第9回リトバス草SS大会(仮) - 主催 - 2008/05/08(Thu) 20:11:00 [No.255] |
└ 竹と月と。 - ひみつ@遅刻?何それ?美味しいの? - 2008/05/11(Sun) 16:15:40 [No.282] |
└ 流れる - ひみつ@遅刻しましたが甘めにして頂けると嬉しいです - 2008/05/10(Sat) 03:10:59 [No.279] |
└ こまりん☆裏ノート - ひみつ@遅刻王に、俺はなる! - 2008/05/10(Sat) 01:17:37 [No.278] |
└ こたつ日和 - ひみつ@大遅刻 - 2008/05/10(Sat) 00:32:57 [No.277] |
└ 棗恭介大予言 2008 ”EX”はもう始まっている!? - ひみつ - 2008/05/09(Fri) 23:50:38 [No.276] |
└ 5文字の幸せと7文字の幸せ - ひみつ@ちこく やおいとか R-15くらい - 2008/05/09(Fri) 23:15:39 [No.275] |
└ 伝えたい気持ち - ひみつ@遅刻orz - 2008/05/09(Fri) 23:11:37 [No.273] |
└ ひらがないつつで - ひみつ@ちょっと遅刻 - 2008/05/09(Fri) 22:09:31 [No.269] |
└ 恋恋恋歩 - ひみつ - 2008/05/09(Fri) 22:00:53 [No.267] |
└ 文字色の恋 - ひみつ - 2008/05/09(Fri) 21:59:33 [No.266] |
└ 青い鳥 - ひみつ@初 - 2008/05/09(Fri) 21:58:46 [No.265] |
└ 機械音痴の小説書き - ひみつ - 2008/05/09(Fri) 19:36:28 [No.264] |
└ 辛くて、苦しくて、だけどとても幸せな日々を、ありが... - ひみつ - 2008/05/09(Fri) 19:19:19 [No.263] |
└ そんな風に生きてきて。 - ひみつ - 2008/05/09(Fri) 18:54:37 [No.262] |
└ じっとまって、ただ。 - ひみつ - 2008/05/09(Fri) 18:53:56 [No.261] |
└ [削除] - - 2008/05/09(Fri) 16:50:52 [No.259] |
└ 神秘には神秘的な死を(修正) - ひみつ - 2008/05/09(Fri) 16:53:07 [No.260] |
└ もっと! もっと愛を込めて! - ひみつ@25kbとか\(^o^)/ - 2008/05/08(Thu) 23:39:05 [No.258] |
└ 姉妹二組 - ひみつ - 2008/05/08(Thu) 21:29:07 [No.257] |
└ 前半戦ログですよ - 主催 - 2008/05/11(Sun) 02:33:25 [No.280] |
└ ゴミ箱さんの変(感想会へのレスSSです) - ひみつ@なんか書かなきゃいけない気がしたんです… - 2008/05/11(Sun) 21:26:46 [No.285] |
└ 後半戦ログですー - 主催 - 2008/05/11(Sun) 23:23:27 [No.287] |
相も変わらず、僕と真人の部屋に集まる男四人。 でも今日はいつもとは、少し様子が違っていた。そう、恭介の様子が。 「……はぁ」 いつもなら脈絡ないことを言い出しては「どれも等しくミッションさ」とか言ってるはずの恭介は、さっきから溜息をついてばかりいる。 真っ先に耐えられなくなったのは、謙吾だった。 「なあ恭介、今日は何かして遊ばないのか?」 「……はぁ」 返事に、また溜息を一つ。さすがに心配になってくる。明日は久しぶりの試合で、昼間はずっと葉留佳さん並みにテンション高かったのに。 「ねぇ恭介、いったいどうしたのさ? 何か悩みがあるなら言ってよ」 「筋肉の悩みなら相談に乗るぜ」 「いや、それは確実にありえないから」 まあさすがに就職先が決まらなくて鬱だ、とか嫌な意味で現実的な悩みを相談されても困るけど……恭介には、今まで何度も助けてきてもらったんだ。