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「……ううっ」 「あっさーちゃん気がついた」 ええっと何があったのでしょうか。少しづつ自分の状況を確認してみます。今は何一つ身に着けておらず、神北さんの膝の上で寝てうちわであおがれていますがこれは一体…… ああ、そうだ、風呂につかりながら今日の試合のことを考えていたはずでそれで……思い出せない。 「湯あたりしていたのですか」 「びっくりしたよ。部屋に帰ってさーちゃんいないと思って先にお風呂入ろうかなと思ったら、お風呂でさーちゃんぐったりしてたから」 「ごめんなさい、あまり風呂場で考え込んではいけませんね」 意識を失ってから発見されるまでどれぐらいかかったのでしょうか。若く健康とはいえかなり危険な状態だったのですね。 「ありがとうございます、神北さん。もう大丈夫ですから」 お礼を言い立ち上がろうとしたところ、神北さんにぐっと手をひっぱられます。 「だめだよ、さーちゃん。急に立ち上がったりしたら」 「でもいつまでもそんなことをしていたらあなたも疲れるでしょう。それにこんなところにいつまでもいても仕方がないでしょう」 「うーん、それもそうだね。じゃあ私が連れてってあげる」 そう言い神北さんはわたくしを抱き寄せるとそのまま立ち上がり、お姫様だっこの状態で歩き始めます。 「ちょっと、神北さん。何をしているのですか!」 「ああん、さーちゃんそんな暴れたりしちゃだめだよ」 「歩けますから。だから降ろして下さい」 「だいじょうぶだよ。私結構力もちなんだよ」 結局わたくしの抵抗もむなしくそのままベッドまで運ばれました。こんな辱めを受けるなんて責任を取ってください。 ベッドの上で着替え渡された水を飲み干す頃には、頭がはっきりしました。そうした頭に浮かんでくるのは今日の試合のこと。何があったのか心配する神北さんにわたくしはぽつぽつと語りました。 「そっか、試合負けちゃったんだ。ごめんね、応援行けなくて」 「別にいいですわよそんなこと。それにあんな姿見られたくありませんし」 「さーちゃん一生懸命頑張ってるんだし、負けたって何も恥ずかしがることないよ」 「普通ならそうかもしれません。でも今日の敗北は明らかに私のせいです」 得点差は一点差。9回2アウトで私の打席。相手のピッチャーの出来からすれば確かに連打は難しかったかもしれません。でもランニングホームランに賭けたりせず、次のバッターを信じていれば同点さらには逆転していたかもしれません。ほかの部員を信じることができなかったなんてわたくしはキャプテン失格です。でもそのことよりもわたくしの頭を占めるのは、本塁クロスプレイで相手のキャッチャーに力負けした悔しさです。 「もう少し体が大きければ相手のキャッチャーをはじいて同点していたかもしれないのに」 筋肉をつけるために毎日トレーニングを積み重ねています。でももうわたくしの小さな体ではもはや新たに筋肉を入れるためのスペースが残っていません。一見きゃしゃに見える神北さんだってさっきわたくしを運んだように意外と腕力があるようです。せめてわたくしも神北さん並みの体格だったら、今日の試合だって力負けしなかったかもしれないのに。過去一体どれほど多くのスポーツ選手が体格という努力でどうしようもできない部分で、その競技から去っていったというのでしょうか。 「あきらめたくない……」 わたくしの眼から涙がこぼれてきます。今日泣くのは二度目。今日はただの練習試合。まだ引退までだいぶ間があります。それなのにわたくしは泣いてしまった。それも自分の判断ミスで負けたからという理由ではなく、自分の選手としての限界を感じたからという自分勝手な理由で。 「だいじょうぶだよ。さーちゃんはこんなにもがんばってるんだから次はきっとうまくいきますよ。だからね今日はちょっとだけ休もう、ね」 「うう……うわああああんっ」 抱きしめられてわたくしははばかりなく泣き出してしまいました。わたくしはもう選手として限界に達したのかもしれません。それでもわたくしはキャプテンとして途中で投げ出すわけにはいけません。だからお願いです神北さん、わたくしを信じてくれる部員の前で弱さをさらけ出さないように、今だけは少し神北さんに甘えさせて下さい。 