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all 第9回リトバス草SS大会(仮) - 主催 - 2008/05/08(Thu) 20:11:00 [No.255]
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機械音痴の小説書き - ひみつ - 2008/05/09(Fri) 19:36:28 [No.264]
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そんな風に生きてきて。 - ひみつ - 2008/05/09(Fri) 18:54:37 [No.262]
じっとまって、ただ。 - ひみつ - 2008/05/09(Fri) 18:53:56 [No.261]
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神秘には神秘的な死を(修正) - ひみつ - 2008/05/09(Fri) 16:53:07 [No.260]
もっと! もっと愛を込めて! - ひみつ@25kbとか\(^o^)/ - 2008/05/08(Thu) 23:39:05 [No.258]
姉妹二組 - ひみつ - 2008/05/08(Thu) 21:29:07 [No.257]
前半戦ログですよ - 主催 - 2008/05/11(Sun) 02:33:25 [No.280]
ゴミ箱さんの変(感想会へのレスSSです) - ひみつ@なんか書かなきゃいけない気がしたんです… - 2008/05/11(Sun) 21:26:46 [No.285]
後半戦ログですー - 主催 - 2008/05/11(Sun) 23:23:27 [No.287]


じっとまって、ただ。 (No.255 への返信) - ひみつ



『文字なんてくだらない』
 どうしてそんなことを君は言うのだろう。
 文字はこんなにも、やさしいのに。
 
 
   じっとまって、ただ。
 
 
 ピ、ピピと、部屋に無機質な携帯の電子音が鳴り響く。
 同時に、カチャカチャとボタンの押す音が聞こえた。
 ブブブ…ブブブ…。
 携帯の着信の合図。
 僕はすぐさま携帯を手に取り、たった今受信したメールを開く。
 カチャカチャ、ピピピ。
 カチャカチャ、ピピピ。
 携帯からの音だけが繰り返された。
 同じ部屋に、二つの音源。
 そう、この二人は、ただ無駄なことだけをしているのだ。
 二人、同じ部屋で、携帯に文字を打ち続ける。
 まったく、意味のない行為。
 ブブブ…
 携帯がなった。
『あなたは、いつまでこんなことを続けるつもりなの』
 この質問は、きっと嫌味だろう。
 それはそうだ。
 かれこれ一時間はこの意味のないやり取りを続けているのだから。
 カチャカチャ。
『佳奈多さんが答えてくれるまで、いつまでも』
 そう返した。
 また、すぐ近くで携帯の音が鳴り響く。
 ピピピ。
 カチャカチャ。
 ブブブ。
 時刻はもうすぐ夕方の六時。
 …そろそろ寮に帰らなければならない時間だろう。
『そろそろ、やめにしないの』
 僕の思っていたことと同じようなことが返ってきた。
 それでも、僕にやめる気はなかった。
『佳奈多さんは、どうして質問に答えないの』
 だから、質問には答えない。
 佳奈多さんが答えないというのだから、僕が答えなくても文句は言えないはずだ。
 ブブブ。
『さっきから言っているでしょう。あなたに教える義理はない』
『それでも、知りたいんだ』
『どうして』
『どうしても』
 発端は、一時間ほど前へとさかのぼる。
 
 
 
「佳奈多さん」
「なに?直枝理樹」
 放課後。五時ごろ。
 僕は佳奈多さんを見かけたので話しかけた。
 それだけだ。
 いつもそうしているからそうしているだけのことだった。
「いや、寮に帰るんなら一緒に行こうと思って」
「…どうしてあなたはそう…」
「べつにいいだろ…。僕だって気にしてるんだから」
「まあ、いいわ」
 そんなことを言いつつ、僕らは寮への道を行く。
「…あと、私は校舎の見回りをしなくてはだから。…あとは、あの空き部屋だけ、だけど」
「うん。わかった」
 僕も一緒にその空き部屋へと入る。
「…きちんと施錠はされているわね…よし」
「あ…そうだ。佳奈多さん」
「なに?」
 僕はこの機会に、今まで聞けなかったことを聞こうと思った。
 答えられない理由があるのならそれでもいい。
 それでも、佳奈多さんが一人抱えているのがつらそうだ、と僕は思った。
「…佳奈多さんは、葉留佳さんと、どういう関係なの…?」
「…っ!」
 佳奈多さんがこちらへと目を向ける。
 その目は、明らかに敵意を表していた。
「どうして、あなたにそんなことを聞かれなくちゃいけないの」
「…聞きたかったからだ」
「どうして」
「…佳奈多さんが、つらそうだからだ」
「どうしてっ!!」
 佳奈多さんが、僕に背を向ける。
「…佳奈多さん…」
「話しかけないで」
「……」
「あなたには関係のない話よ。…あなたは、こんな話、知らなくて良い」
 そういう佳奈多さんの背中は、とても悲しそうだ。
「でも…」
「いいから」
「…でも、僕は知りたい」
「どうして?…まさか、私を馬鹿にするため?三枝葉留佳を馬鹿にするため?」
「違うよ…。さっきもいっただろ、僕は、佳奈多さんの力になりたい。それだけだ」
「私は話したくない」
 どうにも会話が平行線だ。
 …それなら…。
「じゃあ、メールにしようか」
「…なにをいってるの、あなたは」
「それなら直接話さない。…だから、さっきよりは冷静に話せると思うんだ」
「…文字に頼るの?」
「…僕だって、直接のほうがいいけどさ」
「…まあ、いいわ。…でも、手短にね」
 佳奈多さんも了承してくれたようだ。
 二人で、携帯を取り出して、部屋の隅と隅へと移動する。
 背は、向けたままで。
 
 
 
『これでも教えてくれないの?』
『私には元から教えるつもりなんてなかったわ』
『でも』
『いい加減あきらめなさい。あなたがいくら頑張ったとしても、それが報われることはないわ』
『そんなこと、分からないじゃないか』
『いいえ。わかる』
『そこまで言うんだったら、教えてよ。それでも僕が出来なかったら、その言葉を認める』
『往生際が悪いわね』
『…そうだね』
 となりで、佳奈多さんが息をつく。
 そうして、電子音が聞こえてきた。
 カチャカチャ、ピピピ。
 カチャカチャ、ピピピ。
 ブブブ。
『私と葉留佳は双子。同じ母のお腹から生まれてきた。…父は、違う。三人の子供が、一緒に生まれた。
 そうして、私達はどちらがより出来た子供かを競うことになった。私は勝った。全てに。葉留佳に』
 そう、メールには書いてあった。
 その後、もう一通メールが着た。
『どう思う?』
 …どう…。
 どう、と聞かれても、僕にはスケールが大きすぎて話が分からない。
 分かるけど、分からない。
 これは、価値観の違いだ。
『大変だったね』
 僕はなんとか、そう、打った。
 無責任かもしれない。
 だって、僕には、佳奈多さんの気持ちは分からない。
 …でも、僕は今、確かに見た。
 佳奈多さんが、肩を、震わせているのを。
『あなたに、何が分かるのよ』
『何も分からないよ。ただ、佳奈多さんのことを思ったら、自然にそう出てきただけだ』
『あなたは馬鹿ね』
 佳奈多さんは肩を振るわせ続けた。
 震える手で、
 ただ、しずかな教室の中で、
『文字なんてくだらない。
 文字では、何も伝わりなんてしないのだから』
 そう、返してきた。


[No.261] 2008/05/09(Fri) 18:53:56

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