僕にできることがあるなら、恭介の力になってあげたい。心からそう思う。 「……なあ、理樹」 「なに、恭介」 「人が生きていくために必要なもの……それが何か、わかるか?」 「え……」 なんともまた、哲学的な問いかけだった。でも真人だったら、間違いなく「筋肉だな」とか答えるんだろうなぁ。 「人が生きていくために必要なもの……なるほど、筋肉だな」 本当に言っていた! 「何を言う、真人。……友情に、決まっているじゃないか!」 「う、うおおっ! なんてこった、確かに筋肉さんも大事だが……そうだよな、友情がなきゃ生きていけねぇよ!」 「ああ、そうともさ!」 ……なんだろう。謙吾はものすごくいいことを言っているはずなのに、なぜか認めたくない。あ、二人とも、肩組んでスキップするのはやめてね。狭いしお隣さんに迷惑だから。 「で、恭介。どうなのさ」 「残念だが、二人ともハズレだ。ま、謙吾はいい線いってるが」 コホン、と一つ咳をつく恭介。さっきまで溜息ばかりだったのに、すっかりいつも通りだ。というか、「何か悩みでもあるの?」って聞いてほしかっただけなんだろうなぁ、きっと。 「人が生きていくために必要なもの、それは……愛だ」 「…………」 いやまあ。随分と恥ずかしいのがきたなぁ……。 恭介がぐわばあっ、と勢いよく立ち上がる。さらに妙なポーズをとって、語り始めた。 「いいか、理樹。人の日常とは傷付けあいの繰り返しだ。他人を疑うのも無理はない」 「いや、別にそんなこと……強いて言えば恭介の言ってることが色々疑わしい感じだけど」 「けど、何もかも信じられなくなったら……それは他人の愛を感じられなくなることと同じだ」 「ねぇ、聞いてる? 聞いてないよね、そうだよね」 「おまえは一人きりでつらい思いをしていないか!?」 「いや、特には」 「卑屈に生きていないか!?」 「ツッコミ癖ってもしかして卑屈な性格から来てるのかなぁ……」 「素直に笑えてるか!?」 「今はひきつった笑いを浮かべてるかもしれない」 「ここは素直に、はい、と言ってくれないか理樹」 「ああ、うん。じゃあ……はい」 「そうか……ならおまえは多分、愛されてるな」 「はあ」 「その愛が消えてしまわないよう、強く生き続けてくれ」 演説はそれで終わりみたいだった。やり遂げてやったぜ的な満足感溢れる表情のまま、恭介は腰を下ろす。 しかし何なんだろう、今のは。どうせまた何かに影響されたんだろうけど……最後の一文に関しては、鈴に愛想つかされないようにしっかりしてろ、というメッセージだと思えないこともない。 「……す、すげえっ!! 愛……愛か! 俺も筋肉への愛を胸に、これからの日々を生きていくぜっ!!」 「うおおおっ!! 理樹、恭介、真人! 愛してるぞーーっ!!」 「二人とも、ものすごく近所迷惑だから」 ツッコミも程々に、僕は恭介に向き直った。 「それで結局、恭介は何に悩んでるのさ?」 「要するに、愛に飢えているんだ」 ……うわぁ。 僕がわりとマジな感じで引いている横で、さっきまで騒いでいた謙吾はがっくりと項垂れていた。 「くっ……俺の愛じゃ、足りないというのか……」 「ドンマイだぜ、謙吾っち」 まあ謙吾の言うことはおいといて。実際のところ、恭介は何が言いたいんだろう。僕を含めバスターズの皆から慕われてるのは間違いないし、恭介ほど周りから愛されている人もいないと思うんだけど。 「もしかして、誰か好きな人ができたとか? って、恭介に限ってそんなことないよね、ははは」 もちろんそれは冗談で、その証拠に僕は自分で笑い飛ばした。だというのに、恭介ときたら。 「ふ、すでにお見通しだったとはな……さすがは理樹だ」 一瞬何を言われたのか分からなかった。僕は随分とマヌケな顔をしていたことだろう。真人と謙吾も似たようなもので、ぽかんと口を開けたまま固まっていた。 「……い、いや、ちょっと待ってよ。え、ええっ? 恭介、それ本気で言ってるの!? loveじゃなくてlikeだったりしない!?」 「当然、LOVEさ」 冗談で言っているようには見えなかった。 あの恭介が……恋。 