「はあ……はあ……はあ……あんっ」 「どう、さーちゃん、気持ちいい」 「あっ神北さんそこは」 「あれ、さーちゃんここ触られるのいや? だったらやめるけど」 「……やめないで……そこ……もっとぉ」 「おっけーですよ、もっとしてあげるね」 流石に得意と言うだけあって神北さんのマッサージの腕前は見事なものです。今まで相当自分の筋肉に無理をさせていたのですね。一回揉むごとに体の疲れが信じられない早さで取れていくようです。いや、体だけではありませんね。神北さんの優しさが手から伝わり体の疲れだけではなく心の疲れまで取れていくようです。世界一のマッサージ師のマッサージよりもわたくしには神北さんのマッサージの方が効くでしょう。 「ねえ、さーちゃん」 「はい」 「さーちゃんの体とってもきれいだね」 「な、何を言っているのですか神北さん。どれだけケアしても追い付かないほど日に肌はやられてますし、胸もお尻も全然肉が付いていません。女性らしいふくよかな体つきで肌もきれいな神北さんと違って、まるで男の子のような体つきではないですか」 「ううん、とってもきれい。だってそれはさーちゃんが誰よりも努力している証だから。そうしてできた体だから輝いて見える」 この方は一体何を考えているのでしょうか。時々まったく予想しないタイミングで、このような直球ど真ん中の言葉でわたくしのことをほめるのですから。わたくしは学校の中でかなりもてる方だと思います。直接にせよラブレターにせよ告白された回数は軽く2ケタに上ります。でもその時のどんな言葉よりもずんとくるような言葉を、当たり前のように言うのですから困った方です……わ、わたくしは何を女性にときめいているのですか。 「どうしたのさーちゃん。何を考えているの」 「な、なんでもありませんわ。それよりもこれ以上はあなたの方が疲れてしまうでしょう。もうよろしいですわ」 「だいじょうぶですよ。さーちゃんが気持ちよかったら私も気持ちいい。気持ちいいスパイラルですよ」 それがその、あ、あなたは気づいていないのでしょうけれど、あまりに気持ち良すぎてショーツのあたりが…… 「許して下さい」 「ふえ? 何を?」 「それは、その、聞かないでください」 わたくしはふしだらな人間なのですね。わたくしのためを思ってマッサージをしてくれているというのにそれで興奮してしまうなんて。こんな気持ちになるなんて神北さんの友情を裏切る行為ですわ。こんな優しさを受け取る資格なんてないはずなのに、全身くまなく揉みしだかれていく気持ちよさに抵抗できなくなってしまいます。安楽と興奮という相反するものを一度に受け取りわたくしは段々陶然としていきます。だんだん考えるのがつらくなって……だんだん……だんだん…… 時計を見るともう朝の6時になっています。昨日はあのまま夕食も食べないまま眠ってしまったのですね。普段は体育会クラブに所属しているにしてはあまり食べられない方ですが、流石に昨日の昼食から食べていないとなるとお腹がすきましたね。それにしてもわたくしが眠った後も続けていてくれたのですか。上に覆いかぶさるようにして寝ている神北さんに少し呆れてしまいます。でもそのおかげで全身久しく感じたことがないくらい軽く感じます。しばらく身支度していると神北さんも目を覚まされました。 「おはようございます。昨日はわたくしの上でよく眠れましたか」 「うーん、おはよう、ふえっ! わたしあのまま寝ちゃったの」 「ええ、まったく大変ですわ。あなたとまだ1年以上も同じ部屋で過ごさなければならないなんて」 「ええっさーちゃん私といるのいや? 私は楽しいのに」 「だ、誰も嫌だなんて言ってませんわ。わたくしだって楽しんでいますから」 「えへへ」 「そ、それと昨日はありがとうございました」 「よかった、またするからね」 「それは……」 そこまで言って遠慮しますの言葉が出てきません。神北さんの優しさにわたくしはすっかり溺れてしまったのでしょうか。 「……というわけなんだけど真人くんどうしたら筋肉付くのかな?」 朝方昼食を一緒に食べるよう誘われてやってみると、二人で食べるものだと思っていたら宮沢様達もこの場に居合わせています。一体何をするのかと思えば昨日の件についての話。改めて神北さんの口を通して聞くと鏡を見ずとも顔が赤面しているのがわかるくらい、何か怪しげな雰囲気を感じてしまいます。心なしか近くにいる主に男子の目が私たちの方を向き聞き耳を立てているような気が。明らかに昨日神北さんにされたことは女友達の関係ではないと思います。 