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No.250へ返信

all 第8回リトバス草SS大会(仮) - 主催 - 2008/04/23(Wed) 20:37:59 [No.239]
さいぐさはるかが大学でぼっちになっているようです。 - ひみつ - 2008/04/25(Fri) 22:04:52 [No.250]
Invitation to Hell(原題) - ひみつ   グロ注意 - 2008/04/25(Fri) 22:00:53 [No.249]
虚構世界理論 - ひみつ - 2008/04/25(Fri) 21:55:39 [No.248]
誰かが何かを望むと誰かがそれを叶えるゲーム - ひみつ - 2008/04/25(Fri) 21:12:18 [No.247]
Engel Smile - ひみつ - 2008/04/25(Fri) 18:30:18 [No.246]
笑顔(SSのタイトルはこちらで) - ひみつ - 2008/04/26(Sat) 08:41:43 [No.251]
夏祭りトーク - ひみつ - 2008/04/25(Fri) 18:30:17 [No.245]
小さな頃の大切な想い出 - ひみつ - 2008/04/24(Thu) 20:17:47 [No.244]
笑う、ということ - ひみつ@初 - 2008/04/24(Thu) 18:57:03 [No.243]
笑顔の先に - ひみつ@甘 - 2008/04/24(Thu) 10:56:09 [No.242]
遥か彼方にある笑顔 - ひみつ@長いですスミマセンorz 初めてなので優しくしてもらえると嬉しいかも - 2008/04/24(Thu) 02:49:25 [No.241]
感想会ログー次回ー - 主催 - 2008/04/27(Sun) 01:58:36 [No.253]


さいぐさはるかが大学でぼっちになっているようです。 (No.239 への返信) - ひみつ

 時計の針が十二時を回った。お昼休み。今日は学食で何を食べようかな、久しぶりにきしめんなんかいいなぁと夢膨らませていた私の耳に飛び込んできた、髪の薄い四十代くらいの教授の「レポートの提出期限は来週までですので、まだ提出していない人は忘れないように」という捨て台詞。ホワイトボードの真ん前の席にぽつんと取り残されていた私は思わず戦々恐々としてしまった。
 ていうか、レポートなんてあったんだ。私全然知らなかったんですけどー、と文句言いに行ってやろうかなと思ったところで、三、四週くらい前の講義を自主休講したことを思い出した。ちくしょうあの時ですか。だってしょうがないじゃん、目が覚めたらもう授業が半分終わってたんだもの。
 なんとかしなきゃなぁ。今日はもう授業もないし、久しぶりに図書館にでも寄っていこうかな。面倒くさいけど、この講義の単位を落とした時のことを考えると、それはそれでウツになる。課題レポートも適当な本を見つけてコピペすればなんとかなりそうだし、図書館使って調べ物をするのはそんなに嫌いじゃない。

 今日このあと授業ないんでしょーどっか遊びに行こうよー、課題だりー、俺もうこの授業切るわー、この後麻雀しねぇ? ぎゃはははは! ばっかでー! 

 お昼休みの構内はなんかざわざわしている。ざわざわざわざわ、と口に出して言ってみても違和感はそんなにない。このざわざわ感てなんか凄い。実は他の人も意味のある言葉なんて喋ってなくて、今の私と同じように「ざわざわざわざわ」って言ってるだけなのかも。もしそうだったらちょっと面白い。
「ざわざわざわざわ」
 うーん、やっぱり面白くないかも。どっちでもいいや。
 お腹空いたから先にお昼ご飯を食べようかなとも思ったけど、学食のあまりの混雑にげんなりしたので、後回し。先に図書館に行って調べ物を済ませてしまおう。どうせ今日も誰かと一緒にお昼食べる約束なんてしてないし。
 食堂に向かう人の波に逆らうように歩くと、無神経な連中と肩がぶつかりそうになったりしてムカツク。私ばっかが他の人にぶつかるのを気にして、肝心の他の人が私とぶつかるのを気にしてないっていうのがさらにムカツク。いーだ!と心の中で言ってやる。
 やーい! ばーか、ばーか! おまえのかーちゃんでーべそー!
「やはは」
 ちょっと楽しくなった。楽しくなりました記念に、上着の内ポケに入っているipodの電源を入れる。スイッチオン。お気に入りのナンバーが流れ出す。ズンズンズン。響く重低音。周りのざわざわと切り離された感じが、たまらなくいいんだよ。私はまた少し笑う。やはは。