「……まあ、びっくりしたけどよ。別にいいんじゃねえか? 今時、筋肉だって恋の一つや二つするもんだぜ」 「なんだかんだ言っても、恭介だって年頃の男子なわけだしな」 親友二人の立ち直りは随分と早かった。僕は正直、まだ信じることができない。別に、恭介に誰か好きな人ができたのが気に入らないわけじゃないけど、なんというか……想像できないんだよなぁ。 「……その、恭介。相手は誰なのさ? まさか……」 「安心しろよ。俺が愛しているのは理樹、おまえだ……みたいなありがちなオチじゃない」 「それがありがちというのも嫌な話だけど……」 「お、そうだ。簡単に教えちまっても面白くないし、おまえらで当ててみろよ」 まあ、恭介のことだからこういう流れになるのは想定してたけど。 改めて言われてみると……誰なんだろう。やっぱりリトルバスターズの誰かなのだろうか。というか、この半年近く、恭介にバスターズ以外の女子との交流があったかどうかが疑わしい。 となると、鈴を除いた残りの五人が候補になるけど……うーん。 「おっしゃあ、わかったぁッ!」 「俺もだ」 真人と謙吾がほぼ同時に声をあげた。というかほぼ即答じゃないか。二人ともやけに自信満々みたいだし。 「よし、言ってみろ。真人からな」 「へへっ、いいのかよ?」 不敵な笑みを浮かべる真人。いったい真人はどんな答えを導き出したんだろう。さすがに筋肉ネタではないと思うけど、なら……うわぁ、筋肉関係以外まったく想像がつかない! なんというか、ごめんよ真人……。 「恭介、おまえが好きなのは……クー公だ! そうだろ!?」 「違う。断じて違う」 真人が出した答えはクド、それを恭介はやたら力一杯に否定する。なんか恭介の顔に冷や汗らしきものが見えるんだけど……。 「一応理由を聞いておこうか」 「え? だっておまえ(21)だろ?」 「ちげーよッ!!」 ああ、やっぱり。でも、クドを好きな恭介か……せっかくだし、ちょっと想像してみよう。 『能美、お兄さんと楽しいことしないか?』 『わふーっ、おっけーぃなのですっ』 『じゃあこっちに来てくれ……ハァハァ』 『わふー……? 恭介さん、息が荒いのです。だいじょうぶですか?』 『ふふ、そりゃ荒くもなるさ。じゃあ、早速……!』 がっ! 『うぐっ!?』 『わふっ!? きょ、恭介さん!? どうしたですか!?』 『クドリャフカ、無事!?』 『わふー、佳奈多さん!? か、佳奈多さんが恭介さんをきるしちゃったですかっ!? ぐっじょぶなのです! ああっ、間違えましたっ』 『クドリャフカ、あなたを守るためなら……私の手がいくら汚れたって、構わないわ』 がしっ! 『わ、わふっ!? か、佳奈多さん、苦しいのですー!?』 「やっぱり犯罪はダメだよ、恭介……天罰だよ……」 「……何かとても失礼な想像をされてる気がするんだが……まあいい。次、謙吾」 「うむ」 さて、謙吾はいったい誰と予想したんだろう。 「恭介。おまえが恋に落ちた相手……それはずばり、西園だろう」 西園さんか。うーん、確かに西園さんと話してると恭介のことが頻繁に話題に上がるし、向こうの方も恭介を好いてるとは思うけど……。 「ほう……どうしてそう思ったのか、教えてくれないか」 「いいだろう。おまえは誰にも聞かれていないと思っていたようだが……俺は知っている。おまえが以前、『西園、またお兄さんって呼んでくれねぇかなー』と呟いていたことを!」 う、うわぁ……。冷や汗の量が増えてるってことは本当なんだね、恭介……。 「そして、能美ほどではないとはいえ小柄で胸も小さい。(21)なおまえの好みにもピッタリなはずだ!」 「おまえもか謙吾!? ええい、いい加減そのネタから離れろっ! 不正解っ!」 結局謙吾もそういう認識なんだね……。なんだか恭介が哀れに思えてきたけど、とりあえず想像してみる。 『西園、俺のことお兄さんって呼んでくれないか?』 『……おにいちゃん、ではダメなのでしょうか』 『そんなことはない、もちろんアリだ。むしろ是非そうしてくれ』 『では、おにいちゃん。一つだけ、条件があります』 『条件? おまえの愛を得るためなら、俺はなんだってするぜ』 『ごにょごにょ……どうでしょう?』 