「……なあ理樹、俺は小毬から筋肉についての相談があると言われたとき心の底からうれしかった。けどよ、話聞いてても何か妙に恥ずかしくなるだけで全然わからねえんだが」 「だ、大丈夫だよ真人。絶対今の話筋肉についての相談じゃないから」 井ノ原さんでしたっけ。まるで油の切れたロボットのようなぎこちない動きで横にいる直枝さんの方を向きましたが、その顔はまるで理解できない体験をしたかのような混乱が浮かんでいます。まあ、当然と言えば当然でしょうか。今のは確かに相談ではありません。あえて言うならばのろけ……一体女同士で何を考えているのですか、わたくしは。 「ええーっ!真人君どうすればいいかわからないの」 「うっちくしょう、筋肉でみんなの役に立てないんだったら、俺は一体何で役に立てばいいんだっ!」 「ちょっと、真人落ち着いて」 「くそ、答えがわからないのは俺の筋肉がまだ足りねえからだ。俺はしばらく山へこもる。そして必ず相談に答えられるだけの筋肉をつけてやる。あばよ」 「行っちゃダメだ、真人! それ答えから遠ざかるから」 瞬く間に食堂から消え去ってしまいました。今まで井ノ原さんのことは宮沢様に迷惑をかけてばかりの変な人という印象でしたが、少し話してみると大変いい人みたいですわね。頭の方は考えてた以上によろしくないようですが。 「こまりちゃん」 先ほどから一言も言わずに様子を見ていた棗さんが、神北さんの腕を掴んで何か考え込むような顔をしています。 「よくわからないけれど今のこまりちゃんの話聞いてて何か嫌な気分になった。こまりちゃんはささみといつもあんなことしているのか」 「いつもじゃないけど、さーちゃんはルームメイトさんだし」 「じゃあ、きょうからあたしがこまりちゃんと一緒に住む。ささみお前はどっか行け」 「何を言っているのですか。神北さんはわたくしと一緒にいるのがいいに決まっていますわ。あなたなんかが入る余地はどこにありません」 「うう、こまりちゃんはどうなんだ。あたしと一緒の部屋になりたくないのか」 「ううん、あのね、りんちゃん。さーちゃん頑張り屋さんだから私側にいて色々応援したいの。だからごめんね」 「うう……」 「おー、ほっほ! だから言ったでしょ、棗さん。神北さんはわたくしが一番ですわ」 そうです。何か最近はリトルバスターズの面々と一緒に過ごすことも多いですけれど、一年以上も同じ部屋で過ごすわたくしとの絆の方がずっと上ですわ。今回はたまたまわたくしの方が助けられましたが、最近治ったみたいですが血を見ると様子がおかしくなる神北さんをずっと支えてきたのはわたくしですわ。そんな神北さんが他の人と一緒の部屋になりたいなどと望むわけがありません。 「さあ、自分の立場がわかったら邪魔ですのでさっさとその手を放しなさい! この泥棒猫!」 「さーちゃんそんなこと言っちゃダメだよ。りんちゃんもさーちゃんもケンカばかりしてる嫌いになっちゃうよ、めっ」 「やだ、こまりちゃん、ささみと仲良くするから」 「そんな! わかりました。ケンカはもうしませんから。だから嫌いにならないで」 知りませんでした。神北さんがわたくしと棗さんのことでこんなに心を痛めていたとは。誓います、もう二度と棗さんとケンカなどしません。 「……そんな怖い顔しなくてもいいよ。二ひ……二人とも私のとっても大切な人だから」 その一言で棗さんの顔に安堵の顔が浮かびました。わたくしの方も緊張が一気にほぐれました。なにか奇妙なことを言いかかってたような気がしますが。 「じゃあ、仲直りのために今日はりんちゃん私たちの部屋に泊まりにおいで。りんちゃんも野球で疲れてるでしょ。りんちゃんにもマッサージしてあげる。もちろんさーちゃんも。それで一緒にお風呂に入っていっぱい遊んで一緒に寝よ」 「わかった、そうする」 「ええ、ぜひそうしましょう」 一瞬棗さんと目があったときに対抗意識らしきものを感じました。大方今日のお泊まりで自分の方が神北さんと仲がいいことをアピールしたいのでしょうけれど、返り討ちにしてくれますわ。 ――のちに直枝理樹は語る。二人をなだめる前の一瞬小毬の顔にノートを取り戻した新世界の神のような邪悪な笑顔が浮かんでいたと―― [No.296] 2008/05/22(Thu) 23:40:53 |
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