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all 第9回リトバス草SS大会(仮) - 主催 - 2008/05/08(Thu) 20:11:00 [No.255]
竹と月と。 - ひみつ@遅刻?何それ?美味しいの? - 2008/05/11(Sun) 16:15:40 [No.282]
流れる - ひみつ@遅刻しましたが甘めにして頂けると嬉しいです - 2008/05/10(Sat) 03:10:59 [No.279]
こまりん☆裏ノート - ひみつ@遅刻王に、俺はなる! - 2008/05/10(Sat) 01:17:37 [No.278]
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5文字の幸せと7文字の幸せ - ひみつ@ちこく やおいとか R-15くらい - 2008/05/09(Fri) 23:15:39 [No.275]
伝えたい気持ち - ひみつ@遅刻orz - 2008/05/09(Fri) 23:11:37 [No.273]
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恋恋恋歩 - ひみつ - 2008/05/09(Fri) 22:00:53 [No.267]
文字色の恋 - ひみつ - 2008/05/09(Fri) 21:59:33 [No.266]
青い鳥 - ひみつ@初 - 2008/05/09(Fri) 21:58:46 [No.265]
機械音痴の小説書き - ひみつ - 2008/05/09(Fri) 19:36:28 [No.264]
辛くて、苦しくて、だけどとても幸せな日々を、ありが... - ひみつ - 2008/05/09(Fri) 19:19:19 [No.263]
そんな風に生きてきて。 - ひみつ - 2008/05/09(Fri) 18:54:37 [No.262]
じっとまって、ただ。 - ひみつ - 2008/05/09(Fri) 18:53:56 [No.261]
[削除] - - 2008/05/09(Fri) 16:50:52 [No.259]
神秘には神秘的な死を(修正) - ひみつ - 2008/05/09(Fri) 16:53:07 [No.260]
もっと! もっと愛を込めて! - ひみつ@25kbとか\(^o^)/ - 2008/05/08(Thu) 23:39:05 [No.258]
姉妹二組 - ひみつ - 2008/05/08(Thu) 21:29:07 [No.257]
前半戦ログですよ - 主催 - 2008/05/11(Sun) 02:33:25 [No.280]
ゴミ箱さんの変(感想会へのレスSSです) - ひみつ@なんか書かなきゃいけない気がしたんです… - 2008/05/11(Sun) 21:26:46 [No.285]
後半戦ログですー - 主催 - 2008/05/11(Sun) 23:23:27 [No.287]