『なんだ、そんなことか。お安い御用だ』 『では、早速お願いできるでしょうか? あ、ちょうどあそこに』 『お、本当だ。じゃ、行ってくるぜ』 『がんばってくださいね、おにいちゃん』 『おう! おーい理樹、俺とやら 「うわぁああぁあああっ! 恭介、それ騙されてる、騙されてるからっ!」 「さっきからどうしたんだ、理樹。大丈夫か……?」 恭介が心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。距離が近い。恭介の息遣いがすぐそこに感じられて、僕は思わず仰け反ってしまった。 「理樹?」 「い、いや、なんでもないよ。それより僕の番だよね」 少し強引に話を逸らす。恭介は不思議そうにしてはいるけど、追及するつもりはないみたいだ。あぁ、よかった……。 「で、理樹は誰だと思うんだ?」 「そ、そうだなぁ。来々谷さんとか?」 なんだかんだで恭介と来々谷さんは似た者同士な気がするし。実際、気も合ってるみたいだし。そんな風に、理由を説明する。 「なるほど。さすが理樹君、よく見ているな。だが気が合うからといってそういう関係になることを望むかといえば、それはまた別の――」 「……あの、来々谷さん。いつの間に僕の後ろに立っていたのかな? 全然気付かなかったんだけど」 いやまあ、今さらこの人の神出鬼没っぷりにツッコむ気にもなれないけど。いきなり背後から声がしたんじゃ、驚くって。 「ちなみに、俺は気付いていたぞ」 「ああ、俺も俺も」 「へっ、俺の筋肉センサーからは何人たりとも逃げられねぇよ」 「気付いてたんなら教えてよ……」 当の来々谷さんは、はっはっはと豪快に笑いながら僕の隣に来て、その手を僕の頭の上にぽん、と置いた。わしゃわしゃと、大雑把に撫でられる。 「いや、少年達が随分と面白そうな話をしていたものだから、つい、な」 乱れた髪を、今度は丁寧に撫で付けるようにして直していく。何がしたいのかさっぱり分からないけど、それが来々谷さんらしいと言えば、らしい。なんにしても、女の子に髪を弄られるのはなかなか気恥ずかしいことだった。 「そ、そもそも、来々谷さんは何しにきたのさ?」 「ふむ。クドリャフカ君の部屋でお泊り会を開くことになっていたのは知っているだろう? 理樹君をそれに招待しに、いや、拉致しに来た」 「言い直し方が明らかに変だったよね、今」 それに女の子のお泊り会に男の僕を招待するのは……いやまあ、これは今さらか。拉致とか言ってる以上、強引にでも連れていく気なんだろうなぁ。鬱だ……。 「そういうわけだから恭介氏、理樹君は借りていくぞ」 「って、ええ!? 今すぐなの!?」 それは困る。だって、恭介の好きな人が誰なのか、まだ教えてもらっていない。僕は視線だけで恭介に助けを求めるけど――。 「ああ、いいぜ。この際だから、理樹には秘密にしといた方が面白そうだしな」 「そ、そんなっ」 恭介の了解を得たところで、来々谷さんは僕の襟首を引っ掴んでずるずると引き摺り始める。この細い腕のどこにこんな力が……。 「俺達はどうなるんだ、恭介」 「おまえらには教えてやるよ。せっかくだから、告白の準備を手伝ってくれ。力仕事もある、真人の筋肉には期待してるぜ」 「おう、任せとけっ!」 そんな三人のやりとりを最後に、バタン、と閉じられた扉が僕と彼らの世界を隔てた。 「ああ……」 「そんなに落ち込むことはないだろう。むしろ、向こうで話すネタが一つできたと喜ぶべきだ」 「正解が分からないじゃないか……」 階段まで引き摺られていった所で、僕は自分で歩く旨を伝えた。僕が逃げ出したとしてもすぐに捕まえる自信があるのだろう、来々谷さんもあっさり離してくれた。 「なに、告白の準備と言っていたくらいだから、そう遠くない内にわかるだろうさ」 「まあ、そうなんだけど。でも、準備が必要な告白って……」 それも、真人や謙吾の助けが必要なほどの。恭介のことだから、何か大掛かりな仕掛けでも用意する気なのかもしれない。 僕の隣に並んで歩く来々谷さんが、くっくと小さく笑いを零しながら言う。 「さてな。いつかのように、花火でも打ち上げるんじゃないか」 「まさか、本当に連れて来るなんて……」 クドの部屋に入った途端、二木さんにそう言われた上、溜息までつかれた。