さいぐさはるかが大学でぼっちになっているようです。










 課題の文献探しに飽きたので三階にある雑誌コーナーで小休止。でも、ここの雑誌コーナーってマジメなのばっかりだから面白くないんだよね、フラッシュとかジャンプとか置いてくれればいいのに、場合によってはアサヒ芸能でも可、なんてどうでもいいことを考えていたら、急に携帯がぶるぶる震えだしてびっくりした。一応図書館だし電話だったらやだな、なんて思っていたらすぐ切れた。メールだったみたい。良かった。
 カチ、カチカチ。
 やっぱり昼休みだからかな、雑誌コーナーには昼寝している人しかいない。すごく静か。携帯のボタンを押す音がやけにうるさく聞こえる。メールは、お姉ちゃんからだった。『今度の休みに地元に戻るんだけど、葉留佳も一緒にどう?』だって。別にどっちでもいいけど、面倒だったので『そうだねー、でも試験近いからまた今度にするよー』と送った。本当は試験なんてないけど、そう言っておいたほうが後々面倒くさくないし。本当は正月とかもこの手が使えればいいんだけどなぁ。
『そう、それじゃ仕方ないわね。しっかり頑張りなさいよね』と、五分も経たない内に期待通りの答えを返してくる高二の時からの姉。『あいあいさー!』と返してほっと一息ついた。前の前の席の人が時々立てるパラ、パラというページをめくる音。折りたたみの携帯をぱたんと閉じる音さえ耳障りに聞こえるんじゃないかと心配になる。心配性だなぁ私。前にスライド式のやつを持ってた時はこんなこと気にしなかったような気がするのに。あの携帯、携帯を開く動作自体が楽しかったからすごく気に入ってたのに、どうして変えちゃったんだろう。うーみゅ、と脳内検索中にまた携帯がぶーんと鳴く。ぶーんぶーんぶ、途切れる。またメールだよ。はるちん、今日はメールづいてるねうふふのふ……ってまた姉貴かよ! なんだよもう! じゃねーとか、またーとかギレイ的なメールだったらいくらお姉ちゃんでもノーセンキューだよ。カチカチカチ。
『たまには帰ってきて皆に元気な顔見せてあげなさいね。皆きっと気にしてるわよ』
 ぱたんとまた閉じる。勢いよく閉じてしまったので、割とおっきな音がした。雑誌熟読中のヲタク風のお兄ちゃんが訝しげな視線を向けてくる。なんだよーわたしゃ何にも悪いことしとらんぜよーと思ったけど、そういえば館内は携帯の使用は禁止だったね。めんご。十分休めたし、私はまた課題に取り掛かることにするよ。よいしょ、立ち上がり伸びをして、そういやお昼どうしようかと思った。
「ま、いっか」
 なんか食欲なくなっちゃったし。課題やろ、課題。





