに関して何か疑問とかは抱かないのかな」
「疑問ですか……最初はこのような集まりはどうかと思ったのですが、いざ色々と着てみると変身願望というのでしょうか。何かいつもと違う自分になったみたいで」
「うむ、いつもと違うというのはよくわかる」
「ただ、こういうコスプレ感覚で着るのは真面目にロリータファッションを究めようとしている人に対して失礼だと思います。ロリータファッションもボーイズラブも悲しいですけれど白い目で見られることが多い文化ですから、ロリータファッションの愛好家の努力に敬意を表さないと」

 また突っ込みにくい感想を述べる。
 真面目に取り組むというのは一番効果的な突っ込みへの対処法なのだろうか。





 あと残されたのは佐々美君か。
 もう既に返り討ちにあうだけだろうなという気がしれないでもないが、それでも一縷の希望を抱いて突っ込もう。

「佐々美君、普段は我々と一線を画しているのにこんな時だけいるなんてなかなか面白いな」
「見ているとリトルバスターズの皆さんはあまり服のセンスが良いとは言えませんし、差し出がましいかもと思いましたがわたくしが少しファッションというのを教授しようと思いまして」
「えっ!?」
「ゆいちゃん、さーちゃんてものすごくオシャレさんだよ。さーちゃんに教えてもらうまでItaruなんてデザイナーさん全然知らなかった」
「まったく皆さんもわたくしを見習って、ハイソなセンスを身につけ……」
「お前が真犯人かあーーーっ!」

 まったく効果がないだろう私の叫びが響き渡った。
 なんで今まで疑問に思わなかったのだ。
 よくよく考えてみれば他の人間は今日だけだが、佐々美君の場合は普段からレースがふんだんについた猫耳型のリボンをつけてるセンスの持ち主ではないか。
 今気付いたが猫耳リボンの色が今日は服に合わせて白になっている。
 ……ひょっとしてこのリボンは当たり前のように市販されていたのか。
 というか市販されるほどある程度の購入者が見込めるものなのか。





 気がつけば私の突っ込みは全戦全敗。
 ああ、これが敗北感か……苦いな。










「でも何だか嘘みたい。あれだけ憎んでいたのに今は佳奈多のことを普通にお姉ちゃんと呼んで、それで服の見せ合いっこするなんて」
「葉留佳……」
「あれ、おかしいな。何だか涙が出てきた。こんな当たり前のことで泣くなんてやっぱり私おかしいのかな」
「そうです、葉留佳さん。おかしいです。嬉しい時は泣くんじゃなくて笑うんです」
「うっ……このーっクド公のくせにえらそうなこと言うな」
「わふ」
「ちょっとクドリャフカを放しなさい」
「えー、お姉ちゃんクドの味方するんだ、ひっどーい」
「そうよ、家族愛と恋愛はまた別だから」
「あっ、そんなこと言うんだ。だったら私がこのままクド持ってくから」
「わふー、いつの間にか三角関係に組み込まれてます」
「百合は本職ではないですが、人形のように愛くるしい少女を巡って争う美しい姉妹……ありです」

 長年お互いの境遇を理解できずに憎しみ合っていた姉妹の和解。
 そしてそれを喜ぶ友人達。
 感動できる場面のはずなのに、感動できる場面のはずなのに服装のせいで台無しだ。
 知らなかったな、人が他人から受ける印象において服の効果がここまで大きかったとは。
 赤をベースにしたジャンパースカートにレースを多用したブラウス、黒のリボンタイ、胸元には十字架……葉留佳くんの格好はこの中では比較的まともな方だろうか。
 だが佳奈多君の服は一体どう形容したらよいのだ。
 一見男装のようで男装ともまた違う。
 宝塚の男役と言えなくもないが、これを宝塚として扱ったら宝塚の役者に失礼だろう。
 黒のタキシード風の上半身に膝元がすぼんだ半ズボン、小物として半ズボンにステッキ……男装のようだし、これは本当にロリータファッションの範疇なのか。

「小毬君、佳奈多君の服だがあれは一体何なのだ」
「えーっと王子ロリって言うんだよ」
「王子ロリ……それは少年なのか少女なのかどっちだ」

 ロリータファシッョンと言うと女の子女の子した格好のことだと思っていたが、想像以上に奥、いや闇は深いらしい。
 私が悩んでいるうちに勝負がついていたのか葉留佳君が床に転がされている。
 その姿は改めて考えてみるとかなりおかしいな。
 あれを比較的まともだと考えてしまうなんて……
 いかん、だいぶ感覚が麻痺してきているようだ。










