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『文字なんてくだらない』 どうしてそんなことを君は言うのだろう。 文字はこんなにも、やさしいのに。 じっとまって、ただ。 ピ、ピピと、部屋に無機質な携帯の電子音が鳴り響く。 同時に、カチャカチャとボタンの押す音が聞こえた。 ブブブ…ブブブ…。 携帯の着信の合図。 僕はすぐさま携帯を手に取り、たった今受信したメールを開く。 カチャカチャ、ピピピ。 カチャカチャ、ピピピ。 携帯からの音だけが繰り返された。 同じ部屋に、二つの音源。 そう、この二人は、ただ無駄なことだけをしているのだ。 二人、同じ部屋で、携帯に文字を打ち続ける。 まったく、意味のない行為。 ブブブ… 携帯がなった。 『あなたは、いつまでこんなことを続けるつもりなの』 この質問は、きっと嫌味だろう。 それはそうだ。 かれこれ一時間はこの意味のないやり取りを続けているのだから。 カチャカチャ。 『佳奈多さんが答えてくれるまで、いつまでも』 そう返した。 また、すぐ近くで携帯の音が鳴り響く。 ピピピ。 カチャカチャ。 ブブブ。 時刻はもうすぐ夕方の六時。 …そろそろ寮に帰らなければならない時間だろう。 『そろそろ、やめにしないの』 僕の思っていたことと同じようなことが返ってきた。 それでも、僕にやめる気はなかった。 『佳奈多さんは、どうして質問に答えないの』 だから、質問には答えない。 佳奈多さんが答えないというのだから、僕が答えなくても文句は言えないはずだ。 ブブブ。 『さっきから言っているでしょう。あなたに教える義理はない』 『それでも、知りたいんだ』 『どうして』 『どうしても』 発端は、一時間ほど前へとさかのぼる。 「佳奈多さん」 「なに?直枝理樹」 放課後。五時ごろ。 僕は佳奈多さんを見かけたので話しかけた。 それだけだ。 いつもそうしているからそうしているだけのことだった。 「いや、寮に帰るんなら一緒に行こうと思って」 「…どうしてあなたはそう…」 「べつにいいだろ…。僕だって気にしてるんだから」 「まあ、いいわ」 そんなことを言いつつ、僕らは寮への道を行く。 「…あと、私は校舎の見回りをしなくてはだから。…あとは、あの空き部屋だけ、だけど」 「うん。わかった」 僕も一緒にその空き部屋へと入る。 「…きちんと施錠はされているわね…よし」 「あ…そうだ。佳奈多さん」 「なに?」 僕はこの機会に、今まで聞けなかったことを聞こうと思った。 答えられない理由があるのならそれでもいい。 それでも、佳奈多さんが一人抱えているのがつらそうだ、と僕は思った。 「…佳奈多さんは、葉留佳さんと、どういう関係なの…?」 「…っ!」 佳奈多さんがこちらへと目を向ける。 その目は、明らかに敵意を表していた。 「どうして、あなたにそんなことを聞かれなくちゃいけないの」 「…聞きたかったからだ」 「どうして」 「…佳奈多さんが、つらそうだからだ」 「どうしてっ!!」 佳奈多さんが、僕に背を向ける。 「…佳奈多さん…」 「話しかけないで」 「……」 「あなたには関係のない話よ。…あなたは、こんな話、知らなくて良い」 そういう佳奈多さんの背中は、とても悲しそうだ。 「でも…」 「いいから」 「…でも、僕は知りたい」 「どうして?…まさか、私を馬鹿にするため?三枝葉留佳を馬鹿にするため?」 「違うよ…。さっきもいっただろ、僕は、佳奈多さんの力になりたい。それだけだ」 「私は話したくない」 どうにも会話が平行線だ。 …それなら…。 「じゃあ、メールにしようか」 「…なにをいってるの、あなたは」 「それなら直接話さない。…だから、さっきよりは冷静に話せると思うんだ」 「…文字に頼るの?」 「…僕だって、直接のほうがいいけどさ」 「…まあ、いいわ。…でも、手短にね」 佳奈多さんも了承してくれたようだ。 二人で、携帯を取り出して、部屋の隅と隅へと移動する。 背は、向けたままで。 『これでも教えてくれないの?』 『私には元から教えるつもりなんてなかったわ』 『でも』 『いい加減あきらめなさい。あなたがいくら頑張ったとしても、それが報われることはないわ』 『そんなこと、分からないじゃないか』 『いいえ。わかる』 『そこまで言うんだったら、教えてよ。それでも僕が出来なかったら、その言葉を認める』 『往生際が悪いわね』 『…そうだね』 となりで、佳奈多さんが息をつく。 そうして、電子音が聞こえてきた。 カチャカチャ、ピピピ。 カチャカチャ、ピピピ。 ブブブ。 『私と葉留佳は双子。同じ母のお腹から生まれてきた。…父は、違う。三人の子供が、一緒に生まれた。 そうして、私達はどちらがより出来た子供かを競うことになった。私は勝った。全てに。葉留佳に』 そう、メールには書いてあった。 その後、もう一通メールが着た。 『どう思う?』 …どう…。 どう、と聞かれても、僕にはスケールが大きすぎて話が分からない。 分かるけど、分からない。 これは、価値観の違いだ。 『大変だったね』 僕はなんとか、そう、打った。 無責任かもしれない。 だって、僕には、佳奈多さんの気持ちは分からない。 …でも、僕は今、確かに見た。 佳奈多さんが、肩を、震わせているのを。 『あなたに、何が分かるのよ』 『何も分からないよ。ただ、佳奈多さんのことを思ったら、自然にそう出てきただけだ』 『あなたは馬鹿ね』 佳奈多さんは肩を振るわせ続けた。 震える手で、 ただ、しずかな教室の中で、 『文字なんてくだらない。 文字では、何も伝わりなんてしないのだから』 そう、返してきた。 [No.261] 2008/05/09(Fri) 18:53:56 |
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