 三限が空いた時の四限はキツイ。なんていうかこう、気分的に。三限で終了する時の「わー早く終わったらっきー☆」感もないし、三四続きの二コマ講義を終えた「私、頑張った!」感もない。早く終われ、むしろブッチ切れという悪魔の囁きに私は断じて屈しない。真面目なんて今でも大嫌いだけど、単位落として留年なんて嫌だし。基本的にお馬鹿なので、せめて出席だけでもしないと単位が取れないんだよね。
 四限は面白くもない教養系の授業。あーめんどくさい。そもそもこれって何の授業だっけ。お尻に史って付いてた気がするから、なんか歴史的なことをやるんだろうということはわかる。だから何の歴史なんだっつーの。スターリンとかレーニンとか言ってないで、国名で言ってください国名で。そじゃないとはるちん、退屈で眠ってしまうよ。はるちんが眠ると代わりにノート取ってくれる友達がいないから大変なんだからねー。
 眠そうな教授、あれ助教授だったかな。ま、どっちでもいいけど、ともかくセンセー。いつも無気力なセンセーが珍しく指名で意見言わせようとしてた。まだまだ遠いから全然気にならないけど。
 うん、せっかくだし脳みそを思考に戻そう。
 はるちん、地味にさっきは泣いていいところだった気がする。いやーねこの子ったらいい年して代わりにノート取ってくれる友達もいないんですのよオホホノホ! うわーん! はるちんのことをぼっちって言うなー! 泣くぞコラー! ウサギだって寂しかったら死んじゃうんだぞー!
 うわんわんわんと泣きわめいていた私の肩をポンポンと叩くのはド派手なカッコの正義の味方。あなたのお名前なんてーの? なになに? アクション仮面? うーん、はるちん悪いけどそんな名前の職業ヒーロー聞いたことないなあ。もっかい「僕の顔をお食べ?」からやり直してくればいいよ。はい復唱! 僕の顔をお食べ! はいよく出来マシたー。ぱちぱちぱち。ばいばいきーん、と陽気にアクション仮面は去っていった。かっこいー。てか君は結局バイキンマンだったのかよ。もう、世の中わけわかめだよね。ねー理樹くん。理樹くん……てうわぁ! なんか理樹くんがいるよ! びっくりしたー! まぐれで大学に受かった時の次くらいにはびっくりだよ。なんでいるのー、って……なんでいきなり服を脱ぎ出すの?! いやいやいやいや上半身裸に黒タイツのEGASHIRAスタイルでそんな爽やかに笑われてもっ! あわてふためく私の手を取り理樹くんは夕日に向かって走り出す。おぅいはるちん、何やってるの今日は待ちに待った、恭介祭りだぞぅー!! な、なんだってー!
「では、三枝さん」
「いやっほーう! 恭介最高ー!!」
 立ち上がり拳を天に突き上げ高らかに叫んだ私を取り巻く視線、視線、視線。そこは夕日落ちる浜辺などではなく、私は浜で遊ぶヒトデ少女などでもなく、江頭理樹くんなんてどこにもいなかった。
「恭介さんという方がどうかしましたか?」
 冷静なのか、天然なのかは知らないが、あくまで質問形式なセンセーの声。その瞬間私は生まれて始めて耳まで真っ赤に染まる音を聞いた。うわぁマッキーみたい。
「三枝さん?」
「トイレ行ってきます」
 センセーの返事も聞かずに、荷物をひっつかんで教室を飛び出した。ふぅふぅ。呼吸が荒い。胸が苦しい。恋かしら。そんなわけないけど。
「とりあえず帰ろ……」
 流石のはるちんといえど、もう一回あの空気の中に戻っていけるほど丈夫な心臓はしていない。とぼとぼとほとんど人のいない構内を歩き出す。帰り際にちらと見た掲示板で、ようやくさっきまで受けてた授業の名前を知った。ロシア史だったのね。なんていうか、ごめんねクド公。





「ただいまグッピー」
 私の帰りを毎日健気に待ち続ける愛しき熱帯魚への挨拶もそこそこに、荷物を放り出してベランダに直行。五階建てのアパートの四階にあるマイスイートホームまで階段ダッシュを敢行したせいで私の息はとんでもなく荒い。ひぃふぅぜいぜい。早くエレベーターつけてよ管理人さん!
 まだそんなに雨も強くない。なんとか間に合ったみたい。吊してある洗濯物を部屋の中に放り込んで、後のことは後で考えようと思った。ぽいぽいぽい! 投げる投げる投げる! あっという間に私の部屋は洗濯物で足の踏み場もなくなった。よっしゃ。ぼすん、とベッドに倒れ込む。
 ちょうどその時、外の霧のような雨が、たたき付けるような雨に変わる。ざかざかざかざか。ベッドに倒れ込んだまま、何の感情もなくそれを眺める。柱に吊してある時計がかっちこっちと静かに自己主張している。四時半。夕飯にするにはまだ早い。いつも食事をするちゃぶ台の上にも洗濯物が積もっている。まずはあれをなんとかしないとご飯も食べられない。私もグッピーも。かたづけないと。かたづけないと。そう思うほどにだらしなく垂れ下がる瞼。
 ふと思う。今日は色々あった。一日の終わりにそう思わなくなって一体どのくらいの時間が過ぎただろう。毎日毎日が代わり映えのしない毎日で、昨日が今日、今日が昨日になったとしても何の問題もない日々の繰り返し。明日私がこの部屋で死んじゃっても誰も気付かないし、誰も悲しまないんだろうなぁ。そんなことを考え出したら止まらなくなる。馬鹿な妄想も、ここでは何の力も持たない。明日もしも私が死んだら。死んだら。
「――やはは」
 そんな時、決まって私は薄い作り笑顔を浮かべている。思い出せないくらい昔に、心から笑う事が出来なくなった私が編み出した、とっておきの笑い方。少しの間忘れていたそれを、一年と少し前、あっけなく思い出した。これを思い出したおかげで私はまた、楽しくなくても笑えるようになった。それはすごく便利なことだ。
 葉留佳さん。
 私を呼ぶ声が聞こえる。耳を澄ます。
 はるか。はるちゃん。葉留佳くん。はるかさん。三枝さん。みんな私のこと。どれもこれも私のことを呼ぶ声だ。
 おーい! 私はここだよー!
 満面の笑顔で、ぴょんぴょん跳びはねながら、大声を出す。まるで小さな部屋に閉じ込められているように私の声は壁や家具のあちこちに当たって跳ね返る。それなのにみんなの声は遥か遠くから聞こえている。私の気持ちが曖昧なせいなのか、その声はとてもぼやけている。
「やはは」
 我に返れば、そこはいつものワンルーム。あまりにも当たり前過ぎて、「やはは」と、私はまた笑う。
 あれは本当にあったことなのだろうかと、最近は思うようになった。あの楽しかった時間は嘘で、辛かった時の記憶だけが本当なんじゃないか。全ては、追い詰められた私が作り出した幸せな妄想だったとしたら。あの楽しさも、愉快さも、涙も和解も、許しも喜びも嘘だったとしたら。間抜けに笑って地元に戻った私は、開口一番みんなにこう言われるのだ。
「君、誰だっけ?」
 当たり前だ。全て嘘だったのだから。楽しいと思っていたのは、妄想の中にいた私一人だったのだから。
 ぷちん、とぷっちんプリンを弾いたような音を、私は何度も何度も聞いた。それは繋いだ糸を一つずつ噛み切る音だ。ぷちん、ぷちん、ぷつん。本当に大切な糸はどれだ。本当に切るべき糸はどこだ。血眼になって、見つかるはずもないそれを、私は探す。本当はそんなものどこにもなかったんじゃないの? それでも私は探し続ける。千切り続ける。
 まだ太陽が明るいはずの時間なのに、分厚い雨雲のせいで辺りは恐ろしく暗い。電気もつけずに一人部屋の中にいる私は、監獄で死刑を待つ囚人のよう。
 心のどこかで、これはしょうがないことなんだよ、ともう一人の自分が冷たく言い放つ。