 しかし、今日は私らしからぬ態度を取っているな。
 最初からこの集まりに参加していたのならうまくこの雰囲気になじめたのかもしれないが、途中参加のためか妙に冷めてしまう。
 でも今の彼女たちの姿は心の底から楽しんでいるのではないか。
 常識的に考えれば彼女らのセンスはおかしいと思う。
 だが日頃やや非常識なまでの方法でリトルバスターズは毎日を楽しんでいるではないか。
 こういう風にして楽しむのは今に始まったことではない。
 この瞬間はただの変な格好であっても、後から写真を見てみれば素晴らしい一日として思い出されるのであろう。
 そうだな、この場は似合う似合わないは置いといて雰囲気を楽しむか。





「小毬君、私も着て見ていいかな」
「もちろんおっけーですよ」

 ロリータファッションはかわいい系の顔なら似合う者もいるのだろう。
 だが美人系のきりっとした顔ではとても似合いそうにない。
 葉留佳君と佳奈多君でもストライクゾーンから外れていると思うのに、私が着るとなれば完全に暴投になるだろう。
 あまりの似合わなさにこの部屋が爆笑に包まれるかもしれない。
 だが日頃は私は他のメンバーを笑う役ばかりだ。
 たまには笑われる役と言うのも悪くない。

「来ヶ谷さんはずいぶん大きいですからわたくしの手持ちの服ではどれも合わないので、一着特別に購入いたしました」
「何も他人の服をわざわざ購入しなくても。まあ、その話を聞いたのならますます着ないわけにはいかなくなったな」
「ただ一着だけですので特別に選び抜いたものですから必ず気に入っていただけるでしょう」
「ありがとう」





 渡された箱の包装紙をきれいに開けるつもりが少しミスがあるな。
 何だ、少し興奮しているのか。
 考えてもみればこのメンバーに合わなければ、一生ロリータファッションを着てみようなどと思わなかっただろう。
 これもまたこのメンバーにあえて幸運がもたらしたものか。

 パカッ

「……」
「うわあ、さーちゃんやっぱりオシャレさんだね」
「当然ですわ。さあ、来ヶ谷さん、どうぞ遠慮せずに袖を通して下さい」

 しばらく絶句したのち、油の切れたロボットのような動きで佐々美君の顔をのぞいてみる。
 その表情には全く悪意は見てとれない。
 それでも私は本当に善意でこれを選んだのか尋ねずにはいられない。

「佐々美君、これは本当に私のことを考えて選んだものか?」
「ええ、必ず似合いますわ。わたくしの見立てに間違いはありませんわ」

 ほんの少しだけ黒系の配色であれば私でも似合うかもしれないと思った。
 だがいくらなんでもこれはあり得ない。
 私にピンクはないだろ、ピンクは!

「こんなもの着れるかあーっ!」
「あっ」
「くるがや、服を叩きつけるなんてひどいぞ」
「な、棗さん」
「ゆいちゃんどうしたの。せっかくさーちゃんがかわいいの選んだのに」
「来ヶ谷さんこんな可愛い服がかわいそうです」
「姉御は女の子を傷つけるようなことはしないと思ってたのに」
「来ヶ谷さん、いじめはよくないわ」
「今いじめられているのは私だ」

 あと佳奈多君、君がいじめはよくないと言っても説得力に欠ける。





「来ヶ谷さん、その服ウェディングドレスのようにも見えなくありませんか」

 私と佐々美君たちが押し問答をしている中、一人離れたところで状況を眺めていた美魚君が妙なことを口にした。
 あらためてよくデザインを見るとリボンとレースを多用し、ところどころバラの模様が組み込まれたデザインはウェディングドレスのようであるな。

「うん、まあ最近はピンクのウェディングドレスと言うのも別に珍しくはないが」
「来ヶ谷さんも女の子ですからウェディングドレスにあこがれはありませんか」

 たしかに純白のウェディングドレスに身を包んだ姿という私を小さい頃なら想像したことはあるが。

「少し目を閉じて想像してみてください。美しいドレスに身を包んだ来ヶ谷さん。そしてその隣に優しく寄り添う想い人の姿を」

 美魚君は想い人と濁すような言い方をしたが、美魚君は当然私が誰を想像するかわかっているはずだ。
 そんなことを言われて私が理樹君以外の人間を想像するはずがない。
 花嫁の私、花婿の理樹君、花嫁の私、花婿の理樹君……





「あー、姉御真っ赤になってる」
「来ヶ谷さんとってもかわいいですよ」
「な、そんなにしまりのない顔をしていたのか」
「ゆいちゃん本当に幸せそうな顔をしていたよ」
「……」