まあ、ここはクドと二木さん二人の部屋だし、いてもおかしくないわけだけど。 「心配するな佳奈多君。理樹君にここでナニかするような度胸は無いよ。多分」 「最後の多分っていうのが引っ掛かるんだけど……」 「ま、君もそれだけ成長したということさ」 なんだか遠い目をされた。というか、その“成長”の使い方は好ましくないような気がする……。 「そんなことよりも理樹君、さっきの話を皆にしてやってくれ。私も途中からだったしな」 来々谷さんの言葉で、この場の全員の視線がこっちを向いた。……言っちゃっていいんだろうか、と思いもするけど、どちらかというとこれは言わざるをえない状況だよなぁ。 「実は……」 かくかくしかじか、なんて言葉だけで全部伝わったらどれだけ楽だろう、などとどうしようもないことを頭の片隅で考えながら、僕は事の顛末を話して聞かせた。 各々の反応は様々だ。鈴は何やら神妙な顔をしている。葉留佳さんは無駄にテンション上げてるし、二木さんは対照的に興味が無さそうだ。小毬さんは分かっているのかいないのか、いつものニコニコ笑顔。すでに候補から外れているクドと西園さんは、 「どうせ私は魅力の欠片もないだめだめわんこなのですーですーすー……」 片やセルフドップラーで悲哀を演出し、 「直枝さんじゃないんですか……はぁ」 片や自分のことはどうでもいいようだった。 「で、残ったのは来々谷さんと葉留佳さん、それに小毬さんなんだけど」 「私は除外しても問題ないだろう。恭介氏はアレでウブなところがあるし、ああいう話を当人に聞かれるのは嫌だろうからな」 そういえば恭介は来々谷さんの侵入に気付いてたっけ。 「となると、まさかまさか……恭介くんの本命は、このはるちんなのかーッ!? やはは、モテる女は辛いですネ」 相変わらず葉留佳さんのテンションは高い。単に盛り上がりそうな話題に便乗してるだけなんだろうし、皆もその辺りは分かってるんだろうけど……一人だけ分かってない人がいた。 「ダメよ、葉留佳!」 「うぇい!?」 まあ、当然というかなんというか、二木さんなわけで。ずっと仲が悪かったみたいだし、本気と冗談の区別がつかないんだろうな、きっと。 「あんな、進学する気もないくせしてこの時期に就職先が決まってないようなニート予備軍にあなたをやるわけには……!」 「お、お姉ちゃん、落ち着いて」 ……なんというか、まあ。二木さんの言うことは概ね事実であるだけに、僕としても擁護するのが難しい。 「とにかく! 葉留佳はダメよ、わかった直枝理樹!?」 「は、はい」 思わず答えちゃったけど、僕に言われてもなぁ……。 で、まあ。これで葉留佳さんが候補から外れたというか外されたので、残るのは一人になったわけだけど。 「ふえ? どーしたの、みんな?」 その最後の一人……小毬さんは、ぽりぽりと小動物チックにじゃがりこを齧っていた。 「……そういえば、真人と謙吾が恭介は(21)だって頑なに主張してたけど」 「ええッ! 恭介くんってそうだったんデスカ!?」 「最低ね……最低」 「どうせ私はひんぬーわんこなのですーですーすー……」 「私って、子供っぽいんでしょうか……」 「いや、君は十分オトナだよ美魚君」 うわ、失言だった。恭介の評価がガタ落ちに……。 今まで黙っていた鈴が、わなわなと身を震わせながら勢いよく立ち上がった。 「変態兄貴なんかにこまりちゃんをやれるかぼけーッ!!」 「ほわあっ!? どどど、どーしたのりんちゃん!?」 いやいやいや、どうしたのって、あなたのことですから。 「しかし、身体つきはオトナだが小毬君もだいぶ子供っぽいからな。これはもう確定ではないか?」 来々谷さんがさり気なくセクハラを織り交ぜつつ言った。特に反論は……ああ、一人だけいた。なんか反論するポイントがズレてはいるけども。 「えー、ゆいちゃん、私子供っぽくなんてないよ〜」 「だから、ゆいちゃんと呼ぶなと……そういう呼び方が子供っぽいと思われる原因だ、小毬君。この機にその呼び方を改めてみる気はないか?」 おお、これはなかなか上手い切り返しだ。ついに来々谷さんがゆいちゃんから解放されるんだろうか。 