神秘には神秘的な死を(修正) (No.259 への返信) - ひみつ


「アルファベットのような表音文字と異なり、漢字は表意文字。つまり一字々々に意味があるという事よ」
「日本語はふぁんたすてぃっくです」
「いいえ、漢字は中国発祥で……けど現在の日本語がファンタスティックなのは間違いないかもしれないわね。なにせ漢字、平仮名、片仮名。異なる三種類の文字を当然のように併用しているわけだし。特にアルファベット圏の人にとっては不可思議に思うのも仕方がないでしょう」
「ロシア語、キリル文字は表音なのです」
「遡ってもスラブ語だし、表音文字とは縁がないわね。ま、現在はほとんど表音文字なんだから仕方がないでしょうけど」
「つまり、無理なのでしょうか。とっても残念なのです……」
「いいえ、無理じゃないわ」
 そうして、佳奈多は本棚へと向うと、そこに納められた一冊の参考書に触れた。厚さ八ミリ程度のそれは一見すればただの参考書だが、背表紙に書かれている出版社名は出鱈目だ。
「あ、あのぉ〜」
「いい、クドリャフカ。この事は皆には秘密よ?」
 彼女が人差し指で二度引き出すと、たちまち本棚は壁の内側へと沈み、やがて手前に自動で動いた。壁に沿って設置されていた本棚が動いたのではない。壁が動いたのだ。
 あんぐりと口を開くクドを尻目に佳奈多は、壁の向こう側に現れた暗闇の空間へと入っていった。暗闇は光さえも飲み込んでいるようで、室内の蛍光灯をもってしても内側はうかがい知れない。
 そのような場所に友人が飲み込まれ、しかも声さえ届かない。
 クドは不安げに、その暗黒壁面へと近づいた。
 詳しく見るとそれは影のように平面的なものではなく、流体に近い不安定な存在のようだった。光を吸収し二度とは吐き出さないその暗黒は海面のように垂直に波打っている。それはあたかも少女を誘う官能的なダンスにも似ていた。
 触れる事も出来ず困惑しているクドの前に、指が現れた。
 暗黒平面から浮かび上がるそれは、今まさに生まれようとしているエイリアンのようで、彼女は音にならない悲鳴を上げて尻餅をついた。
 指はノロノロとした動作で暗黒の界面を保ちながら具現化していく。指が手へ、手が腕へ。黒よりも暗い黒色に塗れたそれは藁を探すようにクドへと伸ばされていた。
 床に倒れながらガクガクと震える彼女には逃れる術はない。あまりの恐怖に視野が狭まり、神経が次々に焼き切れていく。自律神経が勝手に涙を溢れさせ、発汗を促す。尿道も緩くなり、今にも失禁しそうだった。むしろ、しろ! いや、してください!
「くぁwせdrftgyふじこlp;@!!!」
 だが、全く空気が読めない腕は声にならない悲鳴を上げるクドの腕を掴むと、そのまま彼女が失禁する暇もなく暗黒平面へと引き摺り込みやがった。
 クドが引き込まれたその場所には、巨大な空間が広がっていた。
「こ、これはいったいっ!?」
「ようこそ、私の秘密の書庫へ」
「書庫ですかっ!?」
 確かにその巨大な空間には高さ3メートルほどもありそうな書棚が並んでいた。棚には数える事も出来ないほどの書物が詰められ、独特な香しい匂いに満ちている。
「この場所は秘密だからね」
「い、いえ、秘密もなにも、それ以前にこの空間はいったい……」
 クドの記憶では壁の向こう側には隣室があるはずで、間違っても人が入り込むだけの空間はないはずだ。ましてこの書庫は寮の半分は占有しているだろう広さなのだ。
「ここはいったいどこなのですかっ。どうなってるんですかっ!?」
「だから、秘密の部屋よ。誰だって一つや二つ、秘密を持っているものでしょう?」
「こんなびっぐな秘密を持っている人は普通居ません!」
「それにしても、姓名判断なんてね」
「わふ〜! スルーされてしまいました!」
 呼吸できるのだからとりあえず地球上だろうと思い込む事にして、クドはその不思議空間を不安げに眺める。無理やり心を落ち着かせてしまえば、決して不快な場所ではなかった。古い西欧の図書館を髣髴とさせる宗教的な造型が散見し、書棚が描くラインも幾何学的で官能的だ。
 並んでいる書物の背表紙には統一性がない。だがそう思うのは言語がそれぞれ異なっているからで、あるいは整頓された状態なのかもしれない。統一性がないと言えば種類もそうだ。サイズが違うのはともかく、冨倉二郎著『兼好法師研究 附・兼好自選歌集評釈』がある一方で、床井雅美著『オールカラー 軍用銃辞典』もあるのだから、雑食にも程がある。
 その他にも……『十八歳未満立ち入り禁止』と書かれた看板がぶら下がっているコーナーがあった。
「あ、あの。あれはいったい……」
「あっちには何もないわよ」
「いえ、でも本が一杯……。といいますか、十八歳未満立ち入り禁止では佳奈多さんも入れないのでは?」
「何を言ってるの。私達、何時の間にか十八歳でしょう?」
「…………」
 そう言われれば、そんな気がしてきた。
 というか、あまり深く考えてはいけない気がする。
 偉い人が十八歳だと言えば十八歳なのだ。