 知らなかったな、私がここまで乙女だったとは。
 好きな男の子との結婚式を想像してぼーっとなるなんて、今どきここまで乙女しているのも珍しいのではないか。
 どう考えたって私というキャラには合わないがな。

「どうです、その服着てみたくなったのではないですか」
「……やられたな」

 美魚君の作戦勝ちだ。
 今ここでこの服を着れないようでは、とてもじゃないがウェディングドレスを着る恥ずかしさに耐えられないだろう。
 そんなまぬけな理由で理樹くんを巡る恋のバトルから脱落するわけにはいかない。
 いいだろう、この服を着こなして見せよう。

「すまなかったな、佐々美君。ちゃんと着させてもらおう」
「いいですわ。素晴らしいデザインですから気後れするのも無理ありません。小物類も私が用意いたしましたのでお任せしてもらえますか」
「頼む」










「さて完成しました」
「ゆいちゃんかわいい」
「よくお似合いです」
「姉御はやっぱり何でも着ても似合うね」

 ああいった手前されるがままにしていたが、完成したその姿は予想をはるかに超える代物だった。
 姿見を見ると街に100人いれば100人全員引くほど痛い人間の姿があった。
 私のキャラと大きくかけ離れている鮮やかなピンクのドレス。
 レースを多用し大きなリボンが備え付けられたカチューシャ。
 薄くひかれたピンクのルージュ。
 さらに極めつけはなぜ自分が今抵抗せずに抱いているのか謎な大きなテディベア。
 なあ、君たちどうして今の私を見て笑わずに本当に似合っているような態度がとれるのだ。

「……今の来ヶ谷さんはエリザベスと言うよりもフランソワーズといった感じでしょうか」
「フランソワーズ、たしかにそうかもしれませんわね」
「おお、ふらんそわーずなのか」
「フランちゃんかわいい」
「一部の人間が激しく反応するような略し方をするな!」

 怒鳴ったらますます姿見に映る自分に対する違和感がひどくなった。
 かわいい系の服が似合いそうにないことは当然自覚がある。
 ロリータファッションが似合う女の子なんて世の中でもほんの一握りだろう。
 それでもここまで似合わないとは私だって年頃の少女なのに。

「来ヶ谷さん、自信がなさそうにしていればどんな服でも似合いませんよ」
「……それは決して自信を持っていれば、どんな服でも似合うということとはイコールで結ばれない」
「……言われてみるとその通りです」
「あっさり認めるな!」

 他のメンバーは本気みたいだが、美魚君だけは明らかに似合ってないと思ってその上で楽しんでいるな。
 ウェディングドレス云々はこのためだな。
 騙された。










「ねえせっかくかわいい格好しているんだしさ、男の子にも見せに行かない」

 葉留佳君の言葉に何か想うことがあったのかみんなぼーっと何かを思い浮かべているようだ。
 きっと理樹君に褒められている姿を想像しているのだろうけど、いくらなんでもそれはあり得ない。
 こんな姿を見られても引かれるだけだ。

「よーし、れっつごー」
「ちょっと待った。その格好で部屋の外へ出ていくつもりか」
「えっ来ヶ谷さんはお出かけしないのですか」
「姉御、ちゃんと空気読んだ方がいいと思うよ」
「こんな時だけ空気を読むな!」
「おーい、行くぞ」

 私の叫び声がまるで聞こえてないかのように、さっと鈴君は扉まで息の部へ手をかけた。

 ガチャ










 そしてこの部屋に封じ込められていた、この世の全ての者に恐怖と絶望を与える大いなる災いが世に解き放たれた










「ぎゃあああああああああああーーーっ!」
「あっこんばんは」

 小毬君、嬉しそうに手を振りながら挨拶している場合か。
 たぶん友達なのだろうけれど、その子叫び声をあげて気絶したではないか。
 私たちに対して見せる反応は様々だ。
 さっきの子みたいに叫び声をあげる子、ただ眼をそらすだけの子、慌てて自分の部屋に逃げ込む子、何もできずにただ呆然としているだけの子もいる。
 とりあえず確実に言えることは、まかり間違っても最初に小毬君が言ったようなファッションショーで見られるような反応ではないということだ。





「あっ来ヶ谷さん」
「や、やあ杉並君」

 部屋を出てから初めてまともに声をかけられた。
 私の全身を確かめるように何度も繰り返し見るように眼が動いた。

「……知らなかった。直枝くんがそう言う服を着た女の子が好きだったなんて全然知らなかった」
「いや、万に一つもそれはあり得ないと思うが。」
「負けません。私は強くなるんです。来ヶ谷さんのように愛のために自分を捨てて見せます」
「自分を捨ててとか言うなあーーーっ!」