「う〜ん……じゃあ、子供っぽくてもいいよ。ゆいちゃ〜ん♪」 「うぐっ……」 あっさりと撃沈していた。 「……で、結局のところ恭介が好きなのは小毬さんってことでいいの?」 と言ってもまあ、推測に過ぎない。案外僕らの知らない所で運命的な出会いとかがあったのかもしれないし。とりあえず一番可能性が高いのが小毬さん、ということで。 「ということは……恭介くんの称号は、こうなるのであったーッ!」 恭介の称号が『ロリ疑惑』から『ロリ確定』へランクアップした! 「なんか、称号のランクは上がったけど人としてのランクは下がった感じだね」 「やはは。理樹くん、ウマいこと言いますネ」 なんだか好き勝手言われてる恭介が哀れだ……いやまあ、僕も人のことは言えないけど。 まあそれはおいといて。もう少し話を深い所まで進めてみようと思う。 「ねぇ、小毬さん。最近恭介となにかあった?」 いくら恭介でも、何の脈絡もなく恋に落ちたりはしないはずだ。となると、何かきっかけがあったはず。もしも小毬さんにその心当たりがあったなら……。 「ふぇ? え、えーと……どうしたの、いきなり?」 「いや、どうしたのって。恭介が小毬さんのことを好きかもしれないっていう話をしてたじゃない」 「え、ええええっ!?」 って、今!? さっきまでの流れはお菓子に夢中でスルー!? 「うあああっ、えーと、あの、その……そそそそんなことはないと思うよー!?」 「こまりちゃん、だいじょうぶか……?」 恭介→小毬さん疑惑がそんなに衝撃的だったのか、小毬さんの動揺っぷりは酷いものだった。顔も真っ赤だし。でも、嫌がっているというわけではないように見える。純粋に恥ずかしいだけ、というのが正しいのだろうか。これは、もしかすると……。 「ねえ小毬さん。やっぱり、なにかあったんでしょ」 「ああうー……」 真っ赤な顔のまま俯いて、もじもじと身体を揺らす小毬さん。 この反応からして、何かあったのは間違いないだろう。それが原因で、小毬さんも恭介のことを意識してて……むしろ、意識しすぎてたんじゃないだろうか。だから、無意識の内に恭介に関する話題をシャットアウトしていた。いやまあ、意識しすぎで無意識に、という時点で変だけど。あながち的外れでもないような気がする。 「ここまで来た以上、是が非でも白状してもらわねばな……さて小毬君、どのように責められたい?」 「ふええっ!? ゆいちゃん目が怖いよー!?」 いつの間にか、来々谷さんによる拷問が始められようとしていた。 「こら、くるがや。こまりちゃんをいじめるな」 「そんなことはしないさ。ただ、恭介氏が小毬君にどのような不埒な真似を働いたのか知りたいだけだ。これは恭介氏に相応の制裁を加えるためにも必要なことだと思うが?」 「む……なら、しょうがないな」 立ちはだかる鈴をあっさりと丸め込んだ来々谷さんが、両手をわきわきさせながら小毬さんに迫る。ぶっちゃけ私欲を満たしたいだけなのが丸分かりだ。そして、貞操の危機に晒されている小毬さんは――。 「……ようしっ」 ――前向きマジック。 「わかりましたっ」 小毬さんの一声に、来々谷さんが動きを止める。 「何があったのか話す……のは恥ずかしいから、紙に書くことにするよ〜」 小毬さんはそのまま机の方に歩いていくと、「クーちゃん、借りるね〜」と断ってからノートを一冊引っ張り出して、何事かを綴り始めた。 「ちっ」 そんな聞こえるように舌打ちしないでよ、来々谷さん。 「ふええっ」 執筆を始めてから十秒も経たない内に小毬さんの素っ頓狂な声が聞こえてきた。 「ああうーっ、文字にすると余計に恥ずかしいー……」 お約束の自爆だった。いやまあ、口で言ってもたいして変わらなかったと思うけど……。 「文字にしてもじもじ……別に、ウマいこと言ったなんて思ってませんよ?」 「誰もそんなこと言ってないからね西園さん」 「ああ、もじもじしてる小毬君も可愛い……」 結局来々谷さんの欲求は満たされることになっていた。 そんなこんなで、15分くらい経っただろうか。時には鈴の応援を受け、時には悶え、せっせと恭介との間に起こった嬉し恥ずかし脳内桃色化イベント(葉留佳さん命名)について書き連ねていた小毬さんだったけど、その完成は意外にも早かった。 