「それで、姓名判断だけど。本があったわよ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
 佳奈多が持ってきたのは薄く、金字以外は真っ白な本だった。
 それとは別に大学ノートがあり、そこにクドの名前を書く。
「能美クドリャフカ」
「本来はクドリャフカ=アナトリエヴナ=ストルガツカヤなのです」
「……そんなどうでも良い設定はスルーしましょう」
「どうでも良いとか言われてしまいましたっ!?」
 いや、実際どうでも良いし。
 ってか、検索かけるまですっかり忘れてたし。
「能は12画、美は9画。クドリャフカはそれぞれ2・4・2・2・1・2画ね」
「12? 9?」
「姓名判断では特別な数え方をするのよ」
「片仮名も大丈夫なのですか?」
「姓名判断は日本語だから、片仮名にも対応してるわ」
「でも片仮名は表音文字ですし、だったらアルファベットでも……」
「アルファベットは日本語じゃないわ」
「……結局、何でも良いんじゃないかって思えてきました」
 それは言わないお約束なのだ。
「えっと、天格は21画。地格は13画。人格は11画で外格は19画。総格は34画。なるほどね……」
「な、何か分かったのでしょうかっ!」
 興味津々、身を乗り出すクドに、佳奈多は真摯な表情で頷いた。
「まず、姓名判断について簡単に説明してあげるわね。姓名判断は熊崎健翁が創始した、姓名五格の画数に秘められている霊意に基づいて運勢を判断するものよ。天格は苗字を足したもので、家族に共通するものだから個人の運勢にはあまり関係がないわね。地格は名前で肉体的な外的環境に左右されるものよ。人格は姓の最後の一字と名の最初の一字を足したもので、こちらは精神面のもの。外格は姓の最後以外、名の最初以外の文字を足したもので、人間関係に繋がっているわ。そして全てを足した総格は、生涯の運勢を示している。この五格中、天格を除いた四格が個人の人生に関わるものなのよ。ただし、天格も相性を調べる上で必要になったりもするけどね。これらの数は吉凶で分けられているから、そこから調べていくの」
「わ、わふ〜☆」
 クドリャフカはこんらんしている!
「まず外格、つまり人間関係。これは……残念だけど大凶。9の次は10で、空虚を暗示する0が付くことから、よくない画数ね。不慮の災難に縁があり、家族との不和や離別など苦難の暗示があるわ。総格も大凶。マイナス思考の気があり、家庭や職場が安定しないみたい。不慮の災難にもやっぱり縁があって、事故事件の被害者になる可能性が高いわ」
「……そうですか」
「心当たり、あるのね」
 一瞬にして沈むクドの表情から、佳奈多は指摘が正しかった事を理解した。
 幼く素直で明るいこの少女の素性について深く関わっては居らず、家庭についても詳しくは知らない。しかし子犬のように鮮やかな感情の内側に何らかの闇が潜んで居る事にも気づいていた。
「地格は大吉よ。才能豊かで好奇心も強く、どんな道を選んでも才能を発揮できるでしょう。けど、地格は肉体的なものだし、貴方の頭の回転の早さと直感の鋭さは、外格の苦難を増加させるものかもしれないわね」
「辛い、人生なのでしょうか」
「でしょうね。けど、きっと大丈夫よ」
「どうしてです?」
「人格、つまり精神面のものだけど、これも大吉だもの。逆境の中で、何らかの事情で挫折し苦難の底に落ちたとしても、這い上がる事ができるでしょう。波乱の多い人生だけど、感動にも満ちた不屈の人生ね。着実な努力が大きな成果に繋がるはず」
「不屈……波乱の先にある感動」
「私から助言するとしたら、諦めず進みなさい。苦しみの日々の先に、きっと希望はあるわ。貴方はきっと、乗り越えていけるはずだから」
 クドは息を呑んで、それから涙した。
 佳奈多の占いは正しかった。涙を溢れさせるほどに正しかったのだ。
 突然泣き出した少女に困惑する佳奈多に、投げ掛ける言葉は見つけられない。
 やがて小さな一雫は大きな流れとなってクドの頬を、肉体と精神に川を作る。
 その流れに乗りながら、彼女は何処までも深く進んでいくのだ。
 それはずっと昔から変わらない。彼女はそう自覚する。どれほど繰り返したのか、もう覚えていない。繰り返していた事実も、この世界の秘密も彼女は長く知らなかった。あるいは、次に目が覚めれば忘れてしまうのかもしれない。幸福なのか不幸なのかの議論は明後日にしよう。全ては限りなく無限に近い有限であり、眼を瞑る者にはそのように、耳を塞いだ者にはそのように、口を噤ぐ者にはそのように、須らく与えられるものである。
 即ちその名を後悔と呼ばん。
「あぁ、私はそのように生きれば良かったのですね」
 懺悔の言葉は天にも届かず、地にも届かず。
 無限に広がる書庫の内側に消えた。

 
                 参考文献 相良明酔 著 『まちがいない姓名判断のすすめ』


[No.260] 2008/05/09(Fri) 16:53:07

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