 そう、この結果は必然なんだよ。これははるちんの悪い癖なんだ。はるちんはいつだって心を開かなかったじゃないか。はるちんは表面上だけ笑ってみせて、自分ですら面白いと思えないような奇行を繰り返してただけじゃないか。

 ちがう! 私は心を開いた! こわかったけど、くるしかったけど! だからお姉ちゃんとも仲直り出来た! みんなとも仲良くなれた!

 本当にそうかな。はるちんは仲良くなったふりをしていただけじゃないのかな。本当は誰とも仲良くなんてなりたくないのに、ただ一人でいたくないってだけの理由でみんなの厚意を利用してただけなんじゃないのかな。お姉ちゃんとだって、同じなんじゃないのかな。

 そんなんじゃない! 私は!

 じゃあ、どうしてはるちんは自分からみんなと離れてしまったの? みんなと同じ地方の大学に進学すればよかったじゃない。馬鹿だから、なんて言い訳でしょ?

(無言)

 ほら、何も言い返せないじゃないか。野球の練習をやってる時だってそうさ。はるちんはいつも守備を一生懸命やっていたよね? みんなは適当に休んだり、お話したり、お菓子を食べたりしていたのに。はるちんは絶対そういうことをしなかったよね。ねえ、なんで?

(無言)

 それはこういうことだよ、はるちん。君は怖かったんだ。役に立っていない自分がみんなの輪から弾かれてしまうのが怖かったんだ。はるちんははるちんであるだけで良かったはずなのに、役に立たない自分はみんなの輪の中にいる資格はないって、勝手に思い込んでしまったんだ。何もしていない自分が、みんなから優しくしてもらえるイメージを持つことが出来なかったんだ。
 結局はるちんははるちんを許してあげることが出来ないだけなんだよ。自分で自分を認めてあげることが出来ないだけなんだ。たったそれだけのことさ。でもね、はるちん。自分を信じられない人がどうして他人の根拠のない優しさを信じることが出来るの? 何も出来なくても自分が他人から優しくしてもらえる存在だって、どうしてのんきに信じていられるのさ。はるちんはそういうものを信じられなかったから、自分から離れてしまったんでしょ? 結局のところね、本当にみんなのことを信じられなかったのは、はるちんの方なのさ。
 だけどそれは、はるちんが悪いわけじゃない。本当さ。だから私は何度もそう言ってるんだよ。これは『しょうがない』ことなんだって。そういうふうにはるちんは育ってきてしまったんだから、これはしょうがないことなんだよ。

「やはは」
 遠くの空で、稲妻。光に遅れること数秒、天が崩れたような轟音が鳴り響く。底の見えない妄想はそこで途切れてしまった。手の平にじっとりと汗をかいていた。洒落っ気のないジーンズで拭うと携帯が震えた。一瞬お姉ちゃんかと思ったが、ただの出会い系サイトのメールだった。良かった、お姉ちゃんじゃなくて。そう思ってしまう自分が悲しかった。


[No.250] 2008/04/25(Fri) 22:04:52

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