「で、できたよー……」 ノートが閉じられた状態でぽん、とベッドの上に放り出された。よほど恥ずかしかったのか、小毬さんはぐったりしている。鈴がさりげなく傍に寄って、だいじょうぶか、と声をかけていた。 「さて、早速読ませてもらおうか」 来々谷さんの声を合図に、皆が一斉にノートを取り囲む。興味がなさそうだった割には、二木さんもちゃっかり参加していた。僕の視線に気付いてか、聞いてもいないのにその理由を話し始める。 「棗恭介が本当に女子生徒に対して不埒な真似をしているようなら、これまで以上に監視を強化しないといけない。そのためよ」 言いながら葉留佳さんとクドに向ける過剰なまでに優しげな視線が気になったけど……まあ、それには触れないでおこう。 「では、開くぞ」 来々谷さんがノートに手をかける。皆がゴクリと息を呑むのが聞こえてくるようだ。そして、開かれたそのページには――。 『この前のお休み、きょーすけさんにおんぶしてもらって帰りました』 ……いやまあ、なんというか。皆、無言だった。 小毬さんらしい、丸っこくて可愛らしい文字の羅列が、真っ白なページの隅で小さく、そして控えめに自己主張していた。この短い一文を書くのに15分もかかった小毬さんは……なんというか、可愛い人だなぁ。そうなった経緯とか、色々抜けているけどこれが限界だったんだろう。 「なあ、理樹」 僕の隣でマジマジとその文字を眺めていた鈴が言った。 「おんぶしてくれ」 「へ? 今、ここで……?」 「そうだ」 唐突だった。ついでに、皆の視線もノートからこちらに移る。こ、こんな状況でおんぶなんて恥ずかしい真似が出来るわけが――。 「って、うわ!?」 僕がしゃがむのを待たずに、鈴が僕の背中に飛び乗っていた。 「こら、しっかり支えろ。落ちるじゃないか」 「そ、そんなこと言ったって……しょうがないな、もう」 乗りかかった船というか無理やり乗りかかられた船というか。前に投げ出されている細足に手をやって、支えてやる。どこが、とは言わないけど幸薄い鈴の身体は、でもやっぱり女の子のもので。背中全体に感じるそれは、なんとなく柔らかい感じだった。 「……うみゅ。たしかにはずいな、これは……」 「僕だってそうだよ……」 翌日。 今回恭介が連れてきた相手は、隣町の高校の野球部だった。前回の各部キャプテンの寄せ集めと違って全員が現役の球児。特別強い学校というわけでもないみたいだけど、それでも手強いのは確かだった。 その割には、僕らは善戦している。鈴の投球がそれなりに通用しているのと、センターの葉留佳さんがいつにも増して頑張っているのが大きい。朝からずっと機嫌がいいし、何か良いことでもあったのだろう。 そんなこんなで試合はもう最終回。表の相手チームの攻撃を何とか無失点で凌ぎ切ったものの、スコアは3対2で1点負けている。 攻守交替でベンチに戻る途中、僕は恭介に走り寄って声をかけた。 「あと2点取れれば逆転だけど、大丈夫かな。打順はクドからだし」 「ま、その次は一番の来々谷だ。あいつならとりあえず塁には出られるだろ」 本当は違う話をしに来たはずなんだけど。どうにも切り出しにくい。 すでにベンチに戻っていた小毬さんが、バッターボックスに向かうクドに「クーちゃんがんばって〜」と声をかけているのが見える。とりあえず、聞かれる心配はない。 「ねえ、恭介。小毬さんなの?」 「なんだ、バレちまったか」 特に隠す気もないらしい。恭介も小毬さんを意識してか、ベンチに戻らずにそこで足を止めた。僕もそれに倣う。 「おんぶして帰ったって聞いたけど」 「恥ずかしいから絶対誰にも言わないでねって言ったのは小毬の方なんだけどな……」 「というか、どういう流れでそんなことになったのさ?」 「いや、偶然帰り道が一緒になって、途中で小毬が足を挫いたからおぶって連れ帰った」 いや、なんというか。実に普通だった。 「で、まさかそれだけで好きになったなんて言わないよね?」 「ああ、もちろん。ま、そこら辺を話す気はないけどな」 男にだって秘密の一つや二つぐらい、あったっていいだろ? そう言って、恭介は笑った。まあ、僕も無理に聞き出そうとは思わない。