 またしても私の言葉に耳を傾けないまま駆け出して行った。
 たぶん明日には彼女の服はすべてロリータファッションに変わってしまうだろう。
 ちょっとかわいそうなことをしてしまった気がする。
 それにしても君たちはもう少し人の話を聞きなさいとか叱られたことはないのか。





「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、いい、さいこうっ、にあう、いひっ、さいこう、あひゃひゃひゃひゃ」

 やはり寮長あなたは只者ではないようだな。
 誰もが驚いたり怯えたりしている中、ちゃんと笑うという一番当たり前の反応を見せることができるなんて。
 でもさすがにそれは笑い過ぎではないか。

「あーちゃんセンパイもよかったら一緒に着てみませんか」
「ちょーっ二木さ……む、むり、そんなの着たら、わらいすぎて、あひゃひゃひゃ、ゲホッゲホッゲホッ」

 無理して喋ろうとしたためか呼吸困難に陥ってしまっている。
 私のロリータファッションは毒ガス兵器か何かなのか。
 似合わないということはちゃんとわかっているが、いくらなんでもそこまで笑われるようなものではないだろう。
 酸欠状態で痙攣を起こし始めた寮長を心配するかのようにみんな取り囲んでいるが、その人を助ける必要なんてないだろう。

「早く行くぞ」
「でも何だか寮長さんの様子が……」
「いいから」

 私の一言でみんな後ろを振り返りながらだが、男子寮へ向けて再び歩き始めた。
 そんな腹立たしい気分のなかでも私の理性は正常に作動しているようで、ある疑問が頭をもたげてくる。

「もし、これであのまま寮長が呼吸困難で死んだ場合私たちは殺人罪に問われるのだろうか」
「さあ、どうでしょう。わたしが知る限りでは殺したい相手をコスプレ姿で笑い死にさせて、完全犯罪を成し遂げようとして例はなかったですけれども」
「そりゃあまあ、そんなふざけた内容のミステリー小説なら世に出る前に抹消されるだろう」
「そうかもしれません」
「来ヶ谷さん最初の疑問ですが、別に悪意を持って行おうとしたわけではなく、結果として死に至らしめるのなら業務上過失致死になるのでは」
「過失……大失敗だと思うのならなぜする」

 佳奈多君もひょっとして自分の服のありえなさを分かって着ているのではないのか。
 いかん、だんだん小毬君たちも悪意を持って私にこのような格好をさせているのではないかと思えてきた。
 ……本当に大丈夫だろうか。










「くぁwせdrftgyふじこlp」

 真人君、顎が外れてしまったのか。
 まともな言葉がしゃべれなくなっているではないか。
 少し心苦しく思うよ。

「ク、クルガヤサン、ヨクニアッテイルヨ」

 理樹くん、首を150度ほど後ろへ向けて人と会話するのは苦しくないか。
 それと誰かとしゃべる時はまっすぐ前を向いてしゃべるものだと思うよ。

「ま、まあ、ほんのわずかながらたまにはそんな格好するの悪くないという気持ちが起こらないわけでもないような気がちょっぴりする。な、なあ、謙吾」
「えっ! おっおい、俺に振るな」
「いっそ笑ってくれ!」





 気の毒そうに私の方を向いている恭介氏達にそう叫んでしまった。
 道化を演じ笑われるのも良いと思っていたのに、まさか笑われるのではなく憐れまれるなんて。
 笑われたほうがどれだけ心が満たされただろうか。
 結局部屋を出てからここまで様々な人に会った中、笑ってくれたのは寮長だけか。
 すまなかったな、見捨てるような真似をしてしまって。
 もしまだ生きているのならこれからは寮長に優しくすることを約束しようと思う。




















 あの日から一週間私の心は壊れてしまったらしい。
 すっかり笑いを失い心が闇にとらわれてしまった。
 そればかりか幻覚すら起こすようになっている。

「おーい、ふらんそわーず大丈夫か」
「あら、ベアトリーチェさんこんなところで何をしているのですか」
「うるさい、えらそうにしているには関係ない」
「えらそうにしているではなくエレオノールですわ。あなたと言う人はどこまで間違えれば気が済むのですか」

 そうだ、これは幻覚だ。
 あの日から寮の誰もがロリータファッションを着用し、お互いを謎な名前で呼び合っているなんて幻覚だと思わせてくれ。


[No.249] 2008/04/25(Fri) 22:00:53

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