僕だって、鈴と二人きりの時に何をしてるかなんて聞かれたら困るわけだし。 「ただ、これだけは教えてやろう。理樹、知ってるか? 女の身体って、すげー軽くて柔らかいんだぜ」 「知ってるよ。けっこう前から」 「……言うようになったじゃないか。っと、もう鈴の打順か。そろそろ行くか」 少し目を離している内に、来々谷さんは一塁ベースの上で、いつものように腕を組み、髪を靡かせながら仁王立ちしていた。クドは三振したらしく、ベンチでしょんぼりしていた。 この状況……鈴が打つかどうかはともかく、来々谷さんの足の速さなら盗塁の成功はまず間違いないだろう。 「理樹。本当は四番のおまえで締めるのが最高の形なんだろうけどな」 恭介が僕を振り返ることなく、言う。 「悪いが、今日はもうおまえの仕事はない」 グラウンドの向こうに、どういうわけか大きな風船――ちょっと小さめだが、アドバルーンというやつだ――が浮かんでいた。まあ、どう考えたって恭介の仕業だ。いつもみたく旅先で作ったコネを利用して調達したんだろう。 そのアドバルーンが普通と違っているのは、垂れ幕がないということ。正確には、垂れ幕が下りていない。球の下に、何やら布らしきものが丸められていた。僕の見立てでは、勝利の瞬間にあの垂れ幕が下りてくることになっている。くすだまのようなものということだろう。 さて。来々谷さんの盗塁は成功して二塁まで進んだものの、バッターの鈴はあえなく三振に打ち取られてしまった。これでツーアウト、バッターは三番の恭介。恭介がああ言った以上、僕に回ってくることはないだろう。それでも一応、ネクストサークルには入っておく。 そこからバッターボックスを眺めていると、恭介が面白いことをやっていた。ちょうど例のアドバルーンの方を指して、バットを突き出すように構えている。 ――予告ホームラン。 さすがに投手の人もカチンときたみたいで、少し雰囲気が変わった。頭に血が上ってるのか、この試合初めてのワインドアップで――おおきくふりかぶって、投げた。 カキィン! 抜けるような青空に、乾いた快音が響く。真正面に飛んだ打球は、グングンと飛距離を伸ばしていく。外野が懸命に追いかけているけど……あれはもう、完全にホームランだろう。これで2点、僕達の逆転勝利だ。 ボールはまだ落ちない。単純にすごいと思った。僕ではあんなに飛ばすのは不可能だ。ボールは、そう、ちょうど恭介が予告ホームランで指した方向に、まっすぐ―― 「って、まさか」 「小毬っ!」 一二塁間をゆっくり走る恭介が、ベンチに向かって叫んだ。 「ほわあっ! ななななんですかっ」 「しっかり見とけっ!」 直後。遠くで鈍い音が聞こえて――アドバルーンの下の、垂れ幕が下りる。 「……はは」 なんというか、笑いしか出てこない。勝利の瞬間に垂れ幕を下ろすとは確かに予想していたけど、その方法については全く考えていなかった。というか普通こんなの思いつきもしなければ実行しようとも思わないし、ましてや成功させるなんて。でも、それが恭介なんだ、と思うと妙に納得できてしまう。 そしてもう一つ。予想外のことがあった。 下りてきた垂れ幕にデカデカと書かれたその言葉は――きっとありったけの想いが込められた、文字みっつ。 「うわあっ、こまりちゃんが頭から湯気出して倒れたー!?」 「わふーっ、小毬さんが茹でおくとぱすなのですーっ!?」 ベンチの方から鈴とクドの叫び声が聞こえてくる。僕はといえば、驚くやら呆れるやらで、その場にぼーっと突っ立ったままだったりする。 「はっはっは。なるほど、なかなかの花火じゃないか、これは」 ゆっくりとホームインした来々谷さんが、実に愉快そうに言った。 ちなみに、後でわかったことだけど。 垂れ幕の文字は、なぜかチョコバットで出来ていた。未開封のを大量に貼り付けてあっただけだから、もちろん食べられる。 そんなわけで、小毬さんのおやつはしばらくの間チョコバット一色になってしまったわけだけど……ちょっぴり、幸せそうだった。 [No.258] 2008/05/08(Thu